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裁判員経験の共有と活発な議論を

2016年10月31日



大城聡さん(弁護士・一般社団法人裁判員ネット代表理事)

1 裁判員経験者は7万人を超える
毎年11月中旬には、新たに裁判員候補者に登録された人に対して、翌年に裁判員に選ばれる可能性があることを伝える「名簿記載通知」が発送されます。制度開始から昨年までの間に、約220万人がこの通知を受け取っています。そのうち約7万人の市民が裁判員または補充裁判員を務めています。※1

殺人罪などの重大な犯罪を裁く刑事裁判には、市民が裁判員として参加することが「あたりまえ」という社会に私たちは暮らしているのです。しかし、制度開始当初は裁判員制度そのものがニュースになりましたが、最近ではすでに制度自体は報道されず、むしろ一般の関心は薄くなっているように感じます。

そのような中で、私がもっとも深刻な問題だと考えているのは、裁判員の経験が共有されていないことです。すでに7万人を超える人が裁判員や補充裁判員を経験しているにもかかわらず、その経験が社会で共有されていないのです。裁判員になったら、どのように考え、どのように事件に向き合うのか、そのような話を聞く機会が少ないというのが実情ではないでしょうか。

2 裁判員経験の共有を妨げる壁
市民が主体的に裁判員として参加できる土壌をつくるためには、裁判員の貴重な経験を共有することが不可欠です。しかし、現在の制度では、裁判員候補者にとっては候補者であることの公表禁止義務があり、「自分が裁判員候補者であること」自体も公にすることができません。また、裁判が終わった後は裁判員経験者に広範な守秘義務が課されています。これらが貴重な経験を共有する機会を妨げる壁となっています。

候補者であることの公表禁止規定は、裁判員候補者への不当な働きかけを防止する趣旨で設けられています。たしかに、裁判所から具体的な日時が指定された呼出状を受け取ったことを公にしてしまうと事件が特定されるおそれがあります。しかし、毎年11月に一斉に発送される候補者通知を受け取る人は年間約30万人に上ることから、たんに裁判員候補者になったということがわかるだけで、不当な働きかけがされる可能性はほとんどありません。したがって、呼出状を受け取ったことは公表禁止とすべきですが、本人の同意があれば候補者通知を受け取ったこと自体は公表してもよいとするべきです。

また、守秘義務について、ある裁判員経験者は、「評議の内容の中には守秘義務があるとされていますけど、評議の内容にこそやっぱり一番いろいろと感じたことだったりとか、考えさせられたことというのが詰まっていました。ですから、そういったことを公開できないとなると、やっぱり経験を話すことは、少し窮屈といいますか、委縮してしまう部分はあると思います。」と語っています。

裁判員の経験の核心部分である評議に関して広範な守秘義務が課されていることで、裁判員の経験を市民の間で共有することが難しくなっています。守秘義務については、裁判員の自由な討論を保障し、事件関係者を保護しながらも、裁判員の経験を共有できるように守秘義務を緩和すべきです。評議の経過や発言者を特定しない形での意見の内容、評議の際の多数決の数は、守秘義務の対象から外すべきではないでしょうか。

3 市民の視点から制度見直しを
昨年5月、裁判員制度見直しに際して、衆議院法務委員会では参考人として発言する機会をいただきました。裁判員経験者へのヒアリングや「裁判員裁判市民モニター」(裁判員裁判の法廷傍聴と分析)の活動から生まれた裁判員ネット「市民からの提言2014」、裁判員経験者ネットワークの調査活動などをもとに意見を述べました。※2

特に裁判員制度が市民参加の制度として社会で機能するためには、
(1)守秘義務の在り方を見直すなどして裁判員の体験を市民が共有できるようにすること
(2)裁判員及び裁判員経験者の心理的負担に配慮すること
(3)市民の視点から裁判員裁判を検証する体制をつくること
という3つの観点からの見直しが必要不可欠であるという旨の提案を行いました。※3

昨年の制度見直しでは、候補者の公表禁止規定や守秘義務の緩和などは具体的な改正には至りませんでしたが、さらに3年後に再び制度の見直しを検討することが盛り込まれました。次の見直しに向けて、市民の視点から提案を続けていきたいと思います。

制度を固定化したものとして硬直的に捉えるのではなく、私たちが自分たちの問題として、より良い制度をどのようにつくるのかという発想が重要です。

どのような刑事裁判が望ましいのか、私たちは主権者として真剣に考えなければなりません。市民が裁判員として刑事裁判に参加する裁判員制度の趣旨からすれば、法律の専門家だけではなく、多様な市民による議論が必要です。

「市民の市民による市民のための司法」の実現を目指して、活発な議論を行う機会を今後とも様々な形でつくっていきたいと思っています。主権者として、そして裁判員になるかもしれない市民として、ぜひみなさんのご意見をお聴かせください。※4
以上

 

※1 裁判員制度施行から2016年8月末までに全国60の地方裁判所(10支部を含む)において52723 人が裁判員を経験し、17941 人が補充裁判員を経験しています。
出典:裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成28年8月末・速報)【PDF】

※2 裁判員ネット「衆議院法務委員会にて裁判員法改正に関する提案を行いました」

※3 衆議院インターネット中継

※4 裁判員ネットでは、11月19日(土)13時30分から「裁判員制度フォーラム〜裁判員の体験を聴いてみませんか?」を開催します。このフォーラムでは、裁判員経験者の方をゲストにお呼びして、裁判員の体験を直接聴く機会をつくります。裁判員制度に関する活発な議論に一助になればと思っていますのでご関心のある方はぜひご参加ください。
http://saibanin.net/updatearea/news/archives/2908

◆大城聡(おおしろ さとる)さんのプロフィール

弁護士。一般社団法人裁判員ネット代表理事として裁判員制度を市民の視点から考える活動を続ける。中央大学法学部卒。同大学院修了(政治学専攻)。山梨学院大学法科大学院修了。築地市場移転問題弁護団事務局長、福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)事務局長を務めるなど公益活動を積極的に行う。主な著書・論文に『良心的裁判員拒否と責任ある参加』(公人の友社)、『裁判員制度と知る権利』(共著、現代書館)、「裁判員制度と法教育」(法と教育Vol.4)など。

一般社団法人裁判員ネット

福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)

書籍『良心的裁判員拒否と責任ある参加』

弁護士大城聡のホームページ



 



 
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