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今週の一言

 

「憲法の旗竿」は放さない

2015年6月15日



山田厚史さん(デモクラTV代表)

 国境なき記者団が毎年発表する「報道の自由度ランキング」で今年、日本は世界180か国の中で61位だった。
 国民主権を謳い、基本的人権が明記された憲法を持ちながらニジェール、モーリタニアといったアフリカの国より下位となった。
 ジャーナリストが投獄されたり、新聞社が潰されるなどの手荒なことがない日本で、評価がなぜこんなに低いのか。
 理由は3つ挙げられた。一つは記者クラブの閉鎖性。二つ目が福島原発事故で露呈した不十分な取材。第三は国家が取材を阻む秘密保護法だ。
 原発が暴走した福島事故の報道を振り返ると、問題は分かりやすい。東京・内幸町の東京電力本社に会見室が設けられ事故の報告が逐次なされ、保安院や東電関係者が説明に立った。首相官邸では枝野官房長官が定時に会見した。「大本営発表」さながらで、大事な事実は明らかにされず、都合のいい情報が断片的に示されるだけだった。福島で何が起こり、放射能被害が今度どうなるのか、さっぱり分からない。官邸の会見は「ただちに危険とういうことではありません」が連発され、根拠が示されないまま「心配をするな」と繰り返すばかり。記者は不十分な情報にいら立ちながらも、東電の説明や政府の見解をなぞる記事を書き続けた。
 一方、丸の内の外国人記者クラブでも連日記者会見がおこなわれた。専門家や原発技術者が呼ばれ、「メルトダウン」「格納容器の破壊」の可能性が語られた。両方の会見に出たが、原発が危険な状態であることを果敢に提起したのは、外人記者クラブだった。
 「フクシマのウソ」という衝撃的なレポートを放映したのはドイツの放送局ZDFだった。記者が立ち入り禁止区域に潜入し、カメラを回した。現場で働く人の証言を集め、政府や東電が言うような事態ではなく、「膨大な使用済み燃料を貯蔵する四号機の燃料プールが倒壊すれば放射能被害は首都圏に及ぶ」と報じた。政府は「最悪シナリオ」として同様の事態を想定していたが、国民に明かしてはいなかった。
 国内で起きている深刻な出来事を、外国の報道で知らされる。報道の自由がない国でよくあることだが、なぜ日本でそんなことが起きたのか。
 一因は自主規制にある。原発から20キロ圏は立ち入りが禁止され、日本でのメディアまでそれに従った。危険区域には住民や作業員は残ったが、メディアは引き上げた。取材すべき現場に記者が居なかった。
 大手メディアは従業員である記者の危険を考え、立ち入って取材することを認めなかった。ドイツの記者は身分を隠し、防護服で顔を隠し、内部関係者を案内役に立てを潜入したのである。
 「目前でとてつもない事件が起きているのに、踏み込むことをせず、当局の発表で記事を書くなど信じがたい」という驚きが、日本のメディアの評価を下げた。
 「日本では会社員が記者をしている」といわれる。外国プレスも多くの記者は企業に雇われている。だが彼らは「職業はジャーナリスト」と胸をはる。会社員だが「その前にジャーナリストだ」というのである。
 会社員は社の意向に沿う。「危ないところは行くな」といわれると「分かりました」と従う。行くか・行かないか。ジャーナリストとしてどちらが正しいか「まず自分で判断する」という姿勢が日本の記者に希薄だ、と彼らの目には映る。
 ジャーナリストは見識を持った個人から始まる、というのが世界標準である。
 首相が報道各社のトップと頻繁に会食する。取材先と濃密な関係を保つことを良しとする。情報の配給場所として記者クラブがある。明日発表されることを今日報ずることを競い合う小さな競争に明け暮れる。日本独特のメディア体質が、ジャーナリストの感性を鈍化させていやしないか。
 権力者は都合のいい情報を小出しにして記者に恩を売る。リークをもらえる関係を「食い込む」といい、関係を維持するために、相手が嫌がる表現は控える。社内で評価される小さな成果を得るため、ジャーナリストとしての使命をすててはいないか。
 情報は権力にあつまる。記者を情報で手なづけ、生意気な奴は「特オチ」させて潰すことも可能だ。上層部にひとこと言って担当から外すこともできる。
