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カジノ解禁実施法案の問題点

2018年6月18日



吉田哲也さん(弁護士)

1 カジノ解禁実施法とは何か
 2018年4月、「特定複合観光施設区域整備法案」(以下、「カジノ解禁実施法案」といいます。)が閣議決定され、国会に上程され、6月15日、衆議院内閣委員会で採決が強行されました。
 この法案に先立ち、2016年12月、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下、「カジノ解禁推進法」といいます。)が成立していました。この法律は、政府に対し、カジノを開設するための法整備を義務づけるもので、カジノ解禁実施法案は、その義務を履行するものとして、提案されたものでした。
 そもそも、カジノとは何でしょうか。カジノとは、ルーレットやカードゲームなどテーブルで行う賭博場のことであり、最近では、スロットなどのゲーミングマシンが多数設置してあるものが主流になっているようです。
 これらの行為は、刑法上の「賭博」に該当しますから、我が国で、これを行なう場合には、単純(常習)賭博罪(185、186条)、また、賭博場開帳図利罪(187条)等で処罰の対象となるのはご案内のとおりです。
 カジノ解禁推進法、そして、カジノ解禁実施法は、賭博罪の構成要件に該当するカジノ賭博について、法律によって違法性阻却するためのものなのです。

2 日本版カジノの特徴
 我が国で想定されているカジノには、次の三つの特徴があります。
 まず、第一に、日本カジノはIR型です。IRとは、Integrated Resortの略語で、一般には統合型リゾートと訳されています。統合型リゾートとは「カジノ施設・・・及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設」であり、すなわち、カジノは単体ではなく、「会議場」「レクリエーション施設」「展示施設」「宿泊施設」等と一体となった複合施設の一部として設置されるということです。
 これをもって、「カジノというレッテル貼りは不当であって、IRと正しく表現すべきだ」というカジノ推進派の言辞が登場するわけですが、「会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設」は、新たな立法を整備せずとも設置することができるのであって、本立法が必要だったのはカジノ賭博の違法性を阻却するためです。また、確かに、IR全体のうちカジノ施設の占める面積割合の上限は「3%」とされており、極めて限定されているようにもみえますが、そのほんのわずかの面積しかないカジノが、他の施設の収益を担保する役割を期待されているのであって、要するに、IRとは「カジノ」を不可欠の要素とする施設であり、これを「IR」と呼称する方がその本質を隠そうとする意図が透けて見えるというべきでしょう。
 第二の特徴は、カジノを設置、運営するのは民間事業者ということです。現在、パチンコという賭博の実態を備えながら摘発を免れている業態(その背景には、政=財から資金提供を受ける政治家、官=財に天下り先を用意してもらっている警察官僚、財=パチンコ業界、そして、パチンコ業界から大量の広告出稿を得ているマスコミによる巨大な癒着構造があると考えていますが、本稿の目的を逸脱しますので、これ以上触れません。)がありますが、行政解釈上はパチンコは賭博には該当しないという扱いになっています。パチンコを正面から賭博と認めてその違法性を阻却する立法は、パチンコ業界の悲願なのかもしれませんが、その現実的な道筋は全く見えていません。それは、賭博に否定的感情をもつ社会意識の反映であるように思います。今般の一連のカジノ立法は、日本史上初めて、民間による賭博場の開設を正面から認めるものであり、我が国のギャンブル政策の質的転換を意味するものです。
 第三の特徴は、特区方式が採用されているという点です。我が国のIR型カジノは、希望すれば設置できるというものではなく、「地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた」「特定複合観光施設区域」でのみ設置、営業することができるとされています。すなわち、同区域内において、特定の民間事業者が行なう場合においてのみ、賭博罪の違法性が阻却されることになります。
 各誘致自治体は、各カジノ事業者と協働して事業計画を策定したうえで、国に対して申請をすることになりますが、自治体としては、なるべく多額の投資を呼び込みたいとの考えから、事業者に対する飴をばらまかざるをえないことになります。すなわち、ギャンブル客を守るための規制は緩ければ緩いほど事業者にとって魅力的なカジノになるわけですから、誘致自治体間のカジノ規制の緩和競争が繰り広げられることになるでしょう。

