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過去が 私を追い駆けている 〜終戦記念日に考える

2016年8月15日



池住義憲さん(元立教大学大学院キリスト教学研究科特任教授)

 "過去が 私を追い駆けている" これは、ベルリン在住のロシア人青年が発した一言。昨年(2015年)11月、私はポーランド・オシフェンチム(アウシュヴィッツ)を訪問して、その後、ドイツ・ベルリンへ移動。同市内にある歴史資料館「テロのトポグラフィー」を訪問した。この歴史資料館は、2010年5月に開設。1933年から1945年にわたって、ゲシュタポがドイツやポーランド各地で行った非人道・虐殺行為を歴史事実として展示している。

 その時に私たちの案内ガイドをしてくれたのがベルリン在住のロシア人青年(写真中央)。案内が終わり、ロシア人青年が最後に述べたのがこの一言だった。

 彼は今、ベルリンの歴史資料館でナチス・ドイツが行った残虐行為を案内ガイドとして解き明かして説明している。しかしいつの日か、自国ロシアに戻りたい、と言う。1933年の旧ソ連飢饉政策から始まって第二次世界大戦後の反ユダヤ政策など、スターリン独裁時代に行われた歴史事実解明は、未だ行われていない。彼にとって、過去は、まだ過ぎ去っていない。今も過去が自分追い駆けている、と言う。

 同じことが私たちに言える。明治以降の近代日本は、1875年の江華島事件からアジア太平洋戦争に至るまで、アジア諸国と太平洋地域の植民地化を目的とした侵略の歴史だった。侵略の過程で、日本は言語に絶する非人道的行為を行ってきた。朝鮮半島においては「併合」による植民地支配を行い、半島の人々に多大な犠牲を強いた。

 1895年から1945年までの50年間は、まさに日本が行ったアジア・太平洋地域への植民地支配と侵略の過去(歴史)そのものだった。1932〜1945年の石井四郎731部隊、1937年南京大虐殺、1938年〜1944年重慶/四川省無差別大爆撃、1940〜1943年三光作戦(焼き尽くし・殺し尽くし・奪い尽くし)など、数々の非人道・虐殺行為…。

5月8日と8月15日

 5月8日は、ドイツ降伏の日。8月15日は、日本の終戦記念日。メルケル首相は昨年5月の第二次世界大戦終結とナチスからの解放70年にあたり、ドイツ国民向けにインタヴュー形式のビデオメッセージを発表した。若い世代に歴史を継承しようとの思いを込めて。

 その中で、メルケル首相は「歴史に終止符を打つことはできない。ドイツ人には、ナチス時代に引き起こしたことに注意を怠らず、敏感に対応する特別の責任がある」と述べた。被害国に長く続く痛みと懸念があることは当然であり、だからこそ終止符があってはならない、と言う。

 ナチ犯罪に、時効はない。ドイツがこの原則を確立したのは、1979年。ユダヤ人ら被害者が味わった苦痛や恐怖を考えれば、妥当な法律上の措置だ、との考え方に立っている。現に戦後70年経った昨年8月、当時アウシュヴィッツ収容所のユダヤ人虐殺に関与したとして、94歳の元ナチス親衛隊員に禁錮4年の有罪判決が言い渡された。1979年以降今日まで、約117,000件の捜査を行い、約7,500件を立件している。

 日本の8月15日は、どうか。超党派の議員連盟「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(1981年結成、1997年より現在の名称に変更)は、毎年必ず靖国神社に参拝する。今年4月22日の春季例大祭には、高市早苗総務大臣(当時)と超党派議員約90名が、翌23日には岩城法務大臣(当時)が参拝した。そしてその約1週間後の4月28日、自民党の稲田朋美政調会長(当時)は、自らが会長を務める議員連盟「伝統と創造の会」(2006年2月11日設立)のメンバーらと靖国神社に参拝した。

 安倍晋三首相も、第2次安倍内閣時の2013年12月26日に靖国神社を公式参拝している。それ以降、昇殿参拝は控えているものの、毎年8月15日前後と春季・秋季例大祭に玉串料を靖国神社に奉納している。

 8月3日に発足した第三次安倍再改造内閣では、稲田朋美は防衛大臣に、高市早苗は総務大臣にと、いずれも重要閣僚の座を占めた。安倍再改造内閣の閣僚19人のうち13人は、安倍首相が会長を務める保守系の超党派議員連盟「創生日本」(2012年8月15日設立)のメンバーである。高市総務相は副会長、稲田朋美は事務局長代理。

 アジア・太平洋戦争を「自存自衛の正義の戦い」(聖戦)として美化し、A級戦犯を「英霊」として祀っている靖国神社に内閣総理大臣としてまた閣僚として公式参拝および玉串料を奉納していることを、安倍首相は、「創生日本」のメンバーは、どのように理解しているのであろうか。

過去は 過ぎ去っていない

 歴史事実に正面から向き合い事実解明しない限り、過去は私たちを追い駆ける。正しい歴史認識を持ち、それに基づいた心からの反省と謝罪、賠償が為されなければ、過去は私たちを追い駆け続ける。

 ポーランド南部のナチス強制収容所跡にあるマイダネク博物館副所長は、次のように言っている。
"歴史は人生の師。歴史が伝える事実をそっくり受け止め、その過程を知れば、同じ過ちを繰り返さずに済む"(2015年11月4日)

 なぜ歴史認識が大切か。それは、歴史認識が和解と友好の礎(いしづえ)だから。歴史事実は事実として謙虚に向き合って受け止める。過ちがあれば、心から反省して謝罪する。賠償を完遂する。当たり前のことだ。こうしたことなしに、民族と民族、国と国との真の和解と友好は、ない。(了)

◆池住義憲(いけずみ よしのり)さんのプロフィール

1944年東京都生まれ。大卒後、東京基督教青年会(YMCA)、アジア保健研修所(AHI、愛知県)、国際民衆保健協議会(IPHC、本部ニカラグア)など計36年にわたってNGO活動に従事。自衛隊イラク派兵差止訴訟(2004年2月〜2008年4月)では原告代表として、名古屋高裁で違憲判決を勝ち取る。元立教大学大学院キリスト教学研究科特任教授(2015年3月まで)。愛知県日進市在住。



 



 
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