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今週の一言

 

野党が安倍政治を止めるために必要なこと

2018年7月2日



松尾 匡さん(立命館大学経済学部教授)

新潟県知事選挙の分析
 先日6月10日に投開票が行われた新潟県知事選挙では、立民・国民民主・共産・自由・社民党と連合新潟の推薦を受けた池田千賀子が、三万票あまりの差をつけられて国政与党推薦候補に敗れた。前回は、当時の民進党の推薦を受けず、連合新潟には対立候補の推薦にまわられた米山隆一が、六万票あまりの差をつけて国政与党候補に勝利していたのに。
 筆者は、新潟県内各地域での、池田得票率と米山得票率との差の分布の分析を試みた。前回対立候補(森民夫)の地元長岡市と、今回池田候補の地元柏崎では、得票率が増えて当然、今回対立候補(花角英世)の地元佐渡市と前回米山候補の地元魚沼市では、得票率が減って当然なので、それぞれ調整した。また、郡部では人口が少なくブレが大きいため、サンプルを市区部に限った。加茂市は、前回米山得票率がなぜか特に高く、得票率の減少がここだけ異常に大きいので、サンプルから除いた。
 すると、池田得票率と米山得票率との差は、25歳から34歳人口の比率と大きく相関していることが示された(重相関係数は82%)。25歳から34歳人口の比率が1%上がると、池田得票率は米山得票率と比べて、2ポイント余計に下がるという結果がでた。この値がただの偶然である確率は0.1%あまりで、統計的に有意であることが示される。
 すなわち、比較的若い世代が多く住んでいる地区ほど、反自民側は前回より得票率を落としていると言える。

若い世代ほど景気を求め自公候補に
 これは、選挙後のNHKの報道を裏付けるものである。今回50代以下では自公側花角候補への投票者が多数派で、しかもその比率は世代が若いほど増え、20代が最高となっている。ところが、前回は30代以上では米山候補が多数派だったのである。比較的若い世代が国政与党候補支持に移っている。
 この理由は、期待する政策について聞いた結果を見ればわかる。「景気・雇用」は、30代を除き、10代から50代まででトップとなった。30代のトップは、なるほど「教育・子育て」だが、それでも「景気・雇用」は二位で31%もある。全体で見ても「景気・雇用対策」が最も多く31%。続いて「原発の安全対策」が24%だった。景気・雇用対策を求める票を、池田側がとらえそこなったことが見て取れる。

京都府知事選挙で共産党推薦候補善戦
 そのほんの二ヶ月前には、京都府知事選挙が行われている。ここでは、自民・公明・民進・立憲民主・希望の党の相乗り候補を相手に、国政政党としては共産党の推薦を受けただけの福山和人が、有効投票の44%を得て惜敗している。これをもって46%の得票をした池田よりも善戦したと言うと、関係者からは怒りを買うかもしれない。「京都はもともと共産党が強いだろ」とも言われよう。
 しかし、前回も同じ組み合わせの選挙だったが、共産党推薦候補の得票は相乗り候補の半分に満たなかった。約7対3だった。
 今回は2倍開いた市区町村はなく、京都市内も接戦で、左京区では上回った。そもそもいかに京都とは言え、昨年の総選挙での比例代表の共産党得票率は14.1%である。相手の相乗り候補の推薦政党の得票率を単純に足すと74.2%であって5倍以上ある。圧倒的なハンデの中の44%であった。それと比べると、中道・左派政党勢揃いで新たに連合もついた池田の46%よりも、はるかに善戦したという言い方は許されるだろう。ただ共闘勢力を揃えさえすれば票が増えるというような認識がいかに間違っているかがわかる。
 そう言えば今回の新潟県知事選挙ではこんな人も共闘していた。告示日前日に県内で講演した小泉純一郎元首相のもとに池田が駆けつけ、激励を受けているのである。小泉の応援した知事候補と言えば、細川護熙は惨敗し、小池百合子は当選こそしたものの現在凋落著しく、そして池田も敗北した。果たしてこれはただのジンクスなのだろうか。

