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揺れる原発再稼動と脱・反原発のうねりと7年目の3.11を前に

2017年3月13日



山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)

 東日本大震災による地震と津波で福島第一原発事故が発生してから6年。停止していた原発が九州電力川内原発から再稼動を始めた。原発事故後に順次運転を停止したが、今は、伊方原発3号機を含めて3基が稼働中だ。
 「原発を止めたい」という願いが、このまま踏みにじられてゆくのか。しかし国会前の金曜行動も200回を超え、世論調査をすれば現在でも7割ちかくの市民が原発に反対である。
 昨年、関西電力が高浜原発3、4号機を起動した。2月29日に4号機が運転を開始し電力を送り出そうとしたその瞬間、送電網から「設定を超える逆流」が生じたとの信号が発信され、原子炉が自動停止した。まるで送電網が原発を拒否したかのようだった。市民が原発を拒否する象徴的現象のように感じられた。

人格権対経済的自由権
 原発の差止訴訟は現在、人格権対経済的自由権の争いとなっている。
 経済的自由権とは、電力生産をする電力会社の権利であり、加えて電源立地地域対策交付金を受け取り、または原発関連業務による経済活動で利益を受ける地元も含まれる「利潤追求の権利」だ。
 これら「利益追求」よりも重要な権利を守れと、原発の差止訴訟が各地で提起されている。重要な権利とは人格権だ。
 人格権とは単に「生存する権利」だけではない。日常を安寧に暮らし、様々な産業や事業に従事して生きること全般を保障する権利だ。もちろん立地住民に限らない。
 福島第一原発事故では遠く250km離れた東京でも一時、空間放射線量が放射線管理区域の水準にまで上昇した。使用済燃料プールがメルトダウンするなどで事故がもっと拡大していたら東京圏一帯3000万人余の避難が必要になったかもしれない。それは近藤駿介前原子力委員長による「不測事態シナリオの素描」(2011年3月25日付)で政府に示されていた。ただしこの情報はその年の12月まで非公開だった。
 これら広域で避難を強いられることもまた、人格権の侵害に当たるし、福島のように長期間避難生活を強いられることもまた、重大な人格権の侵害である。
 この考えは福島事故前の2006年3月、志賀原発2号機差止訴訟で原告勝訴判決の論拠の一つでもあった。なお、判決当時の金沢地裁の井戸謙一裁判長は、現在は運転差止決定を出した大津地裁に高浜原発運転差止訴訟を起こしている住民側の弁護団長である。
 福島事故後に大飯原発運転を差し止めた福井地裁の樋口英明裁判長(2015年4月19日)の判決も人格権が大きな柱の一つである。高浜原発の差止仮処分が一旦は福井地裁の樋口裁判長により認められたにもかかわらず、関電の異議申し立てにより決定が覆り、高浜再稼動の司法的なブレーキが一度外れた。
 それに対して隣の滋賀県の人々が大津地裁に行った運転差止仮処分申請が山本善彦裁判長により認められ、3月9日に差止決定が出された。稼働中だった高浜原発3号機は運転を止めた。なお、4号機は送電開始したとたんに電気系統のトラブルで原子炉が自動停止し、それ以後止まっている。

経済的自由権は人格権よりも劣位
 大飯原発差止判決では「原子力の利用は平和目的に限られているから、法的には電力生産の一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するものであって、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。」と明確に指摘している。
 また、大飯原発の再稼働については「国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点からみると、本件原発に係る安全技術及び設備は、万全ではないのではないかという疑いが残るというにとどまらず、むしろ、確たる根拠のない楽観的な見通しのもとに初めて成り立ち得る脆弱なものであると認めざるを得ない。」と指摘し、福島第一原発事故を経ても変わらない事業者と規制当局の姿勢を批判している。
 この判決は「運転再開で地元経済の発展に」と考えている商工会議所などの経済界の姿勢も暗に批判している。事故が起きれば命も含め元も子もなくなる危険は、本当に除去されたのかと地元にも問うているのだ。

