法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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毎日新聞・伊藤真所長が「国民投票権を持つ君たちへの憲法授業」

2015年5月11日

毎日新聞で伊藤真所長が若者向けに「国民投票権を持つ君たちへの憲法授業」を行ないました。国民投票の投票年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられた今、憲法とは何か、日本国憲法の世界的意義、自民党の改憲草案の問題点などを解説しています。

以下の毎日新聞から直接ご覧になる場合、登録が必要になることをご了承ください。
毎日新聞5月1日夕刊

特集ワイド:国民投票権を持つ君たちへの憲法授業

毎日新聞 2015年05月01日 東京夕刊

 3日は68回目の憲法記念日だ。自民党を中心に改憲への地ならしが進められ、その最終プロセスである国民投票の投票年齢は2018年、20歳以上から18歳以上に引き下げられる。つまりティーンエージャーの意見が重い意味を持つことになるのだ。そこで弁護士で司法試験指導校「伊藤塾」塾長、伊藤真さんを講師に招き、若者向けに憲法と改憲論議を知る「特別授業」を開いてもらった。【吉井理記】

◆1時間目 憲法の役割

 ◇権力者縛り自由守る

 みなさん、こんにちは。憲法って何やら難しく堅いイメージですよね。せいぜい、社会の教科書でお目にかかるような。みなさんも普段の生活で意識することはないでしょう。それだけ憲法の役割は実感しにくい。空気のようなものです。

 でも空気がないと生きていけないように、今の私たちの自由な暮らし「好きなゲームや本を楽しんだり、行きたい所に出かけたり、インターネットを見たり、スマホでいつでも友達とつながって意見を言い合ったり」を守る大切なものが憲法なのです。

 なぜなら憲法は、私たち国民が、首相や国会議員ら権力者の力をあらかじめ法で縛り、私たち個人の自由や権利を侵させないために生まれたものだからです。この考えを「立憲主義」と呼びます。全ての近代国家は立憲主義に基づく憲法を持っています。

 神ならぬ私たちは間違いを犯す生き物です。権力者も同じ人間です。間違った政治をして、やりたいことをやれるように国民の自由を奪い従わせようとする危険は常にある。これは今の人間が、間違いを犯さない完璧な人間にならない限り変わらない。だからこそ立憲主義に基づく憲法が必要なのです。

 安倍晋三首相は「憲法が国家権力を縛るというのは、王権が絶対権力を持っていた時代の考え方」、つまり古いのだと述べました(昨年2月3日、衆院予算委)。驚きます。全能の神から権力を授けられた王様ですら道を誤るからこそ憲法で縛る、というのが立憲主義なのですが。安倍首相が「古い」と感じるのは、もしかしたら自身を「間違いを犯さない完璧な人間」とお考えだからでしょうか。

◆2時間目 日本国憲法は時代遅れか

 ◇今なお世界最先端

 安倍首相は「今の憲法は時代に合わなくなった条文もあり、変えていくべきだ」(3月6日、衆院予算委)と述べています。これは違う。私は日本国憲法は今なお世界最先端の憲法だと誇っています。

 まず人類の英知をすべて詰め込んだ内容だ、ということです。例えば17世紀の英国の「権利章典」や思想家ロックが唱えた「生命、自由、財産に対する権利」(自然権)に始まり、アメリカ独立宣言がうたった「幸福追求権」が、憲法13条にある「生命、自由、幸福追求の権利」といった言葉に結実しています。

 さらに近代に入り、米国や英国、フランスなどで生まれた「国家からの自由」(自由権)や「人間が人間らしく生きる権利」(社会権=生存権)も組み込んだ。社会権は戦前のドイツ・ワイマール憲法が初めて規定しましたが、これを25条で明記した。これは米国にもない条文です。

 そして前文。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とある。「平和的生存権」を世界で初めて人権と位置づけたのが現憲法です。しかも自国だけでなく「全世界の国民が」とあるように、地球的視野で理想の実現のために努力しよう、とまで書いてあるのです。

 「知る権利」や「環境権」といった「新しい人権」が憲法に明記されていない、という批判がありますが、13条の幸福追求権や25条の生存権から導くことができる。新しい権利が生まれても、そのたびに改憲せずにすむ条文をあらかじめ用意している。これほどの憲法を最先端と言わずして何と言うのでしょうか。

◆3時間目 「押し付け」憲法論

 ◇採用決定は衆議院

 もう少し改憲論議を見ていきましょう。「今の憲法は敗戦後、米国など占領軍に押し付けられた。だから日本人の手で憲法を作ろう」という意見があります。いわゆる「押し付け憲法論」です。

 私は米国側が示した新憲法のたたき台、つまり草案が、今の日本国憲法の基になったことは事実だし、草案を当時の権力者に「押し付けた」面はあったと考えています。

 でも草案はたたき台です。これを審議して修正し、賛成多数で採用を決めたのは、戦後第1回の自由選挙で国民が選んだ衆議院です。戦争の惨禍をくぐり抜けた国民の代表が、この憲法でいこうと決めたのです。先ほど説明した25条の社会権など、草案になかった条文も日本側が独自に付け加えました。大日本帝国憲法下で暮らしてきた国民の大多数は、この新憲法を歓迎したんです。

