教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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県立高校の沖縄修学旅行
2011年4月18日
 
小宮山 勝人さん(長野県上田高校教員)
 

 1995年、沖縄にて米兵による少女暴行事件を糾弾し地位協定見直しを要求する県民総決起集会が行われたこの年に、長野県の公立高校は修学旅行の交通手段として飛行機利用を認められた。その翌年からの修学旅行の行き先が「広島・長崎」から「沖縄」へと大きく変化することになる。それまでの「原爆の実相」を学習する平和学習の蓄積を踏まえ、沖縄で「戦争の本質」を学ぶことがより深い平和学習へと発展していくことになった。
  表からも2004年の調査では公立と市立合わせて全日制90校(2004年当時)のうち68校が沖縄を訪れている。中信地区市内校が修学旅行を実施していないことを踏まえると、県内の高校では沖縄修学旅行は定着していると断言できる。長野県にはない海や自然、文化、華やかな観光リゾートとしての一面、その裏に今も傷跡癒えない戦争遺跡といまだに米軍基地が混在する沖縄を訪れることは、多感な高校生たちによりよい学習の機会を与え、高校時代の一番印象に残った思い出となっている。

長野県の公立高校(全日制)の修学旅行実施校数

年度

沖縄

長崎・九州

広島・近畿

関西のみ

北海道

その他

1997

53

19

6

5

1

 

1998

47

17

10

3

11

 

1999

57

16

2

1

7

1

2000

57

13

9

1

12

 

2001

61/30

7

7

1

5

3

2002

61

6

6

3

7

2

2003

67(4)

6(3)

5(1)

3

6(3)

2

2004

68(5)

7(3)

6(1)

2

4(2)

2

1.事前学習としての主なとりくみ
  各高校では次のような事前学習を実施している。
(1)地歴・公民を中心とした教科学習での平和教育
(2)長野県内の戦争体験者の講演会
(3)松代大本営地下壕跡地見学
(4)文化祭での沖縄学習の展示
  沖縄を学習する前の身近な平和学習の教材として松代地下壕を見学する高校が多い。 「沖縄」を捨石として本土決戦を遅らせている間に、大本営を「長野」の松代に移動させるという点を学ぶことで「戦争の本質」が見えてくる。また、梓川高校の実践に象徴されるような文化祭での「沖縄展」の取り組みは様々な実践があり、目を見張る内容となっている。

2.修学旅行で平和学習の取り組み
(1)沖縄の戦争体験者の講演会
(2)平和祈念資料館や南部戦跡の見学
(3)ガマ(糸数壕、ガラビ壕、轟壕など)での追体験
(4)現地での平和セレモニー
(5)米軍基地の見学(佐喜眞美術館、安保の丘、道の駅かでな)
(6)エイサーなどの体験や地元高校生との交流
  沖縄を訪れる際、南部戦跡だけでなく基地を見る高校が増えている。佐喜眞美術館、道の駅「かでな」に訪れ、米軍基地を観察することで、過去の戦争と現在の基地の沖縄を知ることができ、新たな憲法学習へと繋げていくことができる。また、木曽高校のように事前学習を持ち寄って地元高校生とお互いの意見を交流しあう高校もある。
  最近の傾向として、2008年、松代高校が韓国済州島修学旅行を行っている。戦争の視点をアジアの近隣諸国に向けたという点でさらに平和学習の幅が広がることになる。今後、海外修学旅行が増えていくと予想されるが、平和学習の基盤としての「沖縄」を根底に据えた平和学習に結び付けて行くことが望ましい。また、県内の中学校では関西修学旅行から広島平和記念資料館まで足を伸ばしている学校が増えてきている。東京都立第五福竜丸展示館を修学旅行で見学する小学校もある。充実した平和学習に発展させるために、今後、小中高の連携を図る必要性があるようだ。

3.教科学習における平和教育
  それまで地歴・公民等の教科内で扱ってきたが、現在限られた時間数の中では修学旅行に向けた沖縄の問題を教科学習にて大きく扱うことは難しくなっている。そこで沖縄修学旅行の事前学習を新設教科「情報」や「総合的な学習の時間」を利用して行う学校が増えてきている。ここでは、「情報A」の「問題解決」や「情報発信」の内容を教える単元で修学旅行に向けた沖縄平和学習を組み入れることを利用した実践を紹介する。

『教科「情報」の情報発プレゼンテーションを活用した沖縄学習』
  上田高校では1学年時に履修している「情報A」の授業内で沖縄修学旅行について事前学習した内容をpowerpointを用いてプレゼンテーション発表会を行っている。とかく情報の授業ではインターネットを通じての情報検索に走りがちであるから、最初の授業は図書館から始めることにしている。司書の先生に協力を依頼して集めてもらった関連書籍から必要な情報を集めることで、誤った情報のHPからデータ収集することが回避でき、さらに今後生徒の図書館利用度を上げることにも繋がるので、一石二鳥である。
  研究テーマについては事前に提示し、テーマの中に項目を複数用意しておくと、クラス内10グループに分けられた4人の生徒が他の生徒と被らないようにできる。クラス内で発表会を行ったあと、学年内の教科担当者が調整して学年選抜グループによる学年集会プレゼンテーションを行うところまで計画している。

班別研究テーマ(参考例)
A 沖縄の自然
  気候と地形、植物と動物、
  美ら海水族館のみどころ、お勧めマリンスポーツ
B 沖縄の文化
  方言、料理、音楽、シーサーや沖縄伝統芸
C 沖縄の歴史
  琉球王国、首里城、琉球処分、米軍統治から復帰
D 沖縄戦の実相
  地上戦の経過と嘉数高地、松代大本営と沖縄
  住民と日本兵、収容所のくらし
E ガマと集団自決
  壕の中の生活、集団死
  チビチリガマとシムクガマ、教科書問題
F ひめゆり学徒隊
  歴史背景、学徒隊の悲劇、生き残った人々の今
  ひめゆり平和祈念資料館
G 平和資料館
  平和の礎、沖縄県平和祈念資料館の理念
  展示内容、佐喜眞美術館
H 遺跡と慰霊碑
  八重山の戦争遺跡、魂魄の塔
  伊江島の戦争とヌチドゥタカラの家
  碑文でみる戦争反省の慰霊塔
I 米軍基地
  在沖米軍基地の特徴、思いやり予算
  空路と演習と米軍機事故、基地移転問題
J 地位協定
  日米安保条約、土地取り上げと反戦地主
  米兵による暴行事件、沖縄の高校生たちの思い

*本稿は、長野県高等学校教育文化会議発行の教文ブックレットNo.7「"改憲"YESorNO 高校生の選択 〜高校生の憲法意識調査と憲法の教育〜」(2009年2月発刊)に掲載された原稿を長野県高等学校教育文化会議のご了解の下、転載したものです。