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今週の一言

 

『日本国憲法 大阪おばちゃん語訳』

2015年1月19日



谷口真由美さん(大阪国際大学准教授)

 昨年の歳の瀬、理由もよくわからないまま突然、衆議院が解散されました。私にはまったくどこに大義があるのかわかりませんでしたが、安倍首相が解散を発表した当初から、この選挙の、選挙中の争点は「アベノミクス」だったそうです。

 その2年前の12月、確か安倍首相は前の衆議院選挙で民主党を破り、政権を奪回しましたよね。確かに最近、安倍政権の支持率は下がってきていたとはいえ、おおよそ50%前後で推移していたので、安倍政権に対して民意はそこまでひどい状況ではありませんでした。また、衆議院からの内閣に対する不信任決議が採択されていたわけでもありませんでした。そんな状況での解散ですから、自分たちの「都合」で解散したといわれても何の言い訳もできませんよね。

 そのような感覚は、おそらく一般的にあったのだと思います。だからこそ、戦後最低の低投票率(52.66%)になったのでしょう。もちろん、参政権のなかでも選挙権の行使をしないことは褒められたことではありませんが、それでも行かなかった人たちの心情も理解できます。

 国の借金は膨れ上がる一方のなか、福祉予算など生きていくうえで大切な予算を削り、今年度の予算から631億円という巨額のお金をつぎこんで自己満足的な選挙をし、「この道しかない」というフレーズをつきつける姿は、DV(ドメスティック・バイオレンス)をしているオッサンにすらみえてきたのです。

 さて、このような状況であったにも関わらず、投票日であった2014年12月14日、開票がはじまった直後の自民党安倍総裁のインタビューに私は耳を疑いました。それまで繰り返し「争点はアベノミクス」と言っていたそのお口で、「憲法改正」を言い出したのです。

 いやまあ、そうくるとは思ってはいましたよ、私も。まさか、本当に「アベノミクス」が争点だなんて誰も思ってなかったでしょう? だけど、投票日にこうくるとは!と思いました。つまり、本当の争点は憲法改正も、集団的自衛権も、秘密保護法も、何でもかんでも全部パッケージだったのです。

 そうきた「憲法改正」ですが、この数年、なんだか「憲法」はにわかに社会的な話題になってきて、私も「憲法」でのご講演依頼がとても多くなりました。本務先の大学では国際法を中心に人権のことなどで教鞭をとっていますが、非常勤講師として週に一度、大阪大学でむかしでいうところの一般教養の憲法を教えてもいます。

 憲法での講演でも、授業でも、最初に必ず質問して手をあげてもらうことがあります。

@「憲法をこれまでに勉強したことがある人」
A「憲法の前文を暗記したことがある人」
B「憲法は変えたほうが良いと思う人」
C「憲法って何条まであるか知っている人」
D「憲法を守る義務があるのは、国民だと思う人」

 「今週の一言」を読んでおられる皆さまは、きっと私が普段話すところよりも知識がおありだったり、少しはじっくり憲法について考えたことがおありだったりする方だろうと思います。しかし、取らねばならない授業と違って、わざわざ「憲法」について講演を依頼されてきた団体ですら、たとえばCとDは大半の方が間違いの答えをされます。

 だいたい、私を講演に呼ばれるのは「護憲派」といわれる方たちが多いので、Bは変えないほうが良いという方が多いのです。また、授業でBは変えたほうが良いと答えた学生さんでも、CとDは大半の学生さんが間違います。

 ふむ、つまりものすごく雑駁にいうと、「護憲派」も「改憲派」も、実は憲法のことなんて良く知らないということなのですよ。よく知りもしないことを、ドヤ顔で「このままで良い」とか「これは変えるべきだ」なんて、無責任極まりないなぁ、と思うわけです。

 言ってみれば、日本国憲法は日本に住む人にとって70年近く寄り添った夫婦(夫夫でも婦婦でも)みたいなものなのです。そりゃあまあ、一緒になるときにはいろいろあったし、70年のなかでこれまたいろいろあったけれど、それなりに一緒に生きてきたわけです。なのに「ふるい」だの「おしつけられた」だの、よく知りもしないのにドヤ顔で言われると、怒りを通り越してあきれてしまいます。そのままで良いっていう人たちも、9条を論点にしていて他の条文はよく知らないなんて、それもひどいなと。どちらも、憲法さんに対して愛がなさすぎるのですよ。もっと、ちゃんと向き合って、知ることからしか、憲法改正の是非の話なんてはじめられないと思うのです。

 そんな思いをこのたび、形にしてみました。12月に、文藝春秋から『日本国憲法 大阪おばちゃん語訳』を出版したのです。これ、もし大阪のおばちゃんが、大阪弁で憲法を読んだらどうなる?というものです。私、生まれも育ちも大阪ですので、私の母語は大阪弁です。そもそも、標準語を話すというのは、私にとっては英語を話すくらいハードルが高いし、思考も若干よそいきになります。

 方言というのは、究極の地方自治だと思うのです。自分が普段つかう言葉を隠すというのはホンネを隠して生きることだと同義だと思いますし、多様性が叫ばれるこの時代に画一的な言葉を使うことを強要されるのもなんだか窮屈だなと思うのです。それこそ、方言を話すことは幸福追求権の行使ともいえ、公共の福祉に反しない限りどんどん使えばよいのでは?くらいに思っています。

 いちど、近所の図書館へでも赴いていただいて、お手にとって読んでいただければ幸いです。「護憲」「改憲」、その前に「知憲」からはじめましょう。

◆谷口真由美さん(大阪国際大学准教授)のプロフィール

専門は国際人権法、とりわけ女性の権利で、憲法、政治、人権、秘密保護法などについて、各新聞で有識者としてのコメントを求められることが多い。非常勤先の大阪大学にて、優れた授業をおこなった教員に送られる「共通教育賞」を担当の日本国憲法で4度受賞。
2012年、プラットフォーム「全日本おばちゃん党」を、Facebookで立ち上げる。
目的は、おばちゃんたちの底上げと、オッサン社会に愛とシャレでツッコミをいれること。
おばちゃん目線でオッサン政治をチェックしながら、問題提起を続けている。
現在党員は世界各地から5000名に迫る勢い。世界のメディアからの注目が高く、仏紙リベラシオンのポートレイト欄に紹介されたほど。
9歳の娘と6歳の息子の母親。インドに単身赴任中の夫と4人家族。




 
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