法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

日本を戦前にしないために

2015年11月16日



那須正幹さん(児童文学作家)


画:前川かずお・高橋信也/ポプラ社

 36年間書き続けていた「ズッコケ三人組」シリーズも、12月発売の『ズッコケ熟年三人組』で終わりにすることにした。ハチベエ、ハカセ、モーちゃんもすでに五十歳の大台にのったことでもあるし、これ以上歳をとった三人を描くのは、作者としても忍びないというのが第一の理由だが、今一つ、これからの世の中を考えると、はたして彼らが今まで通りの活躍をさせてもらえるかどうか、はなはだ心もとないというのも理由のひとつだった。
 子ども版の三人組にしろ、中年シリーズの三人組にしろ、彼らがなんの制約もなしに活躍できたのは、ひとえに日本が平和で民主的な世の中だったからではないか。彼らは戦後日本の申し子なのである。
 しかし、これからの日本は、戦後というより、限りなく戦前に逆戻りするのではないかという予感がしてならないのである。
 その一つが、安保法制だが、それだけではない。国民総ナンバー制度の導入、国立大学に対する君が代日の丸の強制、報道機関への圧力、歴史的事実の隠ぺい、学校教育の統制強化などなど、現政権は、着々と戦前回帰の道を進み始めている。
 自民党の憲法草案には、国民の基本的人権に対し、「公の利益と公の秩序に反しない限り」という縛りを明記している。ちなみに現憲法は「公共の福祉に反しない限り」であり、他人迷惑にならない限り、基本的人権は保障されるわけだが、自民党草案では、国家の利益や秩序を犯せば、個人の人権は保障されないということになる。原発反対は、国家の利益に反するし、デモや集会も、国家の秩序を乱す行為と断ぜられる。
 つまり国民の自由は限りなく制限され、報道表現の自由も保障されない。そんな世の中が、目の前に迫っているのだ。とてものんきにズッコケを書いている気になれないというのが、作者の本音なのだ。
 しかしながら自民党政権の横暴を許したのは、だれでもない国民なのである。圧倒的多数の議席を許したのは選挙民なのだ。
 もちろん国民は、最初から安保法制制定を望んで自民公明に票を入れたわけではない。今の景気をなんとかしてほしい、ほとんどそれだけの理由で投票したのではないか。
 ちなみに先の選挙では、憲法改定は公約に入れていたが、安保法制については一言も述べられていなかったと記憶している。ただ憲法改定、とくに第9条の改定には国民の支持が得られないとわかり、急きょ第9条を骨抜きにする法案を閣議決定したまでのことだろう。これなら衆参両院での3分の2の賛成がなくても、ごく普通の法案なみに処理できるからだ。かくして両院での審議が始まったわけだが、審議の過程で次々と瑕疵が指摘され、閣僚の答弁も二転三転する始末だし、多くの法律専門家から、本法案は憲法違反と指弾されるに及んで、世論も沸騰した。
 これは政権にとっては予想外だったに違いない。しかしながら、いかにデモ隊が国会を取り巻いても、世論調査で反対が多数をしめても、国会は議席の数が最優先されるのだ。
 作者は1942年広島市で生まれ、3歳のとき被爆した。あの日のことはいまだに記憶しているし、物心ついたとき、父親から、日本は二度と戦争をしないし、自由平等の世の中になると聞かされた。
 しかし、それもつかの間、小学2年のとき、朝鮮戦争がはじまり、警察予備隊が創設され、保安隊、自衛隊と名を変えながらいつのまにか世界有数の戦力を有する国になってしまった。
 軍隊を持たないはずの日本に、なぜあのような武装勢力が存在するのか。子ども心にも、なんとも不思議で、友人たちとそのことを議論したものである。
 60年安保は、高校生のときだった。当時の高校はかなり自由で、教師に交渉し、授業の代わりにクラスで安保問題について討論することも可能だった。また、それが許されるほど、安保改定に対する国民の関心が高かったのである。
 しかしながら、これも国会で批准されたとたん、国民の関心は、池田内閣による所得倍増政策のほうに移ってしまった。
 現在、私がいちばん危惧するのは、日本人の忘れっぽさである。
 つい70年前、もう戦争は絶対しない。他国の民も殺さないし、同朋も一人も殺させないと誓ったはずの日本が、いつのまにやら戦争をする国になってしまったのだ。
 国民の大多数が、安保法制に不信感を持っていることは確かだし、安倍政権への不安も抱いているのは確かだ。ただ、それがいつまで続くかということだ。かつての60年安保や70年安保闘争同様、条約批准と共に忘れ去られたのと同様、今回も国会通過と共に国民の関心が遠のくのではないだろうか。
 せめて、来年の参議院選挙まで忘れないでほしい。そして安保法制に賛成した議員たちをすべて落選に追い込んでほしい。それが日本を戦前に戻さないための第一歩なのだ。
 

◆那須正幹(なす まさもと)さんのプロフィール

1942年広島市に生まれる。島根農科大学卒業後、児童文学の創作に入る。著作に「ズッコケ三人組」シリーズ、『絵で読む広島の原爆』『折り鶴の子どもたち』「ヒロシマ」三部作など。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]