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「憲法改正」問題への意見募集のご案内

2004年8月30日
 法学館憲法研究所は「憲法改正」問題について市民の皆さんの意見を募集します(9月末日まで)。
 下記は当研究所の研究会で山内敏弘客員研究員の報告です。この報告に対して、賛助会員の皆さん、メールマガジン読者の皆さん、市民の皆さんのご意見を募集します(Eメール:info@jicl.jp、Fax:03−3780−0130)。皆さんのご意見はこのホームページ上でもできるだけ紹介し、皆さんとともに「憲法改正」問題について学び考えていきたいと思いますので、よろしくお願いします。(法学館憲法研究所事務局)

◆改憲問題についての現状と課題◆
山内敏弘客員研究員

 6月22日、民主党が「文明史的転換に対応する創憲を」というタイトルの中間報告を出しました。民主党は2001年の段階では「いま、なぜ論憲か」という言い方の中間報告を出しましたが、今度の中間報告は、はっきりと「創憲」という立場を明確にしています。そして、キーワードとして「『法の支配』を確立する」「憲法を国民の手に取り戻す」ということが強調されています。この中間報告のサブタイトルは「グローバル化・情報化の中の新しい憲法のかたちをめざして」となっています。たいへん格好いい言葉がいろいろと出ているわけで、私たちもこの提言についてきちんと検討する必要があると思います。
 自民党の改憲論には、その尾てい骨に戦後以来の復古的、あるいは保守的な国家主義というものがあって、これはもう自民党には抜きがたいものだろうと思います。たとえば自民党の場合は憲法の前文に愛国心のようなものを入れるという議論がいつも出てきます。そして、やはり憲法においても国民の義務を強調する議論が出てきます。したがって自民党の改憲論は時代錯誤的なところがあり、国民の人権を守るために権力を制限するという憲法の役割についての基本的な理解に欠けるところがあって、したがってそれを批判するのは比較的簡単なのだろうと思います。それに対して、民主党の今度の中間報告のイデオロギーというのは、比較的いまの若い人たちに対して一定の浸透力を持っているのではなかろうかと思います。
 もちろん民主党そのものには、政権獲得のためにいろいろな立場の人が集まっているという側面は現在でも存在しているわけで、護憲派の議員がどうして改憲派の議員と握手するのかよくわかりませんが、しかし、そこにある種の政策的な合意が作られてきているとするならば、民主党の創憲論を支えている思想やイデオロギーはどのようなものであるのか、それは自民党の思想・イデオロギーとどう違うのか、あるいは同じなのかということを、考えないわけにはいかないだろうと思うのです。


改憲で対米追随を戒め、「法の支配」を確立する?

 今度の民主党の中間報告は自民党の主張との対比でいうと、第一に国連中心主義という考え方を非常に強調しているという特徴を持っています。民主党の中間報告は、国連の集団安全保障活動への日本の関与を憲法上明確にするとし、自衛権を国連の集団安全保障の活動が作動するまでの「制限された自衛権」として認めるとしています。ただ、「制限された自衛権」ということの中に、では集団的自衛権の行使をまったく否認しているのかというと、それはそうではありません。現在の自民党のようにあからさまにアメリカに追随する形で集団的自衛権を行使するような、対米追随、対米依存にならないように、それは抑制的にしようというのが、おそらく民主党の9条改憲論の基本的な中身になっていくだろうと思うのです。
 そうすると、自民党の9条改憲論と民主党の9条改憲論というものを最終的にはすりあわせないと、国会で改憲発議を一緒にやるということはできませんから、このすりあわせがどういう形でなされていくのかという問題が生じてきます。おそらくは有事法制の場合に最終的に両党が妥協したのと同じような妥協が、最終的にはなされていく可能性が強いのではないかと思います。
 民主党の改憲論が自民党のそれと違っているもう一つの特徴は、民主党の場合は「法の支配」を確立するということを強調し、それを中間報告のサブタイトルにも明記していることです。9条の問題についても、9条が現実の政治や社会で実現していない状況というのは「法の支配」という考え方から逸脱しており適当でない、立憲主義・「法の支配」を確立する必要があるということを非常に強調しています。自民党や読売新聞の改憲案は国民に憲法尊重擁護義務を課して、権力担当者の憲法尊重擁護義務をどんどん削ってしまう内容になっており、それは立憲主義・「法の支配」の何たるかということをまったく理解していないと簡単に批判できるわけですが、民主党の改憲案の場合には立憲主義・「法の支配」というものの重要性を強調しているという特徴があります。ただ、民主党のこのような議論に対しては、「法の支配」は日本国憲法の基本原理でもあるわけであって、そのような「法の支配」を確立するために何故に「護憲」ではなく、「創憲」なのかという疑問があります。
 ともあれ、自民党の改憲論と民主党の改憲論はこのような違いを持ちながらも、おそらくは自民党を主軸としながら、民主党がそれを側面から補強するかたちで改憲の潮流が増幅されているという状況だろうと思います。そして、自民党も民主党もいずれも財界の新自由主義的な経済政策や現在のグローバル化の中での戦略や意向を体現しているという点では基本的には変わりはないのではなかろうかと思います。


