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「少年法適用年齢の引き下げは必要か?−年長少年に与える影響

2018年6月4日



小関慶太さん(八洲学園大学専任講師)

はじめに
 2018年3月13日、民法成人年齢引き下げ(20歳→18歳)が閣議決定され、5月25日衆議院法務委員会で賛成多数で可決されました。付則では、未成年者飲酒禁止法や喫煙禁止法、競馬などの公営のギャンブルなどはこれまでどおり20歳未満は禁止とします。一方、親などの同意なしにローンやクレジットカードの契約を可能とする年齢制限は18歳よりと、関連する22法令の改正が進められます。
 また刑法等の特別法と解されている現行少年法(以下「少年法」)も年齢区分を定めています。年齢範囲を引き下げるか否かの議論のきっかけは、国民投票法第3条で投票権者の年齢を18歳以上とした上で、公職選挙法や民法その他の法令の規定を検討する(附則第3条1項)ように求められました。その後、2009年7月に法制審議会民法成年年齢部会が最終報告書で「民法における成人年齢の18歳へ引下げ」を提案した経緯がうかがえます。
 少年法年齢引き下げにあたっては、少年(子ども)たちの特異性、特殊性からではなく、国法上の統一や法的整合性から語られることが多くあります。本稿では、史的な側面から年齢の動向、少年にとっての不利益性、年齢引き下げが年長少年に与える影響について考えていきます。

年齢を巡る取組の歴史
 少年法の思想として刑罰とは独立した教育的な処遇を行うという考え方は、明治10年代に民間篤志家の活動としてスタートしました。江戸時代以前に関しても少年に対しては成人と異なる処遇が行われていました。例えば「旧記集要集 一」、「公事方御定書79条」などがあげられます。
 1886年に感化院創設(1900年に感化法)、1899年に留岡幸助が東京家庭学校を創設しました。1907年(明治40年)に現行刑法(以下「刑法」)が制定されました。翌年には監獄法が成立しました。また旧刑法では、12歳未満を絶対的責任無能力、12歳以上16歳未満を相対的責任能力として個別の責任判断をしてきました。これに対して、刑法では刑事未成年者の上限を14歳以上と引き上げました。また懲治場が廃止、旧刑法に定められていた刑の軽減制度の廃止により、18歳未満とそれ以上のものを監獄において分界処遇をしなければならなくなりました。これにより少年に対して教育というよりも刑罰傾向が強くなりました。これを受けて感化法の改正を行い、感化院の在院者の年齢制限を16歳から18歳に引き上げました。また14歳未満(刑事未成年者/触法少年)も感化院で教育が可能となりました。1922年(大正11年)に大正少年法(以下「旧法」)が成立し、保護処分制度が体系化され、その背景には以上の経緯がありました。
 第二次世界大戦(太平洋戦争)後、日本は民主化され日本国憲法が制定されました。これに伴い、少年法も全面的に改正されました。この背景には、戦後混乱期の少年非行及び犯罪の激増に対応しなければならなくなったことがあります。改正された少年法は(1)法の目的を「少年の健全育成」、(2)少年法適用年齢を「18歳未満から20歳未満へ引き上げ」、(3)死刑や無期懲役刑を科す際に「犯行時18歳以上」と必要的緩和刑とし、(4)家庭裁判所の職権に基づく専属的な少年審判の運営、家庭裁判所調査官による科学主義に基づく調査⑤全件家庭裁判所送致主義、家庭裁判所先議権により保護優先主義を採用しつつも、刑事処分や福祉的措置への振り分けを可能とした等、個々の少年に必要な処遇を行うことが出来るようになりました。

子どもにとっての「不利益とは」
 年齢引き上げに関しては、国民投票法や公職選挙法が18歳以上としている点により国法上の統一を求める動きもあります。しかしながら、我が国も選挙権や参政権に関しては一部の諸外国のように参加しなければ何らかの制裁が課せられる制度を採用しているわけではありません。権利を付与しているがそれに対する義務が発生するわけではありません。あくまでも形式的なものにしかすぎません。
 これに対して、少年法の年齢引き下げでは従来20歳未満が対象であったが引き下げによって18歳未満になることで年長少年(18〜19歳)の若者に対して少年法の理念に基づいた処遇が行われないという不利益が生じることになります。本来であれば家庭裁判所を経て、少年院へ送致される事案が、刑事手続きにおいて起訴便宜主義に基づき起訴猶予になった場合でも、可塑性の高い少年、物事の善悪の判断が経験不足で十分ではない少年を社会で放置することは不利益になります。なかには、少年院という名の施設に収容するより、社会で揉まれ様々な経験をすることで、改善・更生の道もあるのではないかと考えることが出来ないわけではありません。もちろん、1つの手段としては可能なのかもしれません。しかし、第三者の助言や指導がなければ気がつかないこと、改善されないこともあります。少年非行をやってしまった者は、自分自身で心の闇にある問題を解決することが出来ず、逸脱行動や違法行為に手を染めたと考えると、少年院に送致すること等の保護処分が少年自身にとって不利益にはならないのではないでしょうか。年長少年の目には見えないSOSをキャッチして健全な社会人に育成することこそが大切なことになります。

