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個人を尊重する憲法学『憲法の本』 <書評>

2005年12月26日

今日の朝刊に「**党、新憲法草案発表『自衛軍』『国際協力』『国を愛する国民』明記」という記事があった。ちょっと憲法の勉強でもしてみるか。
そんな気持ちで書店に行って、「憲法の本はどこですか」と尋ねると、店員にこの本の販売コーナーへ案内された。体裁、値段、そして著者の写真も見て、「よさそうだから、とりあえずこの本にしようか」と思った。近くの喫茶店に入り、第1章から読み始めてみた。立憲主義の考え方や歴史についての、基本的であるが、やや抽象度の高い説明が続くので、「結構、しんどいなぁ」と思う。ふと囲み記事を読んでみると、フランス、イギリス、アメリカの立憲主義の歴史にかかわる具体的な事件等が紹介されている。立憲主義といっても、それぞれの歴史を背景として「いくつかの型があるんだな〜」と納得。喫茶店を出て、電車に乗った。第2章の公務員の憲法尊重擁護義務や憲法「改正」問題、そして第3章の平和憲法の説明を読む。最近、9条改憲論もあるし、まあ基本は押さえておこう。9条1項の「国際紛争を解決するための手段としての戦争」は、不戦条約以来、「侵略戦争」を意味してきたから、ここで放棄した戦争は「侵略戦争」であるという理解をする必要はない。なぜなら、この国際法上の解釈自体が、「自衛の名目での戦争を可能とする『抜け道』を作るため」の「大国」の主張に過ぎないからだ(26〜27頁)、と書いてある。なるほどね。「大国」はなんだかんだもっともらしいことをいって、結局、戦争をやるからね。今日の朝刊の「国際協力」も戦争をやるための口実なのだろうか。おや、何か図があるぞ。「馬追山保安林」ってどこにあるんだ? ああ北海道か、今度の休みに行きたいな。でも税金や医療費負担や年金負担が高くなったから余格あるかな、などと思いながら、もう疲れたので布団で横になって「長沼事件」などの判例を理解した。
また次の日、会社(ないし学校)の帰りの電車で、本書を開く。次は、第4章「基本的人権」だ。「個人の尊重」か。「オンリーワン」ってことだろ? と思いつつ読みはじめる。「一人ひとりの人間はかけがえのない価値ある個性を持った人間である」(39頁)……。やっぱり。今日の会社の研修(ないし学校での進路指導)でもそんなこといわれたな。ん?
だから「人間を『数』としてしかとらえない軍隊や戦争とは相容れない」「たった一人でも社会や国家のために犠牲になってはならない」(40頁)? おや? 「個性を発揮して、国家社会の役に立つ人材になる」ことを教えられた研修(進路指導)とはどうも違うぞ。そういえば私、最近、自分のことがただの「へータイ」のように感じるし、もっと読んでみよう。
……評者としてはこんな感じで、初学者になったつもりで進めていきたいが、明らかに紙幅がない。表紙裏の浦部先生の顔も、さっきと違って、やや厳しい表情に見えてきた。要するに、従来から憲法学が重視してきた「個人の尊重」という考え方に、ヨリ徹底的にこだわった憲法解説書である。わいせつ文書規制については、「好み」の問題に、公権力が規制を加えることが間違っている、地方自治についても、その存立の根拠は人権と民主主義を徹底させることにある、といった具合である。また、人は、個人として尊重されるのだから、人間らしい生活を営むために必要な社会権は、外国人にも保障されなければならないという解説は、「国籍の壁」すら突破してしまう。
「個人の尊重」を人権や統治機構の説明に貫き、そこから個々の憲法問題を解説し、その積み上げで、平和憲法たる日本国憲法を体系的に理解できる本である。今の憲法「改正」問題についても、「9条」や「愛国心」にかかわることばかり勉強していると上滑りする感がある。「個人の尊重」という立憲主義の基本的な考え方から、憲法を学習できる「骨太」の教科書である。

亜細亜大学助教授 石埼学(いしざきまなぶ)

<日本評論社「法学セミナー」2006年1月号に掲載>

 

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