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大学にとって「2018年問題」とは何か

2018年5月14日



橋口昌治さん(ユニオンぼちぼち)

 有期雇用労働者に依存してきた大学が「2018年問題」をめぐって揺れている。
 有期雇用契約とは、1年や6ヶ月など、あらかじめ働く期間を決めておく雇用契約で、非常勤講師や研究員、非正規職員など、大学では多くの有期雇用労働者が働いている。決められた期間が迫ってきたら更新されるのか更新されないのかが伝えられ、無事更新されたら次の期間も働くことになる。一方、雇用期間を決めずに(実際は定年まで)働く無期雇用の教員や職員もいる。本来、有期雇用契約は季節などの事情があって短い期間しか仕事がないときに結ばれるべきものだが、契約を更新しないということで辞めさせやすいため(いわゆる雇い止め)、多くの職場で安易に結ばれてきた。大学も、講義などの仕事が次年度以降も存在することが分かっている場合であっても、有期雇用労働者を雇い、辞めさせるということを繰り返してきた。
 有期雇用労働者は、次の更新があるかどうか常に不安を感じて働かないといけないため、どうしても弱い立場に置かれることになる。もちろん生活も不安定になる。また非正規労働者として、正規労働者にはある昇給がない場合がほとんどで、長年更新が繰り返され、大学にとって欠くことのできない存在になっていたとしても、その能力が評価されず低賃金のままということがある。ちなみに労働相談の現場などでは、無期雇用、直接雇用、フルタイムの3つの条件を満たした働き方を正規雇用(正社員)に分類し、1つでも欠けていたら非正規雇用に分類する。つまり、後述する無期転換によって有期雇用が無期雇用になったからといって「正社員」になるわけではない。そして大学には派遣労働者や請負労働者などの間接雇用で働く労働者も多くおり、大学は「多様な労働者」を最も「活用」している事業所と言える。
 その大学にとって、2013年4月に施行された労働契約法によって、有期雇用が通算で5年を超えて繰り返し更新された労働者に無期雇用に切り替えられる権利(無期転換権)が与えられるようになることは、大きな問題であった。厚生労働省のパンフレットが「このルールは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的としています」と述べているように、これまで毎回更新されるかどうか不安に思ってきた労働者にとって、無期雇用になる安心感は大きい。一方、いつでも辞めさせられるという安心感を失う大学の経営者にとっては大問題なのであった。5年目の2018年4月をどう迎えるかという「2018年問題」は、経営者の問題であって労働者の問題ではなかった。
 では大学は2018年をどのように迎えようとしたのであろうか。はじめから無期転換を受け入れた大学も多いが(人手不足の中、無期転換、正社員化を進める一般企業も多い)、更新回数の上限を5年にしたり2018年3月に雇い止めをしたりして、労働者が無期転換権を持てないようにしようと試みた大学も多かった。例えば早稲田大学は、非常勤講師、客員教員の雇用契約期間の上限を通算5年にすることなどを盛り込んだ就業規則を一方的に作成しようとした。「一方的に」とはどういうことだろうか。労働基準法は、常時10人以上を雇う使用者(経営者)は、労働時間や賃金に関する職場のルールを定めた就業規則を作成しなければならないとしており、その作成・変更をするときは、労働者代表の意見を聴かないといけないとしている。労働者の代表とは、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」である(第90条)。早稲田大学には、非正規労働者を含む労働者の過半数が加入している組合がないため、労働者代表選出選挙をして過半数代表を選ぶ必要があった。それを大学は2月に行ったと主張したが、2月は非常勤講師が大学に来ない時期であり、だまし討ちの選挙と言えた。それに対して首都圏大学非常勤講師組合は労働基準法違反で刑事告発をし、最終的に「不起訴不当」という判断が出たため、大学も「5年雇い止め」を撤回することになった。
 東京大学も、「5年雇い止め」を実施するなどして無期転換を阻止しようとしたが、過半数代表を適切な方法で選んでいなかったため手続きの違法性が指摘され、雇い止めを撤回した(過半数代表は、残業・休日労働を可能にする労使協定(三六協定)を結ぶ主体であり、その違法性が認められれば東大は残業・休日労働を命じることができなくなっていた)。一方、東北大学や日本大学は様々な問題点が指摘され続けたにもかかわらず雇い止めを強行したため、労働者の闘いは続いている。
