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民主主義運動としての落選運動 〜 その意義と課題 〜

2016年3月28日



上脇博之さん(神戸学院大学法学部教授)

安保関連法=戦争法を廃止する運動
 昨年(2015年)主権者国民は、憲法違反の安保関連法案=戦争法案の成立に対し、国会前だけではなく全国各地で反対する運動を行い続けてきました。それを無視して、安倍政権与党(自民党・公明)は、国会で、その採決を強行しました。同法案は9月19日未明に成立し、同月30日に公布されました(施行は今月(2016年3月)29日)。
 しかし、主権者は決して諦めることなく、強行採決への抗議行動、さらには戦争法廃止運動を行い続けています。この運動は、国会を"戦争法を廃止する国会"へと変える国民運動へと発展しており、国政選挙での野党共闘を要求しています。
 日本共産党の志位和夫委員長は法案成立直後(昨年9月19日午後)に「戦争法廃止で一致する政党・団体・個人が共同して国民連合政府をつくろう」「『戦争法廃止の国民連合政府』で一致する野党が、国政選挙で選挙協力を行おう」と提案しました。前者の「国民連合政府」については、まだ野党の足並みが揃っていませんが、後者の"参議院選挙の事実上の1人区での統一候補の実現"については、今年2月23日、野党5党で協議が行われ「参議院の1人区の問題を最優先してやっていこうということで一致し」、"1人区"の協力体制を早急に作るため、各党が参加する"連携協議会"を立ち上げることになりました。
 この選挙準備は極めて重要ですし、「べからず選挙法」の公職選挙法のもとでも、それは可能です。しかし、事前運動が禁止されているため、選挙運動そのものは国政選挙が公示されるまではできません。
 そこで重要になる運動は、冒頭で紹介した主権者の抗議行動、戦争法廃止運動です。国政選挙の争点は従来、政府与党が都合の良いように設定してきましたが、それに対抗して、主権者が争点を設定するためには、抗議行動、戦争法廃止運動を継続する必要があります。
 その運動の一つとして"落選運動"があります。主権者の抗議行動・運動の中には、「安保関法案の成立に賛成した議員」を次の選挙で落選させようと呼びかける発言が多数ありました。

落選運動は選挙運動ではない
 国民の中には、「『落選運動』は、特定の者を落選させることを目指しているので選挙運動であるから、選挙期間前の事前運動を禁止している公職選挙法の下では選挙期間中しか行えない」と思っている人々もあるようです。
 しかし、これは誤解です。選挙の事前運動は、国民主権でなかった戦前から禁止されていましたが、その戦前の裁判所(大審院)の判例(衆議院議員選挙法違反被告事件・大審院1930年9月23日)によると、選挙運動とは、一定の議員選挙につき一定の議員候補を当選させようと投票を得る、もしくは得させる直接または間接に必要かつ有利な諸行為をすることであると広く解するとしても、単に「議員候補者の当選を得させない目的」だけで選挙に関して行う行為は選挙運動と解することはできない、と判示されていました。
 要するに、落選運動は、「特定の候補者」の「落選」を「目的」としており、「特定の候補者の当選を目的」としてはいないし、「特定の候補者」に「投票を得または得させるための行為」とは言えないから、選挙運動ではないのです。したがって、「落選運動」は選挙期間前の今から開始しても、公選法で禁止されている事前運動には該当しないのです。

選挙期間中の落選運動の自由と制限
 立候補者の顔ぶれと人数が確定するのは「選挙の期日の公示又は告示があった日」ですから、厳密な意味での落選運動とは、選挙期間中に入ってからの運動になります。
 公職選挙法は、インターネット等の利用を認め、それによる、「選挙運動」(第142条の6)と「当選を得させないための活動」(第142条の5=落選運動)とを明確に区分し、選挙期間中の落選運動を認め、一定の規制をしています。
 より正確に言えば、第142条の5第1項では、「選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、ウェブサイト等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者」は、「その者の電子メールアドレス等が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければならない」と定めています。
 また、同条第2項では、「選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、電子メールを利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、当該文書図画にその者の電子メールアドレス及び氏名又は名称を正しく表示しなければならない」と定めています。
 また、公職選挙法は「政党その他の政治団体等の選挙における政治活動」に対し、街頭政談演説の開催、ビラの頒布、連呼行為など態様や効果の点で「選挙運動と紛らわしいもの」を禁止しています(第14章の3)。
 ただし、「個人の行う政治活動」は、規制の対象外であり、個人の活動として行われる限り、全く自由です。また、団体で「政治活動を単に一時的な行為として行っただけのもの」は、政治活動の規制を受ける「政治活動を行う団体」ではないと理解されています。
 さらに、「特定の候補者」について言及せずに、一般的な政治的発言・論評をすることは、公選法の規制の対象外であり、誰でも自由に行えます(落選運動の法的解説の詳細は、上脇博之『追及!民主主義の蹂躙者たち』日本機関紙出版センター・2016年を参照)。

