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こども食堂の現状と課題

2018年5月21日



湯浅 誠さん(社会活動家・法政大学教授)

 「こども食堂」は、憲法何条に位置づけられるのだろう?専門家の方たちに教えていただきたい。

 こども食堂の運営者は、少なからず、子どもの貧困問題と出会ったことで、こども食堂をスタートさせている。
 こども食堂の「名づけ親」とされる東京・大田区「だんだん」の近藤博子さんは、知り合いの小学校副校長に「うちの学校に、給食以外は一日バナナ一本だけという子がいる」という話を聞いて、こども食堂を思い立った。こうした見聞がきっかけになっている運営者は多い。その意味では、生存権を規定した憲法25条に基づく活動と言えるかもしれない。

 しかし、いざ始めようとしてみると、どの子が経済的に厳しい家庭の子かわからないし、何よりも「貧困家庭の子を集めてご飯をたべさせるところ」だと、子どもたち自身が行きづらいことに気づく。そのため、8割のこども食堂は「どなたでもどうぞ」と地域に開かれた形で運営している。子どもも限定されないし、大人も誰でもいい。実態としては、ほとんどのこども食堂は地域の交流拠点である。その意味では「自治会の子ども会の現代版」という風情がある。地域によっては、学校や家庭以外で、夏の流しそうめんだの、冬のクリスマスや餅つきだのをできる数少ない社会資源になっているというところもあるだろう。その意味では、こども食堂は地域コミュニティづくり(共生の地域づくり)の話でもあるのだが、これは立憲主義的な憲法に位置づけを見出すのは難しいだろうか。

 こども食堂が提供するのは「食事(カロリー)」だけではない。政府の所管で言うと、内閣府は子どもの貧困問題の文脈でこども食堂を見ているが、農水省は「団らんの提供」などを通じて食育により大きな価値を見出している。厚労省は子育て支援の文脈だ。
 いずれにも共通するのが、こども食堂の「居場所」としての機能だろうか。「居場所」とは、(1)衣食住や知識の提供、(2)体験の提供、(3)かまってもらう時間の提供、(4)トラブル対応(生活支援)という4つの機能を併せ持つ場所だと、私は考えている。従来、家庭がそれらすべてを十全に提供できることが望ましいし、またそうすべきだと考えられてきた。そしてぎりぎりまで家庭責任でがんばってもらうが、いよいよ無理で、それが子どもの生命・身体の安全のレベルまで脅かすようになれば、公権力が強制的に親権を停止・はく奪し、子どもを丸ごと保護する。これが社会的養護の領域だ。
 しかし現実には「社会的養護まではいかないが、家庭でも十全とは言えない」という子どもが多数存在する。社会的養護の推進に懸命に取り組んできた児童養護施設スタッフが、ふと気づいてみると施設の子より地域の子の中により厳しい状態が散見されることを発見して驚く、といった話もあまり珍しくなくなってきた。要件を厳しく絞り込む代わりに生活を丸抱えというのは生活保護などにも共通する制度枠組みだが、それが一種の「逆転現象」を引き起こしている。
 だから財政規模を今の数倍〜数十倍に引き上げるべきだという主張もあるが、現場の実践者としては「待ってられないから、今できることから着手する」ことになる。とりわけ子どもに関する領域はそうだ。子どもの成長は速く、乳幼児期、保育園・幼稚園、小学校、学童、児童館、中学校……と次々とステージが変遷していくので、とにかく「できることを、できる人が、できることから」の持ち寄り精神が重要になる。
 結果として、こども食堂(と名乗るかどうかはともかくとして、そのような居場所機能をもつ場所)が広がり、家庭的養護と社会的養護の間に「地域的養護」とでも呼ぶべき領域ができつつある、と私は感じている。これなどは、子どもの健全育成という点で、強いていえば憲法13条ということになるだろうか。

