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99%の生活者のための経済政策

2016年10月10日



山田博文さん(群馬大学名誉教授)

 金融資産の保有額で比較すると、世界のわずか1%の富裕層の保有額が残りの99%の人々と同額に達しています。資産格差が急拡大し、世界中で貧困格差を背景にしたさまざまな社会問題が広がっています。
 どうしてこんなことになってしまったのでしょうか、いま世界と日本経済で何が起こっているのでしょうか。世界中で拡大する貧困格差の背景を解き明かし、どうしたらだれもがみな普通に働いて、安心して暮らすことができる社会が実現できるのか、などの問題にアプローチするために、7月末、『99%のための経済学入門<第2版>』(大月書店刊)を上梓しました。

金融ビジネスを通じて加速する富の一極集中
 「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」、「われわれは99%だ(We are the 99%)」の運動が広がったのは、2008年9月のリーマン・ショックのなかで、自宅を取りあげられ、職場からも解雇された人々を輩出したアメリカでした。この運動は、瞬く間にヨーロッパに波及しました。
 現代の金融ビジネスは、ニューヨーク・ロンドン・東京などの金融センターをコンピュータのグローバルなネットワークで連結し、国境を越えた100億円相当の取引もあっという間に成立し、国内証券市場の売買取引は数万分の1秒の速度でおこなわれています。いわば、時間と空間の制限を突破した金融ビジネスが行われるようになり、信じられないほど巨額の金融的収益が瞬きの瞬間に実現するようになりました。
 その結果、世界の富が、巨大金融機関、大企業、大口投資家、富裕層へ加速的に集中する時代が訪れました。

62人のスーパー富裕層の資産総額は下位36億人と同額
 貧困撲滅に取り組む国際NGO(オックスファム・インターナショナル=Oxfam International)の報告書( 「AN ECONOMY FOR THR 1% 」2016年1月)によれば、世界でわずか62人のスーパー富裕層が保有する資産(約195兆円)は、世界の貧困層36億人(世界人口の半分)の資産総額に等しくなりました。すさまじいばかりの資産格差が発生しています。
 リーマン・ショックを引き起こしたアメリカの巨大金融機関リーマン・ブラザーズの経営トップの14年間の役員報酬は526億円でした。年間平均で約37億円の役員報酬を得ていたことになりますが、この金額は、ウォール街の役員報酬としてはそんなに驚くほどの金額ではないようです。
 他方で、世界人口の1割あたる7億人は、1日1.9ドル(約200円)以下での生活を余儀なくされています。

日本で加速する資産格差と貧困化
 現代日本では、貯蓄のまったくない世帯が3割を占める一方で、1億円以上の純金融資産を保有する富裕層世帯が100万世帯・200万人を超えました。地域社会に密着した中小零細企業は自転車操業の厳しい営業を強いられる一方で、大企業は決算期毎に戦後最高の利益を稼ぎ出し、その内部留保金は350兆円を超えました。
 日本の貧困率はOECD諸国の中でトップクラスになり、年間所得が122万円に満たない世帯数の割合が、16.1%(6世帯に1世帯の割合)に達します。とくに子どもの貧困率は16.3%に拡大しました。年間所得が122万円に満たない世帯では、子どもを高等教育に進ませるだけの金銭的な余裕がないので、その子どもたちは中卒や高卒で低賃金の職業につくようになり、貧困格差が再生産される社会になってきました。

なぜ貧困格差は拡大するのか
 金融資産や不動産を保有する大企業や富裕層は、資産バブルや不動産バブルを煽る金融緩和政策の恩恵を享受し、ますます資産を膨張させてきました。その傾向は2013年来の第2次安倍政権の経済政策(アベノミクス)で加速しました。ここに「金持ち減税」、法人減税(1990年来の減税累計額は約260兆円)の恩恵が加わり、税制面でも富の蓄積を実現してきました。
 他方で、働いて所得を得る多数の国民にとって、1997年来つづく賃金の削減、正社員から非正社員へのリストラなどによって、所得が削減され、非正社員の7割にあたる1400万人の年収は200万円に満たない低水準に押し込められたままです。
 そのうえ、逆進的な消費税増税(1990年来の増税累計額は約300兆円)、社会保険料の値上げなどで、国民所得に占める租税と社会保険の負担割合は、2016年、戦後最高の43.9%に達しています。削減された賃金から税金や保険料を差し引かれ、手元に残る可処分所得は一層低下します。
 その結果、現代の経済社会は、99%の生活者にとって、所得低下と貧困を強いられる時代になりました。

賃金所得の引き上げ・福祉充実・金持ち減税の廃止
 家計から企業部門への、99%から1%の富裕層への所得移転を促進している経済政策を転換し、99%の生活者のための経済政策が求められています。
 まず国民所得を公平に分配するために、株主への配当金や企業の取り分を減額し、賃金所得を大幅に引き上げることです。99%の人々が依存するのは、賃金所得だからです。そして、社会保障や福祉を充実し、社会保険料や各種の公共料金を引き下げ、家計の負担を軽減し、可処分所得を引き上げ、安心して生活できる社会を実現することです。
 「パナマ文書」は、世界中の企業、富裕層、権力者達の租税回避の実態を明るみに出しました。1980年代のレーガン・サッチャー・中曽根政権以来の新自由主義的な経済政策は、市場原理主義と「金持ち減税」を柱にしていましたので、この税制を見直すことです。賃上げにも、設備投資にも役立っていない大企業の350兆円の内部留保金には「特別増税」を実施すること、租税回避を防止し、大企業への特別減税を廃止し、また所得税、相続税などの最高税率を高い水準に戻すこと、キャピタルゲイン課税など金融商品から発生する所得に大幅に課税すること、物の裏付けのない内外の金融取引に課税すること、などが求められています。

◆山田博文(やまだ ひろふみ)さんのプロフィール

1949年新潟県生まれ、中央大学大学院商学研究科博士課程、(財)日本証券経済研究所研究員、八戸大学商学部助教授、群馬大学教育学部教授を経て、現在に至る。
著書に、近刊の『99%のための経済学入門<第2版>』『国債がわかる本』『これならわかる金融経済<第3版>』(いずれも大月書店刊)、他多数。
ホームページで、「99%のための経済社会をめざすNetizen越風山房」を運営している。



 



 
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