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「軍事による平和」vs.「九条による平和」

2015年9月7日



池住義憲さん(元立教大学大学院キリスト教学研究科特任教授)

 民意を正しく反映しない歪んだ選挙制度。それで得た"多数派"(自公)は、数の暴力で戦争法案を参院で強行採決へ持ち込もうとしている。今月(9月)16〜17日にも…。
 以下のQ&A「軍事による平和vs.九条による平和」は、今起こっている永田町での動きを、高校生や大学生たちとわかりやすくひも解き、確認するためにまとめたものです。よかったらご活用ください。

Q1.安倍首相の「積極的平和主義」とガルトゥングの「積極的平和」、同じ? 違う?

A. 平和学の父と言われるノルウェーのヨハン・ガルトゥングは、貧困・差別・抑圧・言論弾圧など、社会の構造自体が作り出す私たちへの社会構造的暴力が無い状態を、「 積極的平和」と言っています。そして、戦争や国家権力による弾圧・テロ行為など、直接的・物理的暴力の無い状態を、「消極的平和」と言います。
 「消極的平和」と「積極的平和」。この二つはコインの両面。どちらか一方が欠けても、平和とは言えません。ガルトゥングは、この二つを達成する営み、努力、行動を 、「平和創り」と呼んでいます。
 集団的自衛権行使に道を開く"積極的平和主義"とは、言葉は似ていますが、内容はまったく違いますね。

Q2.「備えあれば憂いなし」って、ホント?

A. 世界194カ国のうち、軍隊のない国は28カ国。これらの国はみな、非軍事を宣言して以来今日に至るまで、他国から攻撃されたことは一度もありません。過去の歴史をみて も、戦争を起こされた国及び戦争を起こした国は、すべて、軍隊を持っている国です。
 軍隊のない28カ国は、軍事に費やす膨大なお金を、教育・福祉・保健医療・雇用・異文化理解・異文化交流・平和教育などにつぎ込んでいます。徹底して、軍事に頼らな い平和外交を行っています。
 非武装・非軍事の国を攻撃することは、国際法で禁じられています。国際法治主義が徹底している今日、これから私たちはどうするか。"備えあれば憂いなし"の考え方 に立った国づくりを志向するのか。または、憲法九条の原点に立ち返った国づくりを志向するのか。決めるのは、私たちですね。

Q3.そもそも憲法とは?

A. 憲法は、一言でいえば、私たちの自由と権利を護るもの。そのためには、権力者が暴走しないように、権力者の権利を縛る必要があります。なぜなら、これまで私たちの 自由と権利を脅かし侵害してきたのは、いつもその時々の権力者だったからです。
 そうした歴史事実から私たちは、戦後、私たちの自由と権利を護るために、権力者の権力を縛る"命令書"を制定しました。それが憲法です。それを国の最高法規にして あります。
 憲法の特徴の第一は、個人の自由と人権を保障するために権力を縛るという「立憲主義」をとっていること。
 第二は、憲法前文および九条に示されている通り、徹底した「非暴力平和主義」をとっていること。前文に明記している平和的生存権は、平和の視座を国家から個人に転 換し、人権として保障しています。
 この非暴力平和主義と共に、主権在民(国民主権)、基本的人権の尊重、地方自治(地方主権)、三権分立の5つが憲法の基本原則です。「平和は地方/地域から」とい う考え方に基づいた中央と地方の仕組み、司法・立法・行政という三つの国家権力を分散させて相互チェックする仕組みなど、いずれも国家権力の暴走を許さないためのも のです。

Q4.「憲法九条の原点に立ち帰る」って、どういうこと?

A. 憲法のなかでも特に大切なのが、九条。戦争放棄、軍備不保持、交戦権否認を定めた、世界でもっとも先駆的な条項です。安倍政権が今やっていることは、憲法の解釈を 変えて専守防衛の枠を取り払い、集団的自衛権の行使を可能にしよう、というもの。これは自衛権でなく、他衛権、参戦権と言うべきものです。
 私たちは、憲法99条で、天皇や内閣総理大臣を始めとする国務大臣、国会議員、裁判官、公務員らに憲法を尊重し擁護する義務を負わせています。もし私たちが「これは、憲法違反だ!」と思ったら、主権者として暴走にストップをかけることです。憲法違反の法律は、その効力を有しません(憲法98条)。
 憲法に拠って立って、権力者の違憲な行為に対して、プロテスト(抵抗)する。自分のまわりで。出来得る範囲で。「憲法九条の原点に立ち帰る」とは、そういう生き方 、関わり方をするということです。
 こうしたことを、「服従しない権利」と呼ぶことができます。1930年、英国の塩税法に抗議して非暴力・不服従運動を起こしたガンディーのように。1955年、バス車内人 種分離法に反対して非暴力・不服従運動を起こしたキング牧師のように。キリスト者として、市民として、有権者として、不断の努力によって、今、「服従しない権利」を 行使することは私たちの義務であり、権利でもあるのですね。

Q5.九条の源泉を辿ると?

A. 九条と同じ理念を探ると、紀元前8世紀にまで遡ります。旧約聖書イザヤ書2章4節には、「彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を 上げずもはや戦うことを学ばない」と書かれてあります。
 その後も、たとえば紀元前5世紀頃には法句経(釈尊の言葉と大乗仏教の教え)の「殺すな、殺させるな、殺すことを許すな」、1〜2世紀頃の新約聖書マタイによる福音書 の「あなたの剣をもとの処におさめなさい。剣をとる者はみな、剣で滅びる」(26章52節)など。
 近年でも、1926年内村鑑三の新文明論に、「わが日本が国家的宣言を発して、国家の武装解除を宣言し、こうして全世界に戦争のない新文明を招来し得るなら、それはな んと素晴らしい日であろう」などもあります。
 このように九条の理念は、三千年近い人類平和を求める願いが積み重なって、世界でもっとも先駆的な日本国憲法に成就・成文化されているのです。

Q6.「平和の器」として歩み出すために…

A. ドイツ人神学者ディートリッヒ・ボンヘッファー(1906〜1945年)は、次のように言っています。「安全保障という道によっては、決して平和に到達できない。安全保障 を追求するということは、相手に対して不信の念をもつことを意味するからです。そしてこの不信が戦争を生み出すのです」。
 安倍政権が進めているのは、「安全保障」整備。すなわち「軍事による平和」。今私たちに問われているのは、「軍事による平和」「九条による平和」のどちらを志向す るか、です。
 1970年末、オランダの国際援助組織NOVIBという団体が、社会を変えるために「あなたに出来る百カ条」というのを出しました。その第一条は、「無力感を克服すること」 。これは、私たちが平和の器となるための第一歩、ですね。

池住義憲(いけずみ よしのり)さんのプロフィール

1944年東京都生まれ。大卒後、東京基督教青年会(YMCA)、アジア保健研修所(AHI、愛知県)、国際民衆保健協議会(IPHC、本部ニカラグア)など計36年にわたってNGO活動に従事。自衛隊イラク派兵差止訴訟(2004年2月〜2008年4月)では原告代表として、名古屋高裁で違憲判決を勝ち取る。元立教大学大学院キリスト教学研究科特任教授(2015年3月まで)。愛知県日進市在住。

 



 
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