年長少年の非行状況(検挙人員)





図表は、法務省『平成29年版 犯罪白書』Excelファイルより加工
(最終閲覧日:2018年5月25日)

 少年非行者の検挙人員(図表1)は、第三のピークといわれている1983年(昭和58年)前後や第四のピークといわれている1998年(平成10年)前後を比較すると2016年(平成28年)は40,103人であり、昨今少子高齢化社会といわれ子どもの数が減っている以上に少年非行は減少傾向にあります。この背景に対しては、少年非行に魅力がなくなった点や子どもたちの活動の場が屋外から屋内へ、リアルからバーチャルの世界へ変容している点が挙げられます。どこに刺激を求めて行くか、その刺激は「非行」「犯罪」という形ではなく、得ることが可能となっている点が逸脱や違法行為を減らしている要因と考えられます。
 次に少年の属性別刑法犯(図表2-1)は、昨今「少年非行の低年齢化」といわれているがこれは一定の地域の問題です。全体的にみると第三のピーク時前後に比べると、触法少年は67,906人(1981年)が8,587人(2016年)に、年少少年は110,433人(1983年)が11,162人(2016年)と激減しています。年長少年は、45,900人(1966年)をピークに3年ほど40,000人台であったが1971年から2007年にかけて20,000人台を減少し、2008年には10,000人台を2015年には10,000人台をきり8,582人(2016年)となっています。図表2-2では、年少・中間少年と年長少年の状況を示しました。2006年前後より年少・中間少年は、激減傾向にあります。
 刑法は行為規範や社会規範に位置付けられています。刑罰には一般の人に犯罪行為をさせない一般予防の効果があるのに対して、少年法にも子どもたちに対して「人に迷惑をかける間違った行動をしてはなりません」といった効果や処遇面で再び非行をしない教育が成功しているといえるのではないでしょうか。
 年齢を引き下げた場合、年長少年は少年保護手続きから成人と同様の刑事手続きに移行されます。1966年から今日までの約50年かけて非行者を減らしてきた努力も水の泡になりかねません。

年齢引き下げによる危惧される点
 我が国の犯罪は全体的に見ても減少傾向にあります。特に少年非行は、急激に減少しています。その背景には、非行に魅力がなくなった点、損得勘定で非行を考えた際に得より損が多い点、少年に対する保護主義の成功性等が挙げられます。このような中で年齢引き下げを行うことが、年長少年や将来的には年中(中間)少年、年少少年、触法少年にどのような影響を与えるのかについて考えてみたく思います。

第一に、家庭裁判所の職権に基づく科学的な視点から調査票の採用の可否
 少年法は、家庭裁判所が受理した少年事件につき、当該少年にどのような保護が必要かを裁判官(審判官)が判断するための、調査を行うにあたり、医学、心理学、教育学、社会学といった経験諸科学の活用を求めています(法9条)。少年が検察官へ送致された場合(刑事処分)の刑事裁判にも影響を及ぼすとしています(法50条)。とはいえ、裁判員が裁判する少年刑事裁判として扱われた石巻事件(2010)では、調査結果が十分に議論されなかったという批判もあります。
 少年審判は非公開(法22条2項)に対して刑事裁判は公開(憲法82条)の法廷で行われます。また裁判員制度の対象になります。公判前手続により証拠の採用が制限されます。特に調査票は、口頭主義の裁判員制度での扱いを考えるのであれば、少年にとっては、必要不可欠な証拠にも関わらず軽く扱われてしまいます。
 年齢引き下げに伴い、法50条で刑事事件の審理にあたっても科学主義(法9条)の趣旨に従って、少年の成長発達権を十全に保障しつつ少年の健全育成を図るとともに自律的な非行克服へ繋げて行くことができなくなってしまう危惧があります。少年法の理念がどこまで及ぶのでしょうか。
 
