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最大判平成27年12月16日—再婚禁止期間違憲訴訟

2016年1月25日



作花知志さん(弁護士)

再婚禁止期間違憲訴訟は,民法733条1項が女性にのみ課している6箇月(180日)の再婚禁止期間(以下「再婚禁止期間」といいます。)が,性別による差別を規定した憲法14条1項,さらには婚姻についての両性の平等を定めた憲法24条2項に違反しないのか,さらには民法733条1項が憲法に違反するとした場合,同規定を改正しない国会の立法不作為は国家賠償法上違法ではないのかが問われた裁判につき,最高裁大法廷で平成27年12月16日に,「再婚禁止期間の内,100日を超える部分は憲法違反である」とする判決が言い渡されました。

この最高裁大法廷による違憲判決が導き出されるまでの過程は,まるで私の好きな3つの言葉そのものに導かれるようなものだったのです。

最初の言葉は,アメリカ連邦最高裁判所で初めて黒人として判事となったサーグッド・マーシャル裁判官(1908−1993)の言葉です。

マーシャル裁判官は,1987年にハワイのマウイ島で行われたアメリカ合衆国憲法制定200周年記念シンポジュウムでスピーチを行い,次のような趣旨の発言をされたのです。

「200年前の古ぼけた紙に,活字として書かれた憲法そのものが称賛に値するわけではない。その活字にすぎない憲法に,より良い意味を与えようと,命をかけて奮闘された方々の活動の軌跡こそが,称賛に値するのである。そのような意味を込めて私は,生きている文書としての憲法の200周年をお祝いしたいと思います。」

私が,原告の女性からこの事件の依頼をされた際に,まず考えたのが,「憲法判例がある。変更はできるのか。」ということでした。

再婚禁止期間が憲法に違反しないのか,さらにはその規定を改正しない国会の立法不作為が国家賠償法上違法ではないのかの問題については,すでに最高裁判所第三小法廷平成7年12月5日判決(以下「最高裁平成7年判決」といいます。)が先例として存在していたのです。最高裁平成7年判決は,「民法733条の立法趣旨は,父性の推定の重複を回避し,父子関係をめぐる紛争を未然に防ぐことにあるから,国会が同条を改廃しないことが憲法の一義的な文言に違反しているとはいえず,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。」と判示していました。

では,最高裁平成7年判決が存在しているから提訴しても無駄なのか,と申すと,私は決してそのようには思わなかったのです。なぜならば,判例は決して法ではなく,それ自体に拘束力がある存在ではないからです(判例は法ではなく,紙に書かれた活字である憲法に与えられた意味にすぎないのです。)。

今回の最高裁大法廷での違憲判決は,その判例である最高裁平成7年判決を変更するものでした。マーシャル裁判官が言われた,憲法は生きている文書であり,時代に相応しい意味を与え続けなければならないのだ,という言葉が,そのまま発現されたかのような判決だったと考えています。

2番目の言葉は,フランスの作家サン・テクジュペリさんの作品『星の王子さま』からのものです。『星の王子さま』では,「本当に大切なものは,目には見えないんだ。」という言葉が登場するのです。

法律家として仕事をしているとよく思うことがあります。それは,憲法や法律を制定したり,保持すること自体が,社会の目的ではないのだ,ということです。

憲法や法律はあくまでも手段にすぎない存在です。ではそれは何のための手段か,と申しますと,それは正義と公平という社会の目的を実現するための手段なのです。

憲法や法律は,制定された時代において,最も正義かつ公平な形で制定されます。でも,それが時代を経ると,社会の正義観や公平観が変化し,それと憲法や法律との間に齟齬が生まれてくるのです。

でも,ここが興味深いところですが,その社会の目的である正義や公平とは,決して目には見えない存在です。それは,感じることしかできないのです。

法律家の役割とは,今現在の社会が求める正義・公平を感じて,それを紙に書かれた活字である憲法や法律に意味として与えていくのです。それが「法の解釈」です。

今回の最高裁大法廷の違憲判決には,再婚禁止期間が制定された1898年(明治31年)当時には,父子関係を確定する医療技術や科学技術が乏しかったために,再婚禁止期間に幅をもたせて6カ月とされていたところが,その後21世紀の現代では,医療技術や科学技術,特にDNA鑑定の飛躍的発達によって,そのような幅を持たせる必要がなくなったことが大きく影響しています。技術の発達が,19世紀には正義・公平とされた規定に違う意味を与えたことになるのです。

第3の言葉は,アメリカ連邦最高裁判所で現在長官をされている,ジョン・ロバーツさん(1955−)が,長官就任時に行ったスピーチで言われた言葉です。次のものです。

「私が法律家としての活動で,一番感銘を受けたことは,弁護士としてアメリカ合衆国を被告とした訴訟の原告代理人を務めた時のことであった。アメリカは,その有する武力では世界中のいかなる国をも屈服させることができる国である。しかしながら,裁判所で,法を根拠として,論理を重ねることで,そのアメリカの立法上,行政上の過誤を追求すると,世界一の武力を誇る国が,単なる一私人に負けるのである。」

今回の最高裁大法廷の違憲判決が出された訴訟は,原告1人,訴訟代理人弁護士1人の二人三脚で岡山地裁から最高裁大法廷まで行ってきました。その意味では,たった1人の市民が,国を相手に法律の改正を求めた訴訟です。一見無謀に思われた方もいらっしゃるかもしれません。でも,たった1人の市民でも,裁判所で論理と証拠を積み重ねることで,国を変えることができるのです。それが法の支配であります。今回の最高裁大法廷判決は,まさにその法の支配の理念そのものが発現されたものだったように感じています。

◆作花知志(さっか ともし)さんのプロフィール

最終学歴:東京大学大学院
2002年(平成14年)司法試験合格
2004年(平成16年)弁護士登録
2012年(平成24年)作花法律事務所開設 現在に至る
所属委員会:日弁連国際人権問題委員会など




 
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