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メディア利用の政局運営とメディアへの懐柔、操作、圧力

2015年5月18日



丸山重威さん(ジャーナリズム研究者)

 第2次安倍政権が誕生した2012年暮れ以降、メディアを使った政局運営と、懐柔や操作、圧力をする事例が目立ってきた。

▼インタビュー、懇談から、NHK、朝日、テレ朝攻撃へ

 首相が新聞やテレビのインタビューに出て、改憲や歴史認識、外交案件などを語る。1社が始めれば他の放送局、新聞社もそれに続こうとする。メディアの社長とか編集局長とか、幹部を招いての懇談。一度に集めることもあれば、個別のこともある。13年初めから始まり、いまも続く。「一体何のために?」なのだが、メディアにとっては、情報収集のためにも、会うというなら…、ということになる。メディアがそこでどれだけ主体的であり得るのか、が問われている。
 安倍政権が最初に取りかかったのは、国民への影響力で決定的に重要なNHKである。早速、任期が来た経営委員に、「お友だち」の百田尚樹氏(退任)や長谷川三千子氏、昔首相の家庭教師だったという本田勝彦氏を送り込み、会長には元三井物産副社長の籾井勝人氏を指名した。籾井氏は就任会見で、国際放送について「政府が右というものを左というわけにはいかない」、秘密保護法にも「決まっちゃったものは仕方がない」と問題発言を連発、退陣要求を突きつけられている。
 続いて、出てきたのが朝日バッシングとテレビ朝日への攻撃。右派勢力のヘイトスピーチが底流のように流れ、攻勢が準備されていたところに、朝日新聞がなぜか30年以上前の慰安婦問題の記事について、訂正、取り消しをし、謝罪したため、これを機会に、朝日を黙らせ、報道全体を萎縮させる動きが強まった。テレビ朝日の報道ステーションの古賀茂明氏の発言問題と、NHK「クローズアップ現代」の「やらせ・過剰演出疑惑」では、自民党に「事情聴取」をさせたりしている。
 さらに国際世論を意識して、これを操作しようと、特派員の報道について本社に圧力をかけたり、国内の取材先を政府寄りの学者に誘導しようとしたり、言論・表現の自由とプレスの自由を無視した、非常識な活動までしている。

