(1)はじめに~議員ウォッチとは~
「議員ウォッチ」は、核兵器廃絶を願う有志が、核兵器問題に関する日本の議論を活発化させるために始めたプロジェクトだ。発端は、2017年7月の核兵器禁止条約の採択やその交渉に、被爆国・日本政府が背を向けたことである。さらに、国会での核兵器問題についての議論があまりに低調であることを知り、私たちの代表である国会議員たちをはじめ、都道府県知事、市区町村の核兵器禁止条約への立場をオンライン上で可視化しようと考えた。
ぜひ、当プロジェクトのホームページをご覧いただきたい。
市民がたえずウォッチするとともに、疑問に思ったことは議員たちに直接ぶつけていくことができるように、議員1人ひとりのページから、直接メール・電話・SNSでの問いかけなどができるシステムを構築。「政治と市民の新しいコミュニケーションの形」を模索し続けている。
2019年春に設立された「議員ウォッチ」は、「核兵器廃絶国際キャンペーンICAN)」国際運営委員・川崎哲が代表を務める。私は設立と同時期に、広島から上京し、現在まで「リサーチャー」として同プロジェクトの運営に携わっている。
(2)「Go Toヒジュン!キャンペーン」始動!
設立以来、議員ウォッチでは「核兵器に対してYesかNoか」を可視化してきた。そして、核兵器禁止条約が発効確定した2020年10月からは、新たに「Go Toヒジュン!キャンペーン」を展開し始めた。
これは、議員ウォッチの趣旨に賛同する老若男女、約50名「議員ウォッチャー」(学生も多い)が、メール・FAX・電話・SNSなどを通して、ゆかりのある地域・政党ごとなどの範囲で、国会議員1人ひとりに連絡をし、核兵器禁止条約への賛否を問うものだ。事実、賛同数はキャンペーン開始以降、急激に75人増加し(率にして9%増)、全体で27%の国会議員が条約に賛同している(2021年3月17日現在)。
同キャンペーンでは、これまでより踏み込んで「日本も入ろう核兵器禁止条約」を キーワードとして掲げる。それは、2020年の世論調査(毎日新聞ほか)で、日本国民の約70%が「日本が核兵器禁止条約に入ること」を支持していることに依拠する。世論の7割が参加すべきと主張しているのだから、国会議員の7割もこの条約に参加すべきと表明している状況をつくることが大切だと考えている。
(3)議員1人ひとりの考え方や温度感を明らかに
さらに昨年12月以降、被爆地・長崎で「国会議員面会プロジェクト」を始動させ、議員の核兵器問題に対する考えを面会し、直接聞いてきた。これは賛否だけでは見えてこない議員1人ひとりの考え方や温度感を明らかにしようとするものだ。
長崎では現状、面会を申し込んだ国会議員9名のうち4名とお会いした。ある与党議員は核兵器について「包丁もうまく使うとおいしい料理ができるが、悪い人が持つと殺人を起こす」と説明。日本政府が条約に参加しない理由については、日米関係を夫婦に例えて「米国との信頼関係が損なわれ、離婚することになりうるから」と語った。詳細は公式ブログ(note)で公開しているので、こちらもご覧いただきたい。
活動を通して、有権者の投票のための判断材料も多く得たと思う。合わせて市民と政治家のコミュニケーションをさらに促進することにも繋がった。今後は愛媛をはじめ、全国各地で活動を展開する予定だ。みなさんの地元の政治家がどのような姿勢を示しているのかを明らかにし、各地で「核兵器禁止条約を選挙の争点」にしていきたい。
(4)市民の声を積み重ねる
全国の市区町村議会では、「日本政府に核兵器禁止条約への参加等を求める」意見書が採択されている。条約発効後はその数が一気に増え、全体の30%にあたる532の市区町村が意見書を採択する。(2021年3月17日現在)
地方自治体は私たちの生活に最も近い存在だが、同時に古くからある地元の関係性などに意見書採択などが阻まれることも少なくない。
2020年、東京都中野区では市民有志による「意見書採択アクション」が展開され、私も参加した。残念ながら採択には至らなかったが、その地に暮らす人々の尽力により、日々、小さな村から大規模な市まで、全国各地からの意見書が国に届けられていることを実感した。「議員ウォッチ」のサイト上ではそうした採択が地域ごとに可視化されており、採択数の増加は市民の声が少しずつ積み上がってきていることの証明だと感じている。
