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沖縄の民衆の怒りと祈りの争訟〜辺野古新基地建設問題に寄せて

2016年6月20日



白藤博行さん(専修大学法学部教授)

沖縄の民衆の怒りと祈りの争訟
 いま、沖縄県知事・翁長雄志氏は、辺野古新基地建設をめぐって、「戦う民意」を支えに「行動する知事」として、果敢に国に抗っています。この沖縄県が直面している辺野古新基地建設をめぐる争訟は、日本国憲法のもとにありながら、基本的人権の保障を制限され続ける沖縄県民の怒りの争訟であり、沖縄県民の平和への祈りの争訟であると私は思います。法的な言い方をすれば、沖縄県の自治権保障争訟であり、沖縄県民の人権保障争訟であると私は確信しています。

それは、翁長知事の埋立承認取消処分から始まりました!
 前史はいろいろありますが、この争訟は、直接的には、翁長知事による公有水面埋立法上の埋立承認取消処分から始まりました。この埋立承認取消処分というのは、普天間基地の県外移設の公約を掲げて選挙されたはずの前知事・仲井眞弘多氏が、突然に行った防衛省沖縄防衛局の名護市の辺野古沖埋立事業の承認を取り消したものです。埋立承認を取り消されてしまっては、国は埋立工事を進める法的根拠を失ってしまいます。さあ大変ということで、防衛省沖縄防衛局は、翁長知事の埋立承認取消処分は違法だから取り消してくださいという審査請求と、同時に、埋立承認取消処分の法的効果を直ちに停止してくださいという執行停止の申立てを、行政不服審査法に基づいて行いました。これを受けて、公有水面埋立法の所管大臣である国土交通大臣は、審査庁として、とても迅速に執行停止決定を行いました(審査請求の裁決は行っていません)。この結果、埋立承認取消処分の法的効果が停止されましたので、国はさっそく工事を再開しました。

びっくり!の沖縄防衛局の「国民なりすまし審査請求」と「名ばかり審査庁」の国土交通大臣の執行停止決定
 ここで、すでに大きな問題があります。行政不服審法は、本来、違法あるいは不当(違法ではないが公益違反)な行政権(公権力)の行使から、国民の権利利益を救済したり、行政の適正な運営を確保したりするための法律です。防衛省沖縄防衛局は、こともあろうにこの法律を使って、国民になりすまして審査請求と執行停止申立を行ったのです。公有水面埋立法は、一般国民や地方公共団体の埋立事業についての「埋立免許」制度と、公有水面の「所有者」である国の埋立事業については「埋立承認」制度とを区別して、いろいろと異なる規定を置いています。公有水面埋立法上の埋立事業を行う国の法的地位は、一般国民や地方公共団体が容易に立つことができない特別な法的立場(専門的には、これは「固有の地位」と言います。)であるとしか解釈しようがありません。このような立場にある防衛省沖縄防衛局が、埋立事業を行うことができる資格を付与されるという意味では、免許も承認も同じであり、その承認が取り消されたのだから、国民と同じように行政不服審査上の不服申立人適格を有すると主張するので、びっくりです。しかも、本来であれば、国土交通大臣が、不服申立人適格なしとして却下すべきところでしょうが、却下するどころか、すぐに執行停止決定を行い、審査請求については慎重に審議するという理由でほったらかしでした。二度びっくりです。これでは、国民の権利利益の簡易・迅速な救済法としての行政不服審査法を、あたかも防衛省沖縄防衛局救済法(行政機関救済法)にしてしまうではありませんか。

