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本当のイスラームを知ろう

2016年4月4日



下山 茂さん(東京ジャーミイ・出版広報担当)

◆イスラームは「商人の宗教」
 イスラーム生誕の地が、世界史の表舞台に出てくるのは日本よりも早い。7世紀初頭、死火山の谷間にあった聖地メッカは東西を結ぶ交易ルートの上にあった。東南アジアの香料はインド洋(海のシルクロード)を運ばれ、アラビア半島に荷揚げされた。そこからメッカへと運ばれ、メッカから北の地中海世界へとキャラバンで運ばれた。キャラバンは今で言うトラック、メッカはいわば物流のセンターだった。聖典コーランのなかにも、秤をごまかしてはいけないといった商取引の話がたくさん出てくる。日本ではイスラームというと「砂漠の宗教」と呼ばれることがあるが、決して砂漠の遊牧民の宗教ではない。むしろ「商人の宗教」なのである。
 酷暑の昼間をさけてキャラバンは、夜動いた。夜移動して行く上で何より必要なのは明かり。月は明かりとして行路を照らした。そして目的地の方角は星で知った。つまりキャラバンにとって月と星は欠かせぬものだった。だからモスクの装飾やイスラーム諸国の国旗には月と星が出てくる。ちなみに日本の国旗には太陽が描かれている。

◆イスラームの「普遍的教え」とは
 7世紀のアラビア半島には、皮膚の色が黒いがゆえにアフリカから売られてきていた奴隷がたくさんいた。そのころ生まれてまもないイスラーム教の信者は100人に満たなかった。その多くは貧しい若者たちだった。そんな時代に預言者ムハンマドは一人の奴隷を解放する。ビラールという解放奴隷は若い信者たちと横一列となって礼拝に立った。これは皮膚の色(人種)、民族、貧富の差を超えて神の前に「人間は平等」というイスラーム教の教えを礼拝という形で表現したものだ。この普遍的な教えは風土や文化を超えて世界に広まり、イスラームという宗教は多くの人びとの心をとらえていった。

◆イスラームは「アジアの隣人」
 アラビア半島の一角に生まれたイスラームという宗教は、いま世界75カ国に広がり16億人の信者を持つ世界宗教となっている。日本ではアラブの宗教というイメージが強いが、16億の信者の60%はアジアにいる。世界でイスラーム教徒の多い国を上げると、1位はインドネシア、2位パキスタン、以下インド、バングラデシュと続く。東南アジアに区切って宗教別人口を上げると、1位はイスラーム教、2位が仏教、3位がキリスト教となる。イスラームという宗教は、もはやアラブの宗教ではなく「アジアの宗教」、つまり遠い宗教ではなく、イスラーム教徒は身近な「アジアの隣人」なのだ。

◆「歪んだイスラーム」が日本へ
 イスラームという宗教が、なぜ日本人から遠くなったのか。それは明治維新以来、日本が欧米諸国の方だけを向いてきたから。それは選択として悪くないのだが、そのときから日本人はどちらかというと、「非西洋的文明や宗教に無関心」になっていった。その代表的なものがイスラームという宗教であり、イスラーム文明であった。欧米諸国に近づけば近づくほどイスラームは日本人から遠くなっていった。
 皆さんにチューリップはどこの花ですか、と聞くとオランダという答えが  返ってくる。確かにチューリップは、オランダから日本に入ってきた。でも本当はオランダの花ではない。チューリップは16世紀末、トルコからヨーロッパへ紹介されたイスラーム世界の花、それをオランダが品種改良して世界へ売る。イスラームという宗教も西は中国、南はフィリピンまできているのだが日本へは直接上陸していない。そこに明治以降ヨーロッパのバイアス(偏る)のかかったイスラーム観が入ってきた。「コーランか剣か」といった、いわば品種改良された「歪んだイスラーム」が日本に上陸してくる。そういったイスラームのとらえ方は今日までそう大きく変わっていない。

◆イスラームは「テロの宗教ではない」
 そこに加えて、このところメディアを通して、イスラームはあたかもテロの宗教といったイメージが流布されている。メディアは発生した事件を報道するので、一部の過激派の映像ばかり繰り返し流され、結果的にイスラームのネガティブ・キャンペーンとなっている。イスラームは絶対にテロの宗教ではない。
イスラーム教えには、人の生命、財産、尊厳は不可侵であるというものがある。その最も重い生命を無差別に奪うテロは断固として許しては行けない犯罪である。またその罪は犯した人間たちが負うべきであって、イスラーム教徒全体が批難されるべきではない。
 翻ってみれば、イスラーム世界にはいま3つの泥沼がある。アフガニスタン、シリア・イラク・パレスチナである。そのどれもがイスラーム教徒が好戦的で始まったものではない。アフガン紛争は1979年ソ連が戦車で侵攻してきて始まり、イラク・シリアの混迷も2003年のアメリカが始めたイラク戦争から始まり、出口の見えないパレスチナ問題もイギリスの三枚舌を発端としている。そこに共通しているのは大国の覇権主義、自国の国益優先のご都合主義である。中東は20世紀の戦略資源であった石油を産出し、その争奪戦の舞台ともなった。そうした背景から過激な集団が鬼っ子のように生まれてきたのである。

◆イスラームを真っ直ぐ見る
 経済活動や情報のボーダレス化、交通機関の発達によって、世界は今、小さく狭くなってきている。それに伴って異文化は身近なものとなり、多文化共生の時代がはじまろうとしている。21世紀半ばには、イスラーム教はキリスト教を抜いて世界第1位の宗教になるとの、アメリカのシンクタンクの数値もある。経済面においても、ハラールと呼ばれるイスラーム教徒を対象とする手つかずの市場にも熱い視線が向けられつつある。
 国際化時代と言われる現代にあって、私たちは欧米以外の大きな存在であるイスラーム世界にもっと真っ直ぐな目を向け、本当のイスラームを知っていってもらいたい。
                     
東京ジャーミィ・トルコ文化センターのホームページ こちら 

◆下山茂(しもやま しげる)さんのプロフィール

東京ジャーミイ・トルコ文化センター勤務。1949年岡山県生まれ。1969年早稲田大学政治経済学部政治学科入学。在学中、早稲田大学第二次ナイル河全域調査隊の一員としてアフリカのスーダンへ赴く。1年に及ぶ滞在中、ムスリムの村を転々とする。帰国後、出版社の勤務を経てイスラーミックセンター・ジャパンの設立に参画。『アッサラーム(イスラムの総合雑誌)』『イスラーム入門シリーズ(礼拝・喜捨・断食・巡礼他)』『ワクフ——その伝統と作品』『ムスリムの考え方を知る』などイスラム関連図書の編集・出版に携わる。

<法学館憲法研究所事務局から>
東京ジャーミイのジェミル・アヤズさんにも、以前当サイトで「日本にいるイスラームの人々」を語ってくださいました。


 
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