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71回目の憲法誕生日に

2018年4月30日



藤井正希さん(群馬大学准教授)

 1947(昭和22)年5月3日に施行された日本国憲法は、人間で言えば古稀を過ぎ、今年の憲法誕生日(私は憲法記念日をこう呼んでいます)で満71歳になりました。誕生日、本当におめでとうございます。その間、大病をやみ手術を受けることもなく、元気で過ごすことができ、大変にうれしく思います。今後とも、健康に気をつけて、よりいっそうのご活躍を祈念いたします。本文を始めるにあたり、最初に御礼と敬意を表させて頂きます。
 このように生誕71年を迎えた日本国憲法は、現在、人生最大の危機に瀕しています。言うまでもなく、安倍晋三首相が主導する憲法改正のもくろみによってです。首相は今年の年頭記者会見において「憲法のあるべき姿を国民にしっかりと提示し、憲法改正に向けた国民的な議論を深めていく。そのような1年にしたい」と改憲への決意を述べました。そして、3月25日の自民党党大会においては、(1)自衛隊明記、(2)緊急事態条項創設、(3)教育充実、(4)参院選「合区」解消という、いわゆる自民党"改憲四項目"が示され、首相は演説で、特に(1)について「自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とう」と強く呼び掛けました。
 日本国憲法も"不磨の大典"ではないのですから、決して改正してはならない(あるいは、改正できない)というものではありません。憲法も社会の進歩や文化の発展、国民の規範意識の変化等により、適宜、修正する必要があることはもちろんです。だからこそ、憲法自ら改正手続(憲法96条)を定めているのです。この点、誤解がありますが、日本国憲法を未来永劫、一文字一句、変えてはならないなどと主張している憲法学者は皆無なのであり、ほとんどの憲法学者は多かれ少なかれ改憲を肯定しています。「憲法を時代の要請に対応して改正していくのは当然である」と考えているという意味では、筆者もれっきとした"改憲論者"なのです。しかし、"改憲論者"の私であっても、今回の安倍改憲だけは絶対に認める訳にはまいりません。その理由は枚挙に暇がありませんが、ここで根本的なところをいくつか指摘しておきたいと思います。
 まず、憲法は、国家の根本法であり、最高法規とされ、まさに"法のチャンピオン"です。また、国家の背骨であり、法体系の骨格であり、不可侵の基本的人権の保障であり、政治の根本原則でもあります。それゆえ、安易に改正してはいけないのであって、もし改正するならば手続に十分に時間をかけ、国民的議論を尽くし、国民的コンセンサスを得なければなりません。しかし、これまでのところ安倍改憲には、そのような国民的議論や国民的コンセンサスがまったくないばかりか、ほとんどの国民は憲法のどこがどのように改正されようとしているのかすら知らない状態なのです。それなのに、"2020年新憲法施行"と期限を区切り、短時間で改憲を強行しようとしています。あまりに時間がなさ過ぎます。そのように改憲を急がなければならない理由がまったく分かりません。安倍首相の個人的な野心や功名心のためとすら疑ってしまいます(下衆の勘ぐりかもしれませんが・・・)。このように、安倍改憲は手続き的にきわめて問題があると言わざるをえません。
 また、ある高名な憲法学者もおっしゃっておりましたが、もし憲法改正が必要であるとしても、それを「いつ、誰に、どのような政治状況でやらせるか」は、まったく別問題なのです。「今の憲法は、法律の素人が8日間でつくって、占領軍により押しつけられたものだから、こんな憲法はさっさと変えなければダメだ」というような趣旨の発言をしている安倍首相に改憲をさせて、良い憲法になるはずはありません。憲法はそれほど軽いものではないのです。戦後の日本の平和と繁栄は、間違いなく日本国憲法のおかげであり、日本国憲法は世界に誇れる素晴らしい憲法です。憲法を改正するならば、少なくともそのような憲法観にたつ人に任せなければなりません。憲法の価値とは人間の価値と同様に、「出自」ではなく、「中身」によって判断されるべきなのです。しかも安倍首相の改憲を支持する勢力の中には、「日本国憲法よりも明治憲法の方が良かった」などと主張するような勢力も少なからず存在しているようです。そのような価値観は狂気の沙汰であり、そのような勢力に憲法をいじらせては絶対になりません。
