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戦争体験を聞き、私たち自身を知る 〜戦場体験放映保存の会の活動について

2016年10月3日



田所智子さん(戦場体験放映保存の会・事務局次長)

「語らずに死ねるか!」を合言葉に老若が集う
 もうすぐ消えてしまう戦場体験を、何とか後世に遺さなくてはならない。この危機感を共有する人たちによって、「戦場体験放映保存の会」は、2004年12月に発足しました。アジア太平洋戦争に動員された元兵士・軍属や、沖縄や外地にいた民間人などの体験を、主にビデオ証言で後世に遺す活動です。 
 設立時は戦争を知らない世代を中心とした活動でしたが、証言者を「語り部」以外の方々にどう拡げるか試行錯誤をする中で、それまでに話をしてくれた元兵士たちの間から「体験者自らこそ活動の先頭にたつべきだ」という声が生まれ、戦後60年であった2005年8月15日を期して「元兵士から元兵士への呼びかけ」を発信しました。千人いれば千人の体験がある、体験した者にしか分からない戦場の実態を語り遺そうという呼びかけが証言者の枠を大きく拡げる契機となり、当会はこれ以降ずっと、呼びかけの先頭に体験者自身が立ち、戦争を知らない世代のボランティアが記録や事務に当たる老若一体の運動として展開しています。会議には10代から90代までの各世代が参加し、「語らずに死ねるか」という合言葉が活動の中から生まれました。


第5回 あの戦場体験を語り継ぐ集い (2016年9月4日 大阪市中央公会堂)

「無色・無償・無名」の原則で
 当会のもう一つの特徴は、設立以来の「無色・無償・無名」の原則です。「無色」は、ただ戦場体験を掘り起こすこと自体を運動の目的として、どんな心情を持つ人でも体験を後世に遺すその一点で手を繋ごうとするもの。この原則が、多くの人に力を貸して頂き、時には体験者自身にも位置づけの難しい複雑で多様な証言を、分厚く集める事に繋がったと実感しています。
 当会では、これまでに1600名を超えるビデオ証言と、手記や絵画・当時の日記や写真など2500名以上の体験を収集してきました。当初は関東圏での聞き取りが主体でしたが、それでは次第に集まる証言の戦地や背景に偏りが出てきたため、2010年より聞き取りの「全国キャラバン」を開始。濃淡はありますが47都道府県全てを廻り、特に沖縄には7回のキャラバンで訪れています。これらにより15年に及んだ戦争の各時期や、広範な戦地、戦闘・加害・飢餓・特攻・抑留など各テーマについて、かなり網羅をする証言を集めることができました。これから迎える「体験者無き時代」に、これらの証言は益々かけがえのないものとなるでしょう。

最終目標は総力戦にふさわしい規模の集積
 設立当初からの目標は15万人の体験記録を集めようというものです。私たちだけでは届くはずのない大仕事ですが、あえてそれを掲げているのは、軍人軍属の戦没者230万、帰還兵310万人という数にふさわしい規模の証言が必要だと考えているからです。戦場の実情は、一人ずつ違う体験を積み上げ一定の量を集積して更によく見えてくるはずで、後世に歴史としての意味を持つほどのものでなければいけません。埋もれた記録の掘り起こしや、共有システムの構築も含め、引き続き体験記録の集積に努めようと思うところです。


聞き取り風景

伝えたいと願う体験者は沢山おられます
 よく、「辛い体験は話したくないという人が多いでしょう?」と聞かれます。そういう方がおられる事は確かですが、私たちが実際に一番多く出会うのは「誰にも聞かれなかったから、話す機会がなかった」という方々です。踏み込まないことを良しとする風潮や、思いやり、躊躇いも背景にあるのでしょうが、今や戦争体験の継承は戦争を知らない世代の側の問題であることは認識をしておきたいと思います。
 今でも当時のことは鮮明に記憶し、そして誰かに伝えたいと思っている方が沢山おられます。あるいは、一番話したくない話こそが、一番伝えたい話だったのだと思える経験も幾度もして来ました。皆様の側にもそういう方はおられると思います。ぜひ直接お話を聞いてみて下さい。どこから聞いてよいか分からない、当時の言葉や制度などが難しいと思われるなら、私たちを呼んでください。ビデオカメラを片手に全国どこにでも伺います。

