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外国人の生活と権利を守るために
—「外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック」発行 —

2017年1月30日



觜本 郁さん(NG0神戸外国人救援ネット)

 昨年(2016年)11月に、「外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック」を発行しました。この相談ハンドブックを発行した目的や思い、その内容をご紹介したいと思います。

急増する外国人と複雑化する相談内容
 1980年代からニューカマー外国人といわれる方々が増えてきて、外国人登録者数は2016年6月末には230万7388人(法務省報道発表資料)となっています。また、これとは別に非正規滞在の外国人も6万3492人(2016年7月現在)と発表されています。
 今後、日本で暮らす外国人は更に増加すると見込まれており、このような状況の中で多様な文化を認め合い、多民族が共生する社会をどのように作っていくのかと共に、外国人の人権をどのように守っていくのかが課題となっています。
 人口減少社会の対策として外国人の受け入れをどのようにしていくのかということが議論になっています。政府は移民政策はとらないということを再三述べていますが、現実は外国人労働者やその家族が飛躍的に増加していくことは不可避という状況にあります。外国人を単に人材、労働力としてだけ受け入れる、必要が無くなれば帰ってもらえばよいということにはなりません。
 人が生活していれば、様々な問題が起き困難が生じます。外国人が日本で暮らす時もそれは同じです。そのような時の解決の重要な役割を社会保障、社会福祉、医療制度は果たします。
 しかし、それらの制度が外国人に使いよいシステムや環境を備えているかというと決してそうではありません。それは制度自体の問題であったり、言語の問題であったりと様々です。また、行政機関が不十分な理解、誤った理解で制度を運用していることが少なからずあるのが実際なのです。また、外国人といっても、在留資格の有無や種類の違い、生活環境など様々な立場の方がおられます。正しい知識をもって相談に対応することが求められます。外国人数の増加とともにニューカマー外国人の定住も進み、外国人の相談は増加するとともにその内容は複雑化しているのが現状です。

東日本大震災と支援活動
 外国人の相談を受けるメンバーの中では外国人の医療・福祉・社会保障の運用について、まとまった解説したものがぜひ必要であるという声が出ていました。
 そのような中で、東日本大震災の被災地で外国人の支援にあたっているメンバーから、被災地での生活支援活動に必要な手引書を作成できないかという声が、外国人の医療や福祉問題などに関わっていたメンバーに寄せられ、その作業に取り掛かることになりました。
 被災者が外国人であるというだけで受けられるべき給付やサービスがなされなかったり、不利益を被ったり、誤った運用が行われたりすることがあってはならないという強い思いがありました。
 また、東日本大震災の翌年の2012年7月9日には外国人登録法が廃止され、外国人も住民登録されるとともに、それまで外国人登録の対象であった非正規滞在の外国人は住民登録の対象から除外されるということになりました。これは外国人の制度利用に大きな影響を及ぼすことになります。政府・総務省は「在留資格の有無にかかわらず提供の対象となっている行政サービスについて、その取扱いに変更はない」としていますが、現場の自治体では決してそのように運用されていない実態も存在します。今回の「相談ハンドブック」では外国人登録制度廃止後、各制度がどのような運用になったのかを明らかにすることに力点を置きました。

国籍条項と制度の運用
 ここで現在の外国人をめぐる医療、福祉、社会保障の現状と課題を少し説明しておきたいと思います。
 現在、日本において外国人であることを理由に制度の利用ができないという社会保障・社会福祉・医療制度はありません。しかし、制度ごとに在留資格の種類や有無によって利用の可否は異なります。
 日本は1979年、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(国際人権社会権規約)」に加盟しました。そこでは、第2条2項で「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する」とし、第9条で「この規約の締約国は、社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める」と定めています。このように内外人平等の原則があるにもかかわらず、社会保障関係の法律改正はなさず、1980年に公営住宅法、日本住宅公団法、地方住宅供給公社法、住宅金融公庫法の4つの公共住宅関係の法律において運用上で「国籍条件」が撤廃されただけでした。
 さらに日本は1981年、難民条約および難民議定書を批准しました。難民条約では第3条で「締約国は、難民に対し、人種、宗教又は出身国による差別なしにこの条約を適用する」とし、第24条で、労働や社会保障について「締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、次の事項に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。」と内外人平等の原則を定めています。
 それに伴い「児童手当法」「児童扶養手当法」「特別児童扶養手当法」「国民年金法」の改正が行なわれ、外国人を制度から排除する国籍条項は削除されました。また「国民健康保険法」については、施行規則改正と通知で対応し、1986年3月に法改正が行なわれ、国籍条項が削除されました。
 現在、社会保障関係の国内法で条文に国籍条項があるのは、生活保護法と恩給法、戦争犠牲者に対する援護関係法だけです(ただし、国は恩給法や戦争犠牲者援護関係法は社会保障制度ではなく国家補償の制度であるという説明がなされています)。
 生活保護については、生活保護法第1条に「国民」とあることから対象は日本国民であり、外国人への保護は権利ではなく準用である、と政府の説明がなされています。
 難民条約の批准により国内法を改正した際、生活保護法第1条の「国籍条項」はそのままおかれましたが、これについて政府は、実質的に同じ扱いをしているから条約批准に支障はないとして生活保護法の改正を行わず今日に至っており、権利として認めないという非常に問題のある取り扱いが今なお続いています。

