教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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主体的な生活者を育てる 〜家庭科と憲法〜
2011年4月4日
 
松田ゆみこさん(松本深志高校教員)
 

1.家庭科と憲法
  家庭科の教科目標は、人の発達や生活を健全なという視点で捉え、命や健康を守り育てるために、家族や家庭、社会の営みを創造し、実践できる態度や能力を育てるということにある。この、健全なという視点こそが、心身共に健やかで、安心して生活が送れ、誰しもが順当な活動が保障されるという、憲法の理念そのものに値する。特に第3章の「国民の権利及び義務」のいくつかの条項は、授業の中で、基本としておさえなければならない。
そのため、すべての分野において、生きるための権利や人権が、保障されているかどうかを、理論と実践で展開することが求められる。

2.現状
  現在は、家庭基礎を選択する学校が多くなったとはいえ、すべての高校生が男女に関係なく必修として位置づけられている。しかし、過去においては、女子のみ教育で、家事労働における役割分業意識が強く、憲法や教育基本法に基づいた民主的な家庭作り、すべての生徒が等しく学習できるという文言に外れた部分があり、さらに体制に都合のよい人や、意識作りになりそうな部分もありと長年自主編成を余儀なくされてきた。しかし、現在、ジェンダー問題や、新学習指導要領の答申をみると、家庭を築くことの重要性を、子育てをする力や高齢者を支援する力を育成させるためなど、またもや、都合のよい人作り、自己責任ですべてを解決するような教育を担うことになりそうな場面もある。そのためにもう一度、憲法が保障する国民の権利をすべての分野で基本として捉え、授業の構築を図っていかなければならない。

3.家庭基礎における分野別の特徴と必要な視点
@人の一生と家族・福祉
  この項目は、青年期の課題を踏まえて家族や家庭生活の在り方を、乳幼児・高齢者の生活と福祉を取り上げて理解させ高校生が、家族や保育・福祉を、自分の問題としてとらえることができることを目的としている。また、男女共同参画社会の実現を目指しているので、男女が協力して役割を果たすことや、家庭の機能の変化や現代の家族の特徴をおさえることも必要である。しかし、現代社会の情勢を踏まえて、家庭や家族が置かれている現状や、福祉、子育て問題など、単に制度を通して、自助努力のままに終わらせることなく、憲法24条の「家族の生活における個人の尊厳と両性の平等」と第25条の「生存権、国の生存権保障義務」、第27条の「労働の権利・義務労働条件の基準、児童の酷使の禁止」に照らし合わせ授業を展開しなければならない。
  特に、第25条の1項と2項における社会保障制度の仕組みや医療・福祉・所得保障・雇用・公衆衛生など、単にサービスではなく、税等で納めた上での当然の権利であること(第30条 納税の義務)、生活保護や年金・雇用保険も含めて健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を、憲法が保障していること、またそのことに対して国は努力しなければならないことなど、その人が、その人らしく、どの年齢になっても尊厳をもち、さらに自立ができ、生活できることを目指すために、憲法に則った権利や法律、制度をおさえた上で、国民としての義務と責任を果たせるよう授業の構成が望まれる。

A家族の生活と健康
  この項目は、家族の衣食住の生活に必要な知識と技術を習得させ、家族の生活が健康で安全に営むことが目的である。現在の大量生産・大量消費、効率化を求めるあまりの化学物質の使用等、衣食住どの分野においても、心身の健康に大きく影響を与えることが多い。その中で、知識や技術を習得させ、課題や問題点を解決する能力を養うことは、大切であるが、第11条「基本的人権の享有」、第13条「個人の尊重と公共の福祉」の内容を重視し、基本的人権が侵されないような、最低限度の環境作りと、生命を脅かすような行為及び発展を、国がチェックしなければならないことも念頭において、授業を行わなければならない。

B消費生活と環境
  この項目は、家庭経済や消費生活に関しての知識を習得させ、消費生活の課題の認識と責任ある行動ができるようにすることを目的としている。さらに、消費者は、制度や法律によって保護されているが、保護されるだけでなく、自己責任で適切な意思決定を行える能力を、資源や環境問題を解決する能力と共に求められている。しかし、現在の消費生活は、経済政策や社会保障制度の在り方と密接に、つながっているうえに、働くことや賃金、家庭経済にも大きく影響し、生き方や人間の尊厳にもかかわることになるそのために、前述した第11条、第25条、第27条に加えて、第26条とともに、消費者にとって正しい判断と選択ができるように、知ることや知らせられることの大切さを認識させ、学ぶことの重要性を理解させなければならない。

4.消費生活と環境における授業案

指導項目 時数 指導内容 指導上の留意点

1、
家庭の
経済生活

・家庭生活を支える収支の仕組みを理解させる。 ・賃金の仕組みや非消費支出と社会保障についても触れ、政策と家計が直結していることを理解させる。
・教育や年金、健康、医療等、国のサービスではなく、納税者としての権利であることを認識させ、政策の動向をしっかり見ることが大切であることを認識させる。

2、
社会生活の変化と消費生活

・消費生活の発展、情報化、国際化などの変化について理解させ、消費生活の課題を考えさせる。 ・高度経済成長期における、物質優先の消費生活が、今、何をもたらしたか考えさせ、豊かさとは、人間主体とはどのようなことか併せて考えさせる。

3、
消費者の権利と責任

  
・消費者問題の発生の背景について理解させ、消費者保護と併せて、適切な意思決定や消費行動とは何か考えさせる。
・消費者信用について理解させ、契約の仕組みや様々な販売方法についての問題点も理解させる。
・主権者として生きるために消費者としての権利を理解させ、適切な知識と情報が必要であることを理解させる。
・上記の物質優先、大量生産
・大量消費が、人間の健康に大きく影響を与え利益優先主義が、消費者問題につながり、消費者運動へと発展したことを理解させ、適切な情報が知らされなければならないこと、さらに、そのための環境整備が必要であることを理解させる。
・消費者の意思決定も環境適応型の個人的な問題ではなく、環境醸成型の企業や国に積極的にアプローチしていくことが望ましいということも認識させる。

4、
消費生活と環境とのかかわり

・経済発展や利便性を求める中で、環境や資源に関しての問題が起こってきたことを理解させ、環境負荷の少ない生活を考えさせる。さらに、自分らしい生き方とのつながりも考えさせる。 ・資源消費型の社会から循環型への社会への転換を、消費者自らと企業・生産者へ求めること、さらに行政の制度見直しが重要であることを理解させる。
・真の豊かさとは何か考えさせ、生き方や価値観との関係も考えさせる。

※本稿は、長野県高等学校教育文化会議発行の教文ブックレットNo.7「“改憲”YESorNO 高校生の選択 〜高校生の憲法意識調査と憲法の教育〜」(2009年2月発刊)に掲載された原稿を長野県高等学校教育文化会議のご了解の下、補正し転載したものです。