善戦の理由は経済政策
 京都の福山選挙の特徴は、ホームページでもチラシでも、経済政策が前面に出ていたことである。医療や教育、介護や子育て支援、農業支援など、暮らしに密着したところにお金をかけることを目立つところに打ち出し、実現可能な具体的数字を示している。
 さらに、府発注事業に時給1500円以上を条件付ける目玉公約はインパクトがあった。しかも田中角栄以後の革新候補としては画期的なことに、経済の底上げのために公共事業は推進すると言い切っている。もちろん、大手ゼネコン向け大型開発ではなくて、地域密着インフラの公共工事である。(実は、この大型開発公共事業か地域密着公共事業かのスローガンは、前回の新潟県知事選挙での米山の言葉とほぼ同じである。それは、「公共事業のための公共事業の森候補か、人と暮らしのための公共事業の米山か」というものであった。)
 それと比べると今回の池田のケースは、ホームページを見るかぎり、暮らしのための施策にどのくらいのお金をかけ、経済の底上げのために何をするのか見えなかった。「新しいエネルギー社会の構築をはじめとする新たな産業政策」と言われても、どうご利益があるのか有権者にはわからないだろう。対立候補が大型公共事業を次々と打ち上げ、「花角の票が増えるほど公共事業予算が増える」と言って建設業会を締め上げていたのに。
 それゆえ間違いなく言える。福山の経済公約と同じものを池田が掲げていたならば、池田は勝っていただろう。問題は共闘の数合わせではない。もう四半世紀も前の格言はみんな忘れたかな??「要は経済だよ。愚か者。」

既存左右の衰退と急進左右の台頭
 これは先進国中で見られる構図である。80年代以降世界を席巻した新自由主義が、労働運動をつぶし、社会保障や医療・教育などの公共サービスの削減を推し進め、インフレ抑制のために通貨を引き締めて失業者を増やし、中流階級の没落、貧困化はじめ、おびただしい生活苦を人々に強いてきた。その一方で、グローバルな大企業やごく一部の富裕層は、ますます肥え太っていった。
 これを批判して、90年代半ばからは、英国ブレア労働党の「第三の道」に代表される市場親和的な中道路線が一時支持を集めたが、やはり政府支出の抑制は続いた。ひとびとを労働やスキルアップに駆り立てるはいいが、雇用が拡大するよう積極的に公金を費やすこともなかった。そのため、失業や貧困に苦しむ人々の境遇を改善することはできなかった。特に、リーマンショック恐慌をきっかけに、米国オバマ政権、日本民主党政権といったリベラル派政権が随所で人々の期待を集めたが、目立った成果をあげないまま、2010年頃からは世界中で新自由主義勢力といっしょに財政緊縮に加担し、人々の失望をかった。
 このような中で、世界中で既存左右の政治勢力が人々の怨嗟を受けて後退し、代わってもっと右と左から、公金をインフラ投資や福祉などに大胆に費やして雇用や暮らしを改善する公約を掲げる勢力が台頭している。

反緊縮の左翼経済政策
 左からでは、英国コービン党首の労働党、米国サンダース上院議員、スペインの新興左翼政党ポデモス、フランスのメランション大統領候補などの躍進が有名である。彼らの主張は「反緊縮」と呼ばれ、財政危機論をプロパガンダだとして否定し、富裕層や大企業の負担と中央銀行の資金によって公共サービスやインフラ投資を行い、雇用を拡大することを主張している。(詳しくはこちら)
 政策として実現した例になると、みな多少穏健派になるが、首尾はよい 。カナダで2015年に緊縮派保守党政権を倒して政権についた中道左派の自由党は、3年間で250億カナダドルの財政赤字を容認し、計600億カナダドルのインフラ投資を公約している 。実際この二年間で700億ドルほど歳出を増やし、2015年に0.94%だった実質成長率は2017年3.04%に増加。雇用は44万人増えて、2015年に6.9%だった失業率は、2017年末時点で5%台にまで下がっている。
 2015年にはポルトガルでも緊縮派から社会党政権に交代し、共産党など左翼三派の閣外協力を得て緊縮政策から転換した。その結果、景気が拡大して2015年に12.4%あった失業率は劇的に低下して2017年には9.7%にまで下がった。するとかえって財政赤字は減り、公的債務のGDP比も下がっている。
 2014年のスウェーデン総選挙では、それまで緊縮政策をとってきた保守中道政権が敗北し、社民党・環境党連立に左翼党が閣外協力する少数与党政権が成立したが、そのもとで財政拡大と、金融引き締め(通貨収縮)から金融緩和(通貨増大)への転換がなされ、景気が拡大。20万人余の雇用増で失業率は2014年の7.9%から2017年の6.6%に低下する一方、財政収支はかえって黒字化している。

