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労働者派遣法の抜本「改正」と一億総活躍プラン・「同一労働同一賃金」

2016年9月5日



中野麻美さん(弁護士・NPO法人派遣労働ネットワーク理事長)

1 労働者派遣の基本枠組みに大変更を加えた法「改正」
 労働者派遣法は、1986年に施行されてから度々改正され、労働者の権利を充実させてきた反面で、派遣適用対象業務など利用制限を大幅に緩和してきた。労働者派遣、とくに「登録型」労働者派遣では、労働法の規制が及ばない商取引(=労働者派遣契約の期間や料金などの契約条件)によって、労働者の雇用の継続や賃金等労働条件に直接・間接に影響を及ぼすことから、派遣労働者の雇用と労働条件のみならず、受け入れ企業に直接雇用されて働く労働者の雇用と労働条件を買い叩いて「常用代替」を促進させる危険がある。そのため、こうした労働関係を利用する社会的相当性があり(利用=受入制限)、派遣労働者の権利が確保される担保(許可・届出制など)がない限り、労働者派遣を許容しない枠組みとした。常用代替防止を趣旨目的に置いたことから、利用制限の基本的コンセプトは、派遣労働者が処理する職務やその性質(臨時的一時的かどうかなど)が派遣先の常用労働者と競合しないというところにあり、規制枠組みを、客観的な業務と期間の組み合わせによって構築してきた。
 そして、2008年に「派遣切り」や「日雇派遣」問題が浮上して、派遣という働き方の矛盾が噴出したが、これを受けて登録型派遣の原則禁止が法制上の課題となり、究極の不安定雇用である日雇派遣の原則禁止や違法派遣の場合の派遣先の雇用申込みなし制度の導入などの改革を進めてきた。
 今回の法見直しは、民主党政権から自民党・公明党政権への移行という政治のドラスティックな転換が行われるなかで、新自由主義=アベノミクスによる労働規制「改革」として、これまでの制度を抜本的に見直すものとなった。
 規制の枠組みは、業務単位から「人」単位に基本的に変換されることになる。労働者派遣制度の位置づけは「臨時的・一時的」な働き方・利用として位置づけられ、それゆえに、労働者を派遣という形態には固定化させず、雇用安定化をはかることとなった。具体的には、派遣が禁止されている業務以外は、無期雇用派遣(期間の定めのない労働契約で雇用された労働者を派遣する形態)については期間制限なく受入れできるようになった。これに対して有期雇用派遣(期間の定めをおいた労働契約で雇用された労働者を派遣する形態)では、一人の派遣労働者を派遣先の同じ部署(課)で受け入れる期間を3年で制限し、あわせて派遣先の事業所では派遣労働者を受け入れ可能期間を3年として過半数組合・過半数代表者からの意見聴取によって延長できるようになった。そして、派遣労働者の雇用の安定とスキルアップのための事業規制(許可制)が強化されることになった。

2 派遣労働者の雇用の安定化と均等待遇は実現できるのか
 この新しい制度のもとで、業務も期間制限もない無期雇用派遣を拡大させることは間違いないであろうが、無期雇用派遣も商取引を含んだ働き方であることに変わりはないから、派遣先社員と広く競合関係にたったとき、常用代替を促進させないという保証はない。また有期雇用派遣についても、個人単位の規制を回避するために、部課(場合によっては係)を変更すればよいし、事業場単位の規制も過半数組合ないし代表者への意見聴取で足りるから、ほぼ永続的に利用できるようになる。そして、スキルアップや雇用安定化のための措置が、労働者の権利として行使できるのか、一応就業規則等に書き入れるなどして、これを可能にしてはいるが、その効果のほどは未知数である。
 広範囲にわたって派遣先社員と派遣労働者の競合関係が進行することになると、常用代替防止のためには、派遣労働者に対する「同一(価値)労働同一賃金」・均等待遇の確保が不可欠の課題となる。派遣労働者にも同等以上のコストをかけるようにすることが、直用労働者の雇用を守る決め手になる。
 派遣労働者に対する同一労働同一賃金を確保する法案も上程されたが、具体的なルール化は3年後に先送りされた。

