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今週の一言

 

警察などの監視機関を監視・監督する第三者機関の設置を

2018年4月16日



小池振一郎さん(弁護士・日弁連国内人権機関実現委員会副委員長)

 モリカケ問題にみる行政権力の私物化、横暴振りは、国民主権・議会制民主主義の崩壊への道といわざるを得ず、これに対する市民の怒りが沸騰している。安倍首相主導の改憲策動に対して、憲法をないがしろにする安倍政権に憲法改正を語る資格はないという声がますます高まっており、今後、国民的な反対運動が激化することも予想される。
 このような事態に対して、国民の表
現の自由を制約し、市民運動を抑圧する格好の武器となるのが、昨年7月施行された共謀罪法である。

◆捜査権力の濫用を促進する共謀罪法
 実行行為に出る前の計画段階を犯罪とするものであるが、その合意自体があいまいで、かつ、合意の変遷もしばしばあるから、いつの時点のどのような合意を捉えるか、きわめてファジーであるだけに、恣意的な捜査がまかり通る恐れがある。
 実行行為に出る前の計画段階で処罰するものであるから、合意の事実を裏づける直接的な客観的証拠が乏しいことが多い。客観的証拠がないと、計画=合意の直接的な立証方法としては、その場に居た者の「その場で聞いた」という供述か、盗聴しかない。2016年刑訴法・盗聴法改正により、盗聴法対象犯罪が大幅に拡大し、通信事業者の立会いという歯止めもなくなり、また、司法取引が新設され、これらがその武器となる。これまで以上に自白が求められ、強圧的な取調べへの欲求が強まることは必至である。
 日本では、取調べ時間が事実上規制されておらず、取調べに弁護人の立会いもなく、取調べが野放しにされているから、共謀罪法により自白偏重に拍車がかかるのではないかと危惧される。共謀罪法は、本来的に、捜査権力の濫用を促進する志向を有している。
 277もの対象犯罪を抱える共謀罪が、市民、会社、労働組合などの集団活動を「組織的犯罪集団」の継続的な団体活動と見なして適用される恐れがある。それが「組織的犯罪集団」であることを立証するためには、団体の日ごろの活動状況を情報収集しておかなければならない。

◆監視社会への道
 こうして共謀罪捜査を理由として、日常的な監視を堂々と行う道が開ける。日常的監視の容認、日常的任意捜査の合法化である。
 実は、監視社会は既に進んでいる。
 2007年、陸上自衛隊情報保全隊が自衛隊イラク派遣に反対する全国の市民を監視している事実が判明した。
 2013年〜2014年、岐阜県警大垣署による風力発電施設建設反対市民の監視データが電力会社の子会社に提供されていた。
 前川前文科次官についての公安情報のリークや、東京新聞社会部望月記者に対する身辺調査の脅しなどは、政治権力による市民監視機関の恣意的権限濫用が現実にかなり進行していることを思わせる。
 日本には、警察を監督する行政機関がない。公安委員会の庶務は警察が処理するとされている(警察法13条、44条)。警察を監督すべき機関の事務が監督される者に委ねられている組織は監督機関とはいえない。日本は"警察天国"といわれる所以だ。
 警察・自衛隊などの市民監視が野放しにされている。捜査機関における個人情報の取扱いが事実上自由にされている。

◆市民側からの監視を
 スノーデン元CIA職員が、全世界のネット上のほぼすべての電子情報が監視できるという超監視社会の実態を暴露した。グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、ヤフー等の協力により、無差別・網羅的に簡単に大量監視できるという。
 日本でも、米国国家安全保障局(NSA)が「XKEYSCORE」という包括データ検索プログラムを2013年防衛省に提供したと報道されている。
 スノーデンはいう—プライバシーは、私事や悪事を隠すための権利ではない。監視されると、自由に、主体的にものが考えられなくなる。プライバシー権は、表現の自由に直結し立憲民主主義の維持発展に寄与する。
 スノーデン事件を受けて、2013年国連総会は、デジタル時代のプライバシー権について、監視活動に対して独立して効果的な監督機関を設けるべきであると決議し、日本も賛同した。
 この流れの中で、2015年国連人権理事会がプライバシーに関する初代特別報告者として、カナタチ教授を選任した。
 カナタチ特別報告者は、共謀罪法について、「警察などの監視活動を監督する『活動監督機関』を設置しなければならない。それは行政府及び立法府から完全に独立した機関である」「警察などに権限を与える法令には、監視される個人がアクセスできる有効な手続的救済方法を備えなければならない」と警告した。共謀罪法を作る以上は、それに対応する市民の人権保障システムを作らなければバランスを欠くという問題提起である。
 同氏は、「スノーデンの暴露を受けてみると、警察などの監視活動を監督する第三者機関は、基本的人権が生きながらえるための最低限必要な保護機構である」と述べる。

