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「今、日本に必要な社会保障 〜 憲法理念の実現をめざして」

2017年4月17日



日野秀逸さん
(東北大学名誉教授、一般社団法人地域医療・福祉研究所理事長、東日本大震災復旧復興支援みやぎ県民センター代表世話人)

1 はじめに
 私は、45年前から、医療の制度・財政・政策などの研究を始めました。医療は人間の健康の促進、維持、回復を目標とした仕事(いとなみ)です。医療の目標は、働き方や住み方、自然環境、所得(賃金と年金が主要な内容)、医学や医療技術(機械や装置)、医療専門家の養成と配置、等々によって左右されます。これらは、主には社会保障の内容をなしています。また。社会保障は、国民経済の重要な内容をなしています。こうした事情から、研究対象が社会保障・経済政策へと拡がりました。

2 人間の健康を考える
 医療の目標である人間の健康とは何であるかを自分なりに考察しました。動物一般とはちがう、人間固有の活動には、自然を変える労働、社会を変える社会的実践、そして、自分自身を変えていく自己変革・発達、そして、人生を楽しみ、人類の生みだした良き物を享受する−ドイツ語でいう「レーベンス・フロイデ」です−という四つの系の活動が含まれます。人間独自の活動に着目して、人間の健康を定義づけるならば、「健康とは、人間的諸活動、すなわち労働と社会的活動と発達と人生の楽しみの享受とを行いうる、身体的、精神的、社会的状態」とすることができるでしょう。健康の考察は、拙著『憲法がめざす幸せの条件 9条、25条と13条』(新日本出版社、2010年)に記述されています。

3 健康は個々人のもの
 労働と社会的活動と発達と人生の楽しみの享受と、という人間固有の活動を行うことができる、身体的、精神的、社会的状態を人間の健康ととらえました。よく考えてみると、働き方も、社会での活動の仕方も、能力や人格の発達にしても、人生の楽しみ方も、結局は個々人が決める「私らしさ」の内容ではないでしょうか。周知のように、封建時代には、個人よりも家、あるいは藩が重視されました。家のため、藩のために、個を殺すことが「道徳」として強制されました。
 人間の健康が実現するには、人びとが、できるだけ「私らしく生きる」ことを可能にする、社会的約束や、仕組みがなければ、不可能です。封建社会を否定して個々人の尊厳を権利とした市民革命は、人間の健康を実現する大きなきっかけになりました。市民革命が近代憲法を産み出しました。そこで、個人の尊厳が権利として承認されました。私は、医療、健康、社会保障を研究してきた結論として、憲法にたどり着きました。

4 「私らしく生きる権利」は憲法の核心
 最も根本的な日本社会の約束事である日本国憲法では、13条で幸福追求権を保障しています。この権利は、人格権とも言われます。「第13条 [個人の尊重と公共の福祉]「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」
 樋口陽一氏は、国際的に著名な憲法学者であり、9条の会の発起人である井上ひさし氏の高校の同期生であり、菅原文太氏の1年後輩です。ちなみに、私は、樋口氏の11年後輩です。3人とも憲法を守る仕事で重要な役割をはたした(はたしている)ことで知られています。樋口氏は、「近代憲法原理の本質的な要素である権利保障と権力分立は、さかのぼれば個人を構成要素とする近代社会の基本的構造を前提としている。日本国憲法13条前段による個人の尊重という原理の宣明は、その意味で、憲法のなかでもいちばん中心的な規定だといってよい」(『五訂 憲法入門』、勁草書房、2013年、58頁)と、13条の根本的意味を明快に記述しています。

5 13条を具体化する保障が社会保障(25条)
 社会保障は、生命、労働力、生業、および生活が成り立ち、それも現世代だけではなく次の世代、その次の世代でも成り立つような保障を総合的に行う仕組み、つまり総合的生活保障なのです。社会保障制度審議会(総理大臣の諮問機関)の「社会保障制度に関する勧告」(五〇年勧告)では、社会保障とは「すべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすること」であり、「このような生活保障の責任は国家にある」と明記していました。「生活保障」が社会保障であると記述しています。
 
 今年の2月に、『「私らしく生きる自由」と憲法・社会保障』という本を新日本出版社から出しました。憲法と社会保障は、結局のところ、人びとが、できるだけ「私らしく生きる」ことを可能にする、社会的約束であり、仕組みではないだろうか、というのが筆者の問題意識です。憲法が示す生存権保障としての社会保障を、健康で文化的な生活を保障する社会保障を再生させることが、憲法を無視し、立憲主義をないがしろにする権力に対抗する人びとの課題ではないでしょうか。


◆日野秀逸(ひの しゅういつ)さんのプロフィール

1945年、宮城県生まれ。医学博士。経済学博士。東北大学名誉教授
元日本医療福祉生活協同組合連合会副会長理事
労働運動総合研究所常任理事
東日本大震災復旧復興支援宮城県民センター代表世話人
一般社団法人地域医療・福祉研究所理事長

【著作】
『憲法がめざす幸せの条件 9条、25条と13条』(新日本出版社 2010年)
『「被災者目線」の復興論 東北の生活現場から考える』(新日本出版社 2011年)
『社会保障再生への改革提言 監修:労働運動総合研究所編』(新日本出版社 2013年)
『憲法を生かす社会保障へ 「いのち」への警鐘』(新日本出版社 2013年)
『憲法を学ぶ』(医療福祉生協連 2014年)
『社会保障を学ぶ』(医療福祉生協連 2014年)
『国の「地方創生」と社会保障の行方』(地域医療・福祉研究所 2015年)
『自分らしく生きるために 憲法と社会保障を学ぼう』(地域医療・福祉研究所 2015年)
「私らしく生きる自由」と憲法・社会保障』新日本出版社 2017年)




 



 
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