もっとびっくり!の国土交通大臣の代執行訴訟
 執行停止決定によって簡易・迅速な沖縄防衛局の「権限」救済を図ってしまった国土交通大臣ですが、今度は、審査請求において埋立承認取消処分の違法・不当の裁決も出せないまま(あるいは意図的に出さないまま)、地方自治法第245条8の代執行等関与の手続を開始したので、またまたびっくりです。代執行とは、翁長知事が自分で埋立承認取消処分を取り消さなければ、国土交通大臣が代わりに取り消しますという行為のことです。代執行等関与とは、「勧告」、「指示」および「代執行訴訟」からなっています。最後の代執行訴訟の要件は、「都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつて、その是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」となっています。そこで、国土交通大臣は、翁長知事の埋立承認取消処分が法令違反であることを理由に、代執行等関与手続を開始したのです。
 これって、みなさんは、どう思われるでしょうか。一方で国民になりすました防衛省沖縄防衛局の審査請求については、違法かどうか判断がつかないとしながら、他方、代執行訴訟手続においては、違法であると断定して、国の関与権限を行使しているのです。行政不服審査法上の審査庁としての国土交通大臣と地方自治法上の代執行等関与の関与主体としての国土交通大臣とは行政組織法上は別の機関であるというように強弁することもできるでしょうが、いかにも恣意的な解釈です。国は、防衛省沖縄防衛局を「国民」として審査請求を行うというのであれば、一貫してその主張を通せばいいでしょう。ところが国は、翁長知事の埋立承認取消処分を根こそぎ失くしてしまうことを目的として、地方自治法上の最も強力な国の関与方式である代執行等関与を使ってきたのです。あるときは私人、あるときは公権力の行使主体として、辺野古新基地建設に向けての国のなりふり構わぬ姿が浮かび上がってきます。

1999年地方自治法改正の意義を理解していなかった代執行訴訟は違法!
 国は、憲法が保障する地方自治を形骸化してきた機関委任事務を廃止し、国の関与を法定化し、国・自治体間の紛争処理を法制化した1999年地方自治法改正の意義を全く理解していなかったようです。地方自治法は、地方公共団体に対する国の関与の類型を限定列挙し、それらの国の関与の基本原則、なかでも国の関与の最小限原則など明文で定めました。これらの規定と地方自治法第245条の8の要件規定を読み合わせれば、代執行等関与は、代執行に代わるより緩やかな関与(法定受託事務については、「是正の指示」(第245条の7など)を行ってもなお是正が行われないときの最後の最後の手段として位置づけられています。少なくとも今回のような「是正の指示」を行わないままの代執行等関与は、違法な関与というほかありません。
 この代執行訴訟は、2016年3月4日、突然の和解が成立したことにより、判決まで至りませんでした。しかし、同裁判の和解勧告文では、「現在は、沖縄対日本政府という対立の構図になっている。それは、その原因についてどちらがいい悪いという問題以前に、そうなってはいけないという意味で双方ともに反省すべきである。なかんずく、平成11年地方自治法改正は、国と地方公共団体が、それぞれ独立の行政主体として役割を分担し、対等・協力の関係となることが期待されたものである。このことは法定受託事務の処理において特に求められるものである。同改正の精神にも反する状況になっている。」といった正しい指摘がされており、代執行制度に対する国の無理解への戒めと読めます。代執行訴訟における和解は、実質的にみて、沖縄県が勝訴、国が敗訴といっても過言ではありません。

代執行訴訟和解後の国と沖縄県の動き
 代執行訴訟の和解条項によれば、国は、「是正の指示」から関与のやり直しをできるということですが、私は、「円満解決に向けた協議」が、裁判所の和解勧告文の一番大事なところだったと解したいと、いまでも思っています。ところが国は、和解成立の3日後(土・日曜日を挟んでいるので、実質1日)、「是正の指示」を行っています。しかも、「是正の指示」を焦るあまりでしょうか、「是正の指示」の理由を示さないまま出すという地方自治法違反までおかしてしまい、「是正の指示」をやり直すといった信じられないミスをしています。その間、おもむろに両者の協議を始めるといった具合です。「円満解決に向けた協議」から連想するのは、普通は、握手から始まる話し合いではないでしょうか。いきなり、権力的な国の関与である「是正の指示」で始まり、普天間基地の移設先は「辺野古が唯一」という主張を変えないということでは、とても「円満解決」とはいきません。片手にハンマーをもって襲いかかりながら、もう片手で握手を求めても、人はとうてい動きません。
 さて、このようなかたくなな国の態度は、沖縄県が国地方係争処理委員会へ「審査の申出」を行うことを余儀なくさせました。これも和解条項に書かれているとおりなのですが、今後、もし沖縄県が不服を持つような「審査の申出」の審査結果が出れば、裁判所に訴えの提起ということになります。