再稼動と地方選挙
 地方選挙においても原発を止めようとの市民の取り組みは成果を上げた。とりわけ、東電による柏崎刈羽原発の再稼動に対し「福島第一原発事故の検証が先。それなくして運転再開の議論はしない」としていた泉田裕彦知事が、原発再稼動を目論む勢力による様々な圧力などが影響したのか2016年8月30日に「知事選立候補見送り」を表明してから、10月の知事選までの後継候補選びから実際の選挙での勝利まで、原発再稼動を許さないとの県民世論が広がり、大差で米山隆一知事を誕生させた。
 2016年7月には川内原発の地元鹿児島県知事選挙で現職の伊藤祐一郎知事を破った三反園訓氏も原発の停止を公約の一つとして掲げていた。
 川内原発の定期点検後の再稼動を容認してしまったが、厳しい県民の声で知事となった時の初心を取り戻すことを期待する。
 これら知事選勝利は、再稼動反対の強い世論の後押しがあることを示すものだが、これは日々の市民活動が大きな力を与えたことは確かだ。

東電の横暴は続く
 炉心溶融を起こし、甚大な被害をもたらした責任者は、その後本当に変わったのだろうか。
 東電は今もなお柏崎刈羽原発の再稼動を経営再建の柱にしている。そのためになりふり構わず新潟県知事をすげ替えようとしたが、これは市民の力強い反対で頓挫した。
 柏崎刈羽原発の規制基準適合性審査ではいくつもの問題が吹き出している。
 2007年の中越沖地震で被災した後に建設した緊急時対策のための免震重要棟は、その耐震性に重大問題が発覚している。
 2013年から2014年にかけて、東電自らが免震重要棟の耐震性を調査した結果、現在の基準地震動の計算では免震設備が耐えきれずに破壊されることが分かった。そこで東電は「震度7に達したら免震重要棟の緊急時対策所は使わず新設する5号機の中の緊対所で対策に当たる」などと申請を書き換えた。
 規制委員会は寝耳に水だったことから、廣瀬社長を呼び出して「申請書の総点検と書き直し」を命じた。規制委も目こぼしできないほどのとんでもない申請を未だ続けていた東電は、一体どういう形容詞が一番似合うのだろう。
 東電の倒産を回避するために作られた「東京電力改革・1F問題検討委員会」は、廃炉費用や賠償費用などに21.5兆円もの費用が掛かるとの見通しを出した。これを受けて経産省・資源エネルギー庁に設置された「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」では、新電力にも廃炉などの費用を負担させる案が作られた。21.5兆円であろうと100兆円であろうと賠償する責任は東電にあるのだが、この金額の多くは賠償ではない。損害賠償は8兆円程度しか見込んでいない。
 あらゆる手段で東電救済を図る国や原子力ムラの中で東電は、原発再稼動こそ使命とばかりに、柏崎刈羽原発にのめり込んでいる。
 事故の被災者のうち、避難指示区域外の避難者に対する住宅資金打ち切り、原発被災者へのいじめの横行に対しても、まともに賠償もしないまま6800億円をつぎ込んだ。

東電への抗議は続く
 東電の責任は、結局追及されないまま6年が経った。
 やっと当時の勝俣会長以下3名の強制起訴で法廷が開かれる。だが東電への責任追及は緩めてはならないはずだ。国会事故調は調査報告書を出した後も国会において問題を追及しなければならないとした。ところが今の国会は何もしていない。
 東電前には毎月市民の抗議行動が取り組まれている。たんぽぽ舎も主催団体の一つとして参加している。
 3.11には東電への追及の大きなうねりが、また戻った。
 6月の株主総会では「脱原発東電株主運動」の提案権行使と会社を追及する発言が行われるだろう。
 これらが繋がりあい、東電の責任を明らかにし、柏崎刈羽原発の廃炉と東電の解体、賠償への道筋作りを今後も取り組んでゆく。

◆山崎久隆(やまさき ひさたか)さんのプロフィール

たんぽぽ舎副代表脱原発東電株主運動に参加。
 1986年のチェルノブイリ原発事故に衝撃を受けて反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立に参加。以後、福島第二原発3号機事故の解析等、東電との交渉や脱原発東電株主運動による株主総会での質問や提案活動に参加。湾岸戦争時の米英軍による劣化ウラン弾使用での健康被害や環境汚染に対する抗議行動に参加。福島第一原発事故での地震と津波による原発震災に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退と被災者賠償の取り組みを求める活動に参加。

共著書『放射能兵器・劣化ウラン』(技術と人間)、『冬の兵士』(岩波書店)、『TUPアンソロジー世界は変えられるⅠ・Ⅱ』(七つ森書館)『隠して核武装する日本』(影書房)『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社)『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版)



 



 
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