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今週の一言
もの言えぬ動物に法の光を
2021年1月18日

細川敦史さん(弁護士)


1 私は、いわゆる普通の街弁ですが、日常業務と並行して、ペットをはじめ動物に関する法律問題について、継続的に取り組んでいます。
 子どもの頃、実家で、猫、インコ、ハムスターなどの哺乳類、カメなどの爬虫類、イモリなどの両生類、金魚や昆虫に至るまでさまざまな生き物を飼っていたこと、現在も犬や猫と暮らしていることが少なからず影響しているように思います。
 また、私は、20年以上前、伊藤塾の0期生として渋谷で勉強していましたが、最終合格したとき、伊藤真塾長から「合格者はエリートとして社会的な弱者に寄り添って力になってほしい」という趣旨のお言葉をいただいたことも記憶の片隅に残っています。

2 ペットなどの動物は、人の深い愛情を受け幸せに暮らしているものもいます。ただ、意識しなければ見えませんが、人間社会のピラミッドの底辺のさらに下に、貧困問題など人の社会の犠牲になって、ひどい扱いを受けている動物はたくさんいます。
 被疑者・被告人、非行少年、高齢者・障害者、貧困者、労働者、消費者など社会的弱者の問題に光を当て、法律を駆使して解決に導く弁護士は多くいるように思いますが、こと動物に関しては、弁護士であってもなかなかいません。
 動物は言葉を話すことができず、法律事務所を訪れて弁護士に相談できないことはもちろんですが、法律が十分整備されていない世界であるために、法律を使って動物を助けることができない、とも考えられます。もちろん、動物はお金を払ってくれないという切実な問題もあります。

3 さて、日本には、「動物の愛護及び管理に関する法律」があります。2010年の世論調査では3割程度しか知られておらず、また、多くの弁護士は使うことがないマイナーな法律なので、3,500ページ以上ある模範六法にも入っていません。
 この法律は、1973年に「動物の保護及び管理に関する法律」として、議員立法によって成立しました。当時、天皇の訪英を前に、動物保護の法律がない日本は野蛮であるとのジャパンバッシングがイギリスをはじめとする海外から起こり、こうした「外圧」をきっかけに急遽制定された旨が環境省の解説書にも記載されています。当初はわずか13条のスローガン的な条文しかなかったことも、政治的な色彩が強かった事実を物語っています。
 人とペットの関係に関する時代背景も、1973年の制定時には、犬は番犬として残飯を食べ、猫は放し飼いが当たり前でした。しかし、犬はもちろん猫も家の中で飼うのがスタンダードになり、ペットを飼育可能な分譲マンションがどんどん建てられ、漫画やテレビで有名になった犬が流行するなどペットブームが巻き起こりました。ペットは、家畜的な存在から、家族の一員になっていきました。
 このような社会の変化、世論の高まりを受けて、動物保護団体を中心に法改正の必要性が叫ばれ、1999年に初の改正(法律の名称まで変わりました。)、2005年、2012年、2019年と4回の改正を経て、現在に至っています。

4 一方、「動物保護の先進国」と評されるイギリスにおいて、動物に関する法律は、1800年代には成立していました。ただ、イギリス人が他の国民に比べて動物保護の意識が高いかと言えばそうではなく、その前に、牛馬を酷使・虐待した時代があったことに対する反省をふまえ、制定されたとされています。
 そういう経緯があるにせよ、日本の法律はイギリスに150年~200年近く遅れていますので、その遅れを取り戻そうと、環境省は、施行後5年での見直し及び改正を重ね、徐々に規制強化が進められてきました。もっとも、ある程度は致し方ないものの全体的なツギハギ感は否めず、また、動物といいながら、ペットとりわけ取引量・飼育頭数が多い犬猫を中心とした改正に比重が置かれてきました。
 将来的には、理念や基本方針を定めた基本法を中心として、ペット(愛玩)動物、野生動物、そして、現状ではほとんど手つかずの畜産動物、実験動物などの種類に応じた基準法を定めるといった体系が望ましいのではないかと考えています。

5 法は、人のために、人のルールを定めたものであるというのが一般的な理解です。動物愛護管理法も、動物愛護の気風を醸成すること、あるいは動物による侵害から人の生命・身体・財産を守ることを目的としています。動物の保護それ自体を目的とはしていません。
 ただ、法は人のために作られるもの、という前提も、あくまでも「これまでの日本の制度」というだけのことで、世界的に見れば、「動物のための法律」は存在します。人間も、自然環境、地球上の生命の一部であるとの謙虚な心をもって、真に動物を守る法を目指していく必要があると考えています。
 実は、動物愛護管理法の第1条の目的規定は、2012年改正により、「もつて人と動物の共生する社会の実現を図る」という最終目標が追加されています。目的規定に手を加えること自体、法改正では珍しいことだと思いますが、動物のための法律を目指そう、という意図が見え隠れしているように感じられます。
  
6 私が弁護士登録をして3年目の2003年に、大阪でペットの法律に関する有志の研究会が開催されました。この会がユニークだったのは、弁護士をはじめとする専門家だけでなく、現場を知る動物保護ボランティアをメンバーとしていたことです。
 この研究会で知り合った動物保護ボランティアの情報提供を受けて、2005年に大阪で猫の里親詐欺事件の訴訟を担当したことをきっかけに、私は、動物保護ボランティアの支援や、法改正運動にも関わるようになりました。
 それからはや15年位が経ちましたが、比較的若手の中に、動物問題に深く取り組もうという弁護士が増えつつあるように思います。「ペットの問題を一生懸命やりたいです!」というロースクール生、修習生、新人弁護士などから言われると、ついつい、「一般的な弁護士の仕事を一通りできた方がよいですよ」とつれない返事をしてしまいますが、本音としては、ありがたいことです。

◆細川敦史(ほそかわ あつし)さんのプロフィール
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。ペットの法と政策研究会代表、ペット法学会会員。


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