◆諸外国の監視機関
 ニュージーランドには、警察を監視する独立警察監視機関がある。独立機関であって、警察の一部門ではない。警察官の不正行為、怠慢、警察官が引起した死亡事故、重傷事故を調査する。
 オンブズマンという独立監視機関もあり、行政機関の決定に対する苦情について調査、是正措置を勧告する。警察に組織的な問題があったときは独立警察監視機関と一緒に活動することがある。
 さらに、政府から独立した国内人権機関(後述)として人権委員会があり、独立警察監視機関の活動も監視する。
 イギリスでは、1976年政府から独立した法人として警察に対する市民の苦情を専門に担当する警察苦情委員会が設置された。
 スウェーデンでは、1809年国会オンブズマンが設置された。監察対象は公務員、裁判官などで、公務員の作為・不作為が法的に是認できるかどうかなどを判断する。
 ドイツは、連邦と州のデータコミッショナーが、警察や情報機関による捜査・情報収集に対して、収集データの削除要求をする。
 フランスには、大統領に6年任期で任命される独立行政機関として権利擁護官制度がある。警察などが公安活動を行うに際して職務規律を遵守しているかどうかを監視する。
 EU基本権憲章には、プライバシーや個人情報を守るために独立した監督機関で監督するという規定があり、すべての加盟国には独立した監視機関がある。

◆警察等の市民監視機関を監視する第三者機関の設置を
 警察・自衛隊などの市民監視が恣意的運用に委ねられるわけにはいかない。超監視社会に対抗するためにも、日本の警察や自衛隊、公安調査庁など市民監視機関の活動を市民的視点から監視する独立した第三者機関が必要である。
 カナタチ特別報告者は、「監視対象犯罪の限定。監視対象者への通知、救済方法。監視期間の明確化。専任のスタッフを擁する独立した機関が事後的に監督し(警察などへの立入権限を有する)、是正策を促す措置をとる。企業からの報告を求める」と具体的な監督方法を提示する。
 「企業からの報告」とは、「捜査事項照会書」という一片の通知で通信事業者が捜査機関に通信履歴を任意提供している実態があるが、その事実の報告を求めるものである。ライン(LINE)は、警察の照会に、どれくらい応じて、どれくらい拒んだかの統計数を公表しているが、他の企業もこの程度の公表はすべきであろう。 
 2017年3月15日最高裁GPS捜査判決は、憲法35条(住居不可侵)の保護の対象として「私的領域」へ侵入されない権利を含むとする画期的な判決であるが、GPS捜査は立法課題ともされた。立法化する以上は、警察を監督する第三者機関の設置とセットとすべきであろう。
 日弁連は、「公安警察や自衛隊情報保全隊などの情報機関の監視権限とその行使について、法律により厳格な制限を定め、独立した第三者機関による監督を制度化すること」を求めている(2017年10月6日人権大会決議)。
 
