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今週の一言

 

別姓訴訟 民法750条

2015年7月6日(2015年7月13日加筆)



打越さく良さん(弁護士)

最高裁大法廷回付!

 私たち夫婦別姓訴訟弁護団は、2011年2月、原告男女5人を代表して、夫婦同姓を定める民法750条が違憲であり、女性差別撤廃条約に違反するとして、この差別的規定を改正しない国に対し立法不作為による損害賠償を求め、東京地裁に訴訟を提起しました。地裁、高裁と残念ながら敗訴しましたが、2015年2月18日、最高裁第三小法廷は、この訴訟の審理を大法廷に回付しました(同日、同じく第三小法廷は、女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法733条が違憲であるとして国に損害賠償請求を求めている訴訟についても、審理を大法廷に回付)。そして、11月4日午後2時に弁論が予定されています。
 民法750条、733条、そして男女で2歳の差を設ける婚姻適齢を定める731条、さらに2013年に廃止された婚外子の相続分を婚内子の2分の1と定めた900条但し書は、いずれも、1996年(いまから29年も前!)2月の法制審議会が答申した民法改正案要綱で改正が盛り込まれていました。法制審答申を経て閣法として提出されていないものは、唯一この民法改正案要綱のみといわれています。
 この間各地の団体、弁護士会、日弁連が繰り返し民法改正を求める会長声明を出してきましたし、国連の女性差別撤廃委員会も繰り返し日本政府に民法の改正を勧告してきました。ところが、閣法が提出されることはなく、法改正は実現しないこの状況に、私たちは、司法判断を求めるほかないと決断した次第です。
 東京地裁、東京高裁の判断は残念ながら到底納得のできるものではありませんでしたが、上記のように最高裁大法廷に回付されたということは、少なくとも、最高裁第三小法廷を構成する5人の裁判官のうち多数が、本件につき、立法不作為による国家賠償請求のハードルで門前払いするというよりも、憲法に適合するかどうか、判断するべき事案だとお考えになったということではないでしょうか(裁判所法3条参照)。原告や弁護団のみならず、夫婦別姓を選択することすらできないで困っている多くのひとたちにとって、大法廷回付決定はビッグニュースでした。

