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特定秘密保護法に抵抗する

2015年6月1日



矢崎暁子さん(弁護士)

 「秘密保全法に反対する愛知の会」の事務局長代行として活躍されている矢崎暁子先生にお話を伺いました。

―――『秘密保全法に反対する愛知の会』の活動や『秘密法に反対する全国ネットワーク』についてお教えいただけますか。

(矢崎さん)
 2012年2月に、弁護士の集まりで、「秘密保全法」というのが作られようとしていると話題になりました。2011年8月に「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が報告書を出したのですが、日弁連が反対を表明したくらいで、市民には全く知られていませんでした。きちんと運動を作り世の中に知らせていかないととんでもないことになるということで、平和団体、労働団体など、憲法問題に関心のある諸団体に呼びかけて、2012年4月、「秘密保全法に反対する愛知の会」を結成しました。
 結成当時は、有識者会議の報告書しか情報がありませんでした。条文も明らかになっていなかったので、戦前では誰もが知っている空港の場所さえ「軍事機密」と扱われたことや治安維持法で生じた表現の萎縮の問題だとか、韓国やアメリカでの市民や内部告発者への弾圧の事例を紹介して、運動を盛り上げてきました。
 様々な人々が一緒に活動する超党派の運動づくりを意識して、連続的発行する「極秘通信」や街頭宣伝で情報を発信したり、様々な学習会やデモを開催したりしています。結成当初は100人程度でしたが、昨年の総会には600人を超える人が集まりました。
 インターネットの普及により、ネットが情報収集や発信の場になったりネット上での話題がマスメディアに取り上げられたりするなど、ネット上でも実社会と結びついた活動ができるようになってきているので、ブログやSNSでの発信には力を入れています。
 特定秘密保護法は2013年12月6日に成立してしまいましたが、2014年1月24日に、愛知の会と東京の「秘密保護法」廃止へ!実行委員会が呼びかけ人となって秘密法に反対する全国ネットワークを作りました。見ず知らずの団体同士で作ったネットワークですが、一堂に会しての全国交流集会もこれまで3回開催しました。特定秘密保護法に反対する団体には3.11後に危機感をもって活動を始めた市民の団体から活動歴の長い市民が結成した団体まで、地域も政治的な立場もバラバラな人が参加しています。そのため、何か統一的な方針や統一団体を作るのではなく、情報交換や経験交流をしてゆるやかにつながることで、より効果的な活動をつくっていけるのではと思っています。市民運動は党派性の違いでギクシャクすることも珍しくありませんが、弁護士会の取り組みに参加するという形で、それまでバラバラに活動していた団体が一緒に活動できるようになったという声もありました。

