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主権者教育の課題と高校生の政治活動について

2016年4月25日



宮下与兵衛さん(首都大学東京特任教授) 

はじめに
 日本では憲法改正国民投票の思惑もあったとはいえ、ようやく18歳選挙権が実現しました。
これに合わせて、1969年の高校生の政治活動を禁止し、政治教育を規制した文部省通達が廃止され、高校生の政治活動を限定的に容認する新たな通知が出されました。
 1972年の衆議院選挙の投票率は全体で71.7%、20歳代も61.9%でした。それが、2014年の衆議院選挙では全体が52.7%、20歳代は32.6%に激減しています。投票率は世界的にも、とりわけ新自由主義改革をすすめた国で低下していますが、日本の若者の投票率は世界で最低レベルです。1969年からの47年間、つまり現在62歳以下の国民は学校教育で政治教育を受けていなくて、政治活動も禁止されていたために、「政治的教養の貧困な有権者が生み出されてきた」(全国高等学校PTA連合会佐野会長の文科省への意見書)ということなのです。

1 日本と世界の高校生の政治的権利保障の違い
 1968年は世界の若者がベトナム戦争反対と国内の改革を求めて立ち上がった年です。その政治的行動に対して、日本政府と欧米の政府がとった若者政策は全く反対のものになりました。日本の文部省が高校生の政治活動を禁止したのに対し、世界的には子どもたちの学校運営や教育行政への参加を制度化し、また政治活動を認めました。
 フランスでは、その若者たちの「5月革命」に対して、保守派のド・ゴール大統領は中学生から大学生まで生徒の意見表明権と学校運営への決定権をもった参加(「学校管理委員会」「懲罰委員会」「成績会議」への代表参加)、政治的権利(集会・結社の自由)と行政への参加(中央教育審議会にも生徒代表が参加)を認めました。
 しかし、1990年には、学校は生徒の権利をきちんと保障していないとして高校生による全国集会・デモが繰り広げられ、政府は高校生たちが要求した学校への予算増額(900億円)を決定し、そして完全な権利保障を学校に実施させました。以後、高校生による全国各地の集会が開かれ、要求を全国代表が文部大臣に提出し、教員増、教育予算増を勝ち取っています。また、国立大学の授業料有償化提案には全国的な高校生・大学生によるデモが行われて阻止してきて、現在も学費は無償で、登録料が年額2万5千円ほどです。
 ドイツでも、1973年に「学校における生徒の位置づけについて」を常設文部大臣会議で決議して、学校と生徒との関係にあった「特別権力関係」(日本はドイツからこの特別権力関係論を輸入して、それを根拠に一般の法律にはない校則のようなルールをつくれるようにしました)を廃止して、「学校関係」(生徒も一般市民の法律と同じルールとする)に転換しました。そして、各州が「学校参加法」を定め、小学5年生から学校の最高決議機関である「学校会議」に代表を出して学校運営をしていくようにしました。
 ヨーロッパ各国には高校生の全国組織(例えば、フランスには高校生全国同盟などの3つの団体がある)があり、ヨーロッパ生徒連合組織(22ヵ国の高校生組織が加盟)に加盟しています。
 制度化された学校運営への生徒参加はヨーロッパ諸国だけでなく、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでも実施されていて、主権者教育、シティズンシップ教育の中心になっています。
 ユネスコは、子どもたちに3つの参加「学校運営への参加、社会・行政への参加、授業への参加(参加型授業)」を保障するように世界の教師に呼びかけてきました※1
 また国連は子どもの権利条約を1989年に採択し、日本では1994年5月22日に発効させました。この条約で、子どもの「表現・情報の自由」(第13条)、「思想・良心・宗教の自由」(第14条)、「結社・集会の自由」(第15条)が子どもの権利として認められました。そして、国連子どもの権利委員会は、日本では、子どもに関することを決める時に、「学校その他の施設において、方針を決定するための会議、委員会その他の会合に、子どもが継続的かつ全面的に参加すること」を保障していないとして、「確保すること」と勧告をしてきています※2