 学力の問題も見逃せない。
 経済的に厳しくてもそうでなくても、課題を抱えた家庭はあり、そこでは基礎的な生活体験が不足している場合がある(②体験の提供が重要なゆえんだ)。たとえば「包丁って何?」と聞いてきた小学5年生がいる。上手に使えないとか見たことがないというレベルではなく、包丁についてのイメージがない。しかし教科書は「包丁を知っている」ことを前提に書かれている。当然、その子は教科書の記述に対応する現実をイメージできず、勉強が嫌いになっていくだろう。生活体験は学力とは別問題と考えられがちだが、生活と学力は一体だ。
 これも狭義の教育とは異なる、むしろ教育を補完する生活体験、しかも家庭を補完する地域の役割という文脈だから、あまり憲法にはなじまないかもしれない。

 これらがこども食堂が地域や社会で果たしている役割(の一部)だが、課題もある。
 私たちは今「こども食堂安心・安全プロジェクト」というプロジェクトを実施し、クラウドファンディング等で寄付集めを行っている。読者のみなさんにもぜひご協力いただけるとうれしいが(情報は末尾記載)、これは全国200か所のこども食堂の保険加入費用を集めるものだ。
 こども食堂は子どもの貧困対策と地域交流拠点の二本柱で運営されており、すべての子にアクセス可能なことが望ましい。だが、まだまだ「特別な人たちがやっている特別な場所」とのイメージが強く、「自分が行っていい場所」と思えない人が大多数だ。地域の理解が伴わなければ子どもは行きづらく、そして地域の理解は「安心・安全」が担保されないと難しい。
 そこで私たちは、地域の安心感を醸成するためにも、こども食堂がケガや食中毒に広く対応できる保険に加入することが重要だと考えている。すでに加入しているこども食堂も少なくないが、毎回の運営に手いっぱいで、そこまで手が回っていないこども食堂も現実に存在するためだ。
 2年で7倍に増え、全国に少なくとも2300か所が確認されているこども食堂に対する社会的注目は高い。それゆえ「万が一」が起こったときの負のインパクトも容易に想像される。「万が一」が起こる前に、自分たちで態勢を整えることが必要で、それが地域の安心感を醸成し、ボランティアや寄付者・協力者の増加をもたらし、現場の安定的な運営にも寄与していくものと考えている。
 これは、憲法25条2項の公衆衛生の課題に関係するのだろう。

 憲法との関係を意識しながら、ざっとこども食堂の現状と課題を概観してきたが、改めて憲法との関係を考えてみて思うのは、社会権規定のあり方だ。家庭や地域などの民間活動に公権力が直接かつ過度に介入することにリスクが伴うことは言うまでもないが、「支えあいの地域づくり」を間接的に応援するような政府の役割は、憲法に関係するのかしないのか、関係すべきなのかすべきでないのか。機会があれば、専門家の知見をうかがえるとうれしい。

【募金情報】
全国のこども食堂を安心・安全な場所に こども食堂の保険加入をすすめたい!(キャンプファイヤー)
全国のこども食堂を安心・安全な場所に(Yahoo!ネット募金)
※「こども食堂 安心安全」で検索
・銀行口座振込
銀行名:滋賀銀行
支店名:瀬田駅前支店
口座番号:普通503093
口座名義:こども食堂安心・安全向上委員会 代表 湯浅誠
※銀行振込でご寄付をいただける場合は、メールもしくはFAXで、名前、住所、電話番号を教えてください。(ご連絡をいただけない場合は領収書が発行できませんのでよろしくお願いします)
 メール: kodomo-anshin@shigashakyo.jp
 FAX : 077-567-5160

◆湯浅 誠(ゆあさ まこと)さんのプロフィール

社会活動家。法政大学教授。
1969年東京都生まれ。東京大学法学部卒。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。1990年代よりホームレス支援に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。

著書に、『「なんとかする」子どもの貧困』(角川新書、2017年)、『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日新聞出版、2012年)、『反貧困』(岩波新書、2008年、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)、『貧困についてとことん考えてみた』(茂木健一郎と共著、NHK出版、2010年)など多数。

ヤフーニュース個人に連載中の「1ミリでも進める子どもの貧困対策」で「オーサーアワード2016」受賞、法政大学の教育実践で「学生が選ぶベストティーチャー」を2年連続で受賞。他に日本弁護士連合会市民会議委員、NHK第一ラジオ「マイあさラジオ」、文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」レギュラーコメンテーターなど。





 
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