医療から排除される外国人の存在
 外国人の生活保護について、1990年ころまでは在留資格の種類や有無に関わらず生活保護を適用する例が全国で見られていました。しかし、1990年10月に開催された「生活保護関係指導職員ブロック会議」で、厚生省保護課法令係長から「保護の準用となる外国人の対象は、特別永住者、入管法別表第二の外国人、入管法上の難民に限る」という口頭の指示が出されました。
 また、国民健康保険の加入資格も、1993年3月31日の国民健康保険課長通知で1年以上の在留が確認できる場合に制限されることとなり、それ以降、外国人で医療にかかることができず、そのために治療が遅れ、重篤な状態になりながらも医療保障がなされない事例が多く出てきました。
 一方、医療機関(医師)は、医療保険が未加入であるとか支払い能力がないという理由で、治療を拒否することはできません。医師法第19条に「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」との規定があり、支払い能力がないということは正当な拒否理由に該当しないとされているからです。そのため、医療機関では医療保険に加入できない外国人の未払い医療費の問題が生じることとなりました。
 このような状況で短期滞在や非正規滞在でも利用できる制度の活用はそのような状況の中で極めて重要な課題となっていき、現在に至っています。

多文化。多民族共生の社会を目指して
 このハンドブックでは、これまで私たちが関わった外国人の相談の中で問題となることが多い社会保障・社会福祉・医療制度を中心に取り上げ、制度の適用などについて解説したもので、知っておきたい情報・知識をまとめ、実際に相談があった時に活用できることを目指しました。
 言うまでもなく制度は固定的なものではなく、社会のニーズにより変化していくものですし、さまざまな活動・取り組みによって変わっていくものです。外国人にとって問題があったり、使いにくい制度や運用に対しては、積極的に改善を求める行動が求められます。内容を既定のものとして理解することなく、現実の問題解決の中で制度のあり方を考えて、行動していくことが必要です。その中でこそ、多文化・多民族共生の社会を築いていくことができるのだと考えます。

『外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック』(B5判 189頁)
【発行】福島移住女性支援ネットワーク(EIWAN)
【編集】外国人生活・医療ネットワーク関西/外国人医療・生活ネットワーク
【価格】1部1000円 (移住連会員800円)(郵送の場合は1冊82円の送料が別途必要です。同封の振込用紙でお支払いください。)
【目次】
はじめに
第1章 外国人の社会保障・社会福祉の権利
第2章 制度の活用(生活保護 国民健康保険 後期高齢者医療 健康保険 介護保険 自立支援医療 入院助産制度 感染症予防法  精神保健福祉法 難病患者のための医    療 無料低額診療制度 行旅病人法 小児慢性特定疾患治療研究事業 母子健康手帳 養育医療 予防接種 救急医療費損失補てん事業 国民年金・厚生年金 児童手 当 児童扶養手当 外国人と労働法)
第3章 災害時の支援策と外国人
第4章 通報義務と相談・支援活動
第5章 医療通訳
【資料】関係法令通知類を掲載

【申し込み先】
「外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック」をお求めの方は、
「お名前」「住所」「電話番号」「メールアドレス」「必要部数」「移住連会員の方はその旨」をご記入の上、メールまたはFAXでお申し込みください。
「外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック」編集委員会(NGO神戸外国人救援ネット内)
メール:gqnet@poppy.ocn.ne.jp  TEL/FAX:078-271-3270

◆觜本 郁(はしもと かおる)さんのプロフィール

元神戸市職員。阪神・淡路大震災後、被災者支援活動の中でニューカマー外国人支
援・ホームレス支援のNGOの活動に関わる。
NGO神戸外国人救援ネット運営委員、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワー
ク運営委員。



 



 
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