3 カジノ規制の内容とカジノ合法化
 2017年4月、安倍総理は「世界最高水準のカジノ規制を導入する」と発言しました。しかし、その2日後には、カジノ解禁実施法の内容検討のために設置された有識者会議(通称、IR推進会議)の議長が「事業が成り立たなくなっては元も子もない。日本に合わせた規制のあり方を提案する」と発言し、のっけから、「世界最高水準のカジノ規制」は掛け声倒れになることが鮮明になりました。
 カジノ解禁実施法案において提案されているカジノ規制の内容は、「世界最高水準」どころか、従来から、推進派が成功モデルとして意識してきたシンガポールカジノにも遠く及ばないものであったといわざるをえないものでした。以下、主要な問題点を指摘します。
(1)あまりにも多い政令委任
 カジノ解禁実施法案は、カジノ開設によりカジノ依存などの種々の弊害が発生することを前提に、それを抑止するためのカジノ規制を定めるためのものです。ところが、肝心のカジノ規制の具体的内容について、法案に記載されず政令委任事項とされているものが331も存在します。実施されるカジノ規制によってカジノの弊害が本当に抑止できるのかということが問題になっているにもかかわらず、どのようなカジノ規制が実施されるかが分からないのでは、議論がかみ合うわけがありません。「世界最高水準」からどんどん後退してきたこれまでのカジノ規制の議論からすれば、カジノ規制の具体的内容が政令に委任されることで、さらなる規制緩和が進むことが懸念されます。
(2)特定資金貸付業務の採用
 カジノ解禁実施法では、外国人、そして、一定の金額をカジノ事業者に預託した日本人に対して、カジノ事業者がカジノの賭け金を貸付けることができるとされています。ギャンブル依存のひとつの特徴として、「負けを取り返すために、さらに賭け込む」ということがありますが、カジノ事業者が、カジノ利用者のそうした心理を利用して、また、あらかじめ聴取しておいたカジノ利用者の資産の略奪を意図して、その資産額に及ぶまで貸し込むことを許すものであり、カジノ依存を助長するものといわざるをえません。
 貸金については、一連の多重債務問題対策の一環として、年収の3分の1を上限とする貸金業法上の総量規制が行なわれていますが、カジノ事業者による貸付けについては、この総量規制の網は及ばないとされています。政府答弁によれば、「富裕層」を想定したものであるとのことですが、富裕層であれ貧困層であれ、支払能力を超える債務を抱えないようにするべきとの総量規制の趣旨は同じように妥当するものです。貸金の目的が賭け金であるということからも、このような不要不急の貸付けをカジノ事業者にのみ認めなければならない合理的理由は見当たりません。
(3)不十分極まりない入場制限
 カジノ解禁実施法の成案までの議論のうち、カジノ利用者に対して賦課される入場料の金額、また、入場回数制限については、割合に詳しく報道されていました。結果、入場料は6000円、入場回数制限については週3日、月10日までとされました。
 入場料はシンガポールでは約8000円(100シンガポールドル)であるところ、「世界最高水準」のカジノ規制を導入するはずの日本で、それを下回る金額が設定されるのか理解に苦しむところです。
 また、入場回数制限にいたっては、2、3日に一回カジノに入場することが許されるものとなっており、これでは立派なのめり込みです。しかも、24時間営業が禁止されていませんので、3日、すなわち、72時間連続入場も可能な規制に過ぎず、入場制限としては、極めて不十分です。
(4)カジノ面積規制の緩和
 カジノの面積については、IR推進会議において、「1万5千平方メートル」、IR全体の「3%」を上限とする旨の「取りまとめ」が行なわれていました。ところが、カジノ解禁実施法では、これらの面積規制について、「1万5千平方メートル」という絶対数値が抜け落ち、「3%」という相対数値のみが残されました。絶対数値による規制については、この間、カジノ事業者らから、繰返し反対意見が出て、投資額を絞らざるをえないといった露骨な脅しをした事業者もありました。絶対数値の削除は、こうした事業者による圧力の結果であり、カジノ規制が今後も後退していくであろうことを推認させる、象徴的な出来事です。
(5)カジノ管理委員会への事業者からの採用
 カジノ事業者を監督すべき機関として、「カジノ管理委員会」が設置されることになっています。カジノ事業が適切に運営されているかをチェックする国家機関であり、場合によっては、カジノ事業者の免許の取消しも決定すべき部署ですから、高度の独立性が要請されるはずです。ところが、政府答弁によれば、カジノ管理委員会の職員として、カジノ事業者からの採用もありうるというのです。監督される者の中から監督者を採用するということですから、およそ独立した権限行使は期待できないというべきです。
(6)違法性阻却条件がない
 我が国では、いくつかの公営ギャンブルが存在し、それぞれ特別法が制定され、賭博罪の違法性を阻却しています。賭博罪は、勤労の美風の維持、副次的犯罪の抑止等の社会的法益を保護法益とするものであるところ、特別法を定めて、一定の賭博を合法化するに際しては、賭博罪の保護法益を害しないとの要請から、「目的の公益性」等の条件をクリアしない限り、賭博罪の違法性を阻却する刑事立法は許されないとされてきました。
 そして、完全な民設、民営の賭博場については、従来は「目的の公益性」が認められず、特別法制定は許されないというのが、内閣法制局の立場であり、現に、旧民主党政権時代にカジノ合法化が検討された際には、こうした理由から断念されたという経過があります。
 この点については、カジノ事業者が多額のカジノ税を納付することなどから「目的の公益性」などをクリアするとの説明がされていますが、納税義務の履行はみなが等しく負っているものであり、これをもって、違法性阻却の理由とするのは相当ではありません。
(7)社会的コストの想定がされていない
 カジノ開設によるプラスの経済効果は、さまざまなところで試算され公表されています。ところが、同様に生じるはずの負の経済効果、すなわち、カジノ利用者の賭け金の国外流出、カジノ依存対策費(医療費、刑事司法費、教育費等)の試算は全く行われていません。カジノ開設により、いったいどの程度の人がカジノにはまり込み、経済的に破たんするのかなど、カジノのマイナス効果について、速やかに推計して、国民の目に触れさせる必要があります。
(8)想定されるカジノ客は日本人
 カジノ合法化の議論の出発点は、訪日外国人客の呼び込みでした。ところが、ここ数年、訪日外国人客は激増しており、もともとカジノに期待されていた訪日外国人増の目標は、すでに達成され、大幅に上方修正されています。
 一方で、各誘致希望自治体で想定されているカジノ客はほとんどが日本人であり、むしろ、そうでないとカジノの収益が成り立たないとされています。もはや、当初の訪日外国人増のためにカジノを合法化するという立法事実そのものが失われているといえます。