(5)最後に~議員ウォッチに関わって変化した「私の眼差し」~
最後に「Go Toヒジュン!キャンペーン」を中心的に展開する私や仲間たちの視座をそれぞれ紹介し、まとめとしたい。
日米安保ありきで物事を考えることが染み付いている議員も多いと感じる。日本は核抑止力に依存し、政府は国会答弁で核兵器禁止条約は核抑止力の「正当性を損なう」と言う。しかし、ヒロシマ・ナガサキを経験した日本が核兵器の使用を前提とした政策の「正当性」を語る。それは本当に私たち日本の人々が求めていることなのだろうか。
そもそも議員らの多くは「条約参加は時期尚早」と言いながら、その内容については不勉強であることも多々ある。私たちが問いかけることをやめず、市民社会・国会での議論を喚起し、変化を起こしたい。(高橋悠太)
私たちの生活と政治は切っても切り離せない関係にありながら、「政治離れ」が問題視されている日本社会では、海外と比較しても市民と政治家のコミュニケーションが非常に希薄である。双方が関わることに不慣れな中、議員ウォッチは有効な「コミュニケーションツール」になりうると感じている。
私自身、政治に特別詳しいわけではないが、強い問題意識を持つ「核兵器」というキーワードから政治に働きかけをすることは十分に可能なことであった。政治に対する「難しそう」という壁を率先して壊しつつ、政治家に引き続き核兵器の問題についてリマインドしながら、彼らと共にこの問題を考えていきたいと思う。(中村涼香・上智大2年)
私が選挙権を得て初めての投票に行ったときに感じたことが、この活動に加わるきっかけとなっている。
「何を基準に選べば良いのか? この人は当選したら何をしてくれるのか? この人に入れたことで他の人に入れるのと何がどう変わるのか?」
結局これらがよく分からないまま、もやもやしつつ候補者の1人の名前を書くことしかできなかった自分の力の小ささを感じ、憧れていた「大人」とは何者なのかと思ったのだった。議員ウォッチは核政策という観点から私の疑問を解消していると同時に、自分の望む社会を実現するためにそれぞれができる範囲で声を上げることができる場が整っている。まだまだ声を上げる人も少ないし、上げた声も届きにくい現状があるが、核兵器のない社会という自分が住みたい社会を実現するために、1人の市民としてこれからもたくさんの市民と一緒に声を上げていきたいと思う。(内藤百合子・お茶の水女子大3年)
◆高橋悠太(たかはし ゆうた)さんのプロフィール
2000年広島県福山市生まれ。2013年、盈進(えいしん)中高ヒューマンライツ部に入部。それをきっかけに「当事者の視点」から、人権・平和活動に取り組む。在籍中、「核廃絶!ヒロシマ・中高生による署名キャンペーン」などに参加。2017年、NPT再検討会議第1回準備委員会に際して、ウィーン国連事務局に派遣され、NGO関係者などを前にヒロシマのメッセージを伝えるプレゼンを行う。2019年、慶應義塾大学法学部進学後は、「政治・核兵器廃絶・わたしたち(市民)」の三者を結ぶアクション「議員ウォッチ」を運営。「カクワカ広島」共同代表なども務める。
【関連HP:今週の一言・書籍・論文】
今週の一言
「核兵器禁止条約と日本人の平和観の展開―宗教団体の対応から見えてくるもの―」
島薗 進さん(上智大学グリーフケア研究所所長、東京大学名誉教授)
「被爆75年の今こそ核兵器禁止条約参加に向けて歩み出そう」
小寺隆幸さん(明治学院大学国際平和研究所研究員、明星学園中学校非常勤講師)
「核兵器禁止条約の発効を見据え、日本政府の課題と宗教者の役割を考える」
神谷昌道さん(立正佼成会軍縮問題アドバイザー)
「『平和的生存権』を輝かせる夏に! 」
小田川興さん(元朝日新聞編集委員・在韓被爆者問題市民会議代表)
「いよいよ5月、『9条世界会議』開催幕張から9条を世界へ」
川崎 哲さん(「9条世界会議」日本実行委員会事務局長/ピースボート共同代表)
「グローバル9条キャンペーン 11.3『世界9条意見広告』を成功させよう」
川崎 哲さん(ピースボート共同代表)