戦場体験史料館と展示・証言イベントで体験談を共有
 設立以来証言の収集に邁進してきましたが、2012年8月には「戦場体験史料館・電子版」を開設、少しずつですが、これまでに収集してきた証言の公開を進めています。
 また「戦場体験・百人展」は、個人の体験を通じて戦争の全体像を伝えようとする試みで、東京浅草での展示が好評だったため、大阪・仙台・長野でも開催しました。さらに昨年・今年は、東京と大阪で「50余名の証言で知る〜沖縄戦展」を開催。民間人、兵士、少年兵、女子学徒隊など様々な立場で体験した沖縄戦の証言を紹介し、現在の沖縄をめぐる問題の起源に触れる機会としました。これらの展示会は、まだまだ全国を廻ります。証言パネルは郵送料のみで貸し出しもしており、展示会や学校などで規模に応じてご利用いただければと思います。 
 さらに戦後70年の昨年は、日比谷公会堂で6年ぶりとなる「あの戦場体験を語り継ぐ集い」を開催。折しも安保関連法成立の翌日で、平均年齢90歳を超える20名が約1500名の来場者を前に体験を語り、「どうぞ若い皆さん、平和のため、幸せのため、しっかりと生きて下さい」と訴えました。今年は大阪・中之島公会堂で15名が渾身の証言。まだまだ自らの体験を語り残そうと頑張る体験者がいることを、より多くの地域で、実際に足を運び体感して貰おうとしています。

戦争/戦場体験に特別さを求めない
 こうして個人の体験に接し考える場を多く創ることが私たちの役割だと思っていますが、戦場体験はともすれば今の私たちとはかけ離れた特別な人たちの経験と捉えられがちで、自らの身の内に取り込み、ものを考えるための糧とする事は容易ではありません。昨年のシンポジウムでは、特別な話を求め過ぎる事はかえってファンタジーに紛れやすい、むしろ直に聞くことで聞き手に変化が起こることこそが重要との指摘(小熊英二氏)がありました。
 戦争体験を聞くことは、私たちの社会の成り立ちを知ることであり、私たち自身を知ることです。
 最前線の戦場体験は極限での経験とも言えますが、その記憶を真に根付かせていくためには、戦争の遂行を支えた当時の日常全般の聞き取りや、話し手の戦前戦後の人生に及ぶ幅広い聞き取りも必要です。また「特別な体験をした」「語り部」だけが語るのではなく、学者やジャーナリストなど「特別な人」だけが聞くのでもない、「話す人」「聞く人」の裾野を出来る限り広げることはとても重要です。それが身近な人の些細な話であっても、そういう土壌の上に、「特別な体験」や私たちが集積してきた証言はいっそう的確に伝わるのだと思います。
 活動の場で、家庭で、たとえば介護の現場で。世代の異なる生身の人間同士が対話をする場をいかに確保していくか、時を惜しみながらいっそうの挑戦を続けたいと思っています。

【連絡先】

 戦場体験放映保存の会

 住所 〒114-0023 東京都北区滝野川6-82-2 公益社団法人マスコミ世論研究所内

 電話 03-3916-2664(火木土日祝の10時〜17時)
 ファックス 03−3916−2676
 E-mail senjyou@notnet.jp
 戦場体験史料館・電子版 

◆田所智子(たどころ さとこ)さんのプロフィール

戦場体験放映保存の会・事務局次長
1966年生まれ。大阪大学医学部卒業、医学博士。2004年、故上田哲氏(元国会議員) を中心とする「戦場体験放映保存の会・設立」に参加。以来事務局次長、これまでに 200人以上から聞き取りをしている。



 



 
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