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日本はシリア難民にどう向き合うのか

2015年11月23日



石川えりさん(認定NPO法人 難民支援協会 代表理事) 

 2人に1人が住みなれた土地を離れ避難している。これは、第二次世界大戦以降最悪といわれる内戦でシリア人が置かれている現状である。内戦直後、多くの人が逃れた周辺国では、受入れが限界以上に達している。
 最も避難民が滞在しているのはシリア国内で約760万人、また次いで周辺国に420万人以上が滞在している。
 当初は周辺国に滞在し故郷へ戻る日に望みをつないでいた人たちも、内戦が激化し望みが薄れるにつれ、命をかけて海を渡り、欧州、それもより希望が持てる国で「難民」になろうとしている。しかし、「難民」となるにも命がけの状況が続いている。国際移住機構(IOM)によると、すでに今年だけで3477人が地中海にて命を落としたと言われている※1
 IOMによると欧州へは今年すでに80万5千人が流入したとされる※2 。またシリア難民に限れば今年ドイツにはすでに24万人を超える人が到達した。駐日ドイツ大使のハンス・カール・フォン・ヴェアテルン博士は2015年9月18日に日本記者クラブで行われた記者会見において、以下のようにのべている。ドイツの駅で、到着したシリア難民を多くの人が歓迎したことについて、「最も驚いたのはドイツ人自身だったのではないか」と述べた。大使は加えて、「ドイツ人は歴史的な責任を感じ、戦後の大量難民受け入れの経験を忘れまいとしている」「戦後70年、平和と繁栄の下で暮らすドイツも欧州も、難民に支援の手を差し伸べる責任がある。豊かな国全て責任を負っている」と語った※3 。同様に豊かな国」である日本にとっても重い指摘であると考えられないか。もちろん、日が経つにつれ、増え続ける難民の数にドイツ人が不安に思う声や戸惑いも聞こえてくる。極右勢力による難民や難民の宿泊施設への攻撃も報じられているが、メルケル首相は排外主義に対して断固たる措置をとると明言している。加えてEU諸国でも難民を受け入れる責任を分担するように働きかけている。11月12日にベイルートで、13日にはパリにて同時多発テロが起き、多くの尊い命が失われている。原稿を執筆している11月20日現在、実行犯に関する詳細な情報は得られていないが、すでに特定の宗教や、国、また難民自身に対して疑いを向けるような雰囲気が醸成されている。フランスは11月18日にオランド大統領が会合にて、2年間で3万人のシリア難民を受け入れる意思を表明している。
 シリアから遠く離れたアメリカでは3万5千人を上限※4 に、カナダでも10月の選挙による政権交代後2万5千人を、オーストラリアでも1万人を超えるシリア難民の受入れを表明している。これらの国々が表明しているのは、受入れ国自ら国外へ手を差し伸べて受け入れる第三国定住の形態だ。難民の出身国でも、直接避難する隣国ではない、「第三国」が受け入れる仕組みで、難民受入れによる責任を分担する仕組みとして世界28カ国で実施されている。通常は政府が受入れの中心となるが、カナダなど民間団体が受入れ主体となり実施するプログラムを持つ国もある。国連の難民支援組織である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はこのシリア危機において、あらゆる形での難民受入れを提唱しており、留学生、企業での受入れ等も提案されている。すでに30カ国で13万人を超える受入れが表明されている。
 このような世界の動きに対して日本はこのままでよいのか?これまでの消極姿勢から一歩踏み出し、周辺国等に滞在するシリア難民を相当数受け入れることを提案したい。これは日本にとって初めてのことではない。70年代後半、いわゆるボートピープルと言われたインドシナ難民を1万人以上受け入れた。81年の難民条約加入後は、日本に逃れてきた難民を数は少ないが受け入れ、2010年からは難民キャンプ等から受け入れる第三国定住をアジアで初めて開始した。翌年には難民保護を進める旨の国会決議が全会一致でなされ、日本国内における難民受入れのさらなる充実がうたわれている。
 日本に自力で逃れたシリア人を難民として認定し、保護することも大切だ。内戦開始後、9月までに日本政府へ対して難民としての保護を求める申請をしたシリア人は63人、うち難民として認定されたのは1家族3人のみである。難民不認定となった人全員も日本への滞在を認められているが、例えば日本政府による定住支援は受けられない等、「保護」の中身は乏しい。また、難民認定される方が不認定よりも多くの時間を要しているという課題もある。認定されたシリア難民は平均半年程度とされる一次段階での審査に1年半を要した。とりわけ最初の半年間就労が認められなかったことで家族が非常に困窮したと語っている。認定される難民ほど審査に時間がかかるという課題、その間のセーフティーネットが非常に乏しいという課題は改めて喫緊の課題であることを指摘したい。
 シリアから遠く離れ、そして直行便もない日本へ自力でたどり着く難民は決して多くはない。ただ、日本に滞在するシリア人は増え続けている。法務省の統計によるとシリア内戦開始前の2010年に188人であった在日シリア人の数は今年の6月には429人となっている※5 。とりわけ、「特定活動・その他」という在留資格を得ているシリア人は内戦前の4人から137人となっている。「特定活動・その他」には難民申請中、難民申請が不認定だった場合に人道的に付与される在留資格が想定されるが、これまでに難民申請している63人よりも多い数となる。よって、それ以上に日本政府が実務の上で在留資格を多くのシリア人に付与していることが分かる。これは二つの見方ができる。一つは日本政府が日本に滞在するシリア人に広く人道的に対応しているということである。もう一方は、難民申請をしても、しなくても同じ在留資格を付与するということにより難民申請をすることの意味を低くしようという見方だ。ただ、支援団体としては在留資格の付与に加えて、定住のための支援等「保護」の施策がより求められると考えており、この点の施策の深化に大いに期待したい。
 「難民」というとずっと支援が必要というイメージがあるかもしれないが、それは誤りだ。新たな土地で生きるために必要な支援を受けた後は、成人であれば働き、納税し、社会の中で自立していく人たちである。例えば、イランからのある難民は日本の切削工具を扱う会社に就職し、同社として初めての海外展開となる台湾企業との商談をまとめている。難民の採用を通じた取り組みが、経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」として表彰された企業もある。難民がもたらす多様性を日本社会の力にかえる途があるのではないか。
 難民支援協会で支援した難民の多くは、日本が安全であることに心からの賛辞をくれる。自由に発言できる、警察を見ても全力で逃げなくてよい。そんな声を聞く度に、私自身日本がいかに平和であるかに気づかされ、それが実は世界の様々な国々では当然でないことを実感させられる。
 シリア難民の解決にあたって、難民流出の根を止める取り組み、国内避難民や周辺国に留まる難民への支援は重要だ。しかし、明日停戦が実現したとしても、荒廃した故郷に戻ることができるまでには最低数年を要する。その間、安全な国が受け入れることも不可欠だ。結果として、一時的な避難ではなく、第二の祖国として逃れた先で生きていくことを選択する人もいるだろう。国連は様々な形での受け入れを呼びかけている。
 日本でも、難民に安全や安心を提供することはできないだろうか。日本と地続きの課題として、国際社会の一員という視点をもって取り組んでいきたい。

