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「核と宇宙の時代」の憲法9条 

2017年6月26日



藤岡 惇さん(立命館大学特任教授)

 宇宙の軍事化や宇宙戦争に向かう動きに警鐘を鳴らしてきた平和団体として、Global Network against Weapon and Nuclear Power in Space という団体があることをご存知ですか。やや意訳となりますが、「宇宙の軍事化と核戦力化に反対する地球ネットワーク」と訳しています。
 この組織と連携して、「宇宙戦争も核戦争もNO!」というテーマを掲げて、2015年8月に初の日本大会を開きました。その時の知見にもとづいて、次の点を論じてみたいと思います。①「核と宇宙の時代」の下での戦争は、旧来型とどう違うのか。②軍事力と核軍事同盟への依存を深め、ミサイル防衛の壁を築くといった伝統的なやり方で、平和を築くことができるのか。③憲法9条をどのように活用し、現下の紛争の平和的解決に活かしていけばよいのか。

 1945年8月6日、米国は広島に原爆を投下しました。この事実を告げる声明のなかで、トルーマン大統領は、こう述べています。「それは宇宙の根源的エネルギーの利用であった。太陽がそこからエネルギーを取り出している力が、極東に戦争をもたらした者たちに対して、解き放たれたのだ」と。
 たしかに宇宙のエネルギー源のほとんどは核エネルギー。化学エネルギーも多少は生まれていますが、生物エネルギーに至ってはゼロに近いレベルです。「核の時代」とは、地球生命圏に宇宙エネルギーを導き入れた時期のこと。開幕を告げたのが原爆投下でした。
 広島に落とされた原爆は、図体こそ大きいものの、核物質の1−2%しか分裂しなかった「おもちゃ」のようなものでした。しかしその後72年を経て、核兵器の実態は大きく変貌しました。本稿では、核兵器を狭く核爆発装置(核爆弾・核砲弾・核弾頭・核機雷)の部分に限定し、何が変わったのか、何が分かってきたのかを説明したいと思います。
 第1に、核爆発装置は、今日ではスーツケースに収まるくらいに小さく、軽くなっています。莫大な資金を投じて、ミサイル防衛の壁を築いたとしても、徒歩でこの装置を高層ビルの屋上に持ち込んだり、自動車に載せて福島第一原発に突っ込んだりしたら、どうなるでしょうか。攻撃側が有利で、防衛側は不利ではないでしょうか。
 第2に、 ミサイル防衛の措置をとればとるほど、核ミサイルを打ち上げても、地上の標的を狙わずに、宇宙空間で爆発させる可能性が高まるでしょう。これまで米ソ両国は1958年〜62年に15回ほど宇宙での核爆発を試みてきました。その結果、大規模に電磁波が発生し、血のように赤いオーロラが天空に出現することが分かりました。地球引力の作用で人工の放射能帯が形成され、数か月も残り、人工衛星は続々とマヒしていくことも判明しました。もし東京の1千キロ上空で1メガトン級の核爆発が起これば、地上には大量の電磁パルスが降りそそぎ、日米両国の軍事行動も、経済活動もダウンします。軍事的効果は絶大なのです。
 第3に、無防備な海岸沿いに54基もの原子炉を抱えていることの重大性です。2015年7月29日の参議院において山本太郎議員が、日本の原発に弾道ミサイルが撃ち込まれたらどうなるかと質問したところ、安倍首相は答弁不能に陥りました。憲法9条の存続を想定して、原発を安上りに作ってきたことのツケが今後噴出してくるでしょう。原子炉をすべて地下深くに移設できれば、多少リスクは小さくなるでしょうが、莫大なコストがかかります。特に危険なのは半壊状態にある福島第一原発。航空機の直撃を受ける程度でも、核惨事の再現は必至です。(藤岡惇「軍事攻撃されれば原発はどうなるか」、後藤宣代ほか『カタストロフィーの経済思想——震災・原発・フクシマ』2014年、昭和堂)。
 宇宙空間での核爆発にせよ、原発への軍事攻撃にせよ、電子機器、都市機能、戦争システムこそダウンはするものの、人体への悪影響はすぐには現れてこないと予想されます。人的被害がゼロの段階で、報復核攻撃を命ずるべきかどうか、核大国の首脳は苦悩せざるをえないでしょう。
 以上をまとめますと、核戦争を行う場合、防衛側よりも攻撃側の方が、技術的にもコスト的にも圧倒的に有利なのです。核戦争にならなかったとしても、軍産複合体を儲けさせるだけで、当事国の経済は破産に追い込まれることでしょう。 
 とはいえ軍事力を強化し、日米軍事同盟を強めないと、安心安全が得られないと考える日本人が増えているのも事実です。背景には、核とミサイル開発に血道をあげる北朝鮮や中国に対する不信感があります。
 どうしたらよいのでしょうか。2点提起したいと思います。第1点は、「核と宇宙の時代」にあっては、「平和を欲すれば戦争に備えよ」という考え方は、古い戦争観に根差した危険な幻想であることを、国民に理解してもらうことです。
 その点では軍事に通じた専門家の言説は貴重です。たとえばマッカーサー元帥は、1951年5月5日の米国上院の公聴会の場でこう述べています。「戦争の廃止が必要です。・・・中途半端ではダメなのです。皆さんは核戦争の専門家としてそれを知るべきです。・・・日本(の憲法9条)にその偉大な例証があるのですから」と。1955年の米国退役軍人協会総会の記念講演でも、彼は次のように説きました。「・・・核兵器をはじめ兵器が驚くべき進化を遂げた結果、戦争の廃絶が、宗教的・道徳的な問題ではなく、科学的リアリズムの問題として再び浮上してきたのです・・・私たちは新しい時代に生きています。古い方法や解決策は、もはや役立ちません。私たちには新しい思想、新しいアイデンティティ、新しい発想が必要なのです」と(Glenn D. Paige, Nonkilling Global Political Science, 2nd Edition,2007,p.156. 岡本三夫の翻訳による。『非核・非暴力・いのち・平和』10号、2010年2月、岡本非暴力研究所)。
 第2点は、現下の紛争に即して、紛争の真の根源を探り、平和的な解決策を提案することです。たとえば朝鮮半島における核紛争の解決策を探究してみましょう。なぜ朝鮮戦争(現在、休戦中)は67年間も続いてきたのか。前半期には、南進・武力統一方針を放棄しなかった北朝鮮側に重要な責任があったことは否定できません。しかし1990年代後半になると、北朝鮮側は武力統一方針を事実上放棄し、「朝鮮戦争の終結」を求め出しました。にもかかわらず終結しないのはなぜか。米国を中核とする世界中の軍産複合体が、己の私欲を満たすために、終結の動きを妨害してきたからではないでしょうか。
 今や時代は変わり、朝鮮戦争の終結が中国・ロシア・北朝鮮、そして韓国の新政権の共同要求になりつつあります。4か国の要求に米国が応え、朝鮮戦争の終結に踏み切ることが、もつれた糸を解きほぐす要点だと思います。このような動きと連帯するなかでこそ、憲法9条の改悪を許さない展望が拓かれるのではないか。そのような予感がしています。

◆藤岡 惇(ふじおか あつし)さんのプロフィール

 1947年5月に京都市に生まれる。立命館大学特任教授(「平和の経済学」担当)。藤岡 惇のホームページには、大半の論文が公開されているので、関心のある人はアクセスして読んでください





 



 
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