第二に、年長少年を刑事手続きの対象とした際の問題点
 成人の起訴・不起訴状況(図表3)と少年の家庭裁判所段階(図表4)の不処分、検察段階の不起訴・中止(図表5)について見ていきます。
 現行法に基づく少年法の枠組みにおける原則逆送事案の不処分の状況を見ていきます。図表4は、平成24年〜28年の原則逆送事件の家庭裁判所終局処理人員です。5年間で検察官送致(刑事処分相当)の対象は105件の内、不処分は1件のみです。図表5は、検察段階での不処分・中止を示しました。少年事件の不起訴・中止の多くは、特別法犯の過去5年をみると98.3%が道路交通法違反であります。刑法犯の不起訴・中止は、過去5年の合計の3.1%にしか過ぎません。反対に起訴率は93%、公判請求が72%です。これについてどのように見るかにもよりますが、現行法の下では少年の健全育成を考慮して野放しにしない政策が講じられているようにデータから読み取れます。
 少年事件の場合は、「非行少年に対する手続きの流れ」(法務省『平成29年版 犯罪白書』)に示されているように刑事手続きとは異なり、何らかの処分を科しています。これに対して刑事手続きの場合は、図表3に示したように起訴率は年々減少し、起訴猶予率が増加傾向にあります。(図表は、現行法に基づいて作成していますので、年長少年は含まれていません。)年長少年が家庭裁判所先議主義から検察官先議になった際に、従来通り(図表3)の判断が下るかもしれません。 
 また18歳以上25歳未満を青年層として特別な配慮が行われるかもしれません。しかし、現時点ではどちらとも言えません。もし特別な配慮が行われなかった場合は、従来の少年法の枠組みでは保護の対象となっていた年長少年も犯罪の態様などから不起訴相当となった場合に、彼らの心の闇(問題)の解決をせずに野放しとなってしまうことは、少年自身にも社会においても決して良いものではありません。




図表は、法務省『平成29年版 犯罪白書』Excelファイルより加工
(最終閲覧日:2018年5月25日)

第三に、18歳以上とした場合の高校3年生の取り扱い
 改正公職選挙法では、選挙権が18歳以上となりました。さて18歳とは、学年でいうとどうでしょうか。高校3年生になります。高校3年生は、17歳から18歳までの生徒児童が該当します。
 高校生の高機能携帯電話(スマートフォン(以下「スマホ」))の保有率は、内閣府の調査「青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば90%から年々増加傾向にあります。またインターネット利用率もほぼ同率です。またコミュニケーションツールとしてスマホの利用者は90.6%です。なおコミュニケーションツールは、通話の他にメッセンジャーやSNS(FB、LINE、Twitter、インスタ等)等の様々な形態が存在しています。
 では、例えば高校3年生の18歳の生徒が「18歳になったぜ!選挙権GET!」「〇〇候補者を応援するぜ!」とTwitterに書込をした際に同級生でクラスメイトの17歳の生徒がリツイートをした場合、17歳は公職選挙法違反となります。このように同じ教室の中にいる生徒であっても18歳以上と未満で扱いが変わってきます。
 少年非行の共犯事件の場合も同級生(・同学年)同士のケースもあります。こうした場合に17歳の生徒は健全育成の精神に則った「保護処分」の対象となり、18歳の生徒は、少年法の枠組みから外れ「刑事処分」の対象となることが想定されます。
 このような考え方は、大学生や専門学校生でも想定される問題かと思われます。現行法は、20歳未満としていますがこの件について問題視されていない理由の1つとして、進学率が関わってくるのではないでしょうか。『平成29年学校基本調査速報』によれば進学率は、大学54.8%、専門学校16.2%、就職17.6%、各種学校5.3%に対し、高等学校へは98.8%です。以上の点から多くの者が16〜18歳を高校で過ごすことを選択する(中途退学者もいる)のに対して、現行法が定めている20歳と18歳では、その背景まで考える必要があります。
 よって18歳まで引き下げるのであれば、18歳に達した年度末として高校生活を送る中で年齢による区分は行わないことを願います。また公職選挙法を巡っては、教育現場でも混乱が生じている点を考えても必要のない負担を軽減する政策を行う必要があるのではないでしょうか。

