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情報公開は進んだのか、後退したのか − 権力の民主化を進めるために必要なこと

2016年9月12日



三木由希子さん(特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長)

◇情報公開制度が導入されて間もなく35年
 情報公開法が施行されて、2016年4月で15年たった。日本で最初に情報公開条例が制定されたのは1982年のことだ。情報公開制度というものが日本社会に導入されて、来年で35年になる。情報公開法の制定は、自治体情報公開条例の課題をいくつか解決したものとなり、自治体条例の底上げにもなった。
 この35年で、国や自治体の情報公開の状況は大きく変化してきている。筆者自身が情報公開制度の問題にかかわり始めた1990年代はじめと比較しても、比べられないほど変わっている。情報公開制度に限らず、インターネットの普及と紙媒体の制約を超えた情報提供を行う手段としてのwebの存在など、時代の変化の影響もある。そして、政府や自治体の政策形成プロセスにかかわる層も、かつての利益団体と「御用学者」ともいわれる一部の専門家だけから、分野にもよるが、もう少し幅のある多様化の傾向にはある。
 これらの「変化」は、基本的には前向きの変化だ。問題は、この前向きの変化によって、より良い政府や自治体になっているのか、大きく言えばより良い「権力」になっているのか、ということだ。この問いの答えをあえて言うならば、YesとNoの両方だろう。子育て支援や福祉、環境問題、国際協力など、市民社会や当事者の参加なしにはすでに政策的に意味のあることができなくなっている分野もある。このような分野での市民社会と政府や自治体の関係は、対立構造で固定化されたものではもはやない。社会情勢や世界情勢の変化が、このような関係を後押ししている。

◇相手の土俵に乗ってしまう反対論
 一方で、特定秘密保護法や安全保障法制の制定や、通信傍受法の改正など、権力が独占的に権限を持ち行使し、秘密保持を当然とする分野は、徐々に従来の「当たり前」がそうではなくなりつつある。そして、これらも、社会情勢や世界情勢の変化が、背後にあるとされている。かつては慎重論や反対論が抑止になっていたり、それを押してまで強引に制定を進めることもなかったが、制度化を実現するための選択が上手くされるようになってきていると思われる。
 例えば、筆者は特定秘密保護法に直接かかわる活動をしているので、これについて少し述べてみたい。特定秘密保護法では、東アジア情勢や国際的なテロの状況などの不安定要素と国際協力の必要性、防衛・外交・特定有害活動防止(テロ活動、大量破壊兵器など)、スパイ活動防止と特定秘密の範囲を示す、特定秘密の漏えいは無条件で罰則に対象になるものの、取得する側の罰則の要件をある程度限定するなど、反対するにもより多くの言葉を費やして理由を説明しなければならないような枠組みで、制度化が進められてくる。
 そして重要なことは、特定秘密保護法のような法案を国会に提出すれば、反対する層が確実にいるにもかかわらず、それを提出してくるということだ。結果的に、提案された法案の枠組みに対して、反対のための議論を相手の土俵に乗って議論をしていくことになってしまう。そのため、あるべき論よりも、批判・反論のための議論になりがちで、特定秘密保護法の場合は、制定後に反対論で提示されていた問題が今のところ起こっていないということが、政府側の正当化の論理に使われてしまうこともある。また、そもそも制度として認めないという立場からすれば、政策論として議論が深められないので、法制定後の運用段階での運用監視や制度運用状況の分析をしていく力が弱くなる。だからこそ、相手の土俵に乗って相撲は取りつつも、自分たちの土俵を作って相手方をそこに引き込む努力が必要になってくる。そうしないと、一部の権力が独占的な分野は、いつまでも民主的なコントロールが効いていない、開かれた議論がされないまま残されてしまう。

◇「権力」との関係が問題
 政府や自治体という存在は、そのトップの座にいる人がだれであれ、必要なものとして今の社会システムはできている。この社会システムを民主制と呼んでいるわけだ。だから、個人的な問題意識としては、批判をするだけでなく、どうしたらより良い「権力」、より良い政府や自治体になるのかを考え、持続性・継続性のある政策やシステムとして組織の中に入れていかなければならないと考えている。
 特定秘密保護法との関係でいえば、この法律で政府の秘密が生まれているわけではなく、もとから内部ルールとしての秘密指定の仕組みはあり、公務員に対しては守秘義務違反に対する刑事罰があり、この枠組みの中で秘密が保持されてきた。特定秘密保護法によってそれが強化されたことは大きな問題であるが、一方で前から大量にある秘密指定された秘密をどうすべきか、という議論をきちんとしてきていないことが、実際には大きな問題だったとも考えている。
 情報公開法制定議論の時には、アメリカの外交・安全保障、法執行機関の情報公開が秘密指定と解除の仕組みによって進んでいる側面を理解しながら、日本ではこの議論は時期尚早として避けたのことが、情報公開法制定過程の検討経過を追っていくとわかる。それから20年近く、秘密指定制度があることを理解しながら議論に手をつけられなかったのは、「時期尚早」という感覚が筆者にもあったからだ。秘密をどう民主的にコントロールしていくのかという、情報公開を進めるうえでも避けられない議論ができたのは、特定秘密保護法案の提出が契機となったのはある意味の皮肉だ。
 同じような固定観念の中で固まって議論ができていないものは、情報公開や政府のアカウンタビリティという文脈の中でも、個人的にいくつも思い当たるものがある。より良い権力とするためには、反対か賛成かだけでなく、すでにある課題をどう具体的には持続的、継続的な政策として解決していくのか、ということの議論が必要だ。それは、市民社会側での議論が必要であるとともに、市民社会と政府の間の開かれた議論も本当は必要だ。そうしないと、なんだかずるずる押し込まれている、という権力との関係が変わっていかないと考えている。

 特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス

 

◆三木由希子(みき ゆきこ)さんのプロフィール

特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長。
大学在学中より情報公開法を求める市民運動にかかわり、卒業とともに事務局スタッフ。1999年に情報公開法の制定を受けた組織改編・改称して情報公開クリアリングハウスとなり、それとともに室長兼理事。2011年5月から理事長。情報公開制度や個人情報保護制度、それに関連する制度に関する調査研究や政策提案、意見表明を行うとともに、市民の制度利用の支援を行っている。また、情報公開制度を活用した調査研究や新たな事例創出のための情報公開訴訟の提起なども積極的に行っている。自治体や国のいわゆる第三者機関の委員も務める。編著に『高校生からわかる政治の仕組み 議員の仕事』(トランスビュー)、共著に『社会の見える化をどう実現するか−福島原発事故を教訓に』(専修大学出版)がある。



 



 
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