民法750条の違憲性

 では、民法750条はどのように憲法に抵触するのでしょうか。私たち弁護団が主張している点は女性差別撤廃条約違反や憲法14条・24条1項違反など多岐にわたりますが、以下の説明は、スペースの制約上、憲法13条と24条2項に絞ります。
 憲法に列挙されていない権利であっても、憲法13条から憲法上の権利が導き出されることは、通説・判例の認めるところです。そして、憲法13条から導き出される「人格権」の一内容としての「氏名の変更を強制されない権利」によって、婚姻に際して従前の姓を保持することが憲法上の保護を受けており、そして、民法750条の夫婦同氏の定めはまさに氏名の変更を強制しており、「氏名の変更を強制されない権利」としての人格権を制約しています。「氏の変更を強制されない権利」によって、婚姻に際しても従前からの姓を保持することが憲法上の保護を受けている、それにもかかわらず、民法750条の夫婦同氏の定めはまさに氏名の変更を強制しており、「氏の変更を強制されない権利」としての人格権を制約しているといえます。本人の意に反して変更が強制されると、その氏によって形成してきた人間関係、信頼・信用、すなわち人生そのものを分断されてしまい、精神的に人格や個人の尊厳を否定される苦痛を被ります。私たち弁護団のもとには、原告のみならず多くの人から、婚姻改姓を余儀なくされたことにより、「自分が自分でなくなったような気持になった」、「うつになった」等という深刻な訴えが数多く寄せられています。
 ところで、民法750条は、形式上、夫と妻のいずれの姓を称してもよいとしており、性に基づく差別を規定しているわけではありません。この点、相続分を2分の1とする差別を規定していたかつての900条4号但し書とは異なります。しかし、実態は、誰もが知るとおり、圧倒的多数の夫婦が夫の氏を称しています(2012年の厚労省の人口動態統計から計算すると、同年に婚姻した夫婦の96.17%が夫の氏を称しています)。これを夫婦の自由な話し合いによる合意の結果にすぎないと考えられるでしょうか。「女は男の家に嫁ぎその家の氏を称するものだ」という、戦前に植えつけられた家族観が戦後にも持続し、それが無言の社会的圧力となって、自分の氏を維持したいと考える女性に氏の変更を「強制」しているのです。
 法的な差別はなくてもその制度の運用の結果差別となっているという問題は、諸外国で間接差別として議論されています。日本の判例では、差別が合理的かどうかは、諸般の事情の総合判断により決定することになっており、間接差別についても、間接差別であることを総合判断の一要素として捉えつつも、総合判断によることになるでしょう。まず、96%を超える夫婦が夫の氏を称しているということからして、婚氏の選択において性に基づく差別は、厳然たる事実として存在しているといえます。では、その原因は、憲法が許容するものでしょうか。まず、主要な原因は、妻は夫の家に嫁ぐものであり、夫の家の氏を称するのは当然であるという戦前の家意識の残滓であることは間違いないでしょう。このような意識は「個人の尊厳と両性の本質的平等」(憲法24条2項)という憲法の基本的価値とは整合しません。
 憲法は形式的平等を保障すればよく、実質的な平等など保障しなくてよいと解することは、実質的には女性から選択の機会を奪っていることになり、「個人の尊厳と両性の本質的平等」の保障、「個人として」尊重(13条)に反します。
 実際、現憲法に適う民法改正が議論されていた際、我妻栄教授は、守旧派を説得するため、法律上は家制度をなくすが、現実の家族制度=共同生活まで否定するわけではないことを強調していました。民法750条のもと、圧倒的に男性の氏の選択となっていくだろうということが予想されていた、むしろそうなることが望まれていたといえましょう。百歩譲っても、戦後直後の民法改正当時とは異なり、今日では家族観の変化により、婚姻とは夫婦同氏を意味するとか、家族は同氏であるのが当然であるという考えを受け入れない人々も増大してきています。諸外国でも別氏制度を選択できる国が圧倒的多数であり、夫婦同氏しか認めない旨明文で規定しているのは、日本くらいしかありません。そして女性差別撤廃委員会からも、法改正について勧告を受けています。
 このような国内外の動きのほか、法改正が国会内の一部の強硬な反対により阻止されてきたことも、婚外子相続分差別規定と同様です。反対派は、抽象的に「家族の一体感を維持・強化するために夫婦同氏であるべき」と主張します。しかし、同氏によって一体感を得たい夫婦はそうすればよいだけです。別氏の夫婦の存在により自分たちの一体感が阻害されるから、本人が望まなくとも強制すべきだというのであれば、他者の犠牲において自己の利益を得ようとする議論であり、個人の尊厳・尊重と相容れません。夫婦同氏の強制により得られる利益は、全くないか、あるいは、憲法により許されない利益かのいずれかなのです。他方、夫婦同氏強制は、「女性は男性の劣位にあり、従属的立場にある」という無意識の観念を持続させ、助長させるという害悪があります。
 民法750条は、女性の氏の選択の機会を実質的に奪っています。夫婦同氏の強制は、社会における女性の従属的地位を温存し、助長する機能を果たしており、これは「個人の尊厳と両性の本質的平等」を侵害するものといわざるをえません。 
 なお、以上の考察は、訴訟で書証として提出した戸波江二早稲田大学教授の意見書と高橋和之東京大学名誉教授の意見書に依拠しています。どちらも、別姓訴訟を支える会のwebページに掲載しておりますので、どうぞご一読ください。

更なる応援を

 最高裁大法廷回付決定後、法改正を待ち望む声が一層届いています。弁護団として11月4日の弁論に向け一層気を引き締めております。どうぞ今後ともご支援をよろしくお願い申し上げます。

◆打越さく良(うちこし さくら)さんのプロフィール

2000年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。
専門分野は離婚等家事事件。特に、DV被害者や虐待を受けた子どもの支援に熱意を持っている。
日弁連両性の平等委員会・同家事法制委員会委員。都内の児童相談所の非常勤嘱託弁護士。
著書に『改訂版 Q&A DV事件の実務』日本加除出版、他。
事務所の弁護士たち等とジェンダーに関する離婚や労働、刑事裁判の裁判例を集めるサイト「Gender and Law」を運営。 ウィメンズ アクションネットワーク(WAN)のサイトに「離婚ガイド」ラブピースクラブのサイトに「フェミ時事通信」ブックレビューを連載中。 別姓訴訟弁護団事務局長を務める(別姓訴訟を支える会)。




 
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