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熊本地震の復興と私たちの課題

2016年7月4日



津久井 進さん(弁護士)

■災害を我が事として受け止める
 「天災は忘れた頃に来る」
 関東大震災に遭った寺田寅彦(物理学者)が語った言葉とされています。
 でも,この20年ぐらいを振り返ると「災害は忘れる前に来る」と言った方がピンときます。
 東日本大震災の復興はまだまだ道半ば。広島や茨城の土砂水害もつい先日のこと。福島原発事故に至っては,原子力緊急事態宣言が発動されたまま解除されていません。
 そんな時代の文脈の中で熊本地震が起きました。
 日本は地震列島。北海道から沖縄まで,次の自然災害がいつ起きるかわかりません。
 熊本で起きた災害ですが,私たちが第一にわきまえるべきことは,他人事ではなく「我が事」だということです。
 他人事だから簡単に忘れてしまうのです。支援も,救済も,義援金も,寄添いも,制度改善も,防災も,すべて被災者の身になって思考するところからスタートするのです。
 ちなみに,寺田寅彦は,熊本第五高等学校(現・熊本大学)の出身とのこと。寺田が天から私たちに「忘れてはならない」と警句を発しているような気がします。

■熊本地震復興の3つの課題
 熊本地震は,震度7の激震が2度にわたって被災地を襲い,約3か月経った今も余震が続くという前代未聞の被害を受けました。
 災害直後の対応は一段落する時期を迎えていますが,これから長い長い時間を要する復興のプロセスを歩んでいくことになります。
 いま,復興の課題を3つ挙げるとしたら,第1に一人ひとりを大事にする制度改善,第2に地方のプライドの回復,第3に風化という敵との闘い,と私は考えています。
 第2の「地方のプライドの回復」というのは,憲法の用語に置き換えると,住民自治と団体自治の実現ということです。まず,熊本地震の固有の問題点を洗い出して,その解決のために"被災者本位"を旗印に高く掲げること。そして,ていねいに粘り強く住民合意を紡ぎ出して,これを実行する費用を国から引き出し,あとは官・民一体となって地元主導で進めることです。
 このプライド回復のためのプロセスを実現するためには,第3の風化との闘いは欠かせません。風化が進むと潮が引くように支援の波は引いていくでしょう。社会全体の後押しは必要条件。全国の人々に熊本のことを"我が事"と認識してもらう必要があります。その実現手段として,熊本からどんどん情報発信をしていくことが最も有効です。一切遠慮は要りません。風化に抗する特効薬は「言い続ける」努力であり,それが被災地の責任でもあります。

■脱・り災証明
 では,第1に挙げた「一人ひとりを大事にする制度改善」というのはどんなことでしょうか。少し説明を加えておきたいと思います。
 熊本の被災地では,全壊や半壊などを示す「り災証明書」の発行をめぐってトラブルが絶えません。被災者の方々は,少しでも高い認定を得ようと必死です。自治体の側はり災証明の発行が遅れに遅れています。
 なぜそんなふうになるのか。
 それは,半壊だったら被災者生活支援金が出ないとか,仮設住宅に入居できないなど,ほとんどの被災者支援の施策が,り災証明と結び付いているからです。お金等の支給条件である以上,どうしても自治体は間違いをおそれて慎重になるし,切実な期待を寄せる被災者は不利な結果には納得しにくくなるのです。「り災証明絶対主義」の弊害です。
 しかし,よく考えるとおかしな話です。
 というのは,り災証明というのは「住家」の壊れ具合を示すだけ。被災者の受けた被害を正しく表しているわけではありません。
 被災者が,仕事を失ったり,生業の礎を破損した場合,住家ではないから,別の話になります。地盤がやられた場合も,り災証明の枠外です。怪我をしたり,家族が亡くなってしまって心身に深い傷を負うこともあるでしょう。高齢や障害など様々な理由で,破損の程度は軽くても厳しい生活を強いられる人々もいます。遠方に避難して環境が一変して戸惑っている人もいます。同じ世帯であっても,家族それぞれの被害観は違います。
 被害の様相は,一人ひとり違うのです。
 東日本大震災の被災地の現実は,今,それを浮き彫りにしています。
 宮城県石巻市では,5年が経過した今も,床がなくて地面が剥き出し,雨風さえしのげず,トイレも使用不能なボロボロの家屋で寝起きしている高齢者がたくさんいます。「在宅被災者」と呼ばれる方々です。
 在宅被災者の多くは,生存権が保障されていません。不健康で,非文化的で,最低限のレベルさえ下回るような生活を余儀なくされているのです。
 そういった方々が置かれた現状は,り災証明だけで表現することは不可能です。一人ひとりの課題を,個別に捉えることが必要になってきます。
 いま,仙台弁護士会のメンバーの方々が,一人ひとりの在宅被災者の問題解決に取り組んでいるところです。力強い存在です。

■災害ケースマネジメント
 被災者を救う制度はたくさんあります。しかし,一律の支援制度は,被災者のニーズにマッチしないし,結果として無駄も生じます。だから,一人ひとりの抱える課題に応じた支援をするのが,実は最も合理的なのです。
 日弁連は,本年2月,こうした視点から意見書を公表しました。
 そこでは,@被災者生活再建支援員を配置し,A被災者一人ひとりが抱える課題を把握し,Bそれを被災者台帳に書き込み,C一人ひとりに応じた支援計画を立て,D被災者生活再建支援員がケアも含めて計画の実行を見守り,D適宜計画を見直し,Eその人にとっての平時の生活まで戻すことをゴールにする,という「災害ケースマネジメント」を提案しています。
 熊本地震の被災地では,今後は一人ひとりの生活再建が課題になります。
 そのとき,この災害ケースマネジメントの発想で,これからの復興に臨むことが望まれます。
 そして,それを我が事だと思って,力強く後押しするのが,全国の未災地に住む私たちの役割です。そうすれば「天災を忘れる」こともなくなることでしょう。

◆津久井 進(つくい すすむ)さんのプロフィール

 1969年生。1995年弁護士登録(兵庫県弁護士会)
 弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所 代表社員
 弁護士直後から,災害問題について取り組み,今なお継続している。
 現在,日本弁護士連合会災害復興支援委員会委員長。
 一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会共同代表,兵庫県震災復興研究センター共同代表,阪神・淡路まちづくり支援機構事務局次 長など。
 著書「大災害と法」(岩波新書),「Q&A被災者生活再建支援法」 (商事法務),「災害復興とそのミッション 災害と憲法」(共著,ク リエイツかもがわ)「3・11と憲法」(共著,日本評論社)ほか



 



 
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