法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

本当はみんな、政治や憲法について語りたい

2015年4月13日



塚田壽子さん(一般社団法人「マガジン9」理事、「怒れる大女子会」発起人)

 春の統一地方選挙まっただ中です。地方再生の重要性については、トップからも草の根からも繰りかえし語られてきました。また、地方議会や議員のレベルの低さについては、「号泣会見」や「セクハラヤジ」などで、白日のもとにさらされた感があります。ですから今度の地方選挙は、今まで以上に有権者たちの注目が集まり、盛り上がるものだと思っていました。実際、各新聞メディアも「統一地方選」特集を今年に入ってから、かなり力を入れて組んできていたと思います。しかし無投票選挙区が33%もあったという報道には愕然としました。これは記録が残る第3回統一選挙以降で、もっとも高い割合だということです。新聞によると、野党第1党の民主党の候補者が目立って少なく、このような結果になったと分析をしています。従来の政党政治や代表制議会民主主義では、多様な価値観やさまざまな問題を抱えている今の有権者をつなぎとめる役割や信頼を作ることができない、そうも感じました。
 では市民はいったい何を求めているのでしょうか? 複雑な問題を抱えている現代の市民がデモクラシーを発揮できる場所や方法はどんなことなんだろう。「マガジン9」のできることは、何なのだろう…。最近の選挙の投票率や結果を見ては、考えこんでしまいます。

 憲法と社会問題をテーマに毎週水曜日に発信を続けているウェブマガジンの「マガジン9」は今年で10周年をむかかえました。前身である「マガジン9条」がスタートしたのが2005年の3月。小泉純一郎内閣の時で、官房長官が安倍晋三でした。拉致問題の担当として国民からの人気が高く、次期首相の呼び声も高かった彼は、当時から集団的自衛権の行使容認や9条改憲への強いこだわりを見せており、その時に備えて改憲について国民的な議論ができるための情報を発信していこう、そういった目的でサイトが立ち上げられました。 それから10年を経て、安倍自民党政権は「こうならないように何とかしないと」と私たちが描いてきた最悪のシナリオ通りに、憲法を骨抜きにしていきました。現在、それはまさに進行中。政府・与党協議において、安全保障関連法制の見直しが進められていますが、これは言うまでもなく昨年7月1日の閣議決定で「憲法9条の解釈変更を行い、集団的自衛権を認めた」を受けてのことです。
 多くの国民もそれについて了承している状況でしょうか。私はそうではない、と感じています。政治の中枢にいる人達の考えと、私たち市民との考えには、明らかに大きな乖離が有ります。それが表にまだまだ見えてきていないだけです。

 ところで私自身がなぜこの活動に参加するようになったのか。それについて簡単に紹介しておきましょう。前述しましたが、「マガジン9条」の立ち上げは、2005年3月。その前年の春に、中東で人道支援のボランティア活動に当たっていた高遠菜穂子さんら日本人が誘拐され、それに対してのバッシングの嵐が吹き荒れました。この時、それまで長くノンポリだった私ですが、さすがにたまらなくなって「人道支援や平和のために日本人が出かけていったのに、政治家の言動も政府の対応もおかしいのではないか」と自分の意見を口にすると、当時の友人たちから「だって自己責任でしょ」と返された時には大きな孤独感におそわれたものです。そこで自分と同じように違和感を持っている人はいないのか、と情報を集めてまわっていた時に、「マガジン9」の立ち上げメンバーに誘われ参加したという経緯があります。

 またこれは「マガジン9」の編集に関わりだしてまもない頃のこと、実はそれまでろくに読んだことがなかった日本国憲法でしたが、あるトークイベントで聞いた伊藤真弁護士の憲法解釈に目からウロコ。前文・9条の先進性に加え、13条が保障する「個人の尊重」の「一人ひとりが素晴らしい、一人ひとりが違っていいのだ」という条文解説に、それまで漠然と感じていた日本社会に対する息苦しさから、解き放たれた気がしたものです。そんな経験を私自身がしてしまったものですから、この憲法解釈の素晴らしさについて、まだ見ぬ誰かに伝えたくて、現在の活動を続けてきたというところもあります。
 
 投票率の低さなどから、大多数の人は政治や社会の問題に無関心すぎる、この国のデモクラシーは終わった、そういう声もまたあります。来年夏の参院選挙の結果を受けて、自民党ら与党の改憲案が発議され、なすすべもなく国民投票では、決着がついてしまう、という見方もあります。でも果たしてそうなのでしょうか。
 私は少々楽天主義者なのかもしれませんが、世論調査(例えば、自衛隊の海外活動拡大や米軍などへの後方支援をしやすくすることについての世論調査によると「反対」は52%、「賛成」は33%。特筆すべきは、男性は「賛成」「反対」が拮抗していたのに対して、女性は「反対」57%、「賛成」22%と極めて男女差が大きい)を持ってしても、またマガ9に寄せられるメッセージや、マガ9学校などで出会う普通の方から聞く話からも、そうは思えないのです。

 日本の社会は、あまりにも長い間、学校や職場や家族の中で、政治的な話がタブーだったがゆえに、そういう話をするのを避けてきた人が大多数でした。しかし機会さえあれば、自ら思っている「おかしい」ということについて、話をしたいと思っているのです。だから決して無関心でもデモクラシーの意識が極めて低い、というわけではない。私は最近そのことを「マガ9学校」や「怒れる女子会」などを通じて、つくづく感じています。「自民党の改憲案に違和感を持っている私たちは、マイノリティーではない」それを可視化できる何かも必要だと思っています。

 「マガジン9」は、この10年の間、毎週水曜日の更新を、ほぼ休みなく続けてきましたので、アーカイブもそれなりのボリュームになっており、全て無料で読めることにこだわってきました。安全保障や改憲をめぐる法律論など、日本でもトップレベルの専門家や論客、実務家の方たちにも数多く登場いただき、わかりやすく語っていただいてきました。論理的な裏付けがないと、自民党の改憲案や改憲しなければならないとする「世論」に対して論破できない…そんな意見も少なくないので、そこはけっこう頑張ってきたつもりです。
 しかし、ここからは私の最近の持論なのですが、「この道が私たちや未来の平和と幸福のためになるのか、それとも逆の道へとつながっているのか」を、最後は「直感」で決めたらいいと思っています。なぜそう考えるに至ったのか、を自分の言葉で言えるようになる。それを他の人に自分の考えとして伝える。マガ9はそのための「考える材料」を作り続けてきたとも言えます。そしてこれからは、そんな一人ひとりの市民の声をできるだけ拾い集め、つなぎ、ネットワークをつくる、それもまた「マガジン9」に求められる大切な役割ではないか、と考えています。

 かつて私は、政治のイシューを語って孤独感にさいなまれましたが、今はさらにそのように感じている人が増えているのではないでしょうか。だからこそ改憲問題だけでなく、貧困問題や冤罪や死刑制度、ジェンダー平等の問題などについても「今の日本社会、どっかおかしいな」と考えている人たちが出会える場としても「マガ9」は機能していきたいと考えています。


◆塚田壽子(つかだ ひさこ)さんのプロフィール

一般企業のOL、地方出版社、地域広報の制作会社を経た後、フリーランスとして独立。2005年より編集スタッフとして「マガジン9」に関わる。現在は事務局の専従スタッフ。


 



 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]