4 ギャンブル政策に必要な議論とは
 以上のとおり、カジノ解禁実施法案とその議論は、我が国のカジノ規制が、カジノの営業目的との相克のなかで、有名無実にされていく過程を如実に表すものです。
 これまで、我が国では、既存ギャンブルにのめり込んで破綻していった人たちについては、自己責任の領域で語られ、完全に放置されてきました。しかし、ギャンブル利用者のうち一定割合の者が必ず破たんするという現実が存在し、ハイローラーの存在がギャンブル産業の利益を保障し、そのことを法制度が許しているという実態からすれば、ギャンブルへののめり込み問題は社会問題として取り扱われるべきものです。国や自治体レベルのギャンブル依存対策が必要になるゆえんです。
 カジノについても、カジノにはまって人生を略奪される被害者をうまないためにどうしたらよいのか。いかなるカジノ規制を講じても被害者の発生を抑止できない以上、カジノ合法化そのものを断念するとの結論にならざるをえないと思います。

◆吉田哲也(よしだ てつなり)さんのプロフィール

佐賀市生まれ
京都大学法学部卒業
弁護士法人青空三田支所 三田あおぞら法律事務所 弁護士(兵庫県弁護士会) 
<主な所属委員会>
兵庫県弁護士会 副会長(2015年度)
消費者保護委員会 委員長(2013年度、2014年度)
近畿弁護士会連合会 消費者保護委員会 委員(2014年度まで)
日本弁護士連合会 消費者問題対策委員会 委員(現在)
カジノ・ギャンブル問題検討ワーキンググループ 委員(現在)
<公職>
神戸家庭裁判所尼崎支部調停委員(2012年〜2013年)
西宮市消費生活審議会委員(2014年〜)
境界問題相談センターひょうご運営委員(2015年〜2018年)
「尼崎市」人権擁護委員(2017年〜)
「尼崎市」固定資産評価審査委員(2017年〜)
<その他>
関西学院大学非常勤講師(2011年4月〜2015年3月)
2018年「高齢者が消費者被害にあわないために」講師
2017年「憲法出前講座」講師
2016年 兵庫県弁護士会シンポジウム「ストップ迷惑勧誘!〜不招請勧誘規制の現状と課題を考える」パネルディスカッションコーディネーター
<著書>(すべて共同執筆)
『改訂版 これで安心!介護トラブルの処方箋』兵庫県弁護士会消費者保護委員会・兵庫県国民健康保険団体連合会(編著)
『過払金返還請求・全論点網羅〈2017〉』瀧 康暢(編著)、名古屋消費者信用問題研究会(監修)
『震える〜ギャンブル依存被害者と家族ら30名の告白集』全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会 (編著)
『キーワード式 消費者法事典〔第2版〕』日本弁護士連合会消費者問題対策委員会(編)
『徹底批判!!カジノ賭博合法化』
全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会(編)
『「旅行のトラブル相談Q&A (トラブル相談シリーズ)」』兵庫県弁護士会消費者保護委員会 (編集)
『「これでもやるの?大阪カジノ万博」』カジノ問題を考える大阪ネットワーク(編)





 
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