第四に、年長少年と健全育成思想の関わり
 健全育成の実現の手段は、性格の矯正及び環境の調整のために強制力を伴う保護処分を用いるとされています。また少年の健全育成に資する目的で、少年と成人を異なる取り扱いをしています。全件家庭裁判所送致主義・家庭裁判所先議、人間関係諸科学の知識の活用、科学主義に基づく調査、18歳未満に対する死刑の禁止と任意的緩和刑、相対的不定期刑の採用、換刑処分の禁止、仮釈放の緩和、刑事裁判所から家庭裁判所への再移送等の規定を定めることで、少年及び少年事件の特殊性を考えています。
 健全育成の考え方は、刑法41条が定める刑事責任年齢を上回り相対的刑事責任があると認められ刑事処分相当と判断された少年にも関わってきます。年長少年には、死刑が科せられることもあるものの少年法の枠組みの中での判断がゆえに、健全育成思想に基づき少年自身が将来犯罪や非行を繰り返さないようにし、その少年の抱えている問題(心の闇)を解決、秘められている可能性(可塑性)を引き出すといった考えの下で行われなければなりません。
 年齢引き下げは、年長少年を少年法の枠組みから外すことです。よって健全育成思想の枠組みからも外すことになります。肉体的には大人である年長少年であっても精神面では未熟で可塑性が高い点を鑑みる以上、処遇を行う大前提に「健全育成」思想は必要不可欠です。

むすびに代えて
 少年法の年齢枠組みは本当に改正するべきことでしょうか。2000年以降、4度にわたり改正が行われてきました。改正によって何がどのように変わったのか検証も行われていません。改正をして新たな制度を加えても運用されていないものもあります。まずは、第一次改正から第四次改正の検証をすることが求められてくるのではないでしょうか。
 公職選挙法、民法の成人年齢引下げに伴い少年法の適用年齢の引き下げは、本当に必要でしょうか。国法上の統一や法的整合性といった考え方もあります。しかし、少年法に近い関係の法令の1つである刑法に規定されている刑事責任年齢(刑法41条)に関して矛盾がありました。これは、第一次改正少年法(2000年)で解消されましたが、それまで少年法成立後50年間変えられてきませんでした。また児童福祉法との関係では、年齢の枠組みとして18歳と20歳と関連法でありながらも異なってきました。この点を鑑みても年齢の枠組みというのは、国法上の統一よりも対象となる人間の特性に応じたものでなければなりません。特性に応じた場合、年齢を引き下げるよりも最近の脳科学の研究の知見によれば引き上げる方が良いのではないかと考えられます。 
 また少年法の場合は、対象年齢の範囲を狭めることは健全育成の考え方に立った場合、少年の将来に対して不利益を与えることになります。他方で年長少年は、少年法の枠組みから外れることで少年院送致(保護処分)ではなく、不起訴処分で再び社会での自由が与えられるように感じるかもしれません。しかし、これでは非行や犯罪のきっかけになった問題の根本的な解決にはなりません。不利益を少年自身だけでみるのではなく、社会全体でみていく必要があります。少年にとっての最善の利益に繋がる政策の在り方を考えていかなければなりません。年長少年の将来性の確保という観点から不利益にならない政策が必要となります。年齢の引き下げは、生身の子どもたちの将来や犯罪からの社会秩序の安定に関わる問題です。国法上の統一などから論じられるものではありません。
 
【主要参考・引用文献】
守屋克彦・斉藤豊治編著『コンメンタール少年法』(現代人文社、2012)
田宮裕・廣瀬健二編『注釈少年法【第3版】』(有斐閣、2009)
山口直也編著『子どもの法定年齢の比較法研究』(成文堂、2017)
覺正豊和『刑事政策論』(八千代出版、2017)
武内謙治『少年法講義』(日本評論社、2015)
法務省法務総合研究所『平成29年版 犯罪白書』(2018)
小関慶太「「健全育成」についての一考察(2)」『桐蔭論叢』(2009)、「少年の非行動向・状況と質からみた成人年齢引き下げについての一考察」『桐蔭論叢』(2010)、「少年法適用年齢引き下げの一考察」『八洲学園大学紀要』(2017)、「少年法適用年齢引き下げの一考察(2)」『八洲学園大学紀要』(2018)

◆小関慶太(こせき けいた)さんのプロフィール

1981年生まれ。
中央学院大学法学部卒業、桐蔭横浜大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。
2017年4月より八洲学園大学生涯学習学部専任講師、千葉こども専門学校非常勤講師、中央大学法学部通信教育課程インストラクター。
専門は、少年法・刑事政策・刑事法。
主な論文として「少年の非行動向・状況と質からみた成人年齢引下げについての一考察」『桐蔭論叢』(2010)、「少年法適用年齢引き下げの一考察」『八洲学園大学紀要』(2017)、「少年法適用年齢引き下げの一考察(2)」『八洲学園大学紀要』(2018)等。





 
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