「落選運動を支援する会」の結成
 落選運動は、政治活動ですから民主主義運動です。落選運動は選挙期間に入る前から主権者国民に戦争法廃止を国政選挙に争点にするよう訴えることができます。したがって、選挙の事前運動が禁止される中で、落選運動・支援運動は重要な民主主義運動になる可能性を有しているのです。
 落選運動は幾通りかのやり方が考えられますが、抽象的なレベルにとどまらない具体的な運動が必要です。その先陣を切った具体的な落選運動は、私も参加した「安保関連法賛成議員の落選運動を支援する弁護士・研究者の会」(略称「落選運動を支援する会」)の結成(2015年11月24日)でしょう。
 同会は、「特定の候補者の当選を目的」とする選挙運動は一切行いません。市民団体「政治資金オンブズマン」が追及してきた「政治とカネ」問題の分析力を活用して、安保関連法に賛成した個々の議員の政治資金問題を追及する形で落選運動を展開します。「落選運動を支援する会」のHPでは、同会への賛同のお願いを書いた「呼びかけ」を行い、落選運動の法的根拠を解説した「落選運動と選挙運動について」をアップしました。また、今年7月の通常選挙における「選挙区」毎に「参議院議員の落選対象議員の収支報告書一覧」をアップし、政治資金収支報告書を分析したことのない方々のために「国会議員の政治団体の検索方法の一例」も紹介しました。衆参同日選挙も予想されているので、大臣や衆議院議員の政治資金収支報告書も対象に具体的な検討を進め始めました。

「政治とカネ」問題の追及
 私たちが落選運動の対象第1号にしたのは、現在大臣である島尻安伊子参議院議員でした。島尻氏には、沖縄県選挙区内の者にカレンダーを無償料配布し、それを自身が代表を務める政党支部の政治資金収支報告書に記載していなかった問題と、島尻氏がその政党支部に合計1050万円を貸付けていたのに、それが消えてしまった問題がありました。
 そこで「政治資金オンブズマン」共同代表である私を含む全国の研究者30名は、島尻大臣らを公職選挙法違反・政治資金規正法違反の容疑で刑事告発するために、11月24日に代理人(弁護士)を通じて告発状を那覇地検に送付しました。マスコミも報道しました。
 今年に入り、自民党の参議院議員を政治資金規正法違反等で刑事告発するために、1月21日に松村祥史議員(熊本)、2月2日に末松信介議員(兵庫)、2月26日に松本哲郎議員(鹿児島)、3月3日に猪口邦子議員(千葉)、3月14日に中西祐介議員(徳島・高知)と中原八一議員(新潟)、3月15日に青木一彦議員(島根・鳥取)の各告発状を各検察に送付しました。これらの告発は、各地で報道されました。
 今後は衆議院議員も刑事告発する予定で、その第1号として、大臣を辞任した甘利明議員を斡旋利得処罰法違反と政治資金規正法違反で刑事告発するために告発状は近日中に送付する予定です。
 また、刑事告発に至らない問題でも公開質問を行うなどして追及して行きます。

落選運動の課題
 私たちの手法による落選運動が成功するかどうかは、私たちが政治資金問題の分析に基づき追及をどこまで行えるのか、そして各選挙区での住民が私たちの追及を利用して落選運動を強力に展開するかどうか、これが"決めて"になるでしょう。
 私たちが告発した参議院議員の地元の住民から、落選運動をしたいということで、「落選運動を支援する会」に法的相談が寄せられ始めており、助言しています。ただ、その相談はまだまだ多くありません。
 私たちは今後も最大限努力し続けますが、落選運動の手法は、「政治とカネ」問題の追及に限定されません。戦争法に賛成した個々の議員の問題はほかにもあるはずです。その問題も追及する多様な落選運動が全国各選挙区で立ちあげられ、独自の運動を活発に展開されることを切望し期待しています。

◆上脇 博之(かみわき ひろし)プロフィール

神戸学院大学法学部教授・憲法学

1958年7月生まれ。鹿児島県姶良郡隼人町(現「霧島市隼人町」)出身。
1984年3月、関西大学法学部卒業
1991年3月、神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得退学
1991年4月〜1993年3月、日本学術振興会特別研究員(PD)
1994年4月、北九州大学法学部・専任講師(赴任)
1995年4月、同大学同学部・助教授
(2001年4月、北九州市立大学法学部・助教授[大学の名称変更])
2002年4月、北九州市立大学法学部・教授
2004年4月〜 神戸学院大学大学院実務法学研究科・教授
2015年4月〜 現在

学位
博士(法学) 2000年2月 神戸大学

市民運動
政治資金オンブズマン共同代表
兵庫県憲法会議幹事(事務局長)
「安保関連法賛成議員の落選運動を支援する・弁護士・研究者の会」(略称 落選運動を支援する会)共同代表

単書
(1)『政党国家論と憲法学 —
「政党の憲法上の地位」論と政党助成』信山社・1999年[北九州大学法政叢書17]。
(2)『政党助成法の憲法問題』日本評論社・1999年。
(3)『政党国家論と国民代表論の憲法問題』日本評論社・2005年[神戸学院大学法学研究叢書14]。
(4)『ゼロからわかる政治とカネ』日本機関紙出版センター・2010年。
(5)『議員定数を削減していいの?』日本機関紙出版センター・2011年、
(6)『なぜ4割の得票で8割の議席なのか いまこそ、小選挙区制の見直しを』日本機関紙出版センター・2013年。
(7)『自民改憲案 vs 日本国憲法 緊迫!9条と96条の危機』日本機関紙出版センター・2013年。
(8)『安倍改憲と「政治改革」 【解釈・立法・96条先行】改憲のカラクリ』日本機関紙出版センター・2013年。
(9)『どう思う?地方議員削減』日本機関紙出版センター・2014年。
(10)『『誰も言わない政党助成金の闇  「政治とカネ」の本質に迫る』日本機関紙出版センター・2014年。
(11)『財界主権国家・ニッポン  買収政治の構図に迫る』日本機関紙出版センター・2014年。
(12)『告発!政治とカネ   政党助成金20年、腐敗の深層』かもがわ出版・2015年。
(13)『追及!民主主義の蹂躙者たち 【戦争法廃止と立憲主義復活のために】』日本機関紙出版センター・2016年。 

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