―――改めて特定秘密保護法について懸念しているポイントをお教えいただけますか。

(矢崎さん)
 一番の懸念は、やはり、「特定秘密」の内容が曖昧だということです。乱暴な喩えですが、広場に地雷を埋めましたと言われたとき、その地雷の周りにロープが張ってあれば地雷のない部分になんとか入れるとしても、広場のどこに埋まっているがわからないとなると、広場自体に近づけなくなってしまう。皆が萎縮し、真実を明らかにできない状況が作られてしまうことが一番の問題です。
 特に戦争に関する情報が出てこなくなることを危惧しています。戦争は国際法上違法なので、どの国も戦争をしようと思ったら、自分たちには正義がある、あくまで自衛の戦争だ、と説明することになります。実はねつ造の理由で戦争を始めたとしても、そうした政府に都合の悪い事実は公表されずに隠されます。実際にねつ造で始まった戦争もあるうえ、安倍首相は武力行使の判断根拠の情報は特定秘密になりうると答弁しており、とても怖いことです。そして、戦争中は、軍の違法な活動や民間人の被害の大きさなど、戦争批判につながるような情報も隠されます。
 ベトナム戦争の時は、戦場ジャーナリストが戦場の最前線に行き、子どもたちが裸で逃げ回る姿や、ベトナム人や米兵の遺体などの写真を撮って、戦争の残酷な実態伝えていました。ベトナム戦争の悲惨な写真や映像は、多くの日本人もよく知っています。また、内部告発によってアメリカ政府がなんの見通しもないまま兵士を戦地に送り込んでいたことも明らかにされました。このように戦争の真実が露呈したことから、アメリカ国内でも世界中でも反戦運動が起こり、結果アメリカ軍は撤退しました。
 しかし、湾岸戦争ではそうなりませんでした。私も、シューティングゲームのような光の映像は見た覚えがあっても、あの光の下で人が殺し殺されていたはずなのに、それをほとんど知りません。戦地の最前線の情報も入ってこず、戦場の実態も知らないのに、というよりむしろ知らなかったからこそ、私たちは湾岸戦争の時にはベトナム戦争の時ほど反対せず戦争に加担したし、加担の是非を顧みてもきませんでした。
 特定秘密保護法には、「自衛隊の運用や計画に関する情報」を秘密にできると書いてあります。自衛隊の最たる「運用」は武力行使や海外での戦争の支援活動ですが、どこにどんな爆撃をしてどういう被害を与えて、そこに自衛隊がどのように関与して隊員にどういう被害が出たのか、それらをどのように予測・試算して派兵計画を立てたのかなど、具体的な情報を抜きに戦争の是非を論じることなんて本当はできないはずなのに、それらを全て特定秘密にしてしまうことも可能になっているのです。重要な事実を多角的に知ることもできずに政府の言うことを妄信してしまったら、戦争は絶対に止められません。
 しかも、特定秘密保護法は、「政令で定める重要な情報」は60年を超えて秘密にし続けることもできてしまいます。武力行使の判断根拠や戦争の実態といった情報が戦争が終わった後にも隠されれば、検証すらできません。反省の機会がなければ何度も同じ過ちを繰り返し、多くの人々が犠牲になるでしょう。それが一番怖いことだと思っています。
 情報が出てこなくなるのも大きな問題ですが、もう一つ、適性評価制度の問題があります。特定秘密保護法は、秘密取扱予定者の「特定有害活動」「テロリズム」との関わりを調べると定めています。「外国の利益を図る目的」「日本の安全を著しく害するおそれがある活動」と言うとおどろおどろしいですが、日本の行う「自衛戦争」に反対して「○○国を攻撃するな」という反戦活動は、はたして「特定有害活動」と言われないでしょうか。市民運動の調査はしないと「運用基準」には書かれていますが、法律で禁止されてはいません。従来から、政府に批判的な言動をした者が就職差別を受けるなど社会的に不利益な処遇をされてきたことは、数々の裁判になってきた事例の示すところです。秘密保護法もなかった時代から思想差別は存在し、多くの人が目をつけられないよう政治的な発言を避けてきました。秘密取扱予定者の調査・評価制度ができたことにより、政府批判や市民運動を避ける自粛の風潮が一層広がるでしょう。治安維持法に似ていると思うのは特にこの部分です。治安維持法には戦争に反対する言論を禁止するという規定はありませんでした。しかし、禁止された結社の「仲間だと思われないように」という萎縮から、「戦争に反対だ」ということすら言えなくなったのです。
 この間の過激派組織ISによる人質事件の時も、政府の失策だと指摘するとすごいバッシングがくるという状況でした。この先、自衛隊員や民間人が戦場や国内テロで亡くなろうものなら、きっと「武力で報復しないなんてありえない」という世論が巻き起こるでしょう。「敵討ち」ムード一色になり、自衛隊の派遣計画に失策はなかったか、実行者を刑事裁判にかけるべきではないかというような冷静な議論ができなくなることが大変怖いと思っています。

―――特定秘密保護法は、戦争出来る国を目指す安倍政権の思惑で成立したのでしょうか。

(矢崎さん)
 「報告書」が出されたのは民主党政権下でしたが、民主党が政権を取る以前から自民党の中にプロジェクトチームができていて、同じような制度を作ろうとしていました。官僚主導だったので、民主党政権下でも引き継がれ、安倍政権になり可決されたということだと思います。
 法案を作った際には、内閣情報調査室が中心となって各省庁と法令協議というのを行っていたのですが、NPO法人情報公開市民センターがその内容を情報公開請求したところ、一番多く質問や発言をしていたのは警察庁でした。特定秘密保護法は現代の治安維持法と言われるように、政府の嘘を暴こうとする市民運動や反戦運動に対する監視を強化する側面があります。公安活動を一層手広く行う根拠として、法律の制定に積極的だったのでしょう。防衛省なども自衛隊員からの内部告発を防ぎたいという点で利害が一致したのかなと思います。

―――今後、廃止にむけた展望をお教えいただけますでしょうか。

(矢崎さん)
 これは使える法律だと思われたら最後です。そうなってから法律を廃止させるのは大変なことです。ですから、まずは、周辺事態法や破防法のように使えない法律にしていくことが重要だと思います。それは新たに法律をつくらずとも、世論形成で可能です。
 ここに地雷が埋まっているといわれても、これまで入っていたところへは萎縮しないで勇気をもって入っていく、そうするとここまでは大丈夫というゾーンが広がっていきます。そして地雷が出てきたら、本当にここは要件を満たす場所なのかその都度正していく。これまでやってきた活動を萎縮しないで堂々と続けること。そうすると、特定秘密保護法が使いにくいものになっていきます。今も米軍や自衛隊が違法な活動をしないかどうか監視している方々がいますけれども、そういう活動や情報公開請求をもっとしていく必要があると思います。内部告発もどんどんしていくことが重要です。さらに、国会議員や地方議員は追及すべき立場にあるわけですから、特定秘密だから答えられないというような答弁をされても、もっと踏み込んで、その根拠をきちんと追及して、濫用されないようにしていってほしいと思います。
 特定秘密保護法の一番の目的は、萎縮させることにあるわけですから、萎縮しないということが一番の対抗策だと思います。

 秘密保全法に反対する愛知の会のホームページ

◆矢崎暁子(やざき あきこ)さんのプロフィール

2007年一橋大学卒業
2010年一橋大学法科大学院卒
2011年弁護士登録
子どもの権利特別委員会、憲法問題委員会、高齢者・障害者総合支援センター特別委員会(アイズ)情報問題対策委員会、秘密保全法制対策本部で活躍中。






 
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