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過労死・過労自殺を防ぐには〜 家族と会社・社会ができることを考える

2017年2月6日



寺西 笑子さん(全国過労死を考える家族の会 代表世話人) 

1.夫を過労自殺で亡くして
私は、21年前に夫を過労自殺で亡くしました。夫は料理職人をめざして25歳で転職し、京都市内に飲食チェーンを経営する会社で17年間調理師として実績を積み上げてきました。平成4年に大型店店長に抜擢されてから、サポート体制がないなか達成困難なノルマを課せられ、さらに慣れない飛び込み営業など、自分に向かない仕事も増え、夫の労働時間は、年4000時間に及び限界を超えた過重労働になりました。夫の頑張りでそれなりの成果を上げたのに、連日叱責を浴び不本意な異動を通告され、夫はうつ病を発症し、2か月後に飛び降り自殺をしました。49歳でした。

2.遺族の長いたたかい
「寺さん、悪かった、許してくれ」夫の亡骸に土下座する上司を見て、自殺の原因は会社が強いた過重労働にあると確信しました。しかしその後、会社側は態度を豹変させ「家庭の問題だ」と主張しました。夫は、長年会社に尽くし懸命に働いてきました。「死人に口なし」夫の無念を想うと口惜しくて遣り切れない気持ちと怒りが湧きあがり闘いに挑みました。
しかし当時は、過労自殺の労災認定基準はなかったことで相談に乗ってくれる弁護士が見つからず、翌年、「全国一斉・過労死110番」へ相談しました。社会正義派の弁護団に出会い、専門医や元同僚などの協力も得られ、夫の自殺から5年後に労災認定されました。その後、会社を相手に民事訴訟を提起し地裁で勝訴、高裁において会社側が夫と遺族へ謝罪する和解が成立しました。終わってみれば夫の真相解明と名誉回復に10年以上もかかりました。
もとより、労災認定されても裁判勝利しても、亡くなった夫は二度と生き返ってくることはありません。死んでからでは遅い、取り返しがつかないことを痛感しました。生きているときに救えなかった自責の念を持ち続けることになり、どうすれば夫は死なずに済んだのか、考え行動することが私のライフワークになりました。

3.「全国過労死を考える家族の会」活動
全国過労死を考える家族の会は、1991年11月「勤労感謝の日」の前日に結成されました。当初、労災認定の壁はとても高いものでした。苦難の道を歩む遺族たちが「家族の会」を通して同じ苦しみを持つ人たちと励まし合って支え合う中で、過労死は個人の問題ではなく大きな社会問題と捉え、毎年、国へ認定基準の緩和や過労死予防など要請を行うとともにビラまき街頭宣伝行動や関係団体主催の集会参加などで過労死問題を訴え、社会へ警鐘を鳴らしています。
ひと昔前、被災者は中高年が主流だったのが、近年は若年層に広がり、娘や息子を亡くされた親御さんや婚暦の浅い妻が幼い子どもを抱えて相談に来られます。
私たちは、悲惨な思いをする遺族をこれ以上つくってはならない思いで、過労死根絶を訴えてきました。しかし一向に歯止めがかからないことで「過労死防止法」の制定活動へと向かうのでした。

4.過労死等防止対策推進法(略称・過労死防止法)成立
2008年の「過労死弁護団全国連絡会議」総会と「日本労働弁護団」総会決議(案)を受け、2009年から2010年、家族の会は手探り状態で国会議員へ繋ぎ、院内集会を開催しました。2011年に制定実行委員会が結成され、100万人署名、地方自治体意見書採択など陳情を重ね、2013年に、国連・ジュネーブ「社会権規約委員会」へ訴えに行き、委員会は日本政府へ過労死防止の措置を勧告しました。その後「議員連盟」が結成され、私たちは国会へ常駐し議員への働きかけを強めました。院内集会を10回開催し、全国から署名など国民運動が結実し、2014年6月20日全会一致で、「過労死」が法律用語に定義され、「国の責務」で過労死をなくす、初めて労働分野の法律が成立しました。
過労死防止法は、①調査研究、②周知啓発、③相談体制の整備、④民間団体の活動支援、4つがメインの罰則規定がない理念法です。