首相の権限、違憲審査制度、地方分権など個別課題も吟味する

 自民党や民主党の改憲案は以上のような大きな特徴を持っているのですが、それぞれには個別具体的な論点もあります。
 たとえば首相公選論があります。今度の民主党の中間報告では、執行権が首相にあることを明記すべきだとし、首相優先型の議院内閣制にすべきだとしています。それは首相公選論の立場ではありませんが、総理大臣のリーダーシップを発揮できるような行政権にするのだという考え方になっています。これをどのように考えるかという問題があります。
 それから、これは学会でも議論が分かれるところだと思いますが、憲法裁判所設置論があります。民主党の中間報告では、「ヨーロッパや韓国などが採り入れている憲法裁判所もしくは憲法院など違憲審査のできる固有の審査機関を新たに設置することを検討すべきである」としています。私自身は、基本的には憲法裁判所の導入には否定的、消極的な考え方をもっておりますけれども、民主党の中間報告は現在の裁判所制度の枠の中に憲法審査部門を設けるという提言も含まれており、これをどう考えたらいいのかという問題も出てきます。
 それから、民主党の中間報告は分権国家という言い方をしながら、地方分権というものを非常に強調しています。そこでは地方自治体の立法権限というものを、現在のような法律の範囲内における条例制定権というのではないかたちで、はっきり地方自治体の立法権限というものを憲法上保障すべきだと提言しています。地方分権自体はもっともなことだと思いますが、この問題に対して私たちがどのようなスタンスで向き合うのかという問題があると思います。同様に、中間報告では、プライバシーや環境権などの新しい人権を明記すべきという改憲論もあります。これは、自民党なども主張していることで、一見したところもっともなように見えるこのような主張に対して、どのように考えるのかという問題があります。
 さらには、民主党の中間報告は憲法改正規定である96条の内容が厳しすぎるからもっと簡単にすべきだという主張をしています。国民投票は主権委譲のような重要な場合にだけにして、そうではないときには国民投票にかける必要はないのではないかと言っています。たしかに諸外国の憲法改正規定を踏まえてみたときには、そのような議論も成り立ち得るのでしょうが、しかし、そのような議論が「国民の手に憲法を取り戻す」という主張とどのように整合するのかという問題があると思います。


戦争をどう考え、どう対処するのかを説得的に説く

 このように改憲論には様々な論点がありますが、しかし、現在の改憲論の中心、あるいは主たる狙いは、やはり自民党も民主党も憲法9条にあることは間違いありません。したがって私たちはやはり9条の改憲論に対して、9条護憲論というものを理論的に、そして積極的に打ち出していく課題があると思うのです。その中で根本的なところは、いわゆる「正戦論」、つまり正しい戦争というものがありうるのかという問題をどう考えるのか、また、「戸締り論」、つまり敵の侵略を防ぐためには鍵が必要だという議論をどう考えるのか、最近ではテロに対してどうしたらいいのか、というような根本的な問いに対して私たちがどう説得的に市民に説いていくのか、どうわかりやすい回答をしていくのかが課題になると思います。
 その際、今日のグローバル化時代において、国際社会あるいは国連秩序と憲法9条の関係をどう考えるかという問題も解明していかなければなりません。国連憲章が考えている集団的安全保障と日本国憲法の9条の内容のどこが同じでどこが違うのかを解き明かしていく必要があります。さらには、最低限の自衛力は必要であり、それは日本国憲法においても認められているという考え方にどう答えていくのか、他国の人権抑圧的な政権に対して人権擁護を理由として武力行使を正当化する、いわゆる「人道的介入」論をどう考えるのか、「国家の安全保障」ではなく「人間の安全保障」をどう考え、どう広めていくのか、という課題も出されていると思います。
 このような9条についての個々の論点についてもやはり丁寧に、そしてわかりやすいかたちで説いていくことが必要だろうと思います。