3 一億総活躍プランと「同一労働同一賃金」
 安倍内閣の一億総活躍プランが明らかにされたが、そこには、貧困と格差、男女間格差を解消する観点は皆無で、結局は性差別や妊娠・出産・育児介護差別などによる格差を拡大させてしまう。まして、商取引によって賃金や雇用が事実上決まってしまう(登録型)派遣労働者の均等待遇は商取引を規制しなければ実現できないといった一筋縄ではいかない問題など、解決しようがないという代物である。
 そもそも格差の要因は複合的で、性別、年齢、障害、社会的身分、雇用形態、家族的責任、妊娠・出産などによる雇用・待遇格差が賃金に連動している。子どものある男女の賃金格差は、男性100に対して女性は39、同じ派遣でも、男性が多い常用型と女性が多い登録型では賃金格差が大きく、基本賃金のみならず、一時金や雇用を打ち切られたときの賃金保障などの違いが指摘されている。格差を解消するためには、これらのトータルを解決できるものでなければならない。
 しかし、発表されたプランには、差別の禁止の一言もない。そればかりか雇用におけるジェンダー格差・性別分業をベースにした日本型雇用慣行に配慮するとされているので、これでは、格差はかえって拡大してしまう。プランでは、確かに正社員と同じ労働に従事している非正規には同額の賃金を支払うようにするというが、現在のパート法9条(職務・職責及び人材活用の幅が同じパート差別を禁止している)の建て付け(=「同一労働」とは、職務職責や配転の可能性が将来にわたって同じことを意味するものとし、その場合に限ってパートであることを理由とする待遇差を禁止する)を維持するというものである。労働契約法の「有期の定め」を置くことのみを理由として不合理な待遇の定めをしてはならないという20条の建て付けも、前記と同じである。しかし、このような規定それ自体に問題があって、格差の解消=均等待遇の実現を困難にしてきた。こうした枠組みを前提に派遣労働者について「同一労働同一賃金」を確保するといっても、実現可能性はほとんどないといってもよい。

4 どのような制度が求められているのか
 派遣労働者をはじめとして、非正規や女性の低賃金を解消するためには、以下の法制度が不可欠である。

(1) 差別禁止条項
 差別及び不利益取扱い禁止条項を盛り込むILO111号(未批准)・181号(批准)を念頭に、性別のほか、障害や年齢を含めて差別事由とし、間接差別や合理的配慮の欠如も差別概念に盛り込まれることを明らかにする。日本の非正規雇用が、これらの差別を隠蔽する意図によって利用されたり、意図せずとも差別の結果を余儀なくさせる仕組みがあることをふまえ、雇用区分を介して生じる格差についても、差別禁止規定ないし法理の対象となることを明文で明らかにする。派遣労働者についても、派遣されて働くことを理由とする差別や不利益な取り扱い、ハラスメントを禁止する必要がある。

(2) 格差の合理性判断の枠組みと立証責任
 禁止規定のうえに、合理性のある場合(フランスのように「同一(価値)労働を行う労働者間の賃金格差が客観的かつ正当な、検証可能な理由により正当化される場合」のように客観的に規定する)は例外として除外することを法文化したうえ、合理性に関する立証責任は使用者に負担させる。職務の違いが賃金格差の合理的根拠であると主張する使用者は、客観的な職務評価の手法により職務評価の結果が賃金格差に相応するものであることを立証しなければならないとする。

(3) 権利救済条項
 使用者が立証責任を尽くせなかったときには、不利な賃金水準等労働条件の適用を受ける労働契約部分を違法無効として、本来あるべき水準によって労働契約内容が補充される旨の条項を盛り込む。そのうえで補充されるべき基準が使用者の裁量に基づく場合には、当該企業における賃金の分布状況等により適切と考える水準を適用して救済を図る。その場合にも、比較対象者との客観的な職務評価の結果に基づく賃金を請求できるようにする。

 厚生労働省は、まずは何が不合理な取り扱いであるのかガイドラインを示し、労働者派遣制度における規制の在り方を論議するようである。今後の動向が注目される。

NPO法人派遣労働ネットワーク

◆中野麻美(なかの まみ)さんのプロフィール

弁護士。1975年北海道大学法学部卒業。1979年弁護士登録(東京弁護士会)。
NPO法人派遣労働ネットワーク理事長。日本労働弁護団常任幹事。
主な著書として、「派遣法改正で雇用を守る」(共著:旬報社)、「労働ダンピング〜雇用の多様化の果てに」(著書:岩波新書)、「労働者派遣法の解説」(3訂版)(著書:一橋出版)、「最新労働者派遣法Q&A」(編著:旬報社)、「20歳の法ガイド」(第4版)(共著:有斐閣)、「ハラスメント対策全書」(編著:エイデル研究所)、「雇用破綻最前線〜雇い止め・派遣切り・条件切り下げ」(著書:岩波ブックレット)がある。

事務所所在地
〒160‐0004 東京都新宿区四谷4-28-20 パレ・エテルネル1101号室
弁護士法人りべるて・えがりて法律事務所
TEL 03-3359-3133 FAX 03-3359-6233



 



 
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