 当時は占領下で、新憲法に反対する声が表に出なかったのかもしれませんが、占領が終わっても私たちはこの憲法を変えなかったのです。

 「草案を外国人が作ったから憲法として失格だ」と言うのなら、日本の法律の大多数だって、国民の代表である国会議員ではなく官僚が作った草案が基になっています。でも「官僚の作った法だから失格だ」とは言いませんよね。法の世界では発案者が誰であるかは関係ないのです。

 ◆4時間目 改憲で何が変わるか

 ◇国民に守る義務追加

1946年8月24日の衆院本会議での新憲法案の採決風景。戦後初の自由選挙で選ばれた衆院議員の賛成多数で可決された

 では安倍首相は憲法の何を改めようというのでしょう。自民党の憲法改正草案(12年)がヒントです。草案はインターネットで見られます。みなさんもどうぞ。

 すでに学んだように、国民が権力者を縛るものが憲法なのに、自民党草案では102条に、今の憲法にない「国民が憲法を守る義務」を加えました。これは立憲主義の否定であり、権力者が国民を縛る憲法になってしまう。その証拠に草案は新たに、国防や日の丸・君が代の尊重など10の義務を国民に課しました。

 国民に憲法を守らせる規定があるのはドイツ、イタリア、中国、北朝鮮ぐらいです。ドイツは二度とナチスのような政権が現れないよう「自由の敵には自由を与えない」との考えで憲法を守る義務を国民に課した。イタリアもファシズムを再び招かないためであって、日本とは事情が違い過ぎます。

 さらに今の憲法の「公共の福祉」という言葉を「公益と公の秩序」に置きかえた。草案12条は「自由や権利には責任と義務が伴うことを自覚し、常に公益と公の秩序に反してはならない」とあります。公共の福祉とは人々のよりよい暮らし、という意味ですが、草案がいう公益・公の意味があいまいで、時の政府の判断でいくらでも私たちの自由や人権を制限することが可能になる。

 そして9条。次の授業で私の考えを話しますが、自民党草案について言えば9条2項、つまり今の憲法最大の特徴である「正規軍や戦争する権限を持たない」という規定を丸ごと削り、正規軍を持つ、と重大な変更を加えた。今でも自衛隊は軍隊同然だ、という人もいますが違います。世界のどの軍隊も欠かせない軍法会議(兵士の命令違反を裁く場)や交戦権がないことからも明らかです。正規軍でないからこそ、自衛隊は海外で戦争できない。この縛りの重み、よく考えてみてください。

 ◆5時間目 私の9条論

 ◇軍隊で安全守れない

 私は今の憲法のせいで暮らしにくいと思ったことはありません。皆さんやご家族も学校や勉強、遊び、仕事などで憲法が邪魔だ、と感じる人は少ないでしょう。

 私なりの理想の憲法はあるけれど、理想は人それぞれです。だから理想を改憲の動機にすべきではない。憲法を変えるかどうかは、私たちが具体的にその必要を感じているかがポイントです。

 中国が怖いから9条を変え、「普通の国」のように正規軍を持とうという人もいます。それで日本がより安全になるのでしょうか。

 こちらが正規軍を持てば、相手はもっと強い軍隊を持とうとするでしょう。するとこっちももっともっと強い軍隊を持たなければ安心できないし、相手だってさらに強い軍隊を持とうとします。きりがありませんよね。

 相手を軍隊で脅しても私たちは安全にはなりません。米国は世界一の軍隊を持っていてもテロの標的になってしまいました。軍隊を持ち、いざという時に戦争するつもりで暮らすのと、攻められない国をつくるために外国と信頼関係を築いていくのと、どちらがより私たちのためになるでしょうか。

 正規軍を持つと、米国などから「英国やフランスと同じように一緒に戦ってくれ」と言われるかもしれません。その時、日本だけイヤですとは言いにくいですよね。今は9条があるので日本は平和国家として信頼され、外国も「戦ってくれ」とは言ってきません。これをなくして、あえて日本をテロの標的にしてしまうような「普通の国」にする理由はあるのでしょうか。皆さんはどう思いますか。

 憲法改正は大人だけの議論ではありません。国民投票にかけられれば、若い皆さんも参加することになります。どんな憲法を未来に引き継ぐのか。ぜひ友人たちと語り合ってほしいと思います。

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 ■人物略歴

 ◇いとう・まこと

 1958年東京生まれ。東京大法学部卒。在学中の81年に司法試験合格。著書に「やっぱり九条が戦争を止めていた」(毎日新聞出版)など多数。5月には絵本「けんぽうのえほん あなたこそたからもの」を出版予定。全国で憲法問題の講演を行う。



 

 

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