5.「大綱」「白書」が閣議決定
過労死家族の会から4人、過労死関係の有識者から3人、計7人が「過労死等防止対策推進協議会」委員に選任され、大綱作成に積極的関与をしました。大綱の副題は「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ」と名付け、目指す方向を示しています。大綱の最大の意義は、過労死の防止を国および自治体の責務として定めたことにあります。これによって過労死等の総合的な調査研究が国の責任で行われることになり、啓発や相談体制の整備、民間団体の活動支援等の過労死防止対策が実施されることになります。特に、過労死防止法の規定になかったもの「事業者(使用者)には健康確保の責務がある」など、上記①〜④4つのメインについて細かく述べられています。
昨年11月、第3回過労死防止月間が開催され、全国各地43カ所で国主催の啓発シンポジウムが開催されました。今年度から文化的事業も加わったことで、前年より参加数と参加層が広がった報告が確認されています。また、新たな啓発事業として、中学・高校・大学校へ「過労死防止・労働条件に関する啓発授業」が実施され、主に弁護士と遺族が出前講義に行っています。
そして昨年10月、初めて過労死の年次報告「過労死防止白書」が公表され発行しました。白書のポイントは、過労死防止法に基づき今回はじめての法定白書、公的機関の調査により、労働時間、生活面、社会面、事案のデーターベースなど報告されました。民間団体のコラムとして、12本中8本が、弁護団などの団体と家族の会活動が紹介されています。

6.「過労死・過労自殺を防ぐには」
今回の「白書」で、過労死ラインとされる時間外労働月80時間を超えた社員のいる企業が2割を超えていることが指摘されています。こうした労働時間が突出している職場から過労死は発生します。国はさらに掘り下げた調査をおこなうと同時に、国の責務で過労死防止対策を早急に具体化するべきです。
昨年10月、白書が公表された同じ日、大手広告会社の過労自死労災認定の記者会見がありました。私たちは、今にも斃れそうな環境で働いている人を救いたい思いで過労死防止法を成立させましたが、命を守れなかったことに心を痛めています。そこで、事業者(使用者)は、まず、現行法の法令遵守を。問題は、労働時間の自主申告の強要していたことです。すべての事業場・労働者について労働時間を客観的方法により適正に把握させること(4・6通達を法律にする)。過労死は職場で起こっています。労働組合は36協定の限度を見直し、インターバル制度の積極的導入など職場環境を整えること、労働者が過労死ライン超えていないかチェックをすること。

7.遺族の願い
夫は、睡眠時間と家族と過ごす時間、自分の自由な時間を犠牲にして会社利益のために仕事に打ち込んできました。その代償が過労自殺だったのです。長時間労働を美徳とする慣習や評価を改め、働き過ぎは体を壊すことを根付かせ、働く文化を変えたいと思います。
過労死はまじめで責任感が強い優秀な人が劣悪な環境に追いやられ、被災する極めて理不尽なできごとで誰にでも起こりうること、決して他人事ではありません。過労死防止法は、四半世紀におよんで多くの尊い命が犠牲になってできた法律です。亡くなった命を無駄にせず、被災者の教訓を過労死予防に活かしてほしいです。
いのちより大切な仕事はありません。これ以上、過労死の悲劇を繰り返さないために、「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ」
皆さまとともに、考え行動して頂くことを切に願っています。

全国過労死を考える家族の会

◆寺西 笑子(てらにし えみこ)さんのプロフィール

1945年生まれ、京都市伏見区在住
1996年2月  夫、過労自殺
1997年   過労死家族の会活動に参加
2001年  京都下監督署にて労災認定
2005年  京都地裁にて勝訴
2006年  大阪高裁にて和解
2008年から 全国過労死を考える家族の会代表世話人
2014年から 過労死等防止対策推進全国センター共同代表
      過労死等防止対策推進協議会委員



 



 
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