極右も支出拡大を約束して台頭
 他方極右の側も、大盤振る舞いを公約して台頭している。米国のトランプ大統領も巨額のインフラ投資を約束して当選した。フランス国民戦線のルペン党首も貧困層支援や福祉国家の維持、財政緊縮反対を主張して大統領選挙を決選まで勝ち残った。
 最も典型的ケースと言えば、すでに2010年に成立しているハンガリーのオルバン政権だと言えよう。オルバン首相はこれまで、議会での圧倒的多数を背景に、人権概念や法治原則を公然と否定して強権支配を進めてきた。その経済政策は、銀行(ほぼ外資に支配されている)に税金を課し、中央銀行を支配下において金融緩和(通貨増大)を推進して、その資金を利用してインフラ投資など財政支出を拡大することであった。当然EU当局と対立することになるが、それに屈しない姿勢が人気を集め、経済も好調で高い支持率を維持し、先日も総選挙で三度目の圧勝を飾った。

安倍一強も同じ理由
 我々は、こうしたことに驚く必要は何もない。安倍政権は紛れもなくこの典型的な一例なのだから。
 橋本、小泉内閣の進めた新自由主義の緊縮政策のために、長期にわたる深刻なデフレ不況と、労働の非正規化、社会サービスの削減等々が進行した。就職氷河期がもたらされ、失業と倒産があふれた。貧困が蔓延し、多くの若者の人生が狂い、多くの家庭が壊れ、自殺者が三万人台に乗せる年が続いた。こうした状況への批判を背景に、民主党政権ができたはずであった。しかし民主党政権は、リーマンショック後の不況を解決することができず、当初公約した支出も財源不足と称して尻すぼみになり、「仕分け」と称した財政削減だけ進めて、最後に消費税増税を決めて自爆した。新自由主義勢力が後退する一方、結局緊縮政策をやめられなかった中道左派・リベラル派が大衆の支持を失うという、世界中で見られる出来事を地で行ったと言えよう。
 そして、こうした大衆の怒りや不安を背景に、極右安倍政権が登場したのである。その掲げた手法はオルバン政権とほぼ同じ。中央銀行を支配下において金融緩和(通貨増大)を進め、その資金でインフラ投資などの財政支出を拡大することである。そしてその結果経済は好転し、オルバン政権と同様、高い支持率を背景に選挙に何度も圧勝し、決して民意が支持しているとは言えない数々の右傾化政策を推し進めることができてきた。我々が経験したことは、まさしく、その後のトランプ・ルペン現象の先取りだったと言える。
 特に、若い世代ほど内閣支持率は高く、自民党に投票した比率も高いことが明らかになっている。なぜだろうか。実は、9条改憲を不要とする率は若い世代ほど高い。中国に親しみを感じる比率も、韓国に親しみを感じる比率も若い世代ほど高い。若者は決して右傾化していないのである。若い世代は景気や雇用の政策を重視し、安倍政権の経済実績への評価が高い。これ以外に理由は見当たらない。

つつましい姿勢が野党不人気の理由
 欧米と違うのは、新自由主義の犠牲となった大衆の怒りを吸収すべき逆側からの反緊縮勢力が明確に見られないことである。むしろ左派やリベラル側からこれまでよく聞かれた批判は、政府債務の拡大に危機感を唱え、財政「バラマキ」や金融緩和(通貨増大)に反対する声である。それでは、緊縮の犠牲になった大衆の望みに応えることはできない。「こいつらが政権とったらまた不況に戻ってクビが危ういかも」と思わせてしまう。大衆の支持は、少しでも景気と雇用がもっと期待できる方に向かわざるを得ない。
 このために支持が広がらないのに、政治的リベラルな姿勢が人気がないのだと勘違いした政治家が、これまで民進党の右側に政治勢力を作ろうと、何度も企てて失敗してきた。維新の党も希望の党も国民民主党も今や泡沫政党である。小泉亜流のような政党を作っても、小泉改革の犠牲になったロスジェネ世代はじめ多くの人々から嫌われるだけである。勘違いして選挙で小泉元首相の応援を得た政治家が破滅の運命をたどるのも当然なのである。