 筆者が交渉してきた立命館大学は、2013年4月に雇用関係のあった非常勤講師が契約を更新されて2018年度を迎えた場合、申請があれば無期転換するとした一方で、2016年度以降は新たに「非常勤講師」を雇わず、5年で雇い止めとなる「授業担当講師」を雇い、講義を担当させるとした。導入前の団体交渉で、非常勤講師と「授業担当講師」の仕事の内容は同じであり、それで5年雇い止めにすることは不利益変更ではないかと問いただしたが、「異なる制度なので不利益変更ではない」というのが大学の返答であった。また「なぜ5年で雇い止めになるのか」という問いに対して「おおむね5年でカリキュラム改変を行うからだ」と答えたので「カリキュラム改変は必ず5年で行われるわけではないし、雇い止めは改変とは関係なく毎年行われるのだから5年で雇い止めする合理的な根拠にはならない」と反論したが、現在に至るも大学は「5年」の合理的な説明ができていない。そして「授業担当講師就業規則」第9条に「法人に期間の定めのある契約により雇用されていた者の雇用期間と締結しようとする授業担当講師としての雇用期間を通算した期間が5年を超えるとき」に雇い止めを行うという規定があったため、2016年度から5年を待たずして2018年3月末の雇い止めを通告される労働者が出てしまった。
 ユニオンぼちぼちと関西圏大学非常勤講師組合には、専門研究員と兼業扱いになっていた非常勤講師が専門研究員終了時点で説明もなく授業担当講師に切り替えられ、専門研究員と授業担当講師を合算して雇い止めを通告された労働者から相談が寄せられた。相談者のほとんどが寝耳に水で、なかには次年度の依頼を一度受けたあとに取り消された事例もあった(つまり教職員の間でも徹底されておらず、混乱があったのである)。
 他大学と同様、就業規則の作成過程に問題があると考えたので、私たちも労働基準監督署に労基法違反の申告を行った。立命館大学は、他大学と異なり、非常勤講師や学生アルバイトなども含む直接雇用されている労働者全員を有権者とする労働者代表選出選挙を行ってきたが、投票率が過半数に達していないので過半数代表ではないと主張した。これを労基署も認め、2018年1月30日に学校法人立命館を指導した。そして2017年度末に行われた団交で、大学も雇い止めを撤回したが、「授業担当講師」の廃止は認めなかったので、今年度も交渉を続けていく予定である。
 最後に、「2018年問題」への対応を通じて見えてきた大学の現状について考えたい。各大学が、法学部を擁し、そこで労働法も教えているにもかかわらず、遵法意識の欠如した対応をした背景には、やはり予算が減らされ続け、先行きが見えないことがあるのであろう。しかし、そのことによって大学は免罪されないと考える。例えば、無期転換をしても必ずしも賃金を上げる必要はなく、辞めさせても新たな人を雇わなければならないのだから、人件費は変化しないはずである。むしろ新たな人を探したり、仕事を覚えてもらったりするコストが増えると考えられ、大量の雇い止めを繰り返していくことは合理的と言い難い。そして何よりも、大学の抱えているリスクを、弱い立場にある労働者に一方的に押し付けて恥じないところに問題がある。理事や専任教員は高給を得ながら、違法・脱法行為によって低賃金の労働者を使い捨て続けているような大学が社会から信頼され続けることは不可能だろうし、そのような大学は利己的で統治能力の欠いた存在として、社会から批判を浴びることになるだろう。そのことで誰が得をし、どれだけの損害を社会に与えるのか、大学関係者は(政財界や文科省ばかり批判するだけでなく)考える必要があるのではないだろうか。その上で、やはり大学は非正規労働者の待遇改善に本気で取り組んでいくべきである。
 今回の「2018年問題」をめぐる混乱の中で、専任の教職員組合と非正規労働者の組合の協力関係がいくつかの大学で見られたこと、これまでにないほど労働者代表選出選挙に焦点が当てられたことは、非正規労働者の待遇改善と大学という職場における民主主義の発展において重要な意味を持っている。日本大学経済学部の労働者代表選挙では、専任教員と非常勤講師が候補を一本化し信任されるという画期的な出来事もあった。「2018年問題」が、大学にとって数多くある問題の一つとして記憶されるのか、再生に向けた転機の一つになるのか。後者になるように、今後も各労組と連帯しながら交渉を続けていきたい。

【参考資料】
■田中圭太郎
「早稲田大学で起こった「非常勤講師雇い止め紛争」その内幕 悲鳴を上げる大学雇用」
「東京大学で起こった、非常勤職員の「雇い止め争議」その内幕」
「東京大学がついに「雇い止め撤回」を決めた、二つの事情」
「東大、東北大…国立大学で進む「雇用崩落」の大問題」
「日大が英語講師15人を集団解雇する事情 外部の語学学校に「丸投げ」か」
河北新報「<東北大雇い止め>東北18国公立大の無期雇用転換ルール 東北大のみ実施せず」
ユニオンぼちぼち「立命館関連のまとめ(2015年9月25日〜2018年2月16日)」
 

◆橋口昌治(はしぐち しょうじ)さんのプロフィール

大学生の就職、若者の雇用問題と労働問題を研究し、論文を多数発表している。
単著に『若者の労働運動−「働かせろ」と「働かないぞ」の社会学』(生活書院)
共著に『税を直す』(青土社)
『<働く>ときの完全装備−15歳から学ぶ労働者の権利』(解放出版社)
などがある。

関西非正規等労働組合・ユニオンぼちぼち 
公正な社会の実現を求めるAEQUITAS KYOTO 
の活動などにも関わっている。





 
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