1.DV加害者更生プログラムと加害者の変化
金継ぎの会の由来
この更生プログラムを金継ぎの会と名づける。その経緯はある時、参加者が私に下記の質問をした。(僕たち夫婦の関係性は壊れてしまいました。元通りになりますか?)すると、他の参加者が下記のように答えた。(もと通りにはならないけれど、金継ぎの器のようになればいいんだよ。器は割れた所に漆をいれ、その上から金粉をふると前より高価な器になる。関係性を金継ぎの器と重ねて、ステップに通い、気付きは漆、実践するは金粉と考え、そうすると元通りにはならないけれど前より素敵なカップルになれると思う。)これを聞いて私は感動してこの会を金継ぎの会と名づける。
プログラムの目的
52回(1年間、週に1回)プログラムに通う目的は修復ではなく、変化することである。
1年間は長いと言われるが、マイナスの思考をプラスに変え、行動に移し、習慣化するには長くかかる。加害者の変化について判定するのはパートナーである。修復するかどうかはパートナーが決断する権利を持っている。加害者の変化を知り、修復するカップルが6割はいる。
学びの目標
このプログラムで学ぶ目標は2点ある。
1つ目、加害者はパートナーを変えようとして怒りを用いるのだが、その怒りの納めかたについて学ぶ。(アンガーマネジメント)怒りは理想と現実のギャップから生まれる。加害者が理想のべき思考を壊すことが必要である。自分が怒りを選んでいることに気付くとパートナーが自分を怒らせたとの被害者意識から加害者意識に変わる。被害者意識でステップの門をたたく加害者は9割ほどいる。5ヶ月ほど学ぶと8割の加害者の怒り行動はなくなる。
2つ目は所有者意識から対等意識に変え、パートナーに寄り添う行為を身に付けることである。行為として7つの良い習慣を勧めている。愛の行為といえるのだろう。愛は感情ではなく、意思により築くものである。恋してるから結婚し、結婚するから愛するのである。恋の正味期限は三年半であり、あとは愛でつないでいくことである。
傾聴する、励ます、支援する、尊重する。信頼する、受容する、交渉する。傾聴を行うだけでも関係性はよくなる。このような関係性を築けるカップルは8割ほどいる。2割はどうしても妻が悪いとの考え方から抜け出せずに妻を責め、離婚にいたるケースもある。
加害者の変化
ステップでは52回の学びが終わると学びの体験談(過去のDV、学んだこと、変化したこと)を語っていただく。妻にも同席していただいて、夫の変化を証人として語っていただく。妻の証言をいくつか拾ってみる。(夫は脳を手術したように変わった。加害者は変われるとの本を書いてほしい。喧嘩の仕方を忘れた。夢のような新婚生活気分を味わっている。夫の変化は奇跡である。幸せで感謝しかない。等)加害者からも下記の言葉をいただく。(ステップに通うことは不名誉であるが、学ぶことは名誉なことである。夫婦関係だけでなく、人生が豊かに変わった。人生の学校だ。僕が死ぬ時にあなたで良かったと言われるようにつぐなっていきたい。妻の痛みに共感できるようになった。傾聴で妻子と良い関係が生まれた。)
加害者は変われるのだと参加者がそして妻たちが証明している。
参加者には私もスタッフも7つの良い習慣で関わっている。
裁かれず認められている場所で両親から低くされた自尊心が回復し、変化への動機が高められていくのだと思う。虐待被害者は7割ほどいる。
加害者の変化は人間に対しての見方も変えてくれる。人はやり直せるのだと。
嬉しいニュース
最後に最近嬉しいニュースがある。ステップで学んだ九州の50代の加害者がこの4月からFFP(ヒフティヒフティパーソナリティー)というDV加害者更生プログラムを立ち上げた。彼は6か月でDVから解放され、逃げた妻が戻り、妻と一緒に加害者の更生に仕事もやめて命をかけて取り組んでいる。東洋経済オンラインで彼の体験談を見ることができる。彼は顔だし、実名で妻と共に掲載されている。ただただ感動!!
2. 活動を始めたきっかけ
2001年からDV被害者を保護するための中期シェルターと、全国電話相談を始める。被害者から夫に暴力を振るわれているが、どうしたらよいかとの電話質問された際、私の答えは2つしかなかった。1、逃げてください。2、逃げれないなら、苦しみを話せる場所を確保してください。9割の被害者は経済的理由、子供がいる。夫が変わるかもしれない、等の理由で逃げられない現実がある。被害者は家庭に留まることでうつ病を発症し、日常生活を営むことができなくなり、シェルターに心身共ぼろぼろになり、逃げ込むケースが多くある。加害者は被害者がシェルターに逃げても、離婚しても、探偵を使ってどこまでも追ってくる。被害者を守ることに限界を感じた。加害者が変わることが根本的解決につながることを信じて更生プログラムを2011年に立ち上げる。被害者支援と加害者更生は車の両輪として大切なことだと思う。
3. 主な活動の内容
●個人面談(DV、虐待、ストーカー加害者、被害者)初回面談、随時。
●更生プログラム(DV、虐待、ストーカー)グループワーク、毎週5回。
●被害者回復プログラム (グループワーク) 毎月2回
●夫婦塾 (グループワーク) 毎月1回
●親子面談 (虐待を受けた子供と加害した親) 随時。毎月5組程度
●カップルカウンセリング、毎月、10組程度。
●講演会活動 (全国)対象。高校生と先生、大学生と先生、市役所、県庁のDV担当職員、児童相談所職員、警察官、弁護士、行政書士、裁判官、教育委員会職員、一般市民、幼稚園の父兄、
●テレビのコメンテイター。DV、虐待、ストーカーの事件が起きるとコメンテイターとしてスタジオでコメント。グループワークがVTRで紹介。NHK、各テレビ局。
新聞、雑誌等にも多数とりあげられる。
●本としても出版される。
『ななさんぽ 弱さと回復の“現場”で神がいるのか考えた』
『明けない夜はない 人生の転機 21人の希望のドキュメント』 (共に、いのちのことば社)
4. 今後の展望
年間7万人から警察にDV被害の通報がある。その内ステップに訪れる加害者は100人に満たない。69.900人以上は野放しだ。日本では逮捕された加害者が更生プログラムに通うのは、任意でほぼ参加しない。自分はDVなんかしていない、パートナーが怒らせたと思っているからだ。逮捕だけでは加害者だと認識できず、思考を変えられず、変化にほど遠い。米国カリフォルニア州では、DV被害者が警察へ通報した際に加害者は即逮捕、そして更生プログラムへの強制参加を強いられる。DVを克服するには、被害者の保護と加害者の教育プログラムの両輪が不可欠だ。日本もそのように加害者の教育を強制する法整備が進むことを切に願う。現在、国は被害者保護にのみ注力していて、加害者への対応は手つかずだ。DV加害者が3人に1人との現状を日本の緊急の問題として捉え、加害者の更生のために行動するべき時と国に訴えていきたい。
◆栗原 加代美(くりはら かよみ)さんのプロフィール
NPO法人女性人権支援センターステップ理事長、DV、虐待、ストーカー加害者更生プログラム講師、DV、ストーカーの被害者回復プログラム講師、家族問題カウンセラー、夫婦塾講師、虐待された子供へのカウンセラー、全国の高校・大学の先生・生徒、児童相談所職員、県や市役所のDV担当の相談員対象の講演会講師、DV、虐待、ストーカー事件が起きた際、テレビのコメンテイター、選択理論学会員。