消費税増税反対の大運動を!
 本当は、安倍政権は口で言うほど財政拡大的ではなかった。いつも選挙前には公共事業を拡大し、景気を上向かせて首尾よく圧勝したあとはそれを削減し、結局長期的には政府支出を頭打ちにしてきた。総額を抑制して、公共事業で対策するため、社会保障は削減されてきた。おまけに消費税も引き上げられた。つまり緊縮政策から足が抜け出せない中途半端さをひきずってきた。
 だから、この点を叩いて、人々の雇用と暮らしの拡大のために、もっと大々的に財政をつぎ込むことを主張すれば、野党が安倍自民党に勝利することは容易なはずである。
 安倍政権は現在、2019年秋に予定通り消費税の10%への引き上げを実施することを公言している。これはある意味で野党側にとってチャンスのはずである。庶民にとって、ただ物の買値が上がって暮らしが苦しくなるというだけではない。まだ景気回復が十分でないのは、消費が伸び悩んでいるからである。なのに消費税増税は間違いなく消費を冷え込ませる。そうすると、せっかくここまできた景気をまた落ち込ませる危険が大きい。大衆心理として、最初から沈んでいるよりも、一旦浮かび上がるかと思わせておいてまた沈められる方が恐怖心が大きい。
 そこで、19年の参議院選挙で、「消費税を上げてまた不況時代に戻っていいのですか」と訴えれば、自民党に大きな打撃を与えることができるに違いない。安倍首相は改憲を実現するのが悲願である。しかも政権を失えば手が後ろに回るかもしれない。だから議席を大きく減らすリスクは避けたいはずである。そうすると、危機感を感じたら、選挙前にまた消費税増税の延期を言い出す可能性も高い。野党の姿勢が現状のままならば、安倍首相が消費税増税を延期しさえすれば、参議院選挙はまたも自民党の圧勝になるだろう。
 しかし、反安倍陣営の側が、消費税増税反対運動を事前に十分に盛り上げていれば、たとえ安倍首相が選挙前に増税延期を言い出しても、それが「我々の運動の成果」だと選挙で言うことができる。しかも安倍政権成立以来、何を言っても実現した試しがない運動に、はじめて成功体験をつけることができる。このことが運動にもたらすプラスの効果は大きいだろう。
 安倍首相は戦後民主主義を葬る法律を次々と作り、今やとうとう改憲に王手をかけつつある。本気で安倍政治を止めるために選挙で勝つ気があるのか、それとも反対のポーズだけ示せれば満足なのか。
 以上の議論についての詳しいことは、ブレイディみかこさん、北田暁大さんとの鼎談書『そろそろ左派は<経済>を語ろうーレフト3.0の政治経済学』(亜紀書房)を参照されたい。筆者の講演動画(例えばこれ)をご覧いただくのもありがたい。また、安倍政治を止めようという野党が掲げるべき反緊縮経済政策のマニフェスト案を、筆者が参加する研究会で作成しているので、ぜひ検討いただきたい。

◆松尾 匡(まつお ただす)さんのプロフィール

1964年生まれ
立命館大学経済学部教授
近著に
ポスト「アベノミクス」の経済学——転換期における異議申し立て』金子勝,松尾匡(かもがわ出版)
そろそろ左派は<経済>を語ろう——レフト3.0の政治経済学』ブレイディみかこ,松尾匡,北田暁大(亜紀書房)
これからのマルクス経済学入門』松尾匡,橋本貴彦(筑摩選書)
自由のジレンマを解く──グローバル時代に守るべき価値とは何か』(PHP研究所)
この経済政策が民主主義をを救う 安倍政権に勝てる対案』(大月書店)
などがある。





 
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