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TPP交渉差止・違憲訴訟について

2016年2月29日



田井 勝さん(弁護士)

1 はじめに
 環太平洋経済連携協定(TPP)は、日本国を含む参加12か国間で二国間協議や首席交渉官会合が続けられ、本年2月4日、ニュージーランド北部オークランドにおいて協定署名がなされました。今後は、各国の議会での承認手続きとなり、その後に成立(妥結)になる可能性があります。
 TPPは、国の主権を損ない、国民の知る権利や、健康・生命、幸福に生きる権利、営業の自由等々を侵害します。
 私たちは、この国民の暮らしの仕組みを根本から覆すTPP交渉の差止・違憲確認を求めて、「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」を発足させ、国を相手として2015年5月15日に東京地方裁判所に提訴、現在も係争中です(原告数は1582名)。
 本稿においては、このTPPの問題点や訴訟の中身などについてお伝えします。

2 TPPについて
(1)「暮らしの仕組み」「いのちの仕組み」について
 2006年にシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリ4か国による多国間経済連携協定(EPA)として発足したTPPは、2009年11月の米国参加で一変して拡大し、現在は日本を含む12か国が参加しています。
 交渉分野は21分野。その内、関税(輸入品にかかる税金)に関連する分野は3つだけで、あとは全て「非関税」と呼ばれ、経済に関する制度や取り決めに関する分野が盛り込まれています。この「非関税」とされる分野については輸入品に関する数量制限・課徴金や輸入時の検査・手続き制度に始まって、農林水産物など国内産品保護のための助成金・補助金制度、食の安全・安心の仕組みに関する基準や制度、公的医療保険制度、保険・医療サービス制度、労働環境制度、公共事業入札制度、投資に関する制度など、国民の生活に直結した「暮らしの仕組み」「いのちの仕組み」に関するものばかりです。
(2)日本語訳の公表について
 TPPの交渉の中身については、昨年10月に大筋合意とされるまで、ほとんどの情報が公表されませんでした。私たちが国に対して情報公開請求を行っても、ほとんどの資料が黒塗りとされており、マスメディアを通じた断片的な情報でしか知ることができませんでした。
 また、大筋合意の後、英語、スペイン語、フランス語での条文案は公開されたものの、交渉12か国中第2位の貿易国にある我が国の日本語訳は出されず、政府は「TPP交渉結果の概要」なるものをホームページに掲載するのみでした。
 その後、野党議員や運動体等々から反発を受け、政府はようやく本年1月7日になって、「暫定仮訳」として日本語訳を発表し、その後、2月の協定署名に併せた日本語訳も公表されました。もっとも付属文書のすべてはまだ公表されていません。またこの和訳の中に、政府の都合のいいように誤訳された箇所も複数見つかっています。
(3)合意されたとする内容について
 日本語訳された内容を前提に、明らかになっている事項の一部を紹介していきます。
ア 農産物市場アクセス(関税)
 TPPは、あらゆる農産物を特別扱いすることなく、除外を設けることもなく、一切の物品を関税撤廃の対象とされています。日本においても関税のほとんどが撤廃され、いわゆる「重要5品目」(コメ、麦、牛豚肉、乳製品、砂糖)についても無傷のものはありません。また、7年後に見直し協議も予定されています。
イ 投資(ISDS条項)
 ISDS条項とは、投資協定に関する、受け入れ国政府の措置によって損害を被った外国投資家に対して、受け入れ国を国際的な第三者機関(仲裁裁判所)に訴えることを可能にする条項、つまり、投資家が自分の投資の利益を求めるためだけに、国の法制度が不当として訴えることができる制度です。
 TPPにおいて、この条項に基づいて投資家が訴えることのできる範囲は極めて広範です。かつて、韓国がアメリカの間で結んだ「韓米FTA」に盛り込まれたISDS条項よりも範囲が広がっています。
 あくまでも予測ですが、例えば、日本における労働者への残業代支払制度のために、アメリカの投資家が「自分が投資している企業の株があがらない」、などと言って、日本国を訴えることも想定されます。仮にこの訴えが認められれば当然、日本の残業代制度は崩壊するし、また訴えられずとも、この様な訴えを恐れ、日本政府が様々な法制度を緩和していくおそれは否定できません。
ウ 医療分野
 医療分野では、製薬業界が利害関係者として医薬品等の価格の決定に参与することが要求されています。これはアメリカ流のルールですが、日本にもこれが組み込まれれば、当然薬価の高騰が懸念されます。
 また、ジェネリック薬品の製造についても、アメリカ製薬業界の利益のため、制限がかかるようになることが予定されています。
エ 食の安全
 食の安全については、遺伝子組み換え食品に関する問題があります。
 商品アクセスの章において、現代のバイオテクノロジーによる農産物、魚、魚製品について、貿易を促進することが求められています。また、別の章(SPS(植物衛生検疫))では、日本が科学的に健康を害することが証明できなければ、輸入を止められなくなっています。わが国における遺伝子組み換え食品の表示規制ができなくなることも定められています。大変危険な内容です。

3 裁判について
 このようなTPPの交渉及び妥結を差し止めるべく、前述のとおり、TPPが我が国の憲法21条(知る権利)、22条(営業の自由)、25条(生存権)、13条(幸福追求権)等に違反しているとして、TPP交渉の差し止めと、違憲確認、及び国賠請求(一人1万円)の訴えを起こし、現在、東京地方裁判所17民事部で国相手に訴訟しております。
 原告は、活動家や大学教授、医療従事者から、食の安全に悩む消費者、高額医療を不安視する患者さん、仕事を失ってしまうかも知れない農業従事者(農家)の方など、様々です。全国各地から原告が集まり、毎回の弁論期日にも大勢の原告・支援者が訪れ、東京地裁の101号法廷の傍聴席は満員となっています。
 交渉は概ね終了したため、今後はTPP「妥結」の差し止めと請求の趣旨を変更してたたかっていくことになります。また、協定文が公開されたため、今後はこの協定文の内容を精査して、憲法違反であることについてさらに訴える予定です。
 この弁護団は元農林水産大臣の山田正彦弁護士や岩月浩二弁護士が中心となっているが、党派や思想の違い等を超え、全国から若手・ベテランと大勢の弁護士が集まって、奮闘しています。

4 最後に
 TPPについては、あまりにも私たち国民の利益を侵害する内容が多く盛り込まれています。
 そして今回の交渉の過程において、日本はいわゆる「国益」をほとんど守れていません。
 しかし、このTPPの恐ろしさは世論にあまり伝わっておらず、それどころか、このTPP協定が我が国の利益になるとの報道も相次ぎ、各新聞の世論調査では、TPPについて、過半数の方が「賛成」との意見になっています。
 本年1月に甘利大臣が辞任する際にも、「彼はTPP交渉の立役者。辞任するのは惜しい」という声も多く聞かれました。甘利大臣がこのTPP交渉において、日本のために、どのように奮闘したのか、本当のところは全く明らかになっていないにもかかわらずです。
 もっともっと、この問題を訴えていく必要があります。 

〜最後にお知らせです〜
 TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会のホームページがあります。第3次提訴に向けて原告を募っており、このホームページを通じて原告に参加することが出来ます。ご参加をお待ちしています。

◆田井 勝(たい まさる)さんのプロフィール

1975年、香川県高松市生まれ。2007年弁護士登録(横浜弁護士会)。横浜合同法律事務所に所属。TPP差し止め弁護団の他に、日産自動車期間工・派遣切り事件弁護団、首都圏建設アスベスト弁護団等に参加。




 
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