法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
憲法をめぐる動向
イベント情報
憲法関連裁判情報
シネマ・DE・憲法
憲法関連書籍・論文
今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

映画「やんばるの森」—私と高江と憲法と

2018年3月12日



古賀加奈子さん(映画監督)

私と高江

PDF
 高江に関わりだして、もう6年になる。そこは「やんばる」と呼ばれる沖縄本島北部、いわゆる米軍基地問題を抱える小さな集落。
 2012年、最初は「そこで何が起きているんだろう」という純粋な興味でカメラを持って足を運んだ。米軍北部訓練場を半分返す代わりに、高江集落を取り囲むように6つのヘリパッドを建設するという、ありえないような計画が進行中であった。問題の深刻さと、日常生活の中にある座り込みの抗議行動と、何より「おかしいものはおかしい」とまっすぐに異議申し立てする住民達の明るさが私の心を捉えた。
 それから住民の人たちと仲良くなって、「友達のために何かしたい」という気持ちで東京の仲間たちと支援活動を始めた。東京と沖縄を行ったり来たりする生活が始まった。
 2016年、全国から500名の機動隊が高江に派遣され、住民たちが10年間守っていた座り込みテントが強制撤去された。機動隊は連日県道70号線を規制し、資材搬入の度に通行止めになった。工事を阻止しようと座り込む人々はごぼう抜きで排除され、ダンプが通過する間、機動隊の人間の壁の中に監禁された。
 他人に無理やり何かを強要されたり、行動を制限されたり、身体を拘束されることは、こんなに腹立たしく屈辱的なものかと思った。高江に通いながら私は「沖縄」を知りたいと思っていた。しかしどんなに資料を調べても、歴史を学んでも、インターネットで検索しても、わからないことがある。それは自分の身体や存在が大事にされなかった時の「私」の気持ちであったのかもしれない。猛烈な怒りの感情に支配されている私自身もまた、東京の友人たちにはあまり理解されていないように感じた。その孤独感や、疎外感もまた「沖縄」がずっと感じ続けている感情なのかもしれない思った。
 瞬間風速最大級の嵐のような強行工事が進む高江は、森が切り開かれるのと同じ速度で人々の関係も切り裂かれていった。これがいわゆる分断というものか、と実際それが自分の身近で起きるつらさを味わった。
 ヘリパッドが完成すると、闘いの現場は工事が再開した辺野古に移った。辺野古の海には土砂が投入されはじめた。高江には完成した6つのヘリパッドが残され、オスプレイの訓練が激化した。子育て世帯の3家族が引越をして高江を去った。数か月後、高江でヘリの墜落事故が起きた。そんなことが起きないで欲しいと思っていたことが、どんどん現実になっていった。
 嵐の去った高江で私は茫然としながらも、この場所で起きたことを記録に残すこと、そして、ここに残された人々がどう生きていったらいいのだろうかということ、それを映画にしようと思った。息をするように回し続けた映像を繋ぐことで、バラバラになった関係を繋ぎなおすようなものを作りたいと思った。
 これが「私と高江」の6年間の物語である。

高江と憲法
 日本国憲法の三大原則は、国民主権、基本的人権の尊重、そして平和主義である。しかし、高江では住民が嫌だというのに、ごり押しで軍事施設が強制的に造られ運用されている。主権も人権も平和もないような感じがする。正に憲法番外地である。
 数年前、高江の人々に憲法前文を朗読してもらう、というショートムービーを作ったことがある。安倍政権による憲法改正が現実味を帯びた時期であった。その時、お願いすると「いいよ」と言って読んでくれる人もいれば拒否する人もいた。拒否した人のひとりは、プリントアウトされた憲法前文の原稿を読んで「こんな国があったら住んでみたい」と言って、原稿を私に返した。現状の憲法はすばらしく、改正されることが悪なのだと単純に思っていた私は、改正される以前の日本国憲法が持つ矛盾についてはじめて考えた。
 つまり、憲法9条が変わっても変わらなくても、当たり前のようにここに存在している広大な米軍基地は何なのか?という素朴な疑問である。戦力を保持しない、という私たちの現実についてである。
 日本国憲法と日米安保が両立しているのはそれほど絶対的なものなのか、自衛隊の存在をどう考えるのか。改憲か護憲か以前の、そもそもの私たちの国のあり方についての議論は、なぜかタブー感がつきまとう。
 沖縄では、そのタブーが家の目の前にあったり、上空を飛びまわっていたり、女性を暴行したり、土地が奪われたままだったり、返すのに条件をつけたりしている。安保が暮らしの中で目に見える。沖縄からはこの国の矛盾がよく見える。
 沖縄から見る日本国憲法は額に飾られた美しい絵画のようである。私たちの権利を定めた条文を、眺めることはできても機能していないのである。
 やんばるの森の上では日々米軍ヘリが機銃を構えて低空飛行訓練を行っており、森の中からは銃声が聞こえる。米軍基地があるが故の事件事故も後を絶たない。それを間近で見れば「日本は戦後70年平和だった」という言葉がむなしく感じる。その現実を辺境に押し込めておくかぎり、都市部の暮らしではあまり実感しないで済む。時々ニュースになる。数分触れて、次のニュースになる。「私」の家の隣に基地があることと、テレビやネットの中の情報として見ることは、まったく違う実感になる。
 米軍基地に囲まれて暮らす人々が読み上げる憲法前文を撮影してショートムービーは完成したが、その現実をどう考えるのか、という重い課題が私の中に残った。

映画「やんばるの森」
 その問いに再び向き合うべく、現在、私は長編ドキュメンタリーを製作中である。やんばるの森の奥で私が見たことを多くの人々と共有したい。思えばこの6年間、状況は過酷ではあったけれど、高江では様々な人々と出会い、多くのことを語り合ってきた。高江という場所は、なぜか人の心を開かせるような不思議な包容力がある。仲間同士でも、対峙する警察や工事業者や防衛局員や官僚であっても、私たちは直接会って様々なコミュニケーションを試みてきたように思う。映像はそういう記録でもある。
 完成したらぜひ多くの人に見て欲しい。そして映画をきっかけに様々な対話が生まれて欲しい。深淵なる溝に向き合うために「会って話す」という単純なことに立ち返ってみたいと思うのだ。
対話をあきらめないことが、戦争を抑止すると私は信じている。

ドキュメンタリー映画「やんばるの森」
監督・撮影・編集:古賀加奈子
製作協力:やんばるの森の映画をつくる会
2018年度 完成・公開予定/日本/ドキュメンタリー

【製作資金ご協力のお願い】
ドキュメンタリー映画『やんばるの森』製作資金のカンパを募集しています。
ご支援いただいた製作資金は、今後の取材・撮影、ポストプロダクション(編集・仕上作業)につかわせていただきます。
詳細は「やんばるの森の映画をつくる会」HPをご覧ください。

【お問合せ】
やんばるの森の映画をつくる会
E-mail: yanbaru.eiga@gmail.com
TEL:090‐4123-7191(渡辺 平日11:00‐18:00)
FAX:03-5829-9388

◆古賀加奈子(こが かなこ)さんのプロフィール

1977年東京生まれ。写真表現での作品制作を行っていたが、2011年3月11日の震災をきっかけに、インターネットでの映像配信をはじめる。反原発運動のデモやシンポジウムなどの撮影を行うなかで高江のオスプレイのヘリパッド問題に出会う。以後、映像制作会社で勤務する傍ら、沖縄に通い映像を撮りためる。「やんばるの森」は初監督作品。



 



 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]