◆国内人権機関
 1993年国連総会は、国際人権諸条約の国内実施を図るために、各国に政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議を採択した。弁護士、学者、労働組合、NGOなど多元的メンバーで委員会が構成され、自前の建物と事務局職員をもち、独立した人事権、予算編成権をもつ(パリ原則)。
 国内人権機関は、(1)「早い、安い、便利」をモットーとする人権救済の駆け込み寺として、(2)立法や行政の活動が国際人権基準に沿ったものとなるよう政策提言し、法改正に意見を述べ、(3)市民だけでなく、裁判官や警察官などの法執行官に対して人権教育するという3つの機能を有する。
 調査、勧告、報告権限を有する公的行政機関であり、他の行政機関は国内人権機関に対して調査協力義務を負う。
 韓国では、2001年韓国国家人権委員会が設置された。立法・行政・司法の三権から独立した国内人権機関である。救済対象として、捜査機関による不当拘禁・逮捕、偏向捜査、自白強要、徹夜の取調べ、私生活侵害などがあげられている。政府が提案したテロ対策法案に憲法違反という見解を出し、法案が見直された。
 フィリピンには、1987年憲法によって設立されたフィリピン人権委員会がある。スタッフ600名の独立機関。警察、軍隊、新人民軍による人権侵害の申立が多い。フィリピン人権委員会はドゥテルテ大統領の違法薬物関与者抹殺政策に警鐘を鳴らしてきたため、2018年度予算要求6億7800万ペソ(約14億6千万円)に対して、千ペソ(約2160円)とする予算案が下院議会を通過したが、下院より優位にある上院が6億9350万ペソ(約15億円)を承認した。
 既に120ヶ国以上に国内人権機関が設立されている。
 1998年国際人権(自由権)規約委員会が日本政府に対して、国内人権機関の設置を勧告して以降、毎年のように条約機関から国内人権機関の設置が勧告されている。2008年国連人権理事会の勧告に対して日本政府は、「フォローアップする」と前向きに回答し、以後現在までその姿勢は変わっていない。
 2012年人権委員会設置法案が民主党政権下で国会に提出されたが、衆議院解散により廃案となった。法務省ホームページ「人権委員会設置法案Q&A」には、「人権侵害は、政府により行われる場合に最も深刻となるため、政府からの独立性がある機関が人権状況について政府に意見を述べられる仕組を設けることが必要」という説明が今も掲げられている。
 自民党が人権委員会設置反対を公約に掲げて第2次安倍内閣が誕生したのではあるが、安倍内閣が倒れれば十分に実現可能性がある。
 国内人権機関は、市民監視機関を専ら監視する第三者機関とまではいえないが、警察などによる人権侵害を救済対象とし警察などを監視する機能を有しており、警察監視機関の設置と共に、国内人権機関の設置も急務である。

◆小池振一郎(こいけ しんいちろう)さんのプロフィール

第二東京弁護士会所属
1999年度 第二東京弁護士会副会長
2001年度 日弁連常務理事

<現在>
日弁連国内人権機関実現委員会副委員長(前事務局長)
日弁連刑事拘禁制度改革実現本部副本部長(元事務局長)
日弁連国際人権(自由権)規約問題ワーキンググループ副座長
日弁連人権擁護委員会えん罪原因究明第三者機関設置に関する特別部会副部会長

<履歴>
2016年度日弁連人権大会シンポジウム第3分科会「死刑廃止と拘禁刑の改革を考える」実行委員会副委員長
2015年衆議院法務委員会、2016年参議院法務委員会「刑訴法等改正案審議」参考人
2012年〜2015年 東京拘置所視察委員会委員長

<著書>
平凡社新書『ワイドショーに弁護士が出演する理由』(2001年)

<共著>
成文堂『裁判員裁判のいま』(2017年)
日本評論社『可視化・盗聴・司法取引を問う』(2017年)
ぎょうせい『刑務所のいま 受刑者の処遇と更生』(2011年)
現代人文社ブックレット『えん罪志布志事件 つくられる自白』(2008年)
岩波ブックレット『なぜ、いま代用監獄か〜えん罪から裁判員制度まで』(2006年)
岩波ジュニア新書『なぜ私はこの仕事を選んだのか』(2001年)

<論稿>
法と民主主義2016年12月号「基調報告 刑訴改正と今後」
同2016年7月号「取調べの録音録画—法律化の要因と問題・今後の展望」
同2016年4月号「今市事件判決を受けて—部分可視化法案の問題点」
法律のひろば2005年8月号「刑事施設・受刑者処遇法成立の意義」
自由と正義2003年8月号「ドラマ『裁判員〜決めるのはあなた』はこうして作られた」





 
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