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非正規雇用労働者の権利をめぐる現代の状況

2016年9月26日



笹山 尚人さん(弁護士)

 私は、労働問題、とりわけ若年層労働者、また非正規雇用労働者の権利をめぐる問題に取り組み、労働組合活動の活性化を中心に状況の打開をはかることを目指して、この間、労働者の皆さん、労働組合の皆さんと活動を共にしてきました。
 その経験から、今年2016年の現代において、非正規雇用労働者の権利について、いかなる状況があるかについて以下述べます。

1、有期雇用労働者をめぐる問題点
 2012年の改正労働契約法において、有期雇用労働者の無期雇用への転換請求権が定められました(労働条約法18条)。
 これは、有期雇用の労働者が、同じ使用者との間で契約更新を重ねて通算5年以上の就労となった場合、無期契約に転換することを請求することができる、というものです。このような法律改正が行われたのは、有期契約ではいつ雇止めを受けてもおかしくないことから、有期雇用労働者の不安定な雇用状況を解消するため、というのが理由でした。この制度は2013年4月から施行され、2018年4月から無期転換請求をすることができることになります。
 しかしこの法改正にあたっては当初から、5年に満たない時期に有期雇用労働者が雇止めされてしまうことが横行するのではないか、という危惧がありました。この危惧は杞憂ではありませんでした。例えば東北大学では、就業規則が改訂され、契約更新の上限を5年として、有期契約で働く約3千人の非正規職員について、無期転換請求権が得られる直前の時期に雇止めするということが明らかになっています(2016年7月25日朝日新聞)。これは東北大学だけではなく、多くの職場でこうした制度が制度化されたり個別の契約に盛り込まれたりしていると思われます。
 これでは、せっかくの法改正があっても、結局非正規雇用の労働者の権利の安定につながっていません。
 早稲田大学では、東北大学と同様に制度改定がなされた際、非常勤講師が加入する労働組合から抗議があり、協議の末、制度を14年10月採用の者からは10年上限にするといった形に変更がなされました。労働組合のこうした取り組みのもとで改善されている例はあるものの、それはまだ一部にとどまっていると思われます。

2、労働者派遣法の問題
 他方、労働者派遣法も2015年9月に「改正」されました。
 ここでは、同一の派遣労働者を派遣先の事業所における同一の組織単位に対し派遣できる期間について3年上限にするといった改訂がなされました。事実上、派遣労働の恒久化が可能になったのです。つまり、派遣先の同一の組織単位において、3年ごとに、別の派遣労働者を受け入れてさえいれば、派遣労働者による就労を恒久化できるのです。
 こうなると派遣労働者の雇用はますます不安定になります。例えばA部署で働く派遣労働者も、3年経つとA部署での就労が不能になるので、B部署での就労に配置換えされるか、それが無理なら雇止めを受けるか、といった状況になります。仕事を失いたくなければ、派遣労働で働き続けるほかなく、多くの場合、労働条件も常勤労働者に比べ劣悪です。

3、非正規雇用労働者の権利の向上のために
 現代の状況とは、一言で言えば、法改正が逆に非正規雇用労働者の権利状況をかえって悪化させている、ということです。この意味で、真に労働者、とりわけ非正規労働者の生活と労働条件を守り向上させる観点から、労働法を改正していかなければなりません。
 例えば、そもそも有期雇用はこれだけ日常的に蔓延していますが、そもそも「期間に定めがある」ことに意味がある契約がどれくらいあるのでしょうか。仕事のプロジェクト性や、定年を迎えた後の高年齢労働者の場合のように、期間に意味があるといえる場合は多くないと思われます。
 したがって、有期雇用契約は、期間に意味がある場合に限り締結できるとするような規制を設けていく。
 労働者派遣は、例外的な働き方として、派遣法が制定された1985年当時に戻って、期間や職種に限定をかけていく(私は、労働者派遣法は最終的には廃止すべきと考えています)。
 こうした法改正を実現させるためには、やはり労働者の取組み、労働組合活動の活性化が不可欠だと考えます。
 私が弁護団で参加した徳島県の光洋シーリングテクノ事件では、派遣先の労組と請負労働者の労組とが連携して、正社員化の制度を勝ち取り、請負労働者が次々と正社員になる成果をあげています。こうした労働組合活動の旺盛な活動と、何よりも非正規雇用労働者本人による「こんなのおかしい!」という声が現状を変えていく基本的な力になっていくと思います。

4、安倍政権の考える同一労働同一賃金について
 安倍政権は、一億総活躍化社会の要として、同一労働同一賃金政策を実現し、非正規雇用という言葉をなくすと掲げています。これはこれで重要な取り組みですが、上記のような観点を忘れたときは、最悪の場合正規雇用をなくして非正規雇用で標準化するという形で非正規雇用という言葉をなくすということになりかねません。そうならないように、安倍政権の取り組みに意見していくことが必要と思います。

5、ご相談者の要求に寄り添った弁護活動を
 私は、非正規雇用の場合に限りませんが、ご相談者の労働者の訴えをまず真摯に聞き取り、その願いを実現するにはどんなことができるだろうかを共に悩み、考えるということで、これまで弁護活動を行ってきました。
 現代、こうした活動の必要性はますます痛感しています。非正規雇用は上記のようにますます難しい状況になっていますし、さりとて正規雇用の方の場合も、重い責任のもとで長時間労働やパワハラに悩む事例が多く、いずれにしても追い詰められている労働者のケースが多いからです。ああ、それは法律的には無理だよとか、証拠がないからやめとけば、という対応では、現代の労働者の悩みに向き合ったことにはならないと考えています。
 今後ともますます、労働者のみなさんと共に悩み、考え、もがいてみる活動を行いたいと思います。そして、そういう活動には、多くの場合、きちんと成果がついてきます。

◆笹山 尚人(ささやま なおと)さんのプロフィール

1970年、北海道生まれ。1994年中央大学法学部卒業。2000年弁護士登録、東京法律事務所所属。第二東京弁護士会会員。弁護士登録以来、「すき家事件」など、青年労働者、非正規雇用労働者の権利問題を中心に事件を担当している。著書に『パワハラに負けない!−労働安全衛生法指南−』『労働法はぼくらの味方!』(岩波ジュニア新書)、『それ、パワハラです』『人が壊れてゆく職場』(光文社新書)、『ブラック企業によろしく−不当な扱いからあなたを守る49の知識』(KADOKAWA)、共著に『仕事の悩み解決しよう!』(新日本出版社)、『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)、『中学 高校『働くルール』の学習』(きょういくネット)、監修に『しごとダイアリー』(合同出版)、『組織と働く人を守る 職場の重大トラブル防止ブック』(現代けんこう出版)、などがある。



 



 
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