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18歳選挙権導入と教育の課題

2016年1月11日



安達三子男さん(全国民主主義教育研究会事務局長)

18歳選挙権と学校

 「学校に政治的なものをもちこめば中立が失われ、偏向教育になる」。「高校生は政治に口をだしてはならない」。これらの声が、未成年者の政治参加を奪ってきました。が、2016年、18歳の高校生を含む若者が選挙権を行使し、国政選挙で投票をします。主権者教育に携ってきた一人として一歩前進したと思っています。
 国会は、昨年6月、選挙権年齢を18歳に引き下げる改正公職選挙法を全会一致で成立させました。その理由は、「日本国憲法の改正手続きに関する法律の附則による」もので、改憲の国民投票とセットです。しかし、18歳から選挙権を行使して政治参加が実現したことは大きな意味をもちます。選挙権年齢の引き下げは、25歳を今の20歳に引き下げて以来70年ぶりで、約240万人の有権者増となります。この改正により、18歳以上の高校在学生も投票権をもち、国政・地方選挙での選挙権、最高裁判所裁判官の国民審査権、各種の住民投票や憲法改正の国民投票にも参加します。
 公職選挙法改正にともない、文科省では、高校に在籍する生徒が選挙権を行使することになるため、その対応にとりくんできました。ここでは、総務省・文科省の発行した生徒用副読本『私たちが拓く日本の未来 有権者として認められる力を身に付けるために』(生徒用、教職員用)と、文科省が発した「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)」を述べます。

生徒に配布する副読本、教師用指導資料について

 副読本は、政治について「間接民主主義の原則にもとづいて・・・代表者を選択する」「国家、社会の秩序を維持し、その統合をはかる」と述べています。そして、多くの記述は選挙制度に関することです。生徒は初めて選挙に参加するのですから、主権者として歓迎し、社会に迎え入れることが教育的配慮しては不可欠ですが、そうした視点が乏しいことは残念です。そもそも、生徒の副読本には有権者という語は使用されていますが、主権者とは述べていません。国際的にもようやく先進国と同じ舞台にたつことになった18歳からの選挙権について、生徒の人権が広がり、未成年者でも主権者として政治参加ができるようになったことをどのように考えているのか、そして、その考えは、副読本のなかにどのように反映されているのか、本音を知りたいと思います。副読本の指導資料には、@現実の具体的政治事象を取り扱うことによる政治的教養の育成、A違法な選挙運動をおこなうことがないように
選挙制度を理解し、授業実践として、「話し合い、ディベート、模擬選挙、模擬請願、模擬議会」が示されています。それらについても全て公職選挙法との関係が記載され、授業実践も制限をうけて学校現場では、萎縮状態になってしまいます。また、副読本の教師用資料では「政治的中立の確保に関する留意点」として、教育基本法14条により、政治的教養の教育であっても多くの「違反行為」を指摘しています。これでは、現実の政治状況、政党の政策、教師の意見、異なる立場を授業で具体化することは不可能で、「危ない」となれば、政治制度だけになってしまいます。少し厳しく考えていると思われるかも知れませんが、教室の授業展開の一言一句まで問われる事態のなかでは、18歳選挙権の行使を前提とした政治教育をどのようにできるのか疑問だらけです。

文科省通知と生徒の政治活動について

 文科省は、18歳選挙権について、学校は生徒を教育する公の施設であることや、校長は学校の設置目的を達成するために生徒を規律する包括的権限があるので、生徒の政治活動は校長の制約をうけるとしました。また、それに加え、教育基本法第14条の2項に基づき、政治的中立のために構内での政治活動は禁止することが必要であるとしています。一見、もっともらしく読めますが、これは、構内での政治活動、選挙運動は認めないということです。18歳になった生徒の選挙権は、保護者であっても指図できない当人の基本的人権で、不可侵の権利として認められたものです。生徒は自らの生活空間で政治活動、選挙運動に参画する権利を得たのですから、これを制限(禁止)することはできません。ここでは、生徒の政治活動・選挙運動と、教育基本法14条2項を同一視していますが、「学校として禁止」を、生徒の人権として保障されることを同様にあつかうことは人権侵害です。選挙に関する指導は必要かもしれませんが、それは、思想や選択の自由を奪わないものであるべきです。生徒は成長の場である学校空間のなかで、選挙権を得た当事者としての権利行使をします。それを大人社会が見守り、育てることが教育行政や学校の役割です。また、今回の通知では、放課後や休日などに構外で生徒がおこなう選挙運動や政治的活動を認めたものの「必要かつ合理的な範囲で制限又は禁止することを含め、適切に指導する」と述べたことをうけ、生徒の構外での政治活動について届出させることを決めた教育委員会が存在することが伝えられています(毎日新聞2015年12月21日)。これは、指導という名の思想調査であり人権侵害ですから厳に慎むべきです。
 全国民主主義教育研究会(略称 全民研)は、生徒に主権者としての政治教育をすすめる取り組みをしてきました。今回の18歳選挙権の導入をうけ、全民研の研究・実践を生かした書籍『18歳からの選挙Q&A』を発行しています。今年、7月予定の参議院選挙では、高校に在籍する18歳主権者が多様な学びを通じ、自分で判断した一票を投じて政治の風景を変えてほしいと思います。

◆安達三子男(あだち みつお)さんのプロフィール

全国民主主義教育研究会事務局長
1948年生まれ 67歳
元都立高校教諭(社会科・公民)
2014年3月退職




 
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