▼体系的、草の根的、言葉のごまかし…

 安倍政権のメディア攻勢は、まず、総合的でしかも系統的・統一的に行われていることが大きな特徴だ。
 第2次以降の安倍政権は、官邸の体制を強化、菅義偉官房長官の下で、官僚グループと首相側近の議員グループを組み合わせた陣容で、政局運営に先手をとれる体制を作った。 具体的には、加藤勝信官房副長官(財務省出身)、杉田和博官房副長官(警察庁出身)、谷内正太郎国家安全保障局長(外務省出身)、兼原信克内閣官房副長官補(経産省出身)、高見沢将林内閣官房副長官補(防衛省出身)、長谷川榮一内閣広報官(経産省出身)、北村滋内閣情報官(警察庁出身)らの官僚グループに、世耕弘成官房副長官や、木村太郎、礒崎陽輔、衛藤晟一、和泉洋人、長谷川榮一など国会議員の首相補佐官を配し、メディアと世論を意識しながら、きめ細かい手立てで政策を進めている。
 米議会の首相演説も、「侵略」、「お詫び」という言葉を使わないことに拘った安倍首相自身が、スピーチライターの谷口智彦内閣官房参与(慶応義塾大学大学院教授)と繰り返し話し合って、「希望」と「和解」を議会演説のキーワードにすることにした(歳川隆雄「ニュースの深層」)と報じられている。
 次に挙げられる特徴は、「草の根」運動に乗っていることだ。麻生太郎財務相・副総理は2013年7月、「ナチスのような手口で、気づかないうちに静かに進める」と言ったが、ヒトラーは政権を獲得していく過程で、「突撃隊」と呼ばれた組織が大衆運動で社会的なムードを作り、それに乗って政権を獲得すると、ラジオ演説などで宣伝を強化、憲法を否定する大統領令を次々出して独裁化を進めた。「ヘイト・クライム」で市民を怖がらせている「在特会」(在日特権を許さない市民の会)や、「日本会議」の地域版として昨年10月結成され、地方議会への働きかけなど地域で動く「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表・三好達会長「日本会議」会長ら)などの動きと結びついて進む「歴史問題」や「対外政策」のキャンペーンは、「その時代」を連想させる。
 そして、第三にあげられるのは、巧妙な言葉の使い方で、真実を覆い隠し、平気でウソをついて、それをメディアに書かせ、見せることで命脈を保っていることである。
 公然としたウソは、安倍首相が2013年9月、五輪誘致のIOC総会で言った「放射能は完全のコントロールされている」というものだった。直ちに現場から「そんなことはない」という声が上がったが、それ以上には発展しなかった。
 そして、国民をごまかすための言葉は、「積極的平和主義」から、今回の「存立危機事態」「重要影響事態」など「事態」の連発や、「国際平和支援法」「平和安全整備法」といった法案名から、なんと、これまでの「専守防衛」を壊して「日本を守る武力行使なら専守防衛の枠内」というところまで進んでいる。
 首相のキーワードとなった「積極的平和主義」は問題だ。もともと「平和」とは、単に「戦争がない状態」ではなく、日本国憲法前文に言うように、「専制と隷従、圧迫と偏狭がなく、恐怖と欠乏から免れる状態」である。憲法は、全世界の人々の「平和のうちに生存する権利」を確認し、その実現を目指している。しかし、首相が2013年9月、米国の右派シンクタンク「ハドソン研究所」の講演で使った言葉は、「Proactive Contributor to Peace」。訳すとすれば、「平和のための専制的貢献主義」。「恐怖」や「欠乏」の解決よりむしろ、「軍事力行使による紛争解決」「平和のための戦争」と受けとれる言葉だった。
 首相はこれを、「『積極的平和主義』こそが、わが国が背負うべき21世紀の看板」と強調して、同年12月の「安全保障戦略」に入れ、米議会演説でも強調した。「日本は米国と一緒に、武力ででも平和を作る」と言っているわけで、先制攻撃論そのものだ。

▼問われるマスメディア

 権力は問題を複雑に見せ、わからなくさせて、その主張を通そうとする。しかし、いくら隠してもその「真実」は変わらない。「戦争法案」もその一例だ。
 マスメディアの役割は、一体いま何が起きているのかを知って、われわれはどう行動すればいいのかの指針を示すことである。
 かつて、戦前戦中のメディアは、新聞も放送も権力に迎合し、戦争を煽り、推進した。それを繰り返すなという決意が戦後ジャーナリズムの原点である。メディアがジャーナリズムとして機能し、問題をきちんと解析し、読者や視聴者に真実を伝える。それをいまできなくて、いつできるのか。問われているのは、憲法であり、メディアである。

◆丸山重威(まるやま しげたけ)さんのプロフィール

1941年、静岡県浜松市生まれ。早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入り、社会部を中心に活動、整理部長、編集局次長、ラジオテレビ局次長、情報システム局長。1991 年から、関東学院大学、法政大学などで非常勤講師、2003年4月から2012年3月まで関東学院大学法学部、同法科大学院教授。法学部で「マスコミュニケーション論」 「情報と法政策」、法科大学院で「法とマスコミュニケーション」を担当、兼任講師として中央大学で「ジャーナリズム論」「メディア政策」を担当。法政大学現代法研 究所客員研究員も務めた。現在、日本ジャーナリスト会議運営委員・事務局次長、日本民主法律家協会理事・「法と民主主義」編集委員、日本マスコミュニケーション学会など会員。

主な著書・編著書
著書『新聞は憲法を捨てていいのか』(新日本出版社、2006年)、編著書『民主党政権下の日米安保』(花伝社、2011年)、『これでいいのか福島原発事故報道―マスコミ報道で欠落している重大問題を明示する』(あけび書房、2011年)、「四字熟語で読み解く現代日本」(旬報社、2013年)、「これでいいのか!日本のメディア」(あけび書房、2013年)ほか。


<法学館憲法研究所事務局から>
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