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「改憲をめぐる言説を読み解くプロジェクト」の緊急出版のお知らせ

2016年7月4日



稲 正樹さん(国際基督教大学元教員)

 7月10日に投票日を迎えている参議院選挙において、憲法改正問題を選挙の争点にしないという意図的な「改憲隠し」が、自公連立政権与党によって行われています。2013年の参議院選挙、2014年の衆議院選挙においての経済政策を前面に押し出した選挙戦、選挙後における特定秘密保護法と安保関連法(戦争法)の強行突破の成功という前例にならい、今回も自公連立政権与党は改憲問題を争点としてはいません。選挙の争点とはしないが、選挙後は国民の信託を受けたという形で、衆参両院の憲法審査会を開始して、超党派による改憲発議のコンセンサス作りに取りかかろうとしています。このような「改憲隠し」という狡猾な手法には、強い怒りを覚えます。国民主権の発動、憲法制定権力の発動にほかならない「憲法改正」問題を党利党略で恣意的に取り扱うという手法は、2013年7月13日の麻生太郎発言を思い出させます。彼は、「ナチス政権下のドイツでは、憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法もいつのまにかナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気が付かないで変わったんだよ。あの手口、学んだらどうかね」と言ったのです。これが現政権の本音でしょう。
 18歳選挙権によって新たに選挙権を獲得した240万人の新有権者をはじめとしたすべての有権者に対して、自民党、公明党、おおさか維新の会、日本の心を大切にする党の「改憲4党」は、各党が実現したいと思っている憲法改正の内容について正確な情報を提供して、国民的判断に託すという、政党としてのまっとうな立場にたつ姿勢を示すべきです。
 自民党「参議院選選挙公約2016」は、改憲問題についてまったく触れていません。しかし、改憲の意欲があることは「政策BANK」の最後から読み取れます。そこには、「わが党は、結党以来、自主憲法の制定を党是に掲げています。憲法改正においては、現行憲法の国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3つの基本原理は堅持します。現在、憲法改正国民投票法が整備され、憲法改正のための国民投票は実施できる状況にありますが、憲法改正には、衆参両院の3分の2以上の賛成及び国民投票による過半数の賛成が必要です。そこで、衆議院・参議院の憲法審査会における議論を進め、各党との連携を図り、あわせて国民の合意形成に努め、憲法改正を目指します。」と書かれています。国民の合意を形成するためには、国民に対して、「これが私たちの目指している憲法改正の内容ですよ。このような内容の憲法改正案を国民の皆さんはどう考えますか」と正面から訴えるのが、民意と国政をつなぐ導管としての政党のあるべき姿ではないでしょうか。
 2012年4月に発表した自民党の「日本国憲法改正草案」は、日本国憲法の3つの基本原理をまったく別のものに改変し、もはや改憲ではなく「壊憲」だと多くの市民によって批判されています。しかしそのようなときに、「現行憲法の基本原理の堅持」という嘘を語っているのです。公明党に関しては、参議院選選挙公約に改憲問題に関する叙述はまったくありません。
 わずかに、「おおさか維新の会」は身近な政策実現のための憲法改正として「教育の無償化、地域主権改革(=道州制の実現を含む統治機構改革)、憲法裁判所の設置」を述べていますが、なぜこの3つが「身近な政策」を実現することになるのか、それ以上の説明はありません。また、「日本の心を大切にする党」は「長い歴史と伝統を持つ日本の国柄と日本人のこころを大切にした、日本人の手による自主憲法の制定を目指す」と選挙公約で述べていますが、そもそも憲法に「国柄」を明記するという基本的な発想が「立憲主義」に反します。このような発想は、憲法によって国家権力を拘束し、国家権力は憲法に従って国政を運営しなければならない原理である「立憲主義」に反するものです。