 さらに、2012年に公表された自民党改憲草案を見る限り、安倍改憲は前述の四項目の改憲のみで終わるはずがありません。実際に、自民党の内部で"二段階改憲論"が議論されていることが報道されており、それを公言する有力な自民党議員もいました。まずは、とにかく"お試し改憲"を一回やりましょう。一回やれば、国民の憲法改正に対するアレルギーがかなり軽減される。その後になし崩し的にどんどん改憲してしまえばいい。そういう"悪だくみ"が見え見えです。憲法によって権力者に課せられた縛り(立憲主義)を緩める方向で、また、憲法で保障された国民の自由・権利(人権保障)を切り下げる方向で憲法改悪をもくろんでいるのが自民党改憲草案です。そのような改憲をやっている先進国はどこにもありません。すべての国民にそのことを認識してほしいと思います。それを考えるならば、ますます安倍改憲には反対せざるをえないのです。
 つぎに、安倍首相がもっとも力を入れている改憲項目である「自衛隊の明記」について一言しておきたいと思います。安倍首相は、具体的には「自衛隊は違憲である」との疑義や論争が行なわれる余地をなくすために、憲法に「必要最小限度の実力組織である自衛隊の保持を妨げない」との文言を書き込むべき旨を主張しています。しかし、安倍首相の言うように自衛隊を憲法に書き込んでも、安倍首相の言う通りにはならず、決して疑義論争は終結しないのです。なぜなら、単に憲法に自衛隊を書き込んでも、「自衛隊の権限と限界」はすべて解釈に委ねられてしまいます。安倍首相であっても、自衛隊が侵略戦争までやっていいとは考えないのでしょうから、どの程度の規模や行為までが合憲なのかの解釈(例えば、自衛隊は集団的自衛権を行使しうるか)については、依然として疑義論争が続いてしまうのです。また、一般論として自衛隊の存在を合憲と見なしても、現実に存在する自衛隊が合憲かどうかは、まったく別問題です。筆者は、専守防衛に徹する自衛隊であれば、日本国憲法上、合憲という立場ですが、現実に存在する自衛隊はあまりに規模が大き過ぎ、専守防衛の範囲を超え、違憲と考えています。安倍改憲でも、そのような疑義論争が生じうる点は何ら今と変わらないのです。
 また、安倍首相は、「自衛隊を憲法に書き込んでも、現実の自衛隊には何の変化もない」とも述べていますが、これも違うと思います。自衛隊を憲法に書き込んだなら、確実に状況は変わります。安倍首相がやりたいことが、ますますやりやすくなり、自衛隊員に対する危険は格段に増します。というのも、安倍首相は、憲法に自衛隊の規定がない現在でさえ、どんどん憲法を拡大解釈して、集団的自衛権の行使や駆けつけ警護等、自衛隊に武力行使をさせるような方向に突き進んでいるのだから、憲法に自衛隊を明記すれば、「憲法に書いたのだから使ってもいいだろう」と、ますます憲法の平和主義がなし崩し的に破壊されていく方向にむかうのは火を見るより明らかです。むしろ安倍首相の真の意図は、それをやりたいからこそ憲法に自衛隊を書き込もうとしているようにさえ思われます。自民党の憲法改正草案にかんがみるならば、自民党が目指しているのは、自衛隊を将来、国連軍にも参加できるようなフルスペックの軍隊にすることであるのは間違いありません。ですが、これは絶対に許してはなりません。それを許すことはまさに日本国憲法の死を意味するに他なりません。
 そもそも護憲派と改憲派とが対立し、ケンカをする必要はまったくありません。どちらの立場にたっても、安倍改憲ではダメということは明白なのです。"憲法改悪につながる安倍改憲は断固阻止!"という一点で、護憲派と改憲派とが一致団結し、連帯するべきです。そして、その後、両者が十分に時間をかけた熟議をつくし、憲法改正の必要性を考えましょう。まずは、すべての国民が憲法を読み、学び、あるべき憲法を考える必要があります。家庭でも、学校でも、職場でも、地域社会でも、みんなで憲法を語り合いましょう。もしそのような十分に時間をかけた国民的議論の末、国民的コンセンサスが得られたならば、時の政府や国会は憲法改正に躊躇する必要はありません。国民主権の憲法である以上、憲法改正のイニシアティブは国民が持つべきであり、そうでなければ憲法改正をすべきではないし、してはならないのです。党利党略や私利私欲にもとづく憲法改正は絶対にあってはならないのです。

◆藤井正希(ふじい まさき)さんのプロフィール

出身地: 群馬県
最終学歴/学位: 早稲田大学大学院法学研究科/修士(法学)
早稲田大学大学院社会科学研究科/博士(学術)
所属学会: 日本公法学会、全国憲法研究会、憲法理論研究会、社会情報学会
専門分野: 憲法学
著書:『法学・憲法への招待』(敬文堂)(共著)、『マスメディア規制の憲法理論』(敬文堂)(単著)





 
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