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「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか

2018年2月26日



平井美津子さん(大阪府公立中学校教員)

 日本軍「慰安婦」問題はもう終わったことなのでしょうか?2015年12月暮れも押し迫ったときに突然発表された日韓合意によって、日韓の間で解決をしたと思っている人も少なくありません。今年の1月、韓国のムンジェイン大統領が日韓合意を検証し、再交渉は求めないとしながらも、被害者中心の措置を模索するとしたことなどに対して、日本の多くのメディアが日韓合意の遵守をと報道し、世論調査においても8割を超す人々が韓国の姿勢に疑問を感じると答えています。私は昨年『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』を上梓しました。

◆原点は河野談話
 「慰安婦」の存在について、長い間日本政府は日本軍の責任などをあいまいにしてきましたが、「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」(いわゆる「河野談話」)によって、旧日本軍の直接あるいは間接の関与、意に反して集められたことを認め、心からお詫びと反省の気持ちを表しました。また、歴史の真実を回避せずに、歴史の教訓として直視し、歴史研究、歴史教育を通じて永く記憶にとどめることを表明しました。しかし、「河野談話」が発表されるや否や右派からの攻撃が起き、1997年にすべての中学校の歴史の教科書に「慰安婦」が記載されると、出版社に右翼が押し掛けるという事態も起きました。そういった動きの最前線にいたのが現在の安倍首相です。NHKで「慰安婦」問題の番組を作成しているときに局に乗り込み、番組の内容に介入したことをご存知の方も多いでしょう。歴史を否定しようとする人々は、「「慰安婦」は人さらいのように連れていかれたのではない」「「慰安婦」は商行為だった」などと主張し続けました。そして、今や「慰安婦」を記述している中学校歴史教科書は「学び舎」一社だけとなりました。
 そこまでして、「慰安婦」の真実を消し去りたいのはどうしてなのでしょか?歴史を否定する人々は「加害の事実を教えることは「自虐史観」であり、日本の国を愛せなくなる子どもを作ることにつながる」と言います。私が教えてきた子どもたちは、日本軍が過去にやったことよりも、日本の過去の事実を覆い隠そうとする動きや無理やり愛国心を持たせようとする動きの方が怖いと言いました。どの国の歴史にも正の面もあれば負の面もあります。そのことを両面から学ぶことこそ歴史を学んだことになるのではないでしょうか。日本のよかった点だけを知り、日本によるアジア諸国など加害の事実を知らなければ、自国中心の尊大な考え方につながっていくのではないかと危惧するのです。河野談話は以下のURLからアクセスできます。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

◆「慰安婦」問題の解決は私たちの責任
 沖縄では多くの女性が米軍による性被害の犠牲者となってきました。また、沖縄にもたくさんの慰安所がつくられました。「慰安婦」問題は沖縄の問題とつながっていると思います。暴力を正当化し、人を殺すことが任務の軍隊で、女性たちの人権が守られることはありません。アメリカの軍隊内においても女性兵士が男性兵士によって性暴力を受けているという実態も数多く報告されています。なぜ戦場で、なぜ兵士がいるところで、女性たちが性暴力を受けるのでしょうか。この問題を考えるうえでも「慰安婦」問題は重要な問題だと思います。
 女性たちが自ら性暴力を受けたことを表明することはとても残酷で、苦しいことです。「慰安婦」だった方々は長い沈黙の末に勇気をもって名乗りでました。自らの尊厳を取り戻したいという思い、二度とこういうことが起きないようにとの願いで自らも体験を話してきました。その「慰安婦」だった方々も高齢になり、亡くなる方も増えています。
 今を生きる私たちに直接の戦争責任はないかもしれません。しかし、戦後も続く戦争被害者の問題を解決するのは私たちではないでしょうか。被害者に面と向かって誠実な対応をしない政府に対して、被害者が納得する方法での謝罪と補償を求めるべきだと思います。インターネットなどで「慰安婦」と検索すると、口汚く被害者をののしり、韓国の人々を攻撃するような内容のものばかりです。書店に行くと嫌韓本が平積みされ、ヘイトをまき散らすような内容のものがあふれています。そんなフェイクニュースを信じ込む人たちも増えています。だからこそ、「慰安婦」の真実を否定し、貶めるような発言を繰り返す政治家や世論に対し、良識ある声を広げていく必要があると思います。
 
◆当事者性をもって
 性暴力は人格を破壊するほど恐ろしいものです。だから「魂の殺人」と呼ばれます。性暴力の残酷さの一つはセカンドレイプです。「そんな服装をしていたからだ」「夜遅くまで出歩いてるから」「一緒にお酒飲んでたら文句は言えない」などと、被害にあうには理由がある、被害にあうほうも悪いと言わんばかりの言葉が被害者にぶつけられます。本当に非難されるべきは加害者なのに、なぜ被害者がされなければならないのでしょう?「慰安婦」だった方々にも、「逃げようと思えば逃げれたはず」「金をもらってただろう」「いいものを食べさせてもらっていた」「人さらいのようにされたわけじゃない」などという心無い言葉がぶつけられ、挙句に「金が欲しいんだろう」とまで言われてきました。
 だからこそ、
 「あなたの娘なら」
 「あなたの妻なら」
 「あなたの恋人なら」
 「あなたなら」
 と考えてほしいのです。
 
 「慰安婦」問題の解決のためには、被害者の一人ひとりの個人としての尊厳を認めること、当事者性をもって考えることが必要だと思います。そして、日本政府が、過去に犯した過ちの事実を認め、その原因を突き止め、それを後世に残し、二度と同じ過ちを繰り返さないと内外ともに表明していくことこそ、日本が人権を尊重する国だと認められることにつながるのではないかと思います。その意味でも、今一度、河野談話に立ち返る必要を感じます。
 「慰安婦」問題を教えたり、「慰安婦」問題に取り組むと、「反日」と呼ばれます。日本の戦争における加害の行為を研究したり扱ったりすることが「反日」だ非難されることが少なくありません。今、日本政府は、「少女像」(正式名称は「平和の碑」)が韓国だけでなく、世界各地に建てられることを躍起になってやめさせようとしています。理由は「反日」的だから。
 過去の過ちから目を背け、日本のよかったところだけを見つめていくことが「愛国」なのでしょうか。偏狭な「愛国」心が再び国を誤った方向に導かないようにしていかなくてはならないと思います。

◆平井美津子(ひらい みつこ)さんのプロフィール

1960年生まれ。大阪府大阪市出身。立命館大学文学部史学科日本史学専攻卒業後、大阪府公立中学校教師。立命館大学非常勤講師。専門:アジア太平洋戦争下における日本軍「慰安婦」、沖縄戦。大阪歴史教育者協議会常任委員、子どもと教科書大阪ネット21事務局長。
主な編著書: 『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』(高文研)、『教育勅語と道徳教育 〜なぜ今なのか〜』(日本機関紙出版センター)、『原爆孤児「しあわせのうた」が聞こえる』(新日本出版社)、『近代日本 移民の歴史③太平洋〜南洋諸島・オーストラリア』、『シリーズ戦争孤児③沖縄の戦場孤児』、『シリーズ戦争孤児⑤原爆孤児』、『平和を考える戦争遺物④沖縄戦と米軍占領』、『シリーズ戦争遺跡②戦場となった島』(いずれも汐文社)など。



 



 
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