 この参議院選挙運動の期間中、「憲法」や「改憲」について、どれほどの有権者が深く考え、その意味を考えているのでしょうか。いま日本社会に広がりつつある「改憲」の言説を普通の目で改めて眺めてみると、いろいろな素朴な疑問が出てきました。
 このようなムード的な「改憲」言説の広がりに危機感を覚えた、わたしたち3名の憲法研究者と3名の言語学研究者(石川裕一郎(聖学院大学・憲法学)、稲正樹(元国際基督教大学・憲法学)、神田靖子(元大阪学院大学・言語学)、志田陽子(武蔵野美術大学・憲法学)、名嶋義直(琉球大学・言語学)、野呂香代子(ベルリン自由大学・言語学))は、ともに集まり、「改憲をめぐる言説を読み解くプロジェクト」を結成して、このたび6月29日に『改憲をめぐる素朴なQ & A(改訂版)』というパンフレットを作成・公表しました。サブタイトルは「改憲という空気にながされないために、憲法について考える」です。
 パンフレットの前書きにあるように、私たちは政治とは政治家やマスコミがつくるものではなく、私たち一人ひとりが自分で考え、自分で作り上げるものだと考えています。政治は国会議事堂にあるものではありません。私たちの日々の生活そのものが政治です。政治にかかわる憲法は私たちの生活にもかかわります。
 このパンフレットの初めの2章では、ちまたの人々から聞こえてくる憲法に関する素朴な疑問を集め、Q&Aの形でそれぞれについて500字程度の平易な言葉で回答や解説が書かれています。第1章は、「『憲法改正』論議についての素朴な疑問集」です。第2章は、現行憲法についてよく言われていることや、自民党憲法改正推進本部が改憲の世論を作っていくために作成した『漫画政策パンフレット』の「ほのぼの一家の憲法改正ってなあに?」(PDF)に書かれていることを検証しています。この章では、大きく「現行憲法の成立過程と改憲」と「現行憲法の内容」の2点に絞って、現行憲法の成立過程についての誤解や、自衛隊と軍隊の位置づけ、緊急事態条項などについて、多くのページを費やして述べています。また、第3章では、「自民党改憲草案」についての簡単な解説を載せています。
 このパンフレットは現在、「Stop! 違憲の安保法制 憲法研究者共同ブログ」のサイト(PDF)で紹介してもらっています。このサイト上の「改憲をめぐる素朴なQ&A」と書かれている部分をクリックすれば、ダウンロードすることができます。また、「改憲をめぐる言説を読み解くプロジェクト」のフェイスブックでも拡散中で、1日に2〜3個のQ&Aを投稿し、その合間に「改憲」に関する新聞報道を適宜紹介しています。
 ぜひ、みなさまのダウンロードと閲覧を心よりお願いします。
 このパンフレットをじっくり読んだり勉強会の資料に使ったりして、改憲問題をご自身の中で争点化してほしいと思います。

◆稲正樹(いな まさき)さんのプロフィール

1949年12月生れ。1973年北海道大学法学部卒業。1975年3月北海道大学大学院法学研究科修士課程修了。岩手大学教育学部、亜細亜大学法学部、大宮法科大学院大学、国際基督教大学教養学部の各教授を経て、2016年3月に国際基督教大学客員教授を退職。専攻は憲法、アジア比較憲法論、平和研究。

主な著書等
『アジアの人権と平和』信山社、2006年。
『論点整理と演習・憲法』敬文堂、2006年(石村修と共編)。
『平和憲法の確保と新生』北海道大学出版会、2008年(深瀬忠一、上田勝美、水島朝穂と共編)。
『アジアの憲法入門』日本評論社、2010年(孝忠延夫、國分典子と共編)。
『北東アジアの歴史と記憶』勁草書房、2014年(福岡和哉、寺田麻佑と共訳)。


<法学館憲法研究所事務局から>

稲正樹さんには、以前当サイトで「安保法案=戦争法案の強行採決を迎えて」(2015年9月21日)をご寄稿いただいています。

 



 
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