冷戦後の新しい政治経済システムの検討・構築と併せて

 同時に、改憲論に対しては憲法論にとどまらず、より多面的な問題の解明と対応が必要だと思います。先日ある集会で講演した後、フロアーから、なぜ改憲論がこんなに叫ばれる状態になってしまったのかという質問を受けました。私は、その背景には、選挙制度の問題や市民運動・労働運動の側の不十分さなどがあると指摘したのですが、そこにはより基本的な問題があると思います。つまり、冷戦が終わり、ソ連型の社会主義がアメリカ型の資本主義に負けたことが、1990年代から今日の状況を規定する非常に大きな要因になっていると思います。そうであるとするならば、いまの自民党なり民主党なりを支えている政治・経済イデオロギーというものに対抗できる政治・経済思想を私たちの側からきちんとしたかたちで提示する課題があったはずだと思うのです。これは憲法学者の課題というより、政治学者、経済学者の課題としてあったはずだと思うのです。旧来のソ連型とは違う新しい社会民主主義なり社会主義を、あるいは新自由主義に対抗できる国家論なり経済理論というものを、やはりきちんとしたかたちで、しかも学際的なかたちで、目に見えるかたちで提示するということがなされる必要があったと思うのです。それが十分でなく、その結果、もう自民党か民主党でしかしようがないのではないかということになり、そしてグローバル化の状況の中でアメリカ主導の国際協力が必要ならば、9条を変えてもしようがないのではないかという、簡単に言えばそのような議論になってしまっているのではないかと思うのです。
 1990年代以降、新自由主義に対する一つのオールターナティブとして改めて福祉国家の構想という問題提起も出されてきているのですが、その福祉国家を支えるところの政治システムなり経済システムというものをどういうかたちで具体的に提示していくのかという課題に政治学者や経済学者とも共同して取り組んでいかなければならない。そうしなければ、9条改憲反対だけを掲げても、それだけでは9条を守れないという厳しい状況にあるのではなかろうかと思うのです。


9条改憲をさせない幅広い共同の運動を

 最後に運動論の問題ですが、最近大阪で「無防備地域」の署名活動が展開されました。これは自治体が「無防備地域」を宣言することによって、武力攻撃を受けないで平和を確保しようという運動です。その署名活動が大阪という大きな自治体で一定の成果を収めました。これは、これから日本国内でこの運動を自治体レベルで展開していくうえで非常に大きな意味があると思います。
 現在、憲法を巡る運動状況は、錯綜してきています。自衛隊は9条違反だと言う人が、では護憲かというと必ずしもそうではなくて、だから改憲すべきだという議論をしたりする人たちが出てきている。あるいは、自衛隊は憲法に違反していない、だから改憲する必要はないという議論をする人たちもいます。そのような状況の中で、今日の最大の課題が9条の明文改憲阻止であるとするならば、さしあたっては自衛隊の存在を容認する人たちとも明文改憲阻止のために手を組んでいくことが必要だと思います。私自身は自衛隊は憲法違反だと考えますが、自衛隊を容認する人たちとも一緒にやっていかなければいけない場面もあると思います。ただ、そのことは言うは易く、しかし実際にはいろいろな考えの人がいますので難しい課題です。
 運動論の問題としては、憲法改正国民投票法案の提出ということをも射程に入れた上で、それにどう対処していくのかという課題もあります。
 以上、研究所として研究をすすめていくにあたっての基本的課題について問題提起をさせていただきました。

(文責・見出し:法学館憲法研究所事務局)
※ご意見はこちらまで info@jicl.jp

 

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