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「天皇の悲鳴」に書いたこと

2018年2月12日



谷内修三さん(詩人)

 2016年8月8日の天皇の「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」に私はびっくりした。そして「天皇の悲鳴」という本を書いた。
 私が驚いたのは三点。(1)天皇は「既に80を越え、幸いに健康であるとは申せ」と語った。「申す」は目下の人が目上の人につかうことばではないのか。(2)「思われます」「考えられます」と婉曲的な表現をつかっている部分もある。どうして「思います」「考えます」ではないのか。(3)「天皇は国政に関する権能を有しません」という内容を最初と最後で繰り返した。なぜ繰り返したのか。
 国民に寄り添い、ともに祈るという「象徴」を実践することばは胸に響いてくるが、この三点のことばで私はつまずいた。天皇は、何かを必死になって訴えようとしているのではないか。天皇が何を語ろうとしているのか、安倍首相のことば、政局の動きと結びつけながら考えてみた。

 「生前退位」問題を語るとき、安倍首相は「静かな環境」ということばをつかった。国会で審議するではなく専門家会議という「静かな環境」で道筋をつける、という具合に。天皇に精神的負担をかけないために、という理由をつけて。
 しかし、「静かな環境」というのは「沈黙の強要」であり、民主主義の否定だ。民主主義はどんな小さな声にも耳を傾ける(発言させる)というのが基本だ。「静かな環境」は様々な声を封印する口実になっている。天皇について国民が様々な意見をいうのは悪いことではない。批判が出てきても当然のことだろう。しかし、それを首相は封印した。
 国民を沈黙させるだけではない。矛先は天皇へも向けられた。17年の天皇の「新年のことば」は取りやめになった。高齢の天皇の負担にならないようにというのが表向きの理由だが、ほんとうは違う。15年には戦後70年の節目を意識し、「満州事変に始まる歴史から学ぶことは重要である」と語っている。再びこういうことを語られてはこまると思ったのだ。参院選で大勝した。憲法改正を進めるチャンスだ。いま天皇に「平和憲法を尊重する」という姿勢を示されては改憲が進めにくい。だから、そういう発言を封じようとした。
 「生前退位」が突然表に出てきた前後の状況を、そう読み直すことができる。

 その後の報道によると、天皇は譲位の意向を15年の誕生日に発表しようとした。しかし16年に衆参同日選を考えていた官邸は、選挙への影響を心配し、発表させなかった。天皇がいつ、何を言うかは官邸が操作していたことになる。
 天皇は「天皇は国政に関する権能を有しない」(憲法第4条)と繰り返した。第4条は、逆に読み直せば、国政は(内閣は)天皇を政治利用してはいけないになる。しかし、官邸は天皇の発言を操作している。そういうことを知らせるために、天皇はあえて不自然な「ことばづかい」をしたのではないのか。小さなことばづかいの奥には、天皇の悲鳴があるのだ。
 「生前退位」ということばが「皇室」発のものではないことは、皇后の誕生日の談話で明らかになった。皇后は「生前退位」ということばを聞いたことがないので、胸が痛んだと語った。すると、突然マスコミから「生前退位」ということばが消えた。「生前退位」ということばが官邸主導で発せられたことが露呈してしまうので、マスコミに圧力をかけ「生前退位」ということばを封印したのだ。これも「沈黙作戦」のひとつといえる。
 「憲法」について語ること、護憲の姿勢を国民に見せることを、天皇は「権能がない」という形で封印させられた。天皇さえ沈黙したのだから、国民も沈黙し、安倍の改憲案をそのまま承認しろというのだろう。そういう思惑が読み取れる。

 天皇の退位が19年4月30日、新天皇の即位が5月1日に決まった。1月1日は皇室行事がいっぱいで即位はむり、年度替わりの4月1日は官庁があわただしい上に統一地方選のさなかで政局がさわがしいという理由だ。ここでも「静かな環境」が前面に押し出されている。
 19年になれば、天皇の退位、即位を「静かな環境」で迎えるために「政争」は避けるべきだ。統一選の選挙運動は「自粛」すべきだという具合に展開されるだろう。政権批判を封じて選挙がおこなわれることになる。これも天皇の「政治利用」である。
 「静かな環境」から派生した「沈黙作戦」は多様な形で展開されている。森友・加計学園問題、首相に親しいジャーナリストのレイプ事件。首相批判につながることばは「封印」される。首相自身も語らない。語らないのに、語り尽くしたと主張する。憲法改正についても自民党は案を出している。国会での審議も、国民の間での議論も必要ないと政権は、発議、国民投票へと突っ走るだろう。
 「静かな環境」を「沈黙作戦」と言いなおして状況を見つめなおすとき、安倍首相の狙いがわかる。天皇のことばの「不自然な表現」の「意味」がわかる。天皇の悲鳴を聞き逃すと、次は国民が戦争に駆り出され、「御霊」にさせられる。悲鳴を上げることすらできなくなる。そういう状況が迫っている。

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◆谷内修三(やち しゅうそ)さんのプロフィール

詩人。1953年生まれ。ブログ「詩はどこにあるか」で詩の批評のほかに、映画や政治に関する感想を書いている。「天皇の悲鳴」はブログに書いたものをまとめたもの。他に「詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント」「憲法9条改正、これでいいのか」(以上ポエムピース)も。他に詩集「誤読」「註釈」「最上の愉悦」など多数。評論集「詩を読む詩をつかむ」「谷川俊太郎の『こころ』を読む」「リッツオス詩選集(附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む)」。松井久子監督「不思議なクニの憲法2018」に出演。
Yachisyuso@gmail.com



 



 
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