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あなたこそたからもの

2015年7月13日



垂石眞子さん(絵本作家) 

今回は、絵本「あなたこそたからもの」の絵を担当された垂石眞子さんに、インタビューをさせていただきました。

―――先生はもともとサンリオに勤めていらっしゃったと聞きましたが、絵本の道に進まれたきっかけはどのようなものだったのですか。

(垂石さん)
 絵を描くことが好きなので、美大卒業後、サンリオに入社しました。最初のうちはキャラクターをレイアウトして商品化するための加工をしていました。1年くらいして自分で描かせてもらえるようになったのですが、世界を創るというより、マーケティングを重視した制約が多く、とてもストレスが溜まっていました。そんな時に、ヨーロッパへリサーチ活動をしに行く機会があり、その時にスウェーデンのスーパーでイーヴァル・アロセニウスさんの「リッランとねこ」という本に出会いました。
 それまで絵本はたくさん見ていたのですが、本当に「自分の心の中に入った」という感覚は初めての体験でした。娘のためだけに書かれた絵本で、スウェーデン語で書いてあるので読めないのですが、見ているだけで疲れた心が治っていきました。その本をずっと会社の引き出しに入れておいて、辛くなるたびに見ていました。その絵本との出会いから2、3年後に会社を辞めたのですが、この絵本に導かれたのか、自然に本の挿絵を描いたり、本の装丁をしたりというお仕事をするようになっていました。

―――絵本を作るときはテーマや伝えたいことを決めてから作るのでしょうか。

(垂石さん)
 はじめからこういうテーマで作ろうと思うと案外うまくいかないことが多いですね。普通に生活していて、素通りしようと思った時に「あー!これって!」と思った時に本になるんです。
 偕成社で「ライオンとぼく」という本を出しました。ライオンにはライオンの世界があって、ぼくにはぼくの世界がある。ライオンにとっては重要な事が、ぼくにとっては大したことでなかったり、ライオンにとって嫌なことが、ぼくにとってはいいことだったりするわけです。要するに、その人その人のもっている価値観はみんな違っていて、だから一緒に遊んでいると価値観の違いで衝突が起こったりします。意識していないかもしれないけれど、それぞれ尊重しないといけないんだよ、というお話なんです。ライオンの本が作れたらいいなと思って作った本なのだけれど、後になって、在日の子どもを教えている学校の先生に、「この本は僕の教え子の話だ」って言われて気づきました。このライオンは近所に住む外国人の子どもであったり、ものすごく貧しい家の子かもしれない、実は私自身が長いこと考えていた問題だったんです。
よく、子どもの本は作るものじゃなくて、生まれるものだという言い方をされるんですけれども、すごく本質をついてるなと思います。

―――先生は、たくさんの絵本を出版されていて、絵本によって画風が全然違いますけれども、こんな絵をつけて欲しいというような依頼をされるのでしょうか?

(垂石さん)
 もともと絵描きとして出発したので、絵本の絵を描いて欲しいと依頼されることが多いですが、こんな絵を付けて欲しいと依頼されたことはありません。どういうページにどんな絵をどのようなレイアウトで描くのか、すべてお任せで依頼されます。
 自分の作絵の場合は、感じたまま文と一体化した絵を描きますが、絵だけを依頼されたときは、その人の文章を、それこそ100回くらい読んで、その文を自分が書いたのと同じくらい体に染み込ませてからでないと描けません。何回も何回も読んで、その人の世界観を理解していくと、前に書いた絵本と同じ絵、というわけにはいかなくなるんです。別の人が文を書いているので、必然的にタイプの違う絵になります。

―――今回、当研究所の伊藤所長の文に垂石さんが絵を付けてくださったことで、とても素敵な憲法の絵本が出版されましたが、どのような経緯で、この絵が生まれたのかおきかせいただけますでしょうか。

(垂石さん)
 出版社の編集の方から、憲法の絵本を作りたいので絵を描いて欲しいというご依頼をいただきました。とても難しいので普通は迷うと思います。けれども、ちょうど、「あの戦争の中にぼくもいた」という本の挿絵や「わすれたって、いいんだよ」という沖縄の認知症のおばあちゃんの絵本を描いた後にいただいたお話だったこともあって、流れのような何かを感じて引き受けました。
 憲法のことは人並みにしか知らないのに、最初に頂いた原稿はとっても長くてたっぷりした内容で、日本国憲法を読み返してもついていけるかどうか、どれだけ描けるか不安はありました。けれども、法律家でもなく、なにか運動をしているわけでもない、ごくごく普通に暮らしている多くの人たちは、憲法のことをそんなに考えているわけではないですし、法律家とものの見方も違います。そうであれば、主婦であり、母親であり、ごくごく普通に暮らしていて、憲法のことをそんなに考えてきたわけではない私が引き受けることに意味があると思ったのです。本を手に取る人と同じような感覚の方がいい、そう言う意味では知らない方がいいんだと思ったのです。
 この絵本は今までの絵本と違って特殊な作り方をしました。まず手にとってもらわないとこの本を出した意味がないので、絵で敷居を低くするお手伝いをしようと考えて描きました。お砂糖で包んだセミスイートなチョコレートみたいに、可愛いけれども読んでみると考えなきゃいけないほろ苦いメッセージが込められている、そんな絵本にしたかったんです。
 絵本の絵は、文章を視覚化するわけです。憲法はある意味理想的な世界だけれども、リアルな大人や子どもで表現するとどうしても教科書的になってしまうんですね。動物にしようかと思ったのですが、そうするとあまりに現実離れしてしまう。私は講演を聞く時、いつも絵を描くのですが、昭島で伊藤所長の講演を聞いている時に、ふとお花の子が出てきたらいいなと思ったんですね。
 その時に書いたのがこんな子です。子どもでいながら子どもになりきれていない、これからどんどん成長していく、いわば純粋な子どもです。その子たちにとっての憲法を描けたら面白いなと思って。普通の子どもの絵ではなかなか伝わらない、その子その子の個性も、お花にすると視覚的に伝わるんじゃないかと思いました。


―――絵本の反響はいかがですか。

(垂石さん)
 いろんな大勢の方からお手紙やメールをいただきます。近所の方に配るので20冊下さい、30冊下さい、という方も多く、大きな反響に驚いています。中には、表紙の「憲法」という文字を見た途端に「変えなきゃいけないのよ」という人もいますけれども、知りたくてもどう知ったらいいのかわからない、難しいことはわからないけれども不安を感じているお母さんたちにとって、とても良い絵本になっているのではないかと思います。
 子どもたちにこの絵本の読み聞かせをした時は、みんな最後まで目を丸くして本当に真剣に聞いていました。嬉しかったですね。

◆垂石眞子(たるいし まこ)さんのプロフィール

神奈川県茅ヶ崎市出身。
湘南の砂浜で遊び、江ノ島を見て育つ。
現在は、あきる野市で美しい緑をながめて暮らしている。
多摩美術大学卒業。
サンリオ入社。退社後、子どもの本の世界に入る。
また、音楽劇など舞台の仕事も手がける。




 
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