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民事調停という解決法〜民事調停官の経験を通して

2016年11月28日



神坪 浩喜さん(弁護士)

 私は、平成22年10月から平成26年9月までの4年間、仙台簡易裁判所の民事調停官をしていました。民事調停官は家事調停官とともに非常勤裁判官と呼ばれるもので、弁護士の仕事の傍ら、週一日だけ裁判所に勤務します。私も毎週水曜日は、調停主任として、一日あたり3〜5件の民事調停に立ち会ってきました。

 調停官をやってみて思ったことは、「調停で解決できるものは、訴訟によらずに調停で解決した方がよい」「相対交渉でまとまらないものは、調停という手を考えてみた方がよい」ということです。

 調停とは、紛争解決手段の一つであり、①強制ではない話し合いを通じた合意による解決であること、②公正中立的で信頼できる第三者を交えた話し合いであることを基本要素としています。
紛争解決手段には、調停の他に、訴訟、示談交渉といった手段がありますが、調停は、訴訟と異なって、裁判官の法と証拠に基づく裁断的・強制的な解決ではなく、また、示談交渉と異なって、紛争当事者の相対交渉ではなく、当事者間に中立的な第三者が入るものです。
 「間に第三者は入るけれども、強制はせずに、話し合いを通じた合意による解決をめざす」というところが特徴です。

 なかなかいい制度なのですが、今ひとつ一般の方に知られていません。調停という言葉は何となく知っているけれども、それが実際にどういうものなのか、訴訟と何が違うのかよくわからない、そして、紛争が起きたときに、そもそも解決手段の選択肢として思い浮かばないという方が多いようです。

 当事者間で、話し合いをする、交渉を行うのが、紛争解決手段の基本ではあり、実際に交渉で解決することが一番多いのですが、こじれることもままあります。相手への不信感も募り、感情的になり、とにかく相手の言うことには従いたくないという場合もあります。お互いに、「自分の言うことを相手が了承してくれたらいいのに」「自分が正しく、相手が間違っている」と平行線をたどり、ひいては「相手の顔も見たくない」「話し合いなんてとても無理!」となるのです。

 そこで、公正中立な第三者を交えた話し合いです。公正中立な第三者が介在することで、当事者相互の希望や争点の整理が可能になります。その第三者に何かを決めてもらうのではなく、話し合いの土俵をつくってもらい、交通整理をしてもらうのです。こうした公正中立な第三者が間に入るということだけでも、話し合いがやりやすくなります。そしてさらに、その第三者が、裁判所から選任された調停委員、そして調停主任裁判官から構成される合議体であるということが、話し合いをさらに促進させます。一般の方の裁判所への中立公正や専門性の信頼性は高く、仮に相手と同じことであっても調停委員会から言われると、納得できることもよくあるのです。

 そして、調停は、訴訟ほど厳格な手続ではなく、ある程度の融通がききつつも、話し合いのルールがあって、いい加減なものでもなく、絶妙なバランスで、紛争解決に向けて、合意と納得を目指して話し合いを進めていけるのです。調停をやってみますと、当初は激しく対立していた当事者間の関係が、調停を進めていくうちに、調停者を交えた、紛争解決に向けて一緒に協力しあう、いわば「チーム」の仲間という信頼関係が醸成されることもあります。

 また、調停は、訴訟と異なり、強制的な一刀両断的な解決ではありません。勝ち負けの世界ではありません。強制的な解決、勝訴は、勝った方はその瞬間は気分がいいでしょうが、負けた方の多くは納得していないでしょう。ふてくされて判決内容に従わないこともあります。つまりは、真の紛争解決に至らないこともあるのです。これに対して、調停で合意に至った場合には、まず自らがした約束という意味で、また調停での合意には強制力が与えられるという特別な約束という意味でも履行が確保されるのです。

 もちろん訴訟でしか解決できない紛争はあるところですが、調停という解決手段があまり認知されておらず、よく理解されていないために、訴訟にしなくてもいいものも、調停ではなく、訴訟になってしまっているのが実情ではないでしょうか。

 調停は、訴訟・判決と異なって、判断を誰かに委ねず、自ら解決を選び取るという自主的・自律的な紛争解決手段です。調停者のサポートを受けつつも、最終的な判断は、自分自身に委ねられています。勝ち負けや白か黒かでもなく、柔軟にこれからのための解決を自らアイデアを出して創造することもできます。一人ひとりを個人として尊重し、その自主性や自律性を尊重する憲法の理念にもそう解決手段といえるでしょう。

 民事調停官をやって、調停を取り仕切り、公正中立的な第三者という立ち位置を生かした話し合いを進めていくこと、司法的な背景を持ちつつ、事案に応じた柔軟な解決を導くことによって、紛争が解決し、多くの当事者がほっとした表情で、調停室を後にする様子を見てまいりました。その経験から、民事調停という紛争解決手段をもっと多くの方に認知してもらいたい、そして、積極的に活用してもらいたいと思っています。
 その思いから、今秋「セクハラ・パワハラは解決できる!〜民事調停という選択肢〜」を出版しました。この本を通じて、多くの方に、紛争に巻き込まれたときに、民事調停という解決手段が思い浮かび、活用されていくことを願っております。


◆神坪浩喜(かみつぼ ひろき)さんのプロフィール

弁護士(仙台弁護士会所属)。あやめ法律事務所所長

仙台地方裁判所・古川簡易裁判所民事調停委員。仙台弁護士会副会長。日本弁護士連合会市民のための法教育委員会副委員長。
弁護士として多くの訴訟・調停事件を経験するが、訴訟で勝っても、何ら問題が解決しない現実を知る一方で、調停によって円満に解決することを体験する。
2010年10月から2014年9月までの4年間、仙台簡易裁判所の民事調停官(非常勤裁判官)として、多数の調停事件を扱う。この経験から、人間関係トラブルの解決方法として、民事調停という手段があることについて、多くの人に知ってもらいたい、民事調停の賢い活用法を伝えたいと思い、日々活動をしている。
法教育にも注力しており、中学生対象に書いた「民主主義と立憲主義のはなし」は、月間1500以上の閲覧がある。



 



 
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