法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

★ミトコンドリア・原発・クライシス★

2015年10月12日



長尾比呂未さん(「地球の子ども新聞」共同代表)

 「地球の子ども新聞」はB2版のポスター新聞です。福島第1原発事故後、3つの放射能汚染マップを発行してきました。

130号 福島汚染マップ
http://chikyunoko.exblog.jp/17862630/

134号 フクシマ・チェルノブイリ比較汚染マップ
http://chikyunoko.exblog.jp/22584267/

135号 日本列島全土汚染マップ
http://chikyunoko.exblog.jp/22588577/


PDF

 最初は、福島県の汚染マップを特集。放射線に弱い子どもの立場から見た汚染マップを作ってみました。また、計画的避難区域とされた飯舘村の放射能減衰マップも作って、30年後、60年後と順をおって23世紀までの汚染レベルを可視化。解説版では、琉球大学の矢ヶ崎名誉教授に放射能マップ入門という視点で知っておきたい知識や注意を伺い、インタビュー記事にまとめました。
 次の汚染マップは、フクシマとチェルノブイリ原発事故の汚染域の広がりを比べた放射能汚染比較マップを特集。フクシマの汚染レベルはチェルノブイリに比べ少ないという神話はほんとうなの?と挑戦。同縮小率・同基準で汚染レベルを可視化し、ひと目で比較できるようにしました。この号はジュネーブの国連人権理事会に向けて英語版も作成し、サイドイベントで外国の記者に配布していだだきました。さらに次の号では、北海道から沖縄県先島諸島まで、日本全土の汚染マップを制作し、汚染の全貌を伝えました。
 このように放射能汚染マップにこだわってきたのは、やはり放射能が目にみえず、味や臭いもなく、人間には感知できないからです。しかし、グラフィカルな地図にすれば放射能汚染を見ることができます。汚染の可視化は放射線防護の基本中の基本。程度の差はありますが、汚染された街や村で生活せざるをえない私たちに汚染マップは自分の居住地の汚染レベルをおおよそ————あくまで「おおよそ」ですが————知る助けになります。とはいえ、やっかいな点があります。
 それは汚染レベルを知っても、その健康影響リスクをどう判断するか、低線量被曝と内部被曝のふたつの問題を巡って科学論争が続いて結論がみえません。あまりにも人類は危険すぎる核テクノロジーに手をそめ、ヒバクシャを増やしながら、よく科学的に解明できない原爆病や原発病を生みだし続けているのです。その結果、事故で放射能の恐怖や驚愕、動揺をまきこんでネットでは議論百出。それを整理すると、次のような5つの科学的立場が見えてきます。
 1.放射線は低線量レベルならば健康にいい(放射線ホルミシス仮説)
 2.放射線は低線量レベルならば安全である(エートス仮説、原子力ムラ推薦)
 3.放射線は低線量レベルでもリスクがある(LNT仮説、国際標準)
 4.放射線は低線量レベルでもリスクがある。放射能の内部被曝リスクを軽視(ICRP基準)
 5.放射線は低線量レベルでもリスクがある。放射能の内部被曝リスクを重視(ECRR基準)
 このうち、1と2は戦前の考え方のリバイバルというか、復古主義です。3は戦後に生まれた、どんな低線量でもリスク(害)があるという考え方が放射線防護学の主流となりました。しかし、日本の原子力ムラの科学者や医師は「低線量なら安全」という戦前の考え方がお好きで、政府の原子力政策を後押ししました。いまでも100ミリシーベルト以下なら安全と吹聴しています。
 しかし、この判断はヒロシマとナガサキの長期的な原爆被爆者の追跡調査を意図的に読み違えたものです。この調査結果は100ミリシーベルト以下では健康に影響があるデータが足りなく統計学的に結論をだせないのであって、それを安全の証拠とみなすのは意図的な誤読です。理論的には、100ミリシーベルト以下のLNT(しきい値なし直線)仮説を認め、健康被害は被曝線量が少なくなるに比例して減少する(グラフでは直線)と考えられ、健康被害の恐れがあるとしています。福島第一原発事故直後、原子力安全委員会も100ミリシーベルトで1000人に5人が癌で死亡すると記者会見で述べています。つまり、LNT(しきい値なし直線)では、20ミリシーベルトも安全ではなく1000人にひとりが、1ミリシーベルトでは2万人にひとりが癌で死亡する恐れがあると考えられるのです。これが科学の主流、ICRP(国際放射線防護委員会)の国際標準となっています。