2 今回の文科省の通知について
 今回の文科省通知で今までと大きく変わった点は、高校生の構外における政治活動を容認したことです。しかし、構内での政治的活動はほとんど禁止されており、その根拠は教育基本法第14条2項の「特定の政党を支持し、またはこれに反対するための政治教育その他の政治的活動をしてはならない」としています。しかし、これは教師に要請されているものであり、生徒に要請しているものではありません。また、「校長は在学する生徒を規律する包括的な権能を有するとされている」から生徒の活動を制約できるとしていますが、憲法で保障されている「集会、結社及び言論、表現の自由」(21条)という自由権は制約できないというのが憲法の人権原理です。憲法のテキストで最も権威ある芦部信喜氏の『憲法 第六版』では、日本国憲法の「主権が国民に存することを宣言し」の国民とは、「有権者」と「全国民」の両方を指す、としています。したがって、18歳未満の子どもたちも主権者なのであり、主権者としての権利、子どもの権利条約の子どもの権利は保障されなくてはならないのです。ここには、特別権力関係論あるいは部分社会論が根強く反映されています。
 また、文科省の「Q&A集」では、構外の政治活動や選挙活動についても、「学校への届け出制にするのは可能か」について、「届け出たものの個人的な政治的信条の是非を問うようなものにならないようにすることなど配慮」すれば「各学校で適切に判断する」ことができるとしました。愛媛県ではすべての県立高校で校則を改定し、届け出制を義務化しました。届け出制にすると、届出用紙にどの政党の集会、どんなデモに参加するなど書いて提出することになり、学校は生徒の政治的信条を把握してしまい、「思想・信条の自由」「集会・結社・表現の自由」の侵害になりかねません。また警察から情報提供を求められた時、拒否してその個人情報を守ることができるのでしょうか。そして、生徒が進路のことなどを考えて届け出ずに参加した場合、学校は校則違反で処分するのでしょうか。処分されて保護者が裁判に訴えたら、憲法裁判になりますが、学校はその覚悟が持てるのでしょうか。
 また、文科省の説明会では、「生徒会がエアコン設置などを議会に請願することはいけない。するなら有志で行うべき。」と述べています。子どもたちにも請願権があり、今までも、長野県などで高校の統廃合計画に対して生徒会が署名を集めて請願や陳情をしてきています。1950年代に高校生徒会連合が各県にできて、すばらしい活動をしましたが、1960年に文部省は禁止しました。今回この禁止通知は廃止せず、生徒会の活動については厳しく制限しています。
 教師に対しても今までのように規制中心の内容になっています。授業における政治的教育については、「具体的な政治的事象も取り扱う」「権利行使できるよう具体的かつ実践的な指導を行う」としたことは、今まで「政治的中立」ということで扱いにくかったことであり、実践の可能性は広がったといえます。しかし、文科省は教師が授業中に自分の意見を言うことは「控えてほしい」と説明しています。教員が自分の思想や宗教や支持政党を生徒に教化(教え込み)することは誤りですが、ヨーロッパでは教え込みでなければ、教員の意見も根拠を示して述べることは、むしろ教育方法として取り入れられています。
 今回の文科省の通知は総務省の研究会報告の内容からも大きく後退した規制中心のものです。全国高等学校PTA連合会(佐野元彦会長)は文科省に意見書を提出し、さらに文科省のヒヤリングでも提起してきたのは、「高校生の政治活動制限に関する新たな規制や法的措置は不要であると考える」「学校の教員についても、現行の法制以上に新たな規制法令を用意することは教員の指導意欲をそぐとともに、指導内容の貧困を招く」という規制に反対するものでした。
 こうした報告や意見書も尊重されずに規制中心の内容になったのは、2015年7月8日に自民党が出した「選挙権年齢の引き下げに伴う学校教育の混乱を防ぐための提言」で「学校における政治的中立性の徹底的な確立」を強く求めたからといえるでしょう。

3 すべての子どもに主権者教育を
 文科省の通知も補助教材も投票率の低い若者をいかにして選挙に行かせるかという「有権者教育」の内容のものです。ですから、日本の学校で子どもに教えられていない子どもの権利条約(意見表明権など)についても、デモなどの主権者の政治的権利についても全く触れられていません。いくら選挙動員のための教育をしても、主権者の権利を教えないのでは権利主体としての主権者は育ちません。私は今回、子どもたちが学校運営に参加して学校の主権者として育ち、地域活動に参加して地域の主権者に育っていく長野県辰野高校などの実践を紹介した『高校生の参加と共同による主権者教育』(かもがわ出版)を出版しました。18歳選挙権実現を契機に、学校と地域ですべての子どもに主権者教育をすすめていきましょう。

 

※1 1973年ユネスコ「中等教育についての勧告」、1994年ユネスコ「国際教育会議」文書など
※2 日本政府への国連子どもの権利委員会の「第2回最終所見」(2004年)、「第3回最終所見」(2010年)

◆宮下与兵衛(みやした よへえ)さんのプロフィール

首都大学東京・特任教授、元長野県の高校教諭
著書 『高校生の参加と共同による主権者教育』『学校を変える生徒たち』(いずれも、かもがわ出版)
編著 『地域を変える高校生たち』(かもがわ出版)『高校生が追う戦争の真相』(教育史料出版会)
共著 『高校生からの「憲法改正問題」入門』『18歳からの政治選択』(いずれも平和文化)など



















 
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