国地方係争処理委員会における審査経過とその存在意義
 国地方係争処理委員会における審査経過に関係する資料は、沖縄県知事公室辺野古新基地建設問題対策課HPと総務省・国地方係争処理委員会のHPを参照すれば、国と沖縄県の間で、いったいどのような論争が繰り広げられているかが分かります。関心のある方は、ぜひともご覧ください。翁長知事が、仲井眞前知事が行った埋立承認を取り消したことが違法かどうかにかかわって、ちょっと難しい行政法の議論(職権取消制限の法理や、行政裁量の司法的統制にかかわる「判断過程の瑕疵」論など)が展開されていますが、沖縄県が辺野古新基地建設に関して、どのような思いで向かい合っているかが分かっていただければ、十分ではないかと思います。もし、もう少し辺野古新基地問題について知りたいと思う方がいらっしゃれば、私どもが最近出版した『Q&A 辺野古から問う日本の地方自治』(自治体研究社、2016年)を参照していただければ幸いです。辺野古新基地建設問題は、決して沖縄の自治の問題ではなく、日本の地方自治の問題であり、憲法が保障する地方自治のあり方を問う本質的な問題であるとの思いを全国のみなさんに知っていただきたいとの思いで執筆しています。
 2016年6月21日までには、国地方係争処理委員会の審査の結果が出される予定です。国地方係争処理委員会は、国の関与が憲法の「地方自治の本旨」を実現するものであるか、地方分権改革、その成果の一つである1999年地方自治法改正の趣旨を全うするものであるかなどについて審査するために、地方自治法上設置されたものです。まずは、国地方係争処理委員会の審査結果を注視していただき、その存在意義について確かめていただきたいと思います。

PS. 脱稿後、国地方係争処理委員会が、6月17日、2016年度第8回会議(沖縄県知事からの審査の申出について第9回会議)において、両者の間の「議論を深めるための共通の基盤づくりが不十分なまま、一連の手続が行われてきたことが国と沖縄県との間の紛争の本質的な要因」などと断じ、国土交通大臣の「是正の指示」の適法・違法にについて判断をしないまま、国と沖縄県があらためて「円満解決に向けた協議」(和解条項)を行うことを促す内容の審査の結果をだしたことを知りました。国土交通大臣の「是正の指示」に対する適法・違法を問うた沖縄県からすれば、きちっとした法的決着を望んだところでもありましょうが、普天間基地の移設先を「辺野古が唯一」と固執する国の主張も含めて、両者の「議論の共通の基盤づくりが不十分」であり、問題解決に向けた一層の真摯な協議を不可欠であるとする国地方係争処理委員会の見識がうかがえます。6月21日までには、国と沖縄県の双方に通知が届くようですから、みなさんもぜひ読んでいただきたいと思います。この問題は、沖縄県の自治の問題ではなく、日本の地方自治のあり方にかかわる重要な問題です。

◆白藤博行(しらふじ ひろゆき)さんのプロフィール

専修大学法学部教授・専修大学法学部長、弁護士、自治体問題研究所顧問。行政法学、地方自治法学などが専門。最近の著書は、『アクチュアル地方自治法』(法律文化社、2010年)、『行政法の原理と展開』(法律文化社、2012年)、『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社、2013年)、『3.11と憲法』(日本評論社、2013年)、『民主主義法学と研究者の使命』(日本評論社、2015年)、『Q&A辺野古から問う日本の地方自治』(自治体研究社、2016年)



 



 
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