 次の4と5の違いは内部被曝を巡る問題です。チェルノブイリ事故の評価の違いなどから、これまで放射線防護の国際基準をつくってきたICRPは内部被曝を軽視し、事故被害を隠す役割をして問題が大きいと考えた科学者が、事故の翌年にECRR(欧州放射線リスク委員会)を結成しました。ICRPは戦前からの放射線防護のオーソリティーですが、核物質と放射線の利用を進める同業者組織から生まれ、マンハッタン計画(ヒロシマ・ナガサキの原爆開発プロジェクト)以降、核兵器開発をする軍医や原発技術者との関係があります。ECRRはこのような軍産学医の協力関係によって放射線防護学や防護基準が歪められるのを嫌った科学者の独立団体です。
 チェルノブイリ事故後、内部被曝の研究分野で世界に衝撃を与えたのがベラルーシのバンダジェフスキー博士です。博士は、ゴメリ医学大学で子どもや成人のホールボディカウンター測定を含む臨床検査と動物実験、検死解剖の3つを組み合わせた病理研究チームを組織し、世界で初めて人体に蓄積された放射性セシウムの量と健康状態との関係をつきとめました。
 いままでの放射線研究は、動物実験でも外部被曝の放射線量と癌の研究が中心でしたが、バンダジェフスキー博士はチェルノブイリ原発事故の影響による死亡率で一番高いのは、癌ではなく循環器系疾患(セシウム中毒による心筋疾患)という放射線防護学のコペルニクス的転回ともいえる発見をしました。いままでは心筋梗塞などの心疾患は喫煙、コーヒーや糖の過剰摂取、ストレスが原因とされ、放射能の内部被曝の影響とはみなされませんでした。博士の研究によって、放射性セシウム摂取の内部被曝が原因とわかり、ECRRの内部被曝重視の主張は裏付けられたのですが、ICRPはこれを無視しています。
 博士の研究によれば、子どもでは体重1キロにつきセシウム被曝量10ベクレルで心臓に不整脈が現れ、74から100ベクレルで88%に心電図の異常が観察されています。現在、日本では一般食品の基準値(セシウム137)は1キロあたり100 ベクレルですから、日本の基準はあまりにも緩すぎます。食品の放射能測定がされずに流通する露地物や自主流通産品にまで、しっかりと汚染レベルを把握できる体制づくりが問われていますが、風上の生産者側の放射能管理は抜け道が必ず生まれるので、ベラルーシのように地域の小学校を食品放射能測定所とするような消費者が手軽に利用できる風下の汚染検査体制づくりも重要です。
 放射性セシウムは新陳代謝の激しい細胞に集まり、最初にミトコンドリアに激しい変化をもたらすと博士は分析しています。ミトコンドリアという細胞小器官は、独自のDNAを持ち、母系で遺伝する細胞内細胞ともいえる不思議な器官。そのため人類はミトコンドリア・イブというひとりの女性から生まれたという科学的ミステリーも興味深いです。細胞の老化やアポトーシス(細胞死)をコントロールする司令塔であり、細胞が活動するエネルギーを生みだす生命の発電所であるのですが、そのミトコンドリアが何と人工の発電所の生成物、放射性セシウムの標的になっていたのです。とくに心臓のミトコンドリアは他の器官と比べ活動的であることから、放射性セシウムにより脆弱なのです。
 人間ばかりでなく、全ての生きとし生けるもののミトコンドリアDNAを守るために、核エネルギー利用の再稼働をなんとかしなければなりません。

ポスター新聞のお申込みはこちら
peco02@lapis.plala.or.jp

◆長尾比呂未(ながお ひろみ)さんのプロフィール

「地球の子ども新聞」共同代表。東京在住。美学校写真工房、東京綜合写真学校に通い、出版社勤務を経て1994年に「地球の子ども新聞」を創刊。2011年「社会芸術2011 CONTEMPORARY ART NOW KAWAGOE」招待展示。2012年に月刊誌「社会運動」(市民セクター政策機構発行)に福島原発事故について連載など。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]