法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

「LGBT」、「同性婚」はすべての人にかかわる大切な人権の問題

2015年12月7日



上杉崇子さん(弁護士)

1「LGBT」、「同性婚」ってどういうこと?

 2015年は「LGBT」、「同性婚」という言葉が飛躍的に使われるようになった年でした。「LGBT」とは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体の性別と性自認の間に違和感のある人)の頭文字をとった言葉であり、性指向及び性自認における少数者を表します。
 2015年、国際的にはアメリカ全土で同性婚を保障するとしたアメリカ最高裁判決が出されたこと、国内的には東京都渋谷区及び世田谷区で同性カップルのパートナシップを地方自治体として承認する手続(手続の内容はそれぞれの区で異なります)が整備されたことが大きなニュースとしてありました。
とはいえ、「最近『LGBT』や『同性婚』をよく見かけるけど、いったいどういう問題なの?」と思っている人も少なくないようです。
 以下では、特に同性愛、同性婚に焦点を当て、憲法的に考えてみます。

2 同性愛は異性愛と同等の愛のかたち

 同性愛者は、どの時代、どの地域でも一定数を占める存在であり、何ら異常ではないという認識が、先進国を中心とした国々で確立されています。同性愛と異性愛は性指向(好きになる人の性別)の区別です。性指向は性的な趣味とは全く異なる概念であり、異性を好きになるのが「趣味」ではないのと同様に、同性を好きになるのも「趣味」では決してありません。同性愛と異性愛は、性指向のバリエーションの中の違いに過ぎず、どちらも愛のかたちとして同等です。
 しかしながら、同性愛者は長い間世界中で偏見ゆえの過酷な差別にさらされてきました。現在でも主にアフリカや中東で深刻な差別が継続しています。
こうした差別を解消すべく、国連は、2011年に「人権と性的指向と性別自認」の決議を採択しLGBTに対する差別に重大な懸念を表明しています。この決議には日本政府も賛同しています。

3 日本には同性愛に対する差別や偏見はない?

 日本国内では、同性愛差別はない、同性愛に寛容だという意見もときどき耳にしますが、果たしてそうなのでしょうか。
 2015年の電通ダイバーシティ・ラボの調査では7.6%が「LGBT」を自認するという結果が出ており、この結果を参考に、同性愛者の割合を人口の5%程度と仮定すると、20人に1人が同性愛者といえます。この数字は、学校のクラスや職場にほぼ必ず同性愛者がいることを示すものです。
 それなのに、今まで同性愛者の知人友人はいない、と言う人が多いのが実情です。
 それはどうしてかといえば、多くの同性愛者が自分の性指向を隠して生きているからです。
 「隠さずにはっきり言えばいいじゃない」と思う人もいるかもしれません。
しかしそう簡単なことではないのです。多くの人は、同性愛についてのポジティブで肯定的な情報にまったく接することなく育ち、生活をしている場合がほとんどです。生活のあらゆる場面は「異性愛中心」であり、テレビを見れば、ドラマや芸能人・有名人の情報は男女カップル前提、また、小説、漫画、映画といった娯楽も一部を除けば男女カップル前提、学校や職場での会話も然り。家庭では、両親の多くは異性愛者で、早く結婚しなさいとプレッシャーを受ける・・・
 一方、日常生活ではしばしば、同性愛を、からかいや侮辱あるいは嫌悪の対象とする発言が飛び交っています。例えば、「仕草が女っぽくてホモみたいで気持ち悪い」、「あの2人仲がいいけどレズじゃないの」、「同性から恋愛対象とされたら気持ち悪い」、「あの人いい歳して結婚してないけどまさかホモだったりして(笑)」などなど。
 さらに、社会や経済の仕組みもやはり「異性愛中心」です。日本の法律で同性愛を想定しているものは皆無です。結婚をはじめとして国が提供する様々な制度を同性愛者は利用することができません。民間サービスもまだまだ同性愛者を念頭においているものは少ないでしょう。
結局、同性愛者は現状、社会制度や経済上、異性愛者と同じ社会生活を送れないのは確かであり、その上に笑いや嫌悪の対象になってしまう・・・このようなネガティブな情報と環境の中で生きていれば、自らの性指向を肯定的に捉えるのは難しく、同性愛者としてカミングアウトして生きるのを諦めてしまうのはやむをえないことです。

 「人権」とは、個人がありのままの存在として尊重され、安心して社会生活を送ることができる権利を意味します。社会制度から無視され、社会意識では侮辱や嫌悪の対象とされることは、同性愛者を異性愛者と同等の「人権」の持ち主と認めないことであり、憲法で保障されている「個人の尊重」、「幸福追求権」が同性愛者には実質的に保障されていないということに他なりません。そして、このような不当な扱いは、同性愛を理由とするものであり憲法が禁止する不合理な差別そのものです。
 このように日本社会にも、同性愛差別、同性愛者に対する人権侵害は確かにあるのです。

4 同性愛者の人権を守るには

 社会制度と社会意識の両面から、同性愛差別解消の取り組みをする必要があります。
 社会制度については「結婚」が大きなトピックです。性指向は、人を好きになること→カップルとなることに関する事柄であり、その延長として男女カップルの多くが望み・望まれ、結婚をします。カップルの幸福追求あるいは自己決定の実現として、「結婚」はとても重要な自由といえます(結婚をしないという自由も含めてです)。ところが、同性愛と異性愛は愛のかたちとして同等なのにもかかわらず、同性どうしの結婚は認められていません。
 ここで、結婚は子を産み育てるための制度であるから、機能的に子を作れない同性どうしの結婚は認められない、との意見も若干耳にします。しかし、子を作ることは法律上結婚の要件になっていません。例えば、子を作る能力があっても子を作らない夫婦、病気や体質等の事情で子を作ることが元来的にできない夫婦、子を作ることを予定していない高齢者の結婚や獄中婚なども認められています。さらに、性同一性障害特例法により性別変更した人は、身体機能的に異性と子を作ることができませんが、結婚できます。
 このように、子を作る・作らない(作れない)は、結婚の可否に無関係なのです。
 したがって、同性どうしの結婚が保障されていないのは、不合理な差別として憲法に違反します。これについては、2015年7月、455人が申立人となり日弁連に対し人権救済申立をしたという動きがあります。

 他方、社会意識における差別解消の努力としては、前述したような日常生活で何気なく同性愛を笑いものにする言動にNOという態度を示すことが重要ではないでしょうか。同性愛は異性愛と同じ性指向のバリエーションである、という意識改革が必要です。

5 最後に

 同性愛・異性愛は、好きになる人が同性か異性かというだけの違いです。あなたが異性愛だとしても、あなたの友人あるいは子・孫が同性愛であることは当然にあることです。「LGBT」は性指向及び性自認において少数者を表す言葉ですが、多数者と少数者を分断するものであってはなりません。そうではなく、性の領域における「多様性」を掲げるものなのです。異性愛も同性愛も性の多様性の一部です。その意味で、「LGBT」はすべての人に関わる人権の問題だと捉えることが大切と思います。

◆上杉崇子(うえすぎ たかこ)さんのプロフィール

東京弁護士会所属
弁護士会の活動として、「セクシュアル・マイノリティ電話法律相談(03−3581−5515)」、弁護士を対象としたLGBTに関する研修、市民向けのLGBTに関する公開学習会等を継続的に企画・運営している。
また、LGBT支援法律家ネットワーク有志として、2015年7月、日弁連(日本弁護士連合会)に対して同性婚に関する人権救済申立を行った。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]