※1 MISSING MIGRANTS PROJECT より http://missingmigrants.iom.int/ (2015年11月13日閲覧)
※2 同上
※3 日本記者クラブ 会見レポート2015年9月18日  13:00〜 14:00 駐日大使 ハンス・カール・フォン・ヴェアテルン http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2015/09/r00031795/(2015年11月13日閲覧)
※4 アメリカは下院にて
※5 在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表 より http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html(2015年11月13日閲覧)

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◆石川えり(いしかわ えり)さんのプロフィール

1976年生まれ。上智大学卒。1994年のルワンダにおける内戦を機に難民問題への関心を深め、大学在学中、JAR立ち上げに参加。大学卒業後、企業勤務を経て2001年より難民支援協会(JAR)に入職。直後よりアフガニスタン難民への支援を担当、日本初の難民認定関連法改正に携わり、クルド難民国連大学前座り込み・同難民退去強制の際にも関係者間の調整を行った。2008年1月より事務局長となり2度の産休をはさみながら活動。現在は特に支援事業部(難民への個別支援を担当)等を統括。2014年12月に代表理事就任。第5回日中韓次世代リーダーズフォーラム、第2回日韓未来対話にそれぞれ市民セクターより参加。共著として、『支援者のための難民保護講座』(現代人文社)、『外国人法とローヤリング』(学陽書房)、『難民・強制移動研究のフロンティア』(現代人文社)ほか。二児の母。




 
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