 新聞や放送局がビジネスとして活況だったころ、メディアは広告主や不買運動に対し強い姿勢を保つことができた。インターネットの登場でメディアは大激変だ。新聞は部数が減り、テレビ離れは深刻だ。経営が痛み、外部圧力への耐性が弱まった。そこに安倍政権が登場した。
 権力を監視するはずのメディアが権力から監視されるという笑えないことが起きている。短時間でニュースをまとめる報道に「誤報」は付きものだ。そこを突かれるとメディアは弱い。
 権力からの「抗議」を圧力と捉えるかは、受け取る側次第だが、報道の現場で「委縮」が起きているのは事実だ。
 それどころか政府と一体となった「翼賛報道」が目立ってきた。集団的自衛権、TPP推進、アジア外交など日本の針路を左右する課題でメディアが政府のお先棒を担いでいる。政界の再編にまで報道機関のトップが介入することさえ起きている。
 ジャーナリズムが商業化し、新聞・テレビ・文化事業まで包含するメディア複合体が、生き残りをかけて政府に接近する。時の権力とつながる方がなにかと有利だから。
 政権に批判的なメディアは、表現が慎重になった。踏み込んだ記事も少なくなった。会社員は空気を読む。「脇を固めろ」といわれれば、リスクを嫌い後退する。寄らば大樹の陰、翼賛報道はイケイケだ。軸は大きく右に傾いた。
 報道の現場は、もっと頑張ってもらいたいと思うが、大手企業であるが故に身動きが取れない事情がある。嘗て在籍していた朝日新聞の現状に言いたいことは沢山ある。
 NHKは政府べったり、読売には社内言論の自由さえない、朝日新聞は・・・。
 文句を言っても始まらない。責任の一端は自分にもある。他者をけなす前に、自分がすべきことはないのか。そんな思いから仲間とデモクラTVを始めた。2年前、インターネットでニュースを解説する動画放送を仲間と一緒に開始した。
 発信を続けて賛同を増やすしかない。批判をうけて自らを磨く。たとえまだ小さいメディアであっても時代を射抜く説得力を持てば輪は広がる。
 「平和憲法の旗はボロボロになった」。 その年に亡くなった品川正治さん(元日本火災海上保険社長、経済同友会終身幹事)はそう嘆いていた。中国の最前線に送られ、終戦で帰還した船で新憲法を知り、涙が止まらなかったという品川さんは、憲法の精神を生涯の指針にした。「旗は千切れボロボロだが、国民は今もしっかり旗竿を握っています」。亡くなる直前まで言っていた。
 その通りだと思う。安倍首相は、憲法解釈の変更で集団的自衛権を認め、安保法制を改編し日本が戦争をできる国にしようとしているが、国民は同調していない。世論調査の数字にはっきり表れている。旗竿を握っている。
 問われているのはメディアだろう。国民と共に立てるか。
 日本のジャーナリストも結構頑張っているね、と世界から評価されるようになりたいものだ。デモクラTVは諦めない。

デモクラTVのHPはこちら

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◆山田厚史(やまだ あつし)さんのプロフィール

同志社大学法学部政治学科卒業後、毎日放送制作局ディレクターを経て、1971年12月朝日新聞社入社。
青森支局、千葉支局を経て、東京経済部に異動。大蔵省、外務省、日本銀行、自動車業界、金融業界などを担当。
その後ロンドン特派員として欧州経済を担当したのち、大阪経済部次長。
1993年4月から経済部編集委員で「国際経済と金融」担当に。同年9月にはハーバード大学ニーマンフェロー。1996年4月、経済担当の特別編集委員となる。2000年8月にはバンコク特派員(アジア経済担当)
。2003年4月、東京経済部兼AERA編集局。2005年4月には朝日新聞編集委員(経済担当)となる。2008年1月より、朝日新聞シニアライター。
1996年からテレビ朝日コメンテーターとして活躍している。
 2013年4月に「デモクラTV」を放送するための企画運営会社、株式会社インターネット・ニュースジャパンを有志と共に立ち上げ、取締役社長に就任。


 





 
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