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今週の一言

 

自衛隊情報保全隊による国民監視が続けられている!

2017年2月20日



十河 弘さん(弁護士)

1 どこの国の出来事なのか?
 もし,あなたが軍隊の諜報機関から監視されていて,街頭でのあなたの行動や言葉が逐一チェックされ,後からあなたが「どこの誰なのか」「どこでどんな仕事をしているのか」調べ上げられたとしたら・・・。これはどこかの軍事政権や独裁政権のお国のお話ではありません。紛れもない,我が国「日本」での出来事なのです。

2 Aさんは監視されていた!
 Aさんは社会派のアマチュアシンガーソングライターです。反戦・平和の歌を作り,様々な集会やライブで歌い,CDなども出していました。2004年(平成16年)1月,日本の自衛隊が「人道復興支援」の名の下にイラクに派遣されましたが,Aさんは従前から憲法違反の海外派兵が堂々と行われてはならないと危機感を持ち,何か行動を起こしたいと考えていました。それまで,Aさんは主に都市部で活動していたのですが,「匿名的な都市部ではなく,自分を知っている地元の人にこそ理解してもらうべきだ」と考えて,勇気を出して地元生協の駐車場スペースを借りてアピール行動をすることにしました。2003年(平成15年)12月15日,Aさんは友人のR氏を誘って,「S.T・イラクに自衛隊を行かせないライブ」(「S.T」はAさんの芸名)と手書きの看板を用意して,Aさんが歌を歌いながらR氏が署名を集めるという活動をしました。
 ところが,これを自衛隊情報保全隊が監視していたのです。

3 内部文書から国民監視の事実が明らかに
 2007年(平成19年)6月,日本共産党が情報保全隊が作成した内部文書を暴露しました。これらの内部文書には,2003年(平成15年)11月から同16年2月までの自衛隊のイラク派遣に反対する市民活動(市民集会,デモ行進等),地方議会の動向,マスコミによる取材活動までもが詳細に記載されていました(デモであれば開始時刻,終了時刻,参加人数等が記録されていた)。中には,「医療費負担増の凍結・見直し」の街宣・署名活動,「04国民春闘」の街宣,「年金制度改悪反対」の街宣,「消費税増税反対」の街宣まで記載されていました。イラク派遣反対の運動が盛り上がる中で,情報保全隊はイラク派遣反対運動だけでなく,国民のあらゆる運動を監視・情報収集していたことが暴露されたのです。
 Aさんの上記の「ライブ署名」も監視され,内部文書に記載されていました。しかも,「『S.T・イラクに自衛隊を行かせないライブ』,『S.T』は同名の活動名」と最初は氏名が特定されない記載だったのですが,その約1か月後に作成された文書にはAさんの本名と勤務先まで記載されていました。Aさんは芸能活動において本名を明らかにしたことはなく,アマチュアであること(勤務先が別にあること)も明らかにしていませんでした。ところが,情報保全隊は約1か月かけてAさんの本名と勤務先を調べ上げたのです。

4 裁判で国に賠償命令が下された
 情報保全隊の国民監視に対して,市民から怒りの声が上がりました。東北地方に居住する原告らは,2007年(平成19年)10月から順次,国に対して,監視活動等の差止めと損害賠償を求めて提訴しました。最終の原告数は107名にのぼりました。判決の詳細は,法学セミナー2016年11月号8頁の「自衛隊情報保全隊による国民監視事件」(日本評論社)をご参照いただきたいのですが,仙台地裁は,国に対してAさんに慰謝料10万円を支払うよう命じ,仙台高裁も2016年(平成28年)2月2日,これを支持する判決を言い渡しました。国は上告を断念し,2016年(平成28年)3月31日,遅延損害金を含めて全額を東京から仙台まで持参して支払いました。
 なお,その余の請求は控訴審で棄却されました。

5 情報保全隊の実態が明らかに
 裁判のハイライトは控訴審での証人尋問でした。元情報保全隊長が4期日にわたって尋問を受け,原告弁護団の追及によって,情報保全隊の国民監視の実態が徐々に明らかにされました。
 従前,情報保全隊の存在や活動は秘密にされていましたが,もともとは自衛隊の有する情報を外部に漏らさないための部隊です。自衛隊員による情報漏洩やスパイ活動を防止することが本来業務であり,国民を監視することは正当化できません。
 にもかかわらず,情報保全隊は,「自衛隊に対する外部からの働きかけから部隊を保全する」という大義名分のもと,このような働きかけを行う可能性があると決めつけて情報を収集していたのです。「働きかけを行う可能性」で足りるので,情報保全隊は,無限定・恣意的に市民や団体をターゲットにして,現に市民運動を監視していたのです。

6 判決のポイントと成果
 最高裁で確定した控訴審判決のポイントは,①差止請求は棄却,②Aさんの本名や勤務先の情報収集は違法で賠償義務あり,③その他の原告の賠償請求は棄却(議員らの活動は公的側面があるので),④「医療費負担増の凍結・見直し」街宣・署名活動,「04国民春闘」の街宣,「年金制度改悪反対」の街宣,消費税増税反対」などの情報収集は必要性が認められない,というものです。当方の主張が認められた点はわずかでしたが,②の賠償義務と④の指摘は意義深いものです。
 これらの成果を得られたのは,市民の強い怒り,原告団の団結,支える会の献身,ベテランから若手までの弁護団活動のたまものです。この種の事件は当然手弁当ですが,それでも多数の若手弁護士が熱心に参加してくれました。「正義は市民側にある」という揺るぎない確信が,皆を突き動かしたのです。私は最初から最後までAさんの担当者として関わり,貴重な経験を積ませていただきました。

7 試練を乗り越えて
 東日本大震災での自衛隊員の働きには本当に頭が下がります。彼らに対する被災地での評価はとても高いものがあります。しかし,自衛隊の二面性を見過ごすことはできません。
 自衛隊情報保全隊は「影の部隊」として現在も密かに国民を監視し続けているのです。違法認定されたにもかかわらず,政府は「従前の活動を変えるつもりはない」と明言しています。特定秘密保護法の制定,安保関連法の強行,共謀罪(テロ等準備罪)の企てなど,私たち市民社会は試練の時を迎えていると言わざるを得ません。
 しかし,市民や在野法曹(弁護士)らが力を合わせることによって,平和と人権を守ることはできるはずです。「正義は市民の側にある」と確信を持ってがんばりたいものです。

◆十河 弘(そごう ひろし)さんのプロフィール

弁護士(仙台弁護士会所属)。十河法律事務所所長

【主な弁護士会関連の役職等】
仙台弁護士会:法律相談センター運営委員会委員長,憲法委員会副委員長,偏在対策拠点事務所
          支援委員会委員長,司法過疎・偏在問題検討プロジェクトチーム座長,
          特定秘密保護法対策プロジェクトチーム委員,災害対策本部本部員
東北弁護士会連合会:弁護士過疎対策・法律相談事業委員会委員長,公設事務所支援委員会委員
日本弁護士連合会:公設事務所・法律相談センター委員会委員,税制委員会委員
日弁連交通事故相談センター:宮城県支部支部長
日本支援センター(法テラス):宮城地方事務所法律扶助審査委員
宮城県:宮城県情報公開審査会 委員

【その他の役職等】
カネボウ美白化粧品被害東北弁護団事務長
仙台市民オンブズマン会員
仙台医療問題研究会事務局長
B型肝炎被害対策東北弁護団団員
若手弁護士9条の会会員

【執筆】
薬害肝炎裁判史 薬害肝炎全国弁護団編(日本評論社)共著
[五訂版]法律事務所の経理と税務 編集/日本弁護士連合会 日弁連税制委員会(新日本法規出版)共著
[第4版]賃貸住宅紛争の上手な対処法 仙台弁護士会編(民事法研究会)共著
欠陥住宅紛争解決実務 仙台弁護士会編(仙台弁護士協同組合)共著
自衛隊情報保全隊による国民監視事件 法学セミナー 2016年11月号8頁(日本評論社)

【講演等】
医療事故事件・介護事故事件に関する講演多数,交通事故事件に関する講演多数
憲法問題に関する講演多数,福祉分野における苦情やトラブルに関する講演
企業のコンプライアンスに関する講演,法律相談の上手な利用法,弁護士の活用法に関する講演

【私が力を入れていること】
これまで上記「取扱分野」のとおり幅広く業務を行ってきましたが,特に,医療事故(患者側),交通事故,原発損害賠償,多重債務者の救済などに力を入れています。医療事故の分野では,専門家(協力医)とも連携して適切な解決を目指しています。また,仙台市民オンブズマンの一員として行政事件(住民訴訟,情報公開訴訟等)にも取り組んでまいりました。市民の安全や平和を守るための活動や本稿の自衛隊による市民監視の差止めを求める訴訟等にも参加し,2012年3月26日,画期的な勝訴判決も得ました(2016年2月2日の控訴審判決も勝訴)。まじめに生きる市民が尊重され,人権が擁護され,被害